全ての人が使いやすいトイレの「マーク」をめぐって。LGBTとトイレの問題を改めて見つめ直す。

ライター: JobRainbow編集部
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みなさんは、外出先でトイレを使うとき、家のトイレとは違った問題を抱えているなと感じませんか。綺麗に使う人がおらず汚い、いますぐにでも用を足したいのに混雑していてすぐには入れない、他人の匂い、自分の匂いが気になる、などなど。

人々が多様化しつつある現在、そのトイレ問題もさらに多様化しています。

その一つとして、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字をとった、セクシュアルマイノリティの総称)の人とトイレにまつわる問題があります。

本記事では、その問題が解消され、LGBTの人たちを含む、全ての人が快適に使えるトイレにするにはどうすればいいのかを考えてみました。

トイレの「使いにくさ」

トイレットペーパーの上に座るカエル

LGBT、特にトランスジェンダー(身体的性と自認する性が一致しないセクシュアリティ

)の人にとって、トイレは使いにくいものです。実際に、TOTOの調査によると、トランスジェンダーの42.7パーセントが外出先での男女別トイレを利用することにストレスを感じている、といいます。

そのワケを見てみましょう。すると、トランスジェンダーの31.1パーセントは、「トイレに入る際の周囲の視線」、23.5パーセントは「トイレに入る際の周囲からの注意や指南」、21.4パーセントが「男女別のトイレしかなく選択に困る」といった要因でストレスを感じていることがわかります。

これらの悩みを生む最大の原因は、公共トイレに男女別のトイレしかない、ということです。性自認に基づいてトイレを利用しようとしても、周りの人たちにより、性別を間違われてしまったり、それについて注意を受けたり、また、周囲からの露骨な目線や指摘がなくても、「間違われているんじゃないか?」という不安が付いて回ります。

男女別のトイレを使うことに問題がある。それなら、いま徐々に設置されつつある「だれでもトイレ」を使えばいいのでしょうか。しかし、ここにも問題はつきまとうようです。

身体的障がいを持たない「元気」な人、あるいはそう見えてしまう人が、だれでもトイレを使用すると、周りの人に白い目で見られ、注意を受けることもあります。

これは、彼らがだれでもトイレを電車の優先席のような位置付けで認識しているからだろうと考えられます。

電車に乗るとき、まず優先席ではない一般席がどんどん埋まっていく光景は珍しくありません。都市部の超満員電車などは別でしょうが、ほとんどの電車では優先席が空いていても極力座らないようにしている人が多い印象があります。

なぜかというと、このような椅子は身体的に何か物理的障がいをもつ人のために「優先的」に用意されているものという意識があるからです。この価値観をだれでもトイレにも持ち込んでいる人は多いと感じます。

しかし、だれでもトイレはその名の通り、誰でも使って良いトイレです。身体的に物理的な障がいが無いと使ってはいけないという訳でもないし、そういった人たちのためだけに優先的に用意されているわけでもないのです。しかし、多くの人は優先席と同じように、だれでもトイレを「優先トイレ」として扱ってしまっています。

この意識は、ピクトグラムによるところが大きいでしょう。

みんなのトイレのピクトグラムは車椅子マークであることがほとんどです。他には、杖をついた老人、妊婦、子供づれなどが代表的です。これは電車の中の優先席のマークと全く同じです。男女のマークを見てトイレと認識するのと同じように、車椅子や杖をついた人のマークを見たら「優先トイレ」と認識してしまうのも無理はないでしょう。

LGBTの人にとって、使いやすいトイレとは?

このように、LGBTの人たちが自分の性自認に基づいたトイレを使おうとしても、あるいはみんなのトイレを使うという選択をしたとしても、周りから白い目で見られてしまうことからは逃れられません。

それでは、この現状を踏まえて、LGBTの人たちが快適にトイレを使えるようにするにはどうすればいいのでしょうか。

今、世間では多種多様な議論がなされており、また施設などでも様々な方法が試されています。多様なトイレ案をそれぞれ紹介します。

1. 【案1】すべて個室トイレにする

緑のドア

小さい飲食店や、居酒屋に行った時、トイレが個室ひとつだけだった、という経験はありませんか?加えて、一般的なアパート・マンション・一戸建てに設置されるトイレは、だいたい個室ひとつ、多くてふたつです。

個室が一つしかないということは、当然、男女別に別れてはいません。しかし、そこで「自分は男(女)だけど、このトイレ使っていいの?」と当惑する人はいないでしょう。ここからわかることは、トイレをわざわざ男女別にする必要は高くはない、ということです。

実際に、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員の山内正敏氏によると、スウェーデンではトイレは男女共用が一般的だといいます。男女別のトイレをやめ、全て単なる個室トイレにしてしまっても全く問題がない実証例とも言えるでしょう。

全ての公共トイレを性別関係ない個室のみの設置にしてしまえば、「あの人、見た目が女性じゃないのになんで女子トイレに入るの?」「元気そうなのにだれでもトイレに入るの?」という「周囲からの目」問題は無くなります。

問題点:回転率が悪い!

