LGBT理解増進法の基本計画が閣議決定。職場や学校のこれからを読み解く

法律施行から3年、初めての基本計画が閣議決定された

2026年6月16日、政府は「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」、いわゆるLGBT理解増進法にもとづく初めての基本計画を閣議決定しました。法律自体は2023年6月に成立していましたが、具体的にどのような施策を進めていくのかを定めた基本計画がまとまるまでには、3年近くの時間がかかったことになります(引用:時事ドットコム「LGBT、啓発・相談を拡充 政府、初の基本計画決定」)。
理解増進法という名前からもわかるように、この法律は差別を禁止する法律ではなく、社会の理解を広げていくことを目的とした法律です。そのため、この法律がどれだけ実際の暮らしに影響するのかは、具体的な施策を定める基本計画の内容次第だという見方が、成立当初から強くありました。今回閣議決定された基本計画は、その内容をはじめて具体化したものです。
基本計画にはどんなことが書かれているのか
基本計画では、性的少数者に対して「不当な差別があってはならない」という考え方があらためて強調されています。そのうえで、社会の理解を進めるための方策として、大きく三つの柱が挙げられています。ひとつは学術研究の推進、もうひとつは知識の普及、そして三つ目が相談体制の整備です(引用:NHKニュース「LGBTの人などへの理解増進に向け初の基本計画決定 政府」)。
具体的には、国内外の関連する政策や取り組みの実態をまず把握したうえで、その内容をもとにリーフレットや研修用の動画を作成し、自治体とも連携しながら啓発を進めていくことが盛り込まれています。相談窓口の担当者向けの研修を実施することも明記されており、当事者が安心して相談できる窓口を各地に整えていく方針が示されました(引用:時事ドットコム「LGBT、啓発・相談を拡充 政府、初の基本計画決定」)。また、こうした施策の実施状況を年に1回公表し、計画自体もおおむね3年ごとに見直していく方針も示されています。数年に一度、内容が更新されていく性質のものだと捉えておくとよさそうです。
企業に求められることは何か

基本計画では、企業に対しても具体的な取り組みが期待されています。採用の場面や職場の中で性的少数者が不利益を受けたり、ハラスメントの対象になったりすることを防ぐための取り組みを進めることが求められる形です。
これは基本計画で初めて示された考え方というわけではありません。もともとLGBT理解増進法の中でも、事業主に対しては情報の提供や研修の実施、普及啓発、就業環境に関する相談体制の整備といった措置が努力義務として明記されていました。また2020年に施行された改正パワーハラスメント防止法においても、性的指向や性自認に関するハラスメント、いわゆるSOGIハラや、本人の同意なく性のあり方を第三者に伝えてしまうアウティングが、ハラスメントに該当しうることが示され、企業側の対応が事実上義務化されています(引用:クオレ・シー・キューブ「LGBT理解増進法と職場の取り組み」)。
今回の基本計画は、こうした既存の枠組みを土台にしながら、国としてより具体的な啓発の道筋を示したものだといえます。人事担当者向けの専門誌でも、企業がLGBT理解増進法をどのように理解し、職場の中で実際の取り組みに落とし込んでいくかという視点から、この法律と基本計画の意義が論じられています(引用:日本産業衛生学会「LGBT理解増進法の適切な理解と職場での展開」)。
企業側の自発的な取り組みを可視化する仕組みとしては、一般社団法人work with Prideが策定するPRIDE指標がすでに広く知られています。毎年多くの企業がこの指標への応募を通じて、自社の制度や研修の状況を点検する機会にしており、2025年にはもっとも高い評価にあたる認定に多くの企業が名を連ねました(引用:work with Pride「PRIDE指標」)。基本計画によって国の後押しが明確になったことで、こうした企業側の自主的な取り組みがさらに広がっていくかどうかが、今後の実質的な焦点になりそうです。
学校現場での取り組みも盛り込まれている

基本計画は企業だけでなく、学校現場における対応にも触れています。スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーといった専門職を活用しながら、児童や生徒が性のあり方について相談しやすい環境を整えていくことが求められています。
子どものころから自分の性のあり方に違和感や戸惑いを抱く人もいれば、大人になってから気づく人もいて、その経験のあり方はひとりひとり異なります。学校という場で、誰にでも開かれた相談先があるということ自体に、大きな意味があると感じる方もいるのではないでしょうか。一方で、法律には学校における教育や啓発が努力義務として明記されているにもかかわらず、基本計画の中で教育の実施方法について具体的に触れた部分が少ないという指摘もあり、実際に現場でどこまで浸透するかは、これからの運用次第という面が残っています。
この計画に対して寄せられている評価と課題の指摘

基本計画の閣議決定を受けて、当事者団体からもさまざまな声が上がっています。LGBT法連合会は声明を公表し、基本的な考え方の中に「自らの性的指向や性自認にしたがって社会生活を営む利益は、人格と結びついた重要な法的利益である」という趣旨の考え方が明記された点は一定評価できるとしつつ、計画全体としては既存の施策を並べ直しただけの部分が多く、具体性に乏しいという課題も指摘しています(引用:LGBT法連合会「SOGI理解増進法に基づく基本計画の閣議決定を受けて」)。
より踏み込んだ論点として、この法律そのものが差別を禁止する法律ではなく理解を広げることを目的とした法律であるという性質上、基本計画がどこまで実効性を持つのかについては、当事者の間でも見方が分かれています。啓発や相談体制の整備は前向きな一歩だと評価する声がある一方で、差別的な扱いそのものを禁止する法整備を求める声も根強くあります。G7各国の中には、性的指向や性自認にもとづく差別を罰則つきで禁じる法律を持つ国もあり、そうした国々と比べると、日本の理解増進法は啓発にとどまる点で性格が異なるという指摘も専門家からなされています。ただしこの点については、各国の法制度のあり方や運用の実態が複雑で、単純に「進んでいる、遅れている」と比較しきれない面もあることには注意が必要です。
職場の変化を実感するのはこれから

基本計画が閣議決定されたからといって、すぐに目に見える変化が職場に現れるわけではありません。ただ、国として企業に相談体制の整備やハラスメント防止の取り組みを促していく方針が明確になったことは、これから就職や転職を考える人にとって、企業を選ぶ際の視点のひとつになっていくはずです。
実際にどのような取り組みを進めているかは、企業によって大きな差があります。研修を実施し相談窓口を設けている企業もあれば、まだこれから取り組みを始める段階の企業もあります。基本計画は今回で終わりではなく、年に一度の実施状況の公表やおおむね3年ごとの見直しを通じて、内容が更新されていくものです。すぐに大きな変化を期待するのではなく、少しずつ積み重なっていく制度として、これからも動向を見ていく必要があるといえそうです。
JobRainbowでは、性的指向や性自認にかかわらず働きやすい環境づくりに取り組んでいる企業の情報を紹介しています。基本計画をきっかけに、自分の働く場所や、これから働きたいと考えている企業がどんな考え方を持っているのか、あらためて調べてみるのもいいかもしれません。
参考
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