

PrEPオンデマンド完全ガイド〜2-1-1スケジュールの効果と正しい飲み方〜

「PrEPって毎日飲まないといけないの?」「性行為の時だけ飲む方法があるって聞いたけど…」そんな疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
実は、PrEP(プレップ)には毎日服用するデイリーPrEPの他に、性行為の前後だけに服用する「オンデマンドPrEP」という方法があるんです。この方法なら、必要な時だけ服用すればよいので、薬の総量を減らしながらも高い予防効果を得ることができます。
でも、「正しい飲み方がわからない」「どのくらい効果があるの?」「どこで処方してもらえるの?」といった疑問もありますよね。
そんなあなたのために、オンデマンドPrEPのすべてを詳しくご紹介します。正しい服用スケジュールから効果、対象者、そして実際に処方してもらえるクリニックまで、知っておきたい情報をすべてまとめました。
PrEPオンデマンドとは?デイリーPrEPとの違い
オンデマンドPrEPは、性行為の前後に決められたスケジュールで服用するHIV予防方法です。「2-1-1スケジュール」とも呼ばれ、従来の毎日服用するデイリーPrEPとは異なり、必要な時だけ服用するのが特徴なんです。
従来のPrEPを毎日の歯磨きに例えるなら、オンデマンドPrEPは食後の歯磨きのようなもの。必要なタイミングで適切に行うことで、同等の効果を得られます。
デイリーPrEPとオンデマンドPrEPの比較
デイリーPrEP | オンデマンドPrEP | |
---|---|---|
服用方法 | 毎日1回1錠 | 性行為前後に2-1-1スケジュール |
薬の総量 | 多い(毎日) | 少ない(必要時のみ) |
対象者 | すべての性別・セクシュアリティ | MSM・異性愛男性・一部のトランス女性 |
適している人 | 頻繁な性行為がある方 | 時々性行為がある方 |
費用 | 継続的にかかる | 行為の頻度に応じて調整可能 |
2-1-1スケジュール:正しい服用方法

オンデマンドPrEPの基本は「2-1-1スケジュール」です。この名前は服用する錠数から来ているんです。
基本的な服用スケジュール
ステップ1:性行為の2〜24時間前
- 2錠を一度に服用
- 理想的には性行為の2〜4時間前がおすすめ
- 遅くとも24時間前までに服用すること
ステップ2:1回目服用から24時間後
- 1錠を服用
- 携帯のアラームなどでリマインダーを設定するとよいでしょう
ステップ3:1回目服用から48時間後
- 1錠を服用
- これで基本的なオンデマンドPrEPは完了です
性行為が連続する場合の調整方法
性行為が数日間続く場合は、スケジュールを調整します
- 最初の性行為前に2錠服用
- その後は24時間ごとに1錠ずつ服用を継続
- 最後の性行為から24時間後と48時間後にそれぞれ1錠服用
例:金曜日に1回目の性行為、土曜日にも性行為がある場合
- 金曜日の朝:2錠服用
- 土曜日の朝:1錠服用
- 日曜日の朝:1錠服用(最後の性行為から24時間後)
- 月曜日の朝:1錠服用(最後の性行為から48時間後)
PrEPオンデマンドの効果と有効性
オンデマンドPrEPの予防効果は科学的に実証されており、世界保健機関(WHO)も効果を認めています。
予防効果の実績
- 約90%以上のHIV感染予防効果
- 正しいスケジュールで服用すれば、デイリーPrEPと同等の効果
- IPERGAY試験では86%の予防効果が確認されています
効果が発揮される仕組み
オンデマンドPrEPに使用される薬剤は、体内でHIVウイルスの増殖を抑制します。性行為前に適切な濃度に達することで、万が一HIVが体内に侵入しても、増殖を防いで感染を未然に防ぐことができるんです。
対象者と適応条件
オンデマンドPrEPは、すべての方に適用できるわけではありません。安全で効果的な使用のために、対象者が限定されています。
オンデマンドPrEPが適している方
推奨される方
- MSM(男性と性交渉を持つ男性)
- 異性愛男性
- ホルモン治療を受けていないトランスジェンダー女性
- 月に数回程度の性行為がある方
- 性行為の予定が事前にわかる方
- 経済的負担を軽減したい方
推奨されない方
- 膣性交で受け側となる生物学的女性
- ホルモン治療中のトランスジェンダー女性
- 慢性B型肝炎に感染している方
- 日常的に頻繁な性行為がある方
- 計画的でない性行為が多い方
なぜ対象者が限定されているの?
