

多様な人材が「活かしあう」組織へ。横浜ゴム株式会社の「D&I推進」と「心理的安全性」への挑戦

横浜ゴム株式会社は「心と技術を込めたモノづくりにより幸せと豊かさに貢献する」を基本理念に、タイヤをはじめとしたさまざまな工業用品やスポーツ用品を開発・製造しています。
そんな横浜ゴムは、D&I推進の一環として、「心理的安全性セミナー」をJobRainbowと共同開発・実施。今回の記事では「心理的安全性セミナー」に注目しながら、横浜ゴムのD&Iへの想いや取り組み、今後の展望について、JobRainbow MAGAZINE編集部が詳しくお話を伺いました。
女性活躍から始まった、ダイバーシティ&インクルージョンへの道のり
―横浜ゴム様がダイバーシティ推進を始めた経緯について教えていただけますか?

ダイバーシティ&インクルージョン推進タスク 西本さん
西本さん(以下敬称略): 2016年10月に「女性活躍推進タスク」として発足したのが始まりです。当時は女性活躍推進法への対応が主な目的でしたが、そこから育児・介護との両立支援、シニア世代の活躍へと繋がっていきました。その過程で、マジョリティである男性社員の中にも多様な背景や考え方があることに気づき、男性にも目を向けるように。進めていく中で「そもそも仕事をする上で、性のあり方は関係があるのか?」といった根本的な問いも生まれました。
そして、取り組みの広がりに伴い、2023年3月に、現在の「ダイバーシティ&インクルージョン推進タスク」へと名称も変更。経営方針に基づき、働き方改革や意識改革を進める中で、単に「多様な人材」を集めるだけでなく、その多様性を「活かしあう」方向へと活動内容がシフトしています。
「取り組みの中で見つかった課題や気づきを、次のステップへと繋げてきた」イメージです。
JobRainbowとの出会いと、LGBTQ+に関する取り組み
―JobRainbowのサービスは、2023年の人事部向けLGBTQ+研修とLGBTQ+社外相談窓口設置からご利用いただいています。なぜJobRainbowを選んでいただいたのでしょうか?
西本: きっかけはJobRainbowさん主催の、トランスジェンダー職員のトイレ利用に関する判決についてのセミナーに参加したことです。判決の内容と社会に対するインパクトが分かりやすくまとめられており、とても素晴らしいと感じました。ちょうどその頃、D&Iをより一層進めていきたいと考えていたため、JobRainbowさんと一緒に仕事をしたいと感じたんです。
具体的なD&Iの取り組みとしては、従業員が安心して働ける環境、つまり心理的に安全な場所を提供するために、セミナーの実施と並行してLGBTQ+に関する相談窓口の設置を進めていきました。
ただ、当社は工場拠点が多く、「本社は良くても、工場ではどう対応するのか?」といった声が上がるなど、相談窓口の設置は一筋縄ではいきませんでした。最終的には、私たちの熱意に加え、世の中の動向や労働市場に関する客観的なデータも提示しながら「多様な人材に選ばれる会社でなければ、今後の採用活動への影響やステークホルダーからの評価にも影響が出かねない」と伝えたことで理解を得られ、相談窓口の設置が実現しました。

なぜ「心理的安全性」?セミナー実施の背景
―「心理的安全性セミナー」をJobRainbowと共同開発・実施しました。その動機について教えてください。
西本: 「心理的安全性」が、多様な人材が活躍する上で非常に重要だと考えているからです。これまでは同質性の高いメンバーで構成されるチームが多かったため、「多様性」を考えずとも問題なく業務が進んでいました。
しかし、様々な背景を持つ人材が増える中で、マネジメント層から「チーム運営が難しくなった」という声を聞く機会が増え、「多様性が広がる現状を、ネガティブに捉えてしまうのではないか」という懸念が生まれたんです。そこで、心理的安全性の重要性を理解してもらい、多様性がイノベーションのきっかけになることを知った上で、ポジティブに仕事に取り組んでもらいたいと考えたのが、「心理的安全性セミナー」のきっかけでした。
パッケージ研修ではなく、JobRainbowとの「共同開発」を選んだ理由
―心理的安全性に関する研修は、他社からも様々なパッケージが提供されています。それらを利用せず、JobRainbowと共同開発に至った理由は何でしょうか?
西本: 2021年頃から、いくつかの研修会社さんと検討を進めていました。ただ、既存のパッケージ研修はある程度のカスタマイズが可能なものの、私たちの現状や求めるレベルに合わせて、従業員が「腑に落ちる」ところまで作り込むのは難しいと感じていました。具体的な行動に移しにくい内容が多く、どこか「ピンとこない」というか、受講した従業員が「結局、何をすればいいのか?」とモヤモヤしてしまうような、当社の社風や状況にいまひとつフィットしない感覚があり悩んでいました。そんな時、JobRainbowさんであれば、当社の社風や状況に則した研修を実施できるのではないかと考え、お声がけしたんです。
心理的安全性セミナーの反響と、現場での変化の兆し

