

『素敵なご縁に恵まれて、結婚やめました』”男男婚活コンサルタント”の田岡智美さんが考える本当の幸せとは

2024年5月21日、1冊のエッセイが出版されました。
タイトルは『素敵なご縁に恵まれて結婚やめました』。
著者は、ゲイの方のための結婚相談所「ブリッジラウンジ」で婚活支援を行っている田岡智美さん。男女の結婚相談所での経験を経て、現在は男性同士の婚活の現場で一人ひとりの思いに寄り添いながら、本気の出会いを支えています。
結婚をサポートするプロが、なぜ「結婚やめました」と語るのか。
インタビューでは、自身の「結婚して当たり前、子供がいて当たり前」という固定観念を破った、“ゲイ婚活”のお客様との出会いや、田岡さんの仕事への想いをたっぷりとお伺いしました。
自分らしい幸せを選べる社会にしたい。だから、結婚やめました!

―『素敵なご縁に恵まれて結婚やめました』、出版おめでとうございます。ぜひこの書籍に込められた想いからお聞かせいただけますか?
田岡さん(以下、敬称略):この本は、何よりも30〜40代の女性に読んでほしいという想いで書きました。私は当時、結婚相談所に勤務していながら、「結婚していない自分」に後ろめたさを感じていたんです。とにかく結婚しなきゃ!って…。
でも、ゲイ向けの結婚相談所で働き始めて“ゲイ婚活”をされているお客様と出会うなかで、どのようなセクシュアリティの方でも形骸化した「結婚」というゴールに囚われず、一人ひとりが「自分にとっての本当の幸せ」をみつければいいんだということに気づけたんです。
結婚できなくても心から添い遂げられるパートナーや、唯一無二の何でも話せる友達がいる。それが自分にとって幸せならそれでいいじゃない? そんな風に思ったら、とっても気持ちがすっきりしたんですよね。“結婚やめました”というタイトルは、決してあきらめではなく、“選べること”への自由を象徴するものなんですよ。
そして、「すべての人が自分らしい幸せを選べる社会にしたい。」そんな想いも、この本には詰まっています。
好きな人のことを友達に相談する、好きな人と手をつないで歩く、ただそれだけのことがとても苦しい。どうしてもできない。私のようなヘテロセクシュアルの人たちが、ゲイ婚活のリアルを知り、「自分ごと」として想像力を働かせることができれば、世界は少し良い方向に変わるんじゃないか…。
この本が、そのきっかけになることを強く願っています。
「気づかなかったこと」に気づかされた出会い
─そもそも、どうして「ブリッジラウンジ」で婚活支援に携わるようになったのですか?
田岡:もともと異性婚を目的とした方々に向けた結婚相談所で働いていたんです。その時にお世話になった方に誘われる形で、”ゲイ婚活”の世界に飛び込みました。
飛び込んでみて最初に実感した違いは「やたら感謝されること」。同時に「なんでこんなに感謝されるんだろう?」という違和感もありました。
その頃の私は、ゲイの方には「二丁目」やSNSといった出会いの場があると思っていたんです。テレビで見るカミングアウトされている方々も、華やかで、楽しそうで、テレビが作る偏ったイメージを完全に信じ込んでいました。
しかし会員様にお話を伺ってみると、現実は出会う手段がないまま生きてきた方が本当に多い。だから、「こんな場所を作ってくれてありがとう!」ってすごく感謝されて。
これまで、恋愛をし、失恋をし、好きな相手について友達に相談したり、親に紹介したり…そんなことが当たり前だと思って生きてきました。
でも、自分にとっては当たり前だと思っていたことが、当たり前じゃない。好きな人が男性だとカミングアウトすることもできず、だれかに相談することもできずに、当たり前を諦めて生きていく人がいる。その現実を知って、恥ずかしくなるほど自分が無知だったと気づきました。そして「自分にできることをしたい」と、心から思うようになったんです。
「真剣な出会い」を守りたいからこその仕組み
─エイジィ株式会社ではマッチングアプリ「Bridge」と、結婚相談所の「ブリッジラウンジ」を展開されていますよね。
田岡:はい。私たちが提供したかったのは、遊び目的ではない「真剣なご縁」そのもの。生涯を共に過ごすパートナーを探すことを目的としているため、無料で誰でも登録できるアプリとは一線を画しています。
本気でパートナーを探している方が、不安や不快な思いをせずに出会える場所にしたかったので、「Bridge」は、完全有料制かつ厳格な審査制を採用。身分証はもちろん、プロフィール写真も肌の露出が多いものはお断りしますし、メッセージ内容にも目を通しています。不誠実な目的の方を徹底的に排除することで、安心できる出会いの場を守ること。それが、私たちが掲げた最初の約束です。
─マッチングアプリ「Bridge」と結婚相談所「ブリッジラウンジ」。ふたつはどのような住み分けなんでしょうか?
田岡:マッチングアプリのような、自分でメッセージを送り、断られて落ち込み、また頑張る。そんな戦いは、友達や家族に相談できない方にとって、難易度が高いんです。
競争率高めなイケメンにのみメッセージを送って、「全然マッチしないから自分にはやっぱり恋愛は無理だ…」とあきらめてしまう人もいます。
だからこそ、男女の結婚相談所では当たり前の信頼できる第三者、つまり「サポーター」が必要になるんです。一人で悩むのではなく、客観的なアドバイスを受けながら進める場所。それが「ブリッジラウンジ」です。