しかし、「全て個室」案にも問題点があります。

大規模店舗に設置されたトイレ、高速道路のサービスエリアのトイレは、「回転率」が命です。トイレを我慢した状態で買い物したい人はいないからです。

しかし、全て個室トイレにしてしまうと、回転率が非常に悪くなる可能性があります。

高速道路のサービスエリアや、駅近くの商業施設で、「男子トイレはすかすかなのに、女子トイレが異常に混み合っている」光景を目にしたことはありませんか?

その原因はやはり、個室にあるようです。TOTOの見解によると、女性が用を足す時の手順の複雑さはもちろんありますが、それ以外にも、

・個室は男性用小便器に比べ面積をとるため設置数が少なくなること

・個室で携帯を使用したり、居眠りをしたり、メイクをしたりすること

を理由としてあげています。

これらの理由は、もし全て個室にしたときに全ての性別の人にとって起こりうる問題でしょう。

また、職場のトイレについて限定すると、男女別トイレは実は法律で定められているのです。

オフィスの環境を定める「事務所衛生基準規則」の第17条第1号、「労働安全衛生規則」第628条1項には、「男性用と女性用に区別すること。」という規定があります。

これは両方とも罰則のない法律ですが、やはり法律がある以上逆らおうとする企業はほとんどありません。

2. 【案2】だれでもトイレのピクトグラムを変える

車椅子のピクトグラム

トランスジェンダーの人がだれでもトイレを使用するとき問題となるのは、「元気そうなのにそのトイレ使うの?」という周囲の目で、原因としてはピクトグラムによるものが大きいということは上述した通りです。

それなら、だれでもトイレの「優先席らしさ」が残るピクトグラムを変えればいいのでは?というのがこの案です。

実際に、渋谷にある「MEGAドン・キホーテ」では、「ALL GENDER」のピクトグラムが描かれたトイレが設置され、話題になりました

このピクトグラムなら電車の優先席のような意味合いはないため、堂々とトイレを利用することができそうな気もします。

問題点:偏見がついてしまう

男女のトイレのピクトグラム

しかし、これにもやはり問題はあります。

ドン・キホーテの例のような、従来の「男」でも「女」でもないピクトグラムは、その特殊さゆえに、「だれでも」ではなく「LGBT用」だという誤解を招いてしまうことがあります。また先進的な試みということで、注目も集まります。

実際に、ドン・キホーテのトイレは「ALL GENDER」なのにも関わらず「LGBT用トイレが設置!」と報道されました。

そのような中で、ALL GENDERトイレを利用すると、

「あの人、ALL GENDERトイレを利用していた…ということはLGBT当事者なのかな?」と噂されてしまうことが起こりかねません。

これでは逆に入りづらく、問題が解決されたことにはならないでしょう。

3. 【案3】特にピクトグラムは設けない

真っ白なドア

それでは、だれでもトイレに、特殊なピクトグラムなどは設けず、「どなたでも」などの表示のみにしてみればどうでしょうか。

そうすれば、「優先席」的な先入観も、「LGBT」といったレッテルも貼られず、自由に使うことができます。

また、人々の意識改革にもつながる可能性があります。

TOTOの調査から、シスジェンダー(身体的性と自認する性が一致するセクシュアリティ)の人も、だれでもトイレを「男女別のトイレが混雑しているとき使いたい」としている人は64.9パーセントほどいることがわかります。そのため、女子トイレ、男子トイレの他にひとつだけ設置するのではなく、2〜3個ほど設置すれば、男女別のトイレが混み合っているときに使う人も増え、当事者でない人々も「だれでも使って良いトイレ」という認識を持ってくれそうです。

加えて、同調査からは、当事者・非当事者ともに支持する声がもっとも大きいのがこの案だということもわかります。

おわりに

最後まで読んでいただきありがとうございます。

だれでもトイレの問題でよく言及されるのは、「様々な対症療法はあるが、最も重要なのは人々の意識を変えることだ」という意見です。

確かに、トイレの問題だけでなく、LGBTの人たちを取り巻く多くの問題は、人々の偏見や意識を変えることで一気に解決します。しかし、直接的に、人の意識を変えることは本当に可能なのでしょうか?人の偏見・意識は、多くの場合、周りの環境が変わることに伴って変化するものです。

よって、直接的に意識を変えようとするのではなく、誰にとっても身近なトイレについて、ピクトグラムの表現方法や、設置個数など、実行しやすいものから変えてゆくことがより重要だと感じます。その結果としての意識改革を目指すほうが現実的ではないでしょうか。

みなさんはこの問題を解決するためには、どんな方法がとれると思いますか?

参考文献

TOTO株式会社(2018)「性的マイノリティのトイレ利用に関するアンケート調査結果」

山内正敏(2017)「男女共用トイレに関して日本の知識は誤解だらけ−盗撮懸念論というナンセンスな感情論に対する理性的な答えとは」

JCASTニュース(2017)「女子トイレには、なぜ行列ができるのか−真面目にTOTOに聞いてみた」

森江利子(2017)「渋谷に誕生、進化型の巨大ドン・キホーテがハンパない!生鮮食品も充実で総合スーパー機能も!」Business Journal

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