オンデマンドPrEPは、主に肛門性交での感染予防について研究されてきました。膣性交の場合、膣組織に薬剤が十分に到達するまでに時間がかかるため、オンデマンドPrEPでは十分な予防効果が得られない可能性があります。
使用薬剤の選択(ツルバダ vs デシコビ)
オンデマンドPrEPで使用できる薬剤には、主にツルバダとデシコビがありますが、推奨度に違いがあります。
ツルバダ(TDF/FTC)
オンデマンドPrEPの第一選択薬
特徴
- オンデマンドPrEPでの臨床研究が豊富
- WHO、CDCで推奨されている
- 豊富な実績とエビデンス
メリット
- 確実な予防効果が証明されている
- 世界的に標準的な選択肢
- 比較的安価なジェネリック薬が利用可能
注意点
- 長期使用で腎機能や骨密度への影響の可能性
- 一部の方で消化器系の副作用
デシコビ(TAF/FTC)
限定的な推奨
特徴
- 欧州エイズ臨床学会(EACS)で検討可能とされている
- 腎機能や骨への影響が少ない
- オンデマンドでの大規模臨床試験データは限定的
メリット
- 腎機能に問題がある方に適している
- 骨への影響が少ない
- 副作用が比較的軽い
注意点
- オンデマンドでのエビデンスが限定的
- 医師との十分な相談が必要
どちらを選ぶべき?
状況 | 推奨薬剤 | 理由 |
---|---|---|
初めてオンデマンドPrEPを使う方 | ツルバダ | 豊富なエビデンスと実績 |
腎機能に不安がある方 | デシコビ(医師と相談) | 腎臓への負担が少ない |
標準的な予防を希望する方 | ツルバダ | 世界的な標準治療 |
副作用を最小限にしたい方 | デシコビ(医師と相談) | 比較的副作用が軽い |
PrEPオンデマンドの副作用とリスク
オンデマンドPrEPは比較的安全な予防方法ですが、他の薬と同様に副作用やリスクを理解しておくことが大切です。
短期的な副作用
消化器系症状
- 吐き気や胃の不快感
- 軽い腹痛や下痢
- 頭痛
これらの症状は通常軽く、数週間でおさまることがほとんどです。食後に服用したり、就寝前に服用することで軽減できる場合があります。
長期的なリスク
腎機能への影響
- ごく稀に腎機能の低下
- 定期的な検査でモニタリングが必要
骨密度への影響
- 軽度の骨密度低下の可能性
- 服用中止で回復する傾向
安全に使用するためのポイント
定期検査の重要性
- HIV検査:3ヶ月ごと
- 腎機能検査:6ヶ月〜1年ごと
- B型肝炎検査:定期的に
医師との連携
- 副作用を感じたら早めに相談
- 他の薬との飲み合わせチェック
- 定期的な健康状態の確認
複数回の性行為時の調整方法
オンデマンドPrEPの大きなメリットの一つは、性行為の頻度や期間に合わせて柔軟に調整できることです。
パターン別の服用方法
パターン1:1回の性行為のみ
金曜日夜に性行為予定
木曜日夜:2錠服用(24時間前)
金曜日夜:1錠服用(24時間後)
土曜日夜:1錠服用(48時間後)
パターン2:週末に複数回
金曜日・土曜日に性行為予定
木曜日夜:2錠服用
金曜日夜:1錠服用
土曜日夜:1錠服用(土曜日が最後の性行為から24時間後)
日曜日夜:1錠服用(土曜日が最後の性行為から48時間後)
パターン3:数日間連続
金曜日〜日曜日まで連続で性行為
木曜日夜:2錠服用
金曜日夜:1錠服用
土曜日夜:1錠服用
日曜日夜:1錠服用
月曜日夜:1錠服用(最後の性行為から24時間後)
火曜日夜:1錠服用(最後の性行為から48時間後)
7日ルール