―実際に心理的安全性セミナーを実施してみて、開発の過程や実施後の反響はいかがでしたか?
西本: JobRainbowのコンサルタントと「共に学ぶ」感覚で、セミナーを開発していきました。特にこだわったのはグループワークです。「実際の業務で起こりうるシチュエーション」を題材に、ステップを踏みながら心理的安全性の重要性や心理的安全性をつくるためのアプローチを学べるように、現場目線での意見を取り入れ、何度もブラッシュアップして丁寧につくっていきました。
その結果、セミナー後のアンケートでは、「これまで感覚的に理解していたことが、ロジックとして整理され、ワークを通じて深く理解できた」といった声が多く寄せられました。特に、アサーティブコミュニケーション*のパートは満足度が高く、「理論を知ることで、より意識的に狙って実践できるようになったのが良い」という意見が聞かれました。
これはまさに私たちが意図していたことなので、手応えを感じています。今後、継続的に研修を実施していくことで、さらなる変化を促したいです。
*自分の意見や要望を、自身と相手の両方を尊重しながら率直に伝えるコミュニケーション手法のこと
JobRainbowを継続的なパートナーとして選ぶ理由
―今後は「心理的柔軟性」セミナーやLGBTQ+研修の実施を予定しています。改めてJobRainbowをパートナーとして選び続けていただいている理由をお聞かせください。
西本: 企画から運営まで、本当にきめ細やかに対応いただけるためです。JobRainbowさんは常に最先端の研究動向を把握されており、情報量が豊富ですが、それを現場に落とし込む際には、私たちの歩幅に合わせてくれる。また、既存のパッケージをただアレンジするのではなく、当社の現状を深く理解した上で、最適な提案をしてくださいます。それが本当にありがたく、担当者として大変感謝しています。
星さん(JobRainbow 代表取締役 CEO 星 賢人)は、社会情勢や企業の現状に精通しているだけでなく、ダイバーシティ&インクルージョンに関する学術的な知識も非常に深いため、安心してお任せできます。誠実で公正な人柄もあって、社内には星さんのファンが多く、「星さんのセミナーなら受けたい」という声が上がるほど!研修の満足度も非常に高いです。
その他のコンサルタントの方も、学術的な視点と、業界や当社の特性を理解した上で具体的なアウトプットに繋げてくださります。これはJobRainbowさんにしかできない「すご技」だと感じています。
D&I推進に悩む企業へのメッセージと、横浜ゴムのこれから
―ダイバーシティ推進や心理的安全性の醸成について、貴社と同じような悩みを持つ企業も多いと思います。そうした企業へメッセージをお願いします。
西本: D&Iの推進や心理的安全性の醸成は、すぐに効果が出る特効薬があるわけではありません。また、他社の成功事例がそのまま自社に当てはまるとも限らず、私たちも常に手探りで進めています。
大切なのは、「良い相談相手を見つけること」ではないでしょうか。どうすれば良いかわからないモヤモヤした状態を一緒に解きほぐしてくれたり、課題を丁寧に整理した上で、自社に合わせた具体的な提案をしてくれたりする存在です。私たちにとって、それがJobRainbowさんでした。相談できる相手がいるからこそ、心理的安全性セミナーのような取り組みも実現できたのだと思います。
当社では現在、D&Iに関して8つの重点テーマを掲げています。その中でも「インクルージョン(多様性を活かしあうこと)」は、非常に難しい課題だと感じています。
女性活躍比率やLGBTQ+に関する制度整備など、「ハード面(制度や環境)」の整備はある程度進めやすいです。しかし、ハード面をどんなに整えても、ソフト面が追い付かなければ活用されません。同様の課題感をお持ちの企業の方も、多いのではないでしょうか?
内面的な部分は目に見えにくく、評価も難しいですが、当社では「活かしあう」文化を少しずつ醸成していくことが重要だと考えています。それにむけた取り組みとして、D&Iタスクから月に1回、何かしらの情報発信(セミナー案内など)を行うようにしています。「今月もD&Iタスクから何か来ているな」と、少しずつ認知が広がっていくことを目指しています。
―最後に、今後のD&I推進への想いやご予定についてお聞かせください。
西本:直近の予定としては、LGBTQ+研修や心理的安全性セミナーの継続実施に加え、さらに一歩踏み込んだ「心理的柔軟性セミナー」をJobRainbowさんと実施予定です。
心理的柔軟性とは、どうしようもないことに捉われてしまいがちな思考を解きほぐし、組織や自分にとって本当に大切にしたいことに向かって前向きに行動する力のことです。心理的安全性セミナーの企画当初、担当のコンサルタントから「心理的柔軟性についても扱った方が良いのでは?」とアドバイスをいただいていたんです。ただ、90分という時間内で心理的安全性と心理的柔軟性の両方を扱うのは難しいと判断し見送りました。
しかし、心理的安全性セミナーを数回実施したことで、土壌が整ってきた実感があるので、次のステップとして心理的柔軟性について学べるセミナーの企画・開発を進めています。
その他にも、多様な人材が「自分らしいキャリア」を得るための、「リスキリング」や「自律的なキャリア形成支援」に関心があります。
課題は山積みですが、ワクワクしながら取り組んでいます。引き続き「多様な人材が安心して働ける、互いを理解し活かしあえる職場」を目指して、ダイバーシティを推進していきたいです。

