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トランプ当選でLGBTが直面する6つの懸念
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共和党代表のドナルド・トランプ氏が大統領当確により、アメリカに、いや世界中のLGBT界に激震が走っている。
現地のツイッターやフェイスブックでは、既に同性婚をしたLGBTのカップル達が「今後自分たち家族はどうなってしまうのか」という悲痛な叫びをあげており、アメリカの今後を不安視するLGBTの声で溢れ返った。
トランプ氏は反LGBTとしても知られており、1月末には「連邦最高裁判所の米国全州における同性婚合憲判決は見直す必要がある」と発言する等、所属する共和党の方針にそった姿勢をとってきた。
ただその一方、選挙間近の10月の演説ではレインボーフラッグを掲げ、LGBT擁護をアピールしており、その言動が二転三転している印象は拭えない。
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勿論、今回の大統領選は日本経済だけでなく、日本のLGBTに対しても大きな影響を与えるだろう。日本でLGBT運動が活発化した背景に、アメリカの同性婚合憲といった一連の運動が関わっていることは間違いなく、今後のアメリカ国内のLGBTに関する情勢が日本政府や企業の姿勢に大きく関わっていくと考えられる。
そこでJobRainbowでは、これまでのLGBTに対するトランプ氏の発言、政治的言動から、彼が今後LGBTに対しどんな政策を打ち出していくのか、またどんな影響が予想されるのか、LGBTに関して懸念される6つの問題点を挙げてみたい。
同性婚
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同性婚を合憲とする判決をトランプ氏はどうのように覆すのか?2000年から彼ははっきりと同性婚について反対の立場をとっており、その頃から「婚姻関係は男性と女性によって結ばれるべき」という発言を繰り返している。
また、1月の米「Fox News」では、同性婚を禁止する州法を違憲とした判決に対し、非常にがっかりしていると述べた上で、この判決を覆すため判事指名を検討すると答えている。
その一方で、「我々には本当に取り組まなければならないことがいくつもある….すでに判決は下され、それが国民全体によって決められたものであったと望むよ」と発言したこともあり、この問題に取り組むことが優先事項なのかについては本人も疑問視している。
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2006年には、トランプ氏の副大統領候補である、マイク・ペンス氏が「社会的崩壊は常に、婚姻関係や家族観の悪化によってもたらされる」と発言し、同年ペンス氏は、インディアナ州における同性婚の見直しを支持している。
その7年後、ペンス氏はさらに、同性婚の申請を試みたLGBTを投獄するといった恐ろしい法案にも署名をしている。
LGBT差別禁止法の行方
トランプ氏は、いわゆるLGBT差別法にも署名することを公約している。これは、自身の信仰や宗教を理由に、男女の結婚像のみを認める人々によるLGBT差別を合法とし、国による妨害を受けないことを法的に可能にするものだ。
必然的に、トランプ氏の当選は連邦政府と関わる企業や団体が性的指向や性自認を理由とした差別をすることを禁じるオバマ氏の大統領命令すら覆すことを意味している。
これまで、職場や家庭、医療やその他の地域において、LGBTを差別から守ってきた法律や活動は、全てなかったものになるだろう。
ペンス氏のwebサイトでは、LGBTを”神を冒涜する、閉鎖的な少数派”とした上で「女性や人種の問題と同様に、LGBTに特権を与え、差別から守る運動には米国議会は反対すべき」との声明を出している。
2015年に、ペンス氏は信仰の自由を取り戻す法律(反LGBT法)に署名している。これは、インディアナ州で活動するいかなる企業や個人がLGBTの人々に対しサービス提供をするのを拒否することを合法化するもので、「信仰の自由」というオブラートに包まれてはいるが、要するにLGBT差別容認法である。
ヘイトクライムや暴力
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オハイオ州、クリーブランドの党大会で、トランプ氏はゲイクラブでの銃撃テロ、「パルス事件」に関し「大統領として、私のもつ全ての権限をもってして、LGBTQの市民を暴力、”諸外国”の迫害から守る」と約束した。
一見してLGBTを差別から守るという文脈に読み取れる。ただ、”諸外国の迫害”という発言に対し、”アメリカ国内の迫害”については?という疑問は隠せない。
一方、ペンス氏は2009年に可決されたヘイトクライム禁止法を過激な社会政策であると非難し、様々な宗教(主にキリスト教)に悪影響があるとした。
トランスジェンダーの権利
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トランプ氏はアメリカでも有名な同性愛嫌悪者として知られるアントニン・スカリア氏を手本に、最高裁の判事を選出すると公約している。
ペンス氏は、オバマ氏の大統領命令を早い段階で見直すことを誓約しており、これはおそらく、オバマ氏が学校に対し、生徒の性自認に基づいたトイレや施設の利用を認めるよう要請した大統領命令を破棄することを意味する。
大統領選初期には、トランプ氏はトランスジェンダーの性自認に基づいたトイレ利用を支持していたが、選挙間近には、ノースカロライナ州の反トランスジェンダー法を擁護する立場をとっている。
HIV/AIDS
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トランプ氏がこれまで、HIV/AIDSに関して何らかの意見を述べたことはない。しかしながらペンス氏はインディアナ州におけるAIDSへの支出を減らし、HIV/AIDSに関する啓蒙や予防を促進する団体への予算を大幅に削減した過去がある。
2015年の3月に、ペンス氏はHIVの感染率がオースティンで激増したことについて、公共衛生の危機を訴えているが、副大統領就任後、なんらかの対策をとることはあまり期待できないだろう。
LGBT矯正治療
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未だアメリカでは、LGBTを治療の対象とし、彼らをストレート(異性愛者)にするため、電気などを使った「ショック療法」や「矯正治療」を行う団体が数多く存在する。
そうした団体でももっとも反LGBT的な組織である「The GOP campaign platform」をペンス氏は支持している。彼のwebサイトには「LGBTのセクシュアリティを矯正する方法を探しているのなら、これらの機関を利用するように」といくつかのLGBT矯正機関が紹介されている。
まとめ
トランプ氏にとって、恐らく大統領就任後の最優先事項は経済政策や移民政策であり、すぐさま同性婚の合憲判決を覆すようなことは起こらないとみられる。大統領選初期には、トランスジェンダーのトイレ利用を支持したり、選挙間近にこれを撤回したものの、次はLGBT擁護を打ち出すなど、彼のLGBTに対するスタンスはまだ固まっていないように感じる。ただ、それ以上にLGBTが危険視しなくてはいけないのは、副大統領候補のマイク・ペンス氏だろう。彼は典型的なアメリカのホモフォビア(同性愛嫌悪者)といえ、自身のサイトでLGBTの矯正治療をする機関を紹介、実際にこれまで反LGBT法を可決しようと奔走してきた事実がある。
もし、LGBTの差別を容認する法律がアメリカ全州で可決されたら、トランスジェンダーの性自認に基づくトイレ利用が禁止されたら、それはアメリカだけでなく世界全体に広がる危険性を意味する。少なくとも、これ以上アメリカで先進的な取り組みがすすむことはあまり考えられない。私たちは今後、「アメリカでLGBTは認められているから日本でもやりましょう」ではなく、日本国内で外的な要因だけに基づかない「内」からの運動を起こしていく必要があるだろう。
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