最後にPrEPを服用した日から7日以内に再び性行為を行う場合は、1錠の服用でPrEPを再開できます。7日以上経過している場合は、2錠の服用で再開してください。
忘れた時の対処法
服用を忘れた場合
- 気づいたらすぐに服用
- 次の服用は予定通りの時間に
- 大幅に遅れた場合は医師に相談
医師の診察と処方の流れ

オンデマンドPrEPを始めるには、専門医の診察と適切な検査が必要です。安全にPrEPを開始するための流れをご紹介しますね。
事前準備
予約前にチェックしておきたいこと
- 現在服用している薬の一覧
- 過去の性感染症の履歴
- アレルギーの有無
- 性行為の頻度や相手の状況
初診の流れ
ステップ1:問診
- HIV感染リスクの評価
- 性生活や健康状態についての詳しい聞き取り
- PrEPの適応について医師が判断
ステップ2:必須検査(3項目)
- HIV検査:現在感染していないことの確認
- B型肝炎検査:ウイルスの有無をチェック
- 腎機能検査:薬を安全に使用できるかの確認
ステップ3:結果説明と処方
- 検査結果に問題がなければ当日処方可能
- 正しい服用方法の詳しい説明
- 次回受診の予定を決定
継続的なフォローアップ
1ヶ月後
- HIV検査
- 副作用の確認
- 服用方法の再確認
その後(3ヶ月ごと)
- HIV検査
- 必要に応じて腎機能検査
- 他の性感染症検査の提案
対面診療とオンライン診療の選択
対面診療のメリット
- 即日検査・処方が可能
- 医師との詳細な相談
- 総合的な性の健康管理
オンライン診療のメリット
- プライバシーの保護
- 時間と場所の自由度
- 継続しやすい環境
よくある質問(オンデマンドPrEP特化)
Q1: オンデマンドPrEPは本当にデイリーPrEPと同じ効果がありますか?
A: はい!正しいスケジュールで服用すれば、デイリーPrEPと同等の約90%以上の予防効果が期待できます。IPERGAY試験では86%の予防効果が確認されており、WHO(世界保健機関)も効果を認めているんです。
Q2: 性行為の直前に飲み忘れに気づいた場合はどうしたらいいですか?
A: 性行為の2時間前までであれば、その時点で2錠服用してください。2時間を切っている場合は、性行為を避けるか、医師に緊急相談することをおすすめします。オンデマンドPrEPは事前の服用が効果の鍵なんです。
Q3: オンデマンドPrEPでもコンドームは必要ですか?
A: はい、絶対に必要です!オンデマンドPrEPはHIV感染のみを予防するもので、他の性感染症(梅毒、淋病、クラミジアなど)は防げません。また、避妊効果もないため、コンドームとの併用が大切ですね。
Q4: 月に何回くらいの性行為までオンデマンドPrEPが向いていますか?
A: 一般的に週1回以下、月4回程度までの性行為の方にオンデマンドPrEPが向いています。それ以上頻繁な場合は、薬の総量や費用を考えるとデイリーPrEPの方がお得で安心かもしれません。
Q5: デシコビでオンデマンドPrEPをしても大丈夫ですか?
A: 欧州のガイドラインでは検討可能とされていますが、オンデマンドでの臨床データはツルバダほど豊富ではありません。腎機能に問題がある方など特別な理由がある場合は、HIV専門医とよく相談して決めることが大切です。
Q6: 旅行先でオンデマンドPrEPを使いたい場合の注意点は?
A: 事前に十分な錠数を処方してもらい、服用スケジュールを時差に合わせて調整しましょう。また、薬は手荷物で携帯し、処方箋や英文の薬剤証明書を持参すると安心です。
Q7: オンデマンドPrEPを始めたら、いつでも性行為しても大丈夫?
