大切な人からカミングアウトされたら? 受け止め方と寄り添い方

友人や家族、同僚から性的指向や性自認について打ち明けられたとき、「何と言えばいいか」「どう反応すればいいか」と戸惑う人は少なくありません。悪気なく発した言葉が相手を傷つけたり、逆に身構えすぎてぎこちない反応になったりすることもあります。株式会社電通グループが2023年に実施した「LGBTQ+調査2023」によると、全国20〜59歳を対象とした調査でLGBTQ+当事者層の割合は9.7%という結果が出ています。つまり、身近な人からカミングアウトを受ける可能性は、決して他人事ではありません。
この記事では、大切な人からカミングアウトを受けた側が、その場で、そしてその後の関わりの中で意識したいことを整理します。ここでご紹介する内容は、多様な状況の中の一つの指針として参考にしてください。唯一の正解ではなく、相手との関係性や状況によって適切な対応は変わります。
受け止める側の前向きな気持ち

「うまく反応できるだろうか」と不安に思う人もいるかもしれません。しかし、ライターの難波寛彦氏がまとめた意識調査では、カミングアウトを受けた非当事者の84.6%が「ありのまま受け入れたいと思う」、77.7%が「信頼されていると感じて嬉しい」と回答しています。打ち明ける側の緊張や葛藤は大きいものですが、受け止める側の多くは否定的な反応ではなく、むしろ前向きな気持ちを抱いているというデータは、これからの対応を考える上で心の支えとなるでしょう。
とっさの反応で意識すること

プライドハウス東京が監修した情報では、打ち明けられた側の対応として「その人の思いを受け止め、寄り添うこと」が大切だと伝えています。驚いてしまうこと自体は自然な反応ですが、「まさか」「そんなふうに見えなかった」といった否定的なニュアンスを含む言葉は避けたいものです。まずは「話してくれてありがとう」と伝えるだけでも、相手にとっては大きな安心材料になります。
特別な言葉を用意しようと気負う必要はなく、相手の言葉をそのまま受け止めること。そしてカミングアウトの前も後も「同じ人であることに変わりはない」という前提を忘れず、これまで通りの態度で接することが大切です。
尋ねてもよいこと、慎重になるべきこと

相手を心配するあまり、根掘り葉掘り質問したくなるかもしれませんが、まずは「今、何に困っているか」「どうしてほしいか」を確認する方が、相手にとって助けになりやすいと考えられます。一方で、身体の特徴や恋愛・性生活の詳細など、答えるかどうかを相手が選べるはずのプライベートな内容を、聞かれてもいないのに尋ねるのは避けたいこと。知りたい気持ちが先に立ちがちですが、「これは今、聞いてもよい話だろうか」と一呼吸おいて考える姿勢そのものが、相手への配慮につながります。
必要な配慮は人によって異なるため、決めつけずに本人の希望を確認しながら対応することが大切です。「自分以外に誰がこのことを知っているか」を聞いておくことも助けになります。共有範囲があらかじめ分かっていれば、自分一人で情報を抱え込みすぎずに済み、誰かと連携が必要な場面でも判断しやすくなるでしょう。
本人の同意なく話さない! アウティングの危険性
打ち明けられた内容を本人の同意なく別の人に伝える行為は「アウティング」と呼ばれ、たとえ善意からであっても避けるべきことです。東京都人権啓発センターも、カミングアウトとアウティングは明確に異なるものとして整理しており、後者は本人の意思に反した暴露であるため、深刻な人権侵害になりうると説明しています。
2015年、一橋大学の学生が、同性愛の感情を打ち明けた相手から友人グループのメッセージで性的指向を暴露され、これをきっかけに転落死する事件が起きました。遺族が大学を訴えた裁判では、東京地裁・東京高裁ともに大学側の法的責任は認めませんでしたが、判決の中でアウティングについて「人格権ないしプライバシー権等を著しく侵害するものであって、許されない」行為であると言及されており、アウティングの違法性に触れた日本で最初の判決だと考えられています。この事件をきっかけに、2018年に一橋大学が所在する国立市が、日本で初めて「アウティング禁止」を盛り込んだ条例を施行しました。「誰まで話していい話なのか」を本人に確認せずに他者へ共有しないことは、単なる気遣いではなく、相手の人格やプライバシーを守るための最も基本的な約束です。
家族として打ち明けられたら

親や兄弟姉妹といった家族としてカミングアウトを受けた場合は、特有の戸惑いが生まれることもあります。NPO法人LGBTの家族と友人をつなぐ会がまとめている情報では、これまで気づいていなかった場合、親が子どものカミングアウトを受け止めるまでに半年から2年ほどの時間がかかることもあると指摘されています。
すぐに完全に理解し、前向きな言葉をかけられなくても、それ自体は珍しいことではありません。大切なのは、最初の反応だけで関係が決まってしまうわけではないと知っておくことです。カミングアウトは一度で終わるものではなく、時間をかけて何度も対話を重ねていくものだと考えると、家族としての向き合い方に少し余裕が生まれるでしょう。
友人として打ち明けられたら

