なぜ飲料メーカーのチェリオがLGBTに取り組むのか?
はじめに
東京レインボープライド(以下「TRP」)で毎年協賛をしており、日本企業のLGBTムーブメントを引っ張っている印象のある株式会社チェリオコーポレーション。なぜチェリオがこのような取り組みを行っているのか、気になっている方も多いのではないでしょうか?今回はマーケティング室の4名にインタビューをしてきました!
TRP初年度から参加をしている加納さん、子育て中の母親としての顔を持つ高田さん、社内の「LGBT報」を発案、発行している坂巻さん、イザベルさんの入社2年目コンビと、素敵な顔ぶれにお話を伺うことができました。
ダイバーシティに対する取り組み
ーー早速ですが、マーケティング室ではどんなことをしているのでしょうか?
坂巻:主にライフガード等の市場の調査、SNS等Web周りのことを行ってライフガードのファンの方とコミュニケーションを取ったりしています。LGBT関連についてもマーケティング室で企画実行しています。
ーーチェリオのダイバーシティに対する基本的な考え方を教えてください
チェリオのビジネス自体はローカルなものなのですが、経営者は海外に目を向けており、ダイバーシティは当たり前と考えているところからスタートしています。
高田:例えば、チェリオは製造部があるので工場も持っているのですが、男女関係なく働きやすい新工場を作りました。私はその立ち上げのプロジェクトに関わっていたのですが、製造部のトッププロジェクトに役職者の中に混ざり女性として携われたのはいい機会でした。
決定権があったわけではないですが、入社2年目の私でもプロジェクトの場で発言でき、女性の視点や実際に現場で働くことの多い若者の視点での考え方を少しでも反映させることができたのではないかと思っています。
工場のデザインもコーポレートカラーである赤を取り入れました。普通はシルバーのような金属色をベースにするような機械等も、塗れるところはほとんど赤にしています。床や壁の調和の中にも遊び心をちりばめて、工場らしくない場所にしました。
女性だけでなく社員全員が明るい気持ちで働きやすく工夫をしています。現場の女性社員も当初の2人から現在9名まで、少しずつですが増えています。
坂巻:他にはリクルーティングチームとマーケティングチームで、より働きやすい会社をつくるため、話し合う場を定期的に設けています。例えば聴覚障碍のプロのスノーボーダーの方をサポートし、キャリア構築支援をしています。資金面でスノーボード競技を援助するほか、プライベートの相談も密にコミュニケーションを取りながらサポートを行っています。
加納:実はお付き合いのきっかけは、聴覚障碍だからというわけではではなく、もともとチェリオの製品であるライフガードがとても好きで、サンプリングイベントにきてくれて、話をお聞きしたのがきっかけでした。チェリオにはもともといろんなものを受け入れる風土があって、自然に支援が始まりました。外国籍の社員も多いのもそういった自然な流れになります。
ーー働いている社員の皆さんはどんな雰囲気なのですか?
高田:営業はまだまだ男性の比率が多いため、会社全体の女性比率は少ないですが、バックオフィス機能のある本社のおよそ半数は女性社員です。新入社員はすべての部署を経験してから配属されるので、女性もルート営業の経験はします。
イザベル:営業部の仕事は重いものを持ったり外なので雨が降ったりも大変でしたが、できないことはなかったですよ(笑)社内の雰囲気としては、すごく風通しが良いです。遠慮なくアイディアを言えますし、受け入れられている感じがします。社員と経営陣との距離も近く、商品提案を新人でもします。若いうちから仕事を上に届けられるチャンスがありますね。経営層はみんなフラットでフランクな方々で、とても距離が近いです。
東京レインボープライドへの参加
ーーTRPのトップスポンサーとして認知度が年々高まっている印象ですが、LGBTについての取り組みはどのように始まったのですか?
