〜自殺した「A君」は僕だったかもしれない〜ゲイの現役大学生と東大ロースクール卒業生が考える【一橋大学生自殺事件】(前編)

ライター: JobRainbow編集部
この記事のアイキャッチ画像

一橋大学の大学院生がゲイであることを暴露されたことをきっかけに転落死した事件が明るみになり、世間に衝撃を与えた。現在法学部に通う現役ゲイ大学生のジェームズと、この春に東京大学法科大学院を卒業し、全てのLGBTが自分らしく働ける社会を作るためのソーシャルベンチャー「株式会社JobRainbow」を立ち上げCOOを務めるマリコレが、改めてこの事件について考えた。(前編)※当時の文を尊重し転落死ではなく自殺という表現を使っています。不愉快な思いをされた方は申し訳ございません。

自殺した「A君」は僕だったかもしれない 

ジェームズ:

最初にこの事件を知ったとき、同じくゲイの大学生として非常に大きなショックを受け、胸が苦しくなった。この事件の「A君」は自分だったかもしれないと、思ったよ。

マリコレ:

多くのLGBT当事者がこのニュースで不安な気持ちになっただろうね。同じコミュニティ、同じ悩みを抱える人の死というのは非常にインパクトが大きいけれど、非当事者にはいまいち理解されていないと感じたな。

ジェームズはゲイとして、今は周りの人にも恵まれて自分らしく生きる場所を見つけているように私には見えるけれど、どんなところに自分を重ねたのかな。

ジェームズ:

思春期を過ぎた14歳の頃、男性に心惹かれる自分がいることに気付いたものの、それを同級生にはっきりと言うことはできなかったよ。好きな子もいたけれど、とてもじゃないが告白する勇気などなかった。なぜなら、同級生どころか学校の先生までが、男性の同性愛者を馬鹿にするような発言を繰り返し、嘲笑の対象にしていたから。

それで自分を押し殺して学校生活を送ってはいたものの、仕草や言動から察するのか、すぐに自分は「おかま」「おねえ」「ゲイ」と口々に同級生や先生から言われるようになったよ。そうして馬鹿にされる度に、引きつった笑いを作りながら「僕はゲイじゃない」と口にしては、自分を否定しているような気がした。

マリコレ:

その頃はジェームズがそんな状況にあると知らなかったから、力になれなくて悔しいけれど、今こうやって元気でいてくれることにとても感謝している。

A君の周りでも同様に、ロースクールの同級生が同性愛者に対して「生理的に受け付けない」等と話していたようだね。

ジェームズ:

大学に進学したことで、閉鎖的なコミュニティを抜け出せたことは自分にとって大きな転換点になっていたと思う。さらに自分はセクシュアルマイノリティサークル(LGBTといった性的マイノリティの大学内コミュニティ)に入ったことで、自分以外にも同じ悩みやセクシュアリティを持った人がいることを身をもって実感できたのも大きかった。本来大学は小中高と比べ、こうした自由度の高さが、LGBTにとってはコミュニティに縛られず、生き生き生活できる場のはずだったのに、今回の事件はなおさら悲しいね。

マリコレ:

私はロースクールを3月に卒業したばかりだけど、ロースクールというのは非常に閉鎖的なコミュニティだったと感じている。どこにでも競争はあるけれど、司法試験という最難関のたったひとつの試験に向けて、優秀な人たちが1本の物差しの上でひしめきあっている社会は、かなり特殊な環境だと思う。ロースクール制度の理念には法曹の多様性の確保もあるようだけど、正直マイノリティには厳しい社会だと感じたな。

そんな逃げることが難しい環境で予期せぬアウティングを受けて、ただでさえ司法試験への大きなプレッシャーもある中、A君が追い詰められてしまったことは、想像ができてしまうだけに本当に言葉にならない苦しさを感じる。

ジェームズ:

マリコレもロースクールから一時期離れていたことがあったよね。勇気のいることだと思うけど、離れることも自分を守るために大切。

僕は今までストレートの方に対して告白した経験はないけれど、今回A君が勇気を出してその気持ちを伝えたところアウティングを受けることとなって、どれだけ苦しかったか。自分だってそんな環境にいたら耐えられなくなってしまったかもしれないんじゃないかな。「自分だったかもしれない」という思いは拭えない。

非当事者の無知

ジェームズ:

訴訟自体については、原告代理人である南弁護士が「裁判というのは世間の標準的な価値観に対する問いかけ」であると指摘するように、大学側や加害者側の行動と対応が社会通念上どれほどまでに被害者の死に因果関係があったのかを明らかにするための法的手段だね。

マリコレ:

事件後のネット上での議論の盛り上がりに対して、ロースクール同級生界隈のツイートを見ていると、この因果関係論を持ち出して「多くを論ずる前に一要素でしかないかもしれない性差別にすべてを還元するのは問題じゃないか」というような一見冷静に見える意見があって一定の支持を得ていたのだけれど、そこに私は非当事者のLGBTの問題に対する無知を感じたな。

ジェームズ:

LGBTの問題の多くは、「セックス」「性的な趣味」と多く誤解されるとともに、すぐに「同性婚」や「性別適合」に結び付けられてしまうのだけど、本当に大きな問題は「いじめ」「自殺」「孤独」「離職」といった、一般的な社会問題の背景にあるんだよね。実際にLGBTの子供のうち、7割はいじめにあい、3割が自殺を考えたことがある(IRHRK調べ)と言われ、実際の自殺率はストレートの6倍という調査結果もあるよ(宝塚大学日高庸晴准教授調べ)。

「自分だったかもしれない」「次は自分かもしれない」と感じる人が実はたくさんいる、それだけの社会問題になっていることを裁判官が理解しなければ、LGBT当事者が置かれている不合理な状況が「世間の標準的な価値観」の中で看過されてしまう可能性があるということだよね。だからこそゲイの当事者である南先生、吉田先生がこの事件を担当する意味があると思うし期待しています。

(後半に続く)

〜LGBT差別の加害者を簡単に作り出してしまう日本社会〜 ゲイの現役大学生と東大ロースクール卒業生が考える【一橋大学生自殺事件】(後半)

検索

  • マガジンTOP
  • ゲイ
  • 〜自殺した「A君」は僕だったかもしれない〜ゲイの現役大学生と東大ロースクール卒業生が考える【一橋大学生自殺事件】(前編)
JobRainbow