ゲイの首都?サンフランシスコにあるレインボータウン、カストロ地区の見どころを紹介
Google、Twitter、Facebookなどの大手IT企業が軒を連ねる、カリフォルニア州北部のベイエリア。そのベイエリアの中心部ともいえる都市がサンフランシスコです。サンフランシスコは1849年頃のゴールドラッシュから、多くの移民を受け入れており、多様なバックグラウンドを持つ人々が暮らす街としても有名です。
実は、そんなサンフランシスコが「ゲイの首都」とも呼ばれているのをご存知ですか。今回は中でもLGBTフレンドリーな街として最も有名な、カストロ地区について紹介します。
カストロ地区とは?
カストロ地区は、ダウンタウン(街の中心部)から電車で10分ほどの場所に位置する、カストロ通り沿いの繁華街のことを言います。カストロ地区周辺はサンフランシスコの中でも高級住宅地として知られており、非常に治安が良いことでも有名です。
カストロ通り沿いには様々なゲイバー、ゲイクラブ、LGBT権利団体施設、LGBT向けに特化したアダルトグッズやドラァグクイーンの衣装を販売する店などが並んでおり、週末になると旅行客や家族連れなどで賑わっています。
街には一年中レインボーフラッグが掲げられ、横断歩道もレインボーに塗られているという徹底ぶり。LGBTフレンドリーの思いが街全体から伺えます。
また、歩道には多くのLGBT活動家・政治家・俳優・作家のパネルが埋め込まれており、カストロ通りを歩くだけでもLGBTの歴史を垣間見ることができます。
なぜカストロ地区はLGBTフレンドリーなのか
では、なぜそもそもこのような地区が栄えたのでしょうか。
これにはサンフランシスコの特殊な文化背景、カストロ地区の成り立ちが大きく関わります。
1. ゴールドラッシュ
サンフランシスコは1848年まで、人口800人ほどの小さな街でした。しかし、カリフォルニアで金が発見されて以来、一攫千金を狙った多くの若者の男性が単身で世界各国からサンフランシスコにやってきます。これが世に言う「ゴールドラッシュ」です。そして数年のうちにサンフランシスコの人口は10万人を超え、人口の半数以上が外国人という、異例の街になったのです。
様々な国から単身でやってきた働き盛りの男性たちは、コミュニティを築き、支え合いながら新境地での生活を始めました。そして当時その中で、単なる友情を超えた男性同士での親密な関係を育むことは、いたって普通のこととなっていたのです。
2. 兵士たちの脳裏に焼きつくサンフランシスコ
第二次世界大戦中、太平洋の戦地に向かう途中で多くの兵士がサンフランシスコを利用しました。その時人々が目にした、自分たちの故郷とはあまりにもかけ離れた特殊なサンフランシスコの文化や様子は、特に同性愛者の軍人の中で強烈な印象となっていたようです。
戦後、その記憶を頼りにサンフランシスコへ戻ってきた兵士は何人もいました。また、戦地にたどり着く前に、性的指向が原因で米軍から解雇されたゲイの兵士やレズビアン兵士の多くが、そのままサンフランシスコに残って暮らしていました。
中でも人気のあった地区が、現在のカストロ地区です。カストロ通りを中心に大きなマーケットがあり、治安も良かったカストロ地区は当時サンフランシスコに移り住んだゲイやレズビアンにとっては理想の土地でした。また、昔ながらのヴィクトリア調の美しい家々がたくさん残っているというのも彼らを魅了した要因の一つでした。
こうしてカストロ地区は自ずとゲイやレズビアンが集う街となり、その後のLGBTに関する運動の中心地となりました。そして人々や情報の移動が発展していくにつれてカストロは現在のようにあらゆるセクシャルマイノリティの憩いの場として発展してきたのです。
カストロとハーヴェイ・ミルク
ハーヴェイ・ミルクとは、1977年にアメリカで初めてゲイをカミングアウトして立候補し、サンフランシスコの市議会議員に当選した政治家です。
そんなミルクにとってこのカストロ地区はゆかり深い土地で、ミルクはかつて、カストロ地区で「カストロカメラ」というお店をパートナーと共にオープンしていました。カストロコミュニティのリーダー的存在だったミルクは、この「カストロカメラ」を拠点にゲイ擁護運動を率いていました。
1973年、1975年は落選に終わったものの、2度の選挙を通してミルクはサンフランシスコ市民や政界からも大きな支持を集めるようになり、1977年についにサンフランシスコ市議員として当選します。
しかしその11ヶ月後、ミルクは同じ選挙で当選していた同僚の市議員、ダン・ホワイトに射殺されてしまいます。ホワイトは敬虔なクリスチャンの家族を持ち、軍経験もあったことから、当時のゲイ擁護運動やミルクの率いるリベラルな政治の流れに不満を持っていたと言われていますが、翌年の公判では「仕事と家庭での孤立感とストレスに加え、ジャンク・フードの過剰摂取から犯行に及んだ」とされ、7年の禁固刑にとどまりました。
市議員としては11ヶ月とあまりにも短い期間でしたが、ミルクはサンフランシスコのヒーローとして今でも多くの人に語り継がれ、その功績はカストロ地区全体をあげて讃えられています。
カストロのオススメスポット
ここではそんなカストロ地区で1年暮らした私がオススメするお店や施設を紹介します。
1. 【雑貨屋】Cliff’s Variety(クリフス・バラエティ)
2軒が連なった大きな雑貨屋さんです。
取り扱っている商品は様々で、レインボーフラッグやグッズはもちろんのこと、トランスジェンダーフラッグ、レズビアンフラッグ、アセクシュアルフラッグ…などなど挙げだしたらきりがないほどのLGBTQ+フラッグが販売されています。
また「クリフス」ではそういった、いかにもカストロらしいお土産が揃っているのはもちろんのこと、ドラァグクイーン用の衣装材料やウィッグが売っているのも楽しめるポイントです。
ドラァグクイーン用のヒール売り場にはこんな説明書きのあるポップもありました。