友人関係では、カミングアウトの前後で関係がぎくしゃくしてしまうことを心配する声もよく聞かれます。数ヶ月は意識して「これまで通り」の態度を続けることが、関係を保つ上で役立つとされています。それでもすぐには以前と同じ距離感に戻れないと感じることがあっても、無理に元通りにしようと焦る必要はなく、時間をかけて関係を築き直していく姿勢で構いません。カミングアウトは、相手が長く悩んだ末に「信頼できる人」として選んで打ち明けてくれた、大切な一歩です。その信頼をどう大事にするかが、その後の関係を左右するでしょう。
カミングアウト後の関わり方
打ち明けられた後、急に特別扱いをしたり、逆によそよそしくなったりすると、相手を戸惑わせてしまうかもしれません。「これまで通り自然に接してほしい」と感じる人もいれば、「配慮してもらえるとありがたい」と感じる人もおり、感じ方は人によって異なります。一度話を聞いて終わりにするのではなく、相手の様子を見ながら関わり方を調整していく姿勢が、長く続く関係を築く上で大切です。
LGBTQ+当事者を理解し、支える立場を「アライ(Ally)」と呼びます。アライ自身がアライであることを日頃から示しておくことで、当事者がカミングアウトする際に感じる不安を減らせる、という考え方もあります。
職場や学校での留意点

職場でカミングアウトを受けた場合は、より注意が必要です。性的指向・性自認に関する望まない言動やアウティングは、要件を満たせばパワーハラスメントに該当しうることが、厚生労働省の指針(令和2年厚生労働省告示第5号)に明記されています。人事担当者や上司の立場で打ち明けられた場合は、社内のハラスメント相談窓口や、個人情報の取り扱いに関するルールをあらかじめ確認しておくと、いざというときに落ち着いて対応できるでしょう。
学校の場合も同様に、担任や信頼できる教職員が一人で抱え込まず、スクールカウンセラーなど専門の相談先と連携できる体制を確認しておくことが望ましいです。
自分自身の気持ちも大切に

打ち明けられた側にも、驚きや戸惑い、時には自分の中でどう受け止めればよいか分からないという気持ちが生まれることがあります。そうした自分の気持ちを無視して「完璧に受け止めなければ」と抱え込む必要はありません。また、カミングアウトをきっかけに、自分の中に無意識の思い込みがあったことに気づく人もいます。それ自体は責められることではなく、理解を深めていく過程の一つとして捉えて構いません。その気持ちを整理するために誰かに話したくなった場合も、本人の同意を得ずに話す相手を選ぶことは避け、守秘義務のある相談窓口や専門機関を頼ることが望ましいでしょう。厚生労働省が補助する「よりそいホットライン」(0120-279-338)では、24時間365日、性別や同性愛などに関わる相談を無料で受け付けているほか、セクシュアル・マイノリティ当事者や支援者による「レインボー・ホットライン」(0120-51-9181)では、本人だけでなく家族・友人・同僚など周囲の人からの相談も受け付けています。
一人で抱え込まず、こうした窓口を頼ることも選択肢の一つです。
カミングアウトの内容は多様であることを理解する
「LGBTQ+」という言葉は、レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー・クエスチョニングなど、性的指向や性自認に関するさまざまなあり方を包括する言葉です。打ち明けられた内容によって、必要な理解や配慮は異なります。恋愛対象についての話なのか、自認する性別についての話なのか、まだ自分でも探している最中(クエスチョニング)という話なのかによって、求められている反応も変わってきます。「LGBTQ+だから、こう反応すればよい」という単一の正解を当てはめようとせず、目の前の相手が今、何を伝えようとしているのかに耳を傾けることが基本です。
よくある疑問とその対処法

「どう反応すればいいか分からず、その場で固まってしまった」という場合も、後から改めて「あのときはうまく言葉にできなかったけれど、話してくれて嬉しかった」と伝え直すことができます。最初の反応が完璧でなくても、関係を取り返せないわけではありません。「本人が今後どうしてほしいのかが分からない」という場合は、遠慮せずに「私に何かできることはある?」「今のままの接し方でいい?」と本人に直接尋ねてみることも、決めつけて対応するよりも安心につながるでしょう。「自分の周りには他に話せる人がいない」と本人が感じている場合は、無理に自分一人で支えようとせず、当事者コミュニティや相談窓口など、他にも頼れる場所があることを一緒に探す姿勢も助けになります。
尊重する姿勢を大切に
カミングアウトを受けたときの「正しい対応」は一つではありませんが、「思いを受け止める」「本人の同意なく他者に話さない」という基本を押さえておくだけで、多くの場面で相手の安心につながります。完璧な言葉を探すよりも、相手を尊重する姿勢を持ち続けることが何より大切です。
参考
- 「『カミングアウトされたら?』LGBTの疑問に答える」オルタナ(プライドハウス東京監修)
- 「知っておきたい『カミングアウト』と『アウティング』」東京都人権啓発センター
- 「ゲイだと暴露『許されない行為なのは明らか』 一橋大学アウティング事件、遺族の控訴は棄却」BuzzFeed Japan
- 「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)厚生労働省
- 「LGBTQ+のカミングアウトとは?職場でカミングアウトをされた際の対応も紹介」株式会社アカルク
- 「アライについて」work with Pride
- 「LGBTQ+調査2023」電通グループ プレスリリース
- 「LGBTQ相談先リスト」認定NPO法人虹色ダイバーシティ
- 「カミングアウト、する場合、される場合。意識調査でわかったそれぞれの本音」難波寛彦
- 「友達へのカミングアウト|5つの伝え方と反応別対処法」Pace
- 「LGBTが教える『カミングアウトされたときのナイスな対応』」
- 「親へのカミングアウトに際しての12のチェックポイント」NPO法人LGBTの家族と友人をつなぐ会
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