A: いえいえ、計画性が重要なんです。オンデマンドPrEPは性行為の2〜24時間前の服用が必要なので、突発的な性行為には対応できません。計画的でない性行為が多い方は、デイリーPrEPの方が向いているかもしれませんね。
Q8: オンデマンドPrEPの費用はどのくらいかかりますか?
A: 1回あたり約2,500円〜6,000円程度が相場です。月の性行為回数によって変わりますが、頻度が少ない方はデイリーPrEPより経済的になることが多いんです。詳しくは各クリニックにお問い合わせくださいね。
価格と費用対効果
オンデマンドPrEPの大きなメリットの一つは、必要な時だけ服用するため薬剤費を抑えられることです。費用対効果を詳しく見てみましょう。
主要クリニックの価格比較
クリニック | オンデマンドPrEP料金 | デイリーPrEP料金(参考) | 診察料 |
---|---|---|---|
イーヘルスクリニック新宿院 | 1回分:2,500円 3回分:6,000円 | 1ヶ月:9,000円 | 初診:3,300円 再診:1,100円 |
プライベートケアクリニック東京 | 4錠セット(1回分相当) | デイリー1ヶ月:約8,000円〜 | 初診:2,750円 |
パーソナルヘルスクリニック | 医師と相談 | ジェネリック1ヶ月:約8,000円 | 17,600円 |
月間費用シミュレーション
月1回の性行為の場合
- オンデマンドPrEP:約2,500円〜3,000円
- デイリーPrEP:約8,000円〜11,000円
- 約5,000円〜8,000円の節約!
月2回の性行為の場合
- オンデマンドPrEP:約5,000円〜6,000円
- デイリーPrEP:約8,000円〜11,000円
- 約2,000円〜5,000円の節約!
月4回以上の性行為の場合
- オンデマンドPrEP:約10,000円〜12,000円
- デイリーPrEP:約8,000円〜11,000円
- この場合はデイリーPrEPの方が経済的
費用対効果のポイント
オンデマンドPrEPが経済的な方
- 月3回以下の性行為
- 計画的な性行為が中心
- 薬剤費を抑えたい方
デイリーPrEPが経済的な方
- 月4回以上の性行為
- 突発的な性行為が多い方
- 飲み忘れのリスクを避けたい方
隠れたコストも考慮しよう
定期検査費用
- HIV検査:約3,000円〜5,000円(3ヶ月ごと)
- 腎機能検査:約2,000円〜3,000円(6ヶ月〜1年ごと)
- 他の性感染症検査:約5,000円〜10,000円(推奨)
トータルコストの考え方
オンデマンドPrEPは薬剤費は抑えられますが、定期検査は必要です。年間を通して考えると、性行為の頻度に応じて最適な選択肢が変わってきますね。
おわりに
オンデマンドPrEPは、性行為の頻度が比較的少ない方にとって、経済的で効果的なHIV予防方法です。2-1-1スケジュールを正しく守れば、デイリーPrEPと同等の高い予防効果を得ることができます。
あなたに向いているのはどちら?
オンデマンドPrEPがおすすめの方
- 月3回以下の性行為
- 性行為の予定が事前にわかる
- 薬剤費を抑えたい
- MSMまたは異性愛男性
デイリーPrEPがおすすめの方
- 月4回以上の性行為
- 突発的な性行為が多い
- 飲み忘れが心配
- すべての性別・セクシュアリティ
始める前に大切なこと
- 専門医との相談:HIV専門医による適切な評価
- 必要な検査:HIV・B型肝炎・腎機能の確認
- 正しい理解:服用方法とリスクの把握
- 継続的なフォロー:定期検査の重要性
オンデマンドPrEPは、あなたの性の健康を守るための新しい選択肢です。でも、それだけに頼るのではなく、コンドームの使用や定期的な性感染症検査も合わせて行うことで、より安心して性生活を楽しむことができます。
「自分にはどちらが向いているかな?」「もっと詳しく知りたい」そんな方は、まずは専門医に相談してみませんか?あなたのライフスタイルに合った最適な予防方法を、きっと見つけることができるはずです。
あなたの健康を守るための一歩を、今日から始めてみませんか?
参考