DRAG SHOE SIZING
YOUR MENS SHOE SIZE +2= YOUR QUEEN SHOE SIZE
(ドラァグクイーンのサイズ表記
通常の男性ものの靴のサイズ+2=あなたのクイーン用の靴のサイズ)
そもそも、ドラァグクイーン用の靴売り場が普通の雑貨屋さんにあることもカストロらしいですが、わざわざ全ての人に向けたサイズガイドまで置いてあるのはお店の気遣いを感じますね。
2. 【本屋】Dog Eared Books(ドッグ・イヤード・ブックス)
こちらはサンフランシスコ市内に数件ある本屋さんです。
歴史・文学など通常の本屋さんにもあるようなものから、占いや呪いなど、様々なジャンルの本が取り揃えられていますが、もちろんカストロ店はLGBTに関する書籍が豊富です。
クィア論など学術的なものはもちろん、子ども向けLGBT教育の本、LGBT小説、LGBTポエム…など、単に「LGBT」という括りではなく、より細かなジャンルに本棚が分けられていて、LGBTに関する様々な本を読んで見たいという方にオススメの本屋さんです。
3. 【アダルトファッション店】KNOBS(ノブス)
“The gayest shop ever”(「超ゲイ」なお店)
と書かれたレインボーの看板が目立つアダルトファッショングッズを取り揃えたお店です。ハーネスやタイトなアンダーウェア、派手なタイツやブーツなどがたくさん売られており、ちょっと気合いを入れたいクィアパーティーやパレードのためのグッズをここで揃えても楽しいと思います。
4. 【博物館】GLBT History Museum (GLBT 歴史博物館)
時にLGBTはGLBTと言われたりもします。どのセクシュアリティを単語の先頭に置くかで、ポリティカル・コレクトネス(差別偏見を防ぐために公正・中立な言葉や表現を使用すること)がはたらき、略称の順番が前後することがありますが、この博物館が「GLBT」を用いる理由を職員の方はこのように説明していました。
「20世紀の後半、当時はAIDSで命を落とすゲイが多くいたんです。彼らのなかには家族とも縁を切り、身寄りがない状態の人も多くいたので、家具などの荷物の引き取り手がいなかった。そういったものが寄付として積み重なり、この博物館ができたんです。だから、その名前も“G”LBTに」
https://courrier.jp/columns/109118/?ate_cookie=1569389494
そのため、博物館の内容はゲイについての事柄が比較的多くなっています。とはいえ、ゲイ以外にもLGBTについて学ぶための十分な資料や展示がたくさんあるので是非足を運んでいただきたいです。
2019年8月現在、水曜が無料観覧の日なので、狙い目です。
5. 【LGBTグッズ】HUMAN RIGHTS CAMPAIGN(ヒューマン・ライツ・キャンペーン)
アメリカで有名なLGBTQ人権保護団体、ヒューマン・ライツ・キャンペーン(HRC)の展開する雑貨店で、Tシャツやリストバンドなど、豊富なLGBTグッズが取り揃えられています。また、かつてミルクが運営していた「カストロ・カメラ」の跡地としても有名なお店となっています。
毎年HRCはLGBTフレンドリー企業のリストを公表することでも知られており、その知名度から、有名画家キース・ヘリングなどの著名人とのコラボレーショングッズを販売している点も見どころの一つです。
6. 【バー】Moby Dick(モビー・ディック)
カストロ地区で30年以上も営業を続ける老舗ゲイバーです。
「モビー・ディック」とはハーマン・メルヴィルの有名な小説「白鯨」に登場する鯨の名前であり、船の名前としてもしばしば用いられることが多いことからも分かるように、店内は海の中のような雰囲気の漂う楽しいバーです。
店内にはステージがあり、ここでドラァグ・ショーが開催されることもしばしば。たまたま私が行ったショーのテーマはまさかの「セーラームーン」。ユニークなドラァグ・クイーンと共に、様々なシーンに突っ込みを入れながら、「セーラームーン」の映画を鑑賞するという、異色のイベントでした。
7. 【ダンスクラブ】The Cafe(ザ・カフェ)
少しディープな世界のダンスフロアが広がるクラブです。お店の外装とは裏腹に、店内では真っ暗な部屋に色とりどりのライトが光り、お立ち台ではきらびやかな衣装に身を包んだクイーンやゲイのパフォーマーが踊っています。
店内は夜な夜な踊る人々で熱気にあふれており、我を忘れて踊り狂いたいような夜にオススメのクラブです。
8. 【バー・クラブ】Beaux(ボー)
The Cafeよりは比較的明るく、華やかさのあるクラブです。バーも広く、時に会話を楽しみながら、時に好きな音楽に合わせて踊りたいといった方にオススメのクラブになります。
もともとゲイクラブはアンダーグラウンドにあることが多く、壁で仕切られているものがほとんどでしたが、大通りに面した大きな窓ガラスも現代を感じさせる、オープンなクラブです。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
街全体がLGBTフレンドリーを体現し、1日中、1年中色褪せることのないカストロは歩くだけでもパワーのもらえる不思議な街です。
カストロには今回紹介しきれないほど、個性的なお店やイベントがまだまだたくさんあります。サンフランシスコに訪れた際は是非一度、足を運んで見てください。
参考文献
- Lipsky, William. 2006 “Gay and Lesbian San Francisco” Charleston, SC : Arcadia Pub.
- History.com 2018/8/21 “Harvey Milk”( https://www.history.com/topics/gay-rights/harvey-milk)[2019/10/1]