「理想」だけじゃない、本当の幸せのかたち
─サポートする中で、大切にしていることは何ですか?
田岡:本当に幸せになってもらいたいからこそ、「幻想を壊す」ことも仕事だと思っています。
この仕事で色んな方のお話を聞いていると、自分と同じセクシュアリティの人に出会ったことがない、一度もリアルで人を好きになったことがない、一度も人と付き合ったことがない…など、恋愛経験がないまま大人になったという方がとても多くいます。
なので、お相手の条件を伺うと、「自分より若くて、筋肉があって、かっこよくて、年収も高くて…」など、理想の条件だけを提示されることもあります。“現実の恋愛”じゃなく、“アプリで見た理想像”なんですよね。
それが経験の少なさからきていると理解したうえで、それでも「その理想だけを追っていたら、うまくいかないかもしれません」と伝えるようにしています。
理想にこだわった結果、現実とのギャップに苦しんでしまう方も少なくありません。でもそれを避けるには、誰かが現実を伝えるしかないんです。
「もうちょっと違う選び方してみませんか?」と、ちゃんと伝える。もちろん、愛をもって。それが、私たちの役割だと思っています。
─田岡さんのサポートから、初めてのお付き合いがスタートする方も多いんですね。
田岡:そうですね。「初めて誰かと手をつなぎました」とか、「初めて同棲します」とか、そういう報告をしてくださる方も多くいます。中には、「外で手をつないで一緒に歩くなんてとてもできません!」と仰っていた方が、「裏通りだけど手をつないで歩けました!」と報告してくださることもあったりして…そういう一歩が、本当に愛おしいですね。
恋愛に慣れてないって、全然悪いことじゃないんです。だって、誰も教えてくれなかったし、そもそも“してはいけないもの”として育ってきた人もいたりして。
だからむしろ、今ここで出会って、知っていけばいい。そう思っています。

私たちのサービスが、感謝されない世界へ
―“してはいけないもの”…。まだまだ、同性カップルが世間から排除されている場面は多いですよね。
田岡:そうですね。例えば、「結婚祝い」って、どこに行っても“大きい/小さい”“赤/青”みたいなセットばっかりで…。
成婚カップルのおうちに遊びに行かせてもらうことがよくあるんですが、結婚祝いのプレゼントを選ぶたびに「なんで同じもの2つじゃダメなの?」って、改めて気づかされますね。
だからこそ百貨店やお店では「男性同士のカップルへのプレゼントです」って、あえて伝えるようにしています。そうすることで、店頭に並んだ「結婚祝い」の不自由さに、お店側が気づいてくれたらと思って。
最近では店員さんが、「お二人の身長はどれくらいですか?」「パジャマならこのサイズがおすすめです」ってフラットに対応してくださることも増えてきて。
少しずつだけど、社会はちゃんと変わってきている。そんな実感もありますね。
冒頭で、「サービスがあるだけで感謝される」ことをお伝えしたと思うんですけれど、「ここがなかったら出会えなかった」って言われると、本当に嬉しいんです。でも…複雑な気持ちにもなります。
だって、お金を払ってサービスを提供されるなんて当たり前のこと。結婚だって、家を借りることだって、保険に入ることだって、異性婚だったら、当たり前に受けられるサービスなんですよ。
なのにこんなに感謝されるということは、“ゲイの方にとって現状それは当たり前ではない”ということなんです。
「誰にも言えなかった」「誰も味方じゃなかった」「自分だけがまわりと違う」そんな状況について、この仕事を通じ、痛いほど受け止めてきました。
“ありがとう”の量が異性愛向けと比べてケタ違いなのは、“出会えて嬉しい”というより、“誰かに認められたことが嬉しい”という気持ちが込められていることも多いからです。
だからこそ、早く感謝されない世の中になってほしい。誰かに認められるなんて当たり前の世の中になってほしい。そう、日々思っています。
私の本をきっかけに、1人でも「日常の中の小さな違和感」に気がついてもらえたら…。「自分だったらどうだろう?」と、ほんの少しだけ想像してもらえたら…。
その小さな想像力が、誰かの生きやすさにつながると信じています。
【エイジィ株式会社 LGBT婚活領域サービス紹介】
■ブリッジラウンジ
“ひとりじゃない婚活”を支える、伴走型の結婚相談所。
経験豊富なコンサルタントが、最初から最後まで一人ひとりと向き合いサポートします。
▶ https://www.bridge-lounge.jp/
■Bridge(ブリッジ)
完全有料・審査制のゲイ向けマッチングアプリ。
安心・安全な出会いの場を守るため、厳正な審査と運営体制を整えています。
▶ https://rainbowflag.jp/bridge.html
■Flag(フラッグ)
LGBTQ+の暮らしや医療、パートナー制度、インタビューまで幅広くカバーする情報メディア。
■田岡さんの書籍情報
- タイトル:素敵なご縁に恵まれて結婚やめました
- 著者:田岡 智美
- 発売日:2024年5月21日
- 出版社: KADOKAWA
▶https://www.kadokawa.co.jp/product/322408001541/

