ゲイのオリンピック選手を出会い系アプリで誘い出し暴露 米大手メディアにLGBT界隈から批判
5人のオリンピック選手がゲイであることを本人の許可なく暴露された
先日、多くの感動が生まれ閉幕したオリンピックの裏で、LGBTにとって無視できない事件が起こっていた。アメリカの大手インターネットメディアのライターが、オリンピック村でゲイ向け出会い系アプリ「Grindr」を利用し、ゲイのオリンピック選手をアウティングする記事をリリースしたのだ。
日本でも4年後には東京オリンピックが開催されることを受けて、スポンサー企業を始めとしてLGBTへの配慮を進めつつあるが、あらゆるセクシュアリティの選手たちが安心して競技に集中できる環境はまだ整っていると言えないかもしれない。
約1か月がたった今、改めて事件を振り返り、東京オリンピックに向けて我々が考えるべきことを示したい。
事件の経緯〜中には同性愛が罪に問われる国の出身も〜
ショッキングな記事がアメリカのインターネットメディア「Daily Beast」上に公開されたのは、開幕から5日目の、8月9日(木)の朝だった。同社は公開直後に多くの批判を受け、本人を特定しうる情報を編集したが、数分後には少なくとも5人の選手がGoogle上で特定可能になっていたという。彼らの中には、同性愛が罪に問われるような国の出身者もおり、家族にすらカミングアウトすることもできていない者もいた。
この記事は結局削除されたが、多くの人が知っているように、インターネット上で晒された個人情報は消えることはない。彼らのチームメイトが彼らに変わらず接するのか、家族は今まで知らなかった事実を受け入れることができるのか、わからない。彼らの今までの生活は予期せぬ悪意によって一変してしまったことは間違いないだろう。
この記事のライターであるNico Hinesが本件記事を公開した意図は以下の二つだった。一つはストレートのイケている男性として、彼に興味を持ったゲイの選手を見下し、嘲笑し、馬鹿にしようということ。そしてもう一つは、もっとひどいことに、ゲイの選手たちを吊るし上げ、面白がって世界中の人たちにアウティングしたかったということだ。HinesとDaily Beastは、このような記事がジョークで済まされるものではなく、どれだけ悲しくひどいものなのか、全く理解がなかったのだ。
世界中から非道なメディアに批判も
この事件によって、セクシュアリティをオープンにできていない多くの選手たちが、怯えさせられたことだろう。オープンなゲイのオリンピック選手であるGus KenworthyはTwitter上で、
So @NicoHines basically just outed a bunch of athletes in his quest to write a shitty @thedailybeast article where he admitted to entrapment
「Nico Hinesは最低なDaily Beastの記事で選手たちを探ってアウティングした。Daily Beastは彼が罠をかけることに許可を出したのだ」
と呟き、怒りをあらわにしている。彼は2015年、ソチオリンピックで注目選手となった後にインタビューの中でカミングアウトをした。
「誰かに隠していなければならない事があるのはとてもつらいことだよ。常に嘘をついていることになるし、常に誰かを騙していることにもなる。僕は今、やっとゲイであることをみんなに伝える準備と心構えができたんだ、ありのままの自分というものをこれからはみんなに見てもらいたい。誰もが認めてくれることを願っているよ」
カミングアウトをすることはポジティブな側面がもちろんある。しかし彼の言葉からわかるように、ゲイであることを公表するには心構えがいる。他人が突然にアウティングすることは、自らの意思によるカミングアウトとは全く違う性質のものであり、許されるものではないのだ。
また、Nico HinesとDaily Beastに対して、「ジャーナリズムの基礎に戻って倫理を学ぶべき」とのコメントもあった。
非道なメディアに対して、人々はNoを突きつけなければならないだろう。
今、日本のメディアの報道倫理が問われている
Daily Beastのような新興インターネットメディアは日本でも多くある。そして、その全てに報道倫理が行き届いているとは言えない状況だろう。NHKの貧困特集で窮状を訴えた女子高生をめぐる報道の中で、サイゾーが記事に捏造があったことを認めたことは記憶に新しい。
また、メディアでなくとも個人がSNS等でいくらでも情報を発信できる社会である。実際に上述の女子高生の個人情報はインターネット上の個人たちによって暴かれている。一人一人の倫理観を、時代に合わせて見直す時期にあるのではないだろうか。
さらにLGBTについては、報道倫理とは別に、未だ社会一般に、正しい理解が根付いていない状況である。一橋大学院の学生の事件に思い当たるように、アウティングの社会的リスクの重大性に気づいていないLGBT非当事者もまだまだ多い。
今回の事件を受けて、私たちは改めてメディアと個人の報道倫理とマイノリティに対する理解という側面から議論を繰り返し、我々が開催国となるスポーツの祭典が素晴らしいものとなるよう、一歩ずつ歩んでいくべきである。
JobRainbow編集部
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