加納:経営層がTRP代表の杉山文野さんとの長いお付き合いがあったことがLGBT取り組みのきっかけです。何が支援できるのかを考えてまずは資金面での協力ができるのではないか、ということで協賛にいたりました。今年は4年目になるんですが、年々もっと面白い取り組みができないかと社員でアイディアを出し合って出展しています。
TRPに協賛した当初は、私自身はLGBTについての知識がまだ十分にありませんでした。何をやっているイベント何だろう、というところから始まりました。当時主要スポンサーに名を連ねている日本企業は1社もなく、トップスポンサーが外資系の自動車やコンピューター関連の企業をはじめグローバルな会社が中心になっていました。
そんな中、日本の社会の中で起こっている問題だからこそ、日本企業がリードしていかなければならないという思いから、チェリオが協賛しなくてはと考えました。それであれば一番上のスポンサーになろうということで、初年度は2番目のスポンサーとして、翌年度からは3年間トップスポンサーです。今は日本企業も増えてきていて感慨深いです。今年は行政の方や政治家の方も来ていて、関心が高まって来ているのを感じますね。
ーー今年はオリジナルのライフガードボトルを提供されていましたね。
イザベル:LGBTフラッグの6色をベースにそれらを組み合わせて全部で360パターンのパッケージを作りました。
加納:今回初めての取り組みで、イザベルさんがアイディアを出しましたが、そこから技術的にできるのか、ラベルメーカーをどこで探せばいいのか、かなり時間がかかってギリギリまで調整がありました。最終的に問題なく製造して運ぶことができるので安心しました。全部で1万5千本も配布することができました。
ボトルのラベルは海外のデジタル印刷の技術を活用しています。イザベルさんがその仕事をしました。普段から、技術や機械等、製造に関しては海外に学ぶことがほとんどです。外国人の方がいるおかげで海外の情報をすぐに手に入れられますね。ダイバーシティを大切にしているからこそ実現できたアイディアです。商品開発の際にもこうしたアイディアが活用され、実際に商品化されたものもあります。
社内での取り組み
ーーTRPへの参加について、お客さまや社内の反応はどうですか?
坂巻:当日は「ボトルが可愛い」とお褒めの声や、「いつもありがとう」という声もかけてもらえたのは嬉しかったです。SNSでは当日TRPに来られなかった方からも、「お店で買いました」という声をもらったりもしました。
ライフガードやチェリオのファンの方には「こういうイベントがあるのは知りませんでした」という方もいて、これをきっかけにLGBTという言葉やイベントについて知ってもらえる機会になってよかったです。
例年東京の社員が参加していましたが、去年の参加時に「もっと他のエリアからも参加してくれたらいいな」と思ったので、今年はグループ全体で応募をかけました。グループでは5人が中部と関西からきてくれました。今後もっと人数が増えたらいいなと思います。
参加してくれた社員からはレポートを出してもらいました。「LGBTを知ってみよう」という社内報を毎月出しているので、その中で紹介していきます。レポート内容としては「初めてこのようなフェスティバルに参加して、いつも見ているだけだったけれど、実際に見て感じることができてよかった」というような意見をもらいました。
ーーLGBT社内報があるんですね!その試みはどのように始まったのですか?内容についても教えてください。
イザベル:もともと毎月発行する社内報があって、SNS上のライフガードやチェリオについての口コミをレポートしています。その社内報を私たち(イザベルさん、坂巻さん)が入社してから手伝うようになって、どうやったらもっと楽しい内容にできるか、どうやったらもっと社員に興味を持ってもらえるかを考えていました。社員の簡単なインタビューもやっています。
LGBT報については私がLGBTに関するレポートを書いて上司に提出したところ、社員全員に知ってもらいたいということで、社内報に掲載することになりました。そこから毎月のシリーズになりました。
内容としては、LGBT関連のいろいろなニュースや話題を取り上げます。例えば最近だと、ディズニー映画「美女と野獣」でゲイのキャラクターが出ていることや、自然界、動物の世界にも同性愛が存在する、といったトピックを掲載しています。
坂巻:毎月、全営業所や工場にも届けています。社員旅行の時などに「毎月読んでいるよ」と声をかけてもらえて嬉しかったですね。同期からもコメントをもらったりするのはやりがいになります。
ーーお二人が中心なんですね。入社2年目とのことですが、チェリオがLGBT課題に取り組んでいることは入社の理由の中にあったのですか?
イザベル:ドイツでは周りに当事者がたくさんいて、当たり前のことだったので、日本にきてまだまだ遅れているなと感じました。そんな中、留学生やバイリンガル向けの合同就職説明会でチェリオはTRPに出展していることについて話していて、「日本の会社でこういうことをしている会社があるんだ、すごい!」と興味を持ちました。
坂巻:私も元々LGBTの課題について知っていましたし、友人にもいました。LGBTフレンドリーなら、他の点でもダイバーシティを重んじる会社であることは一目瞭然です。女性であっても活躍できる職場だと感じ、入社のきっかけの一つになりました。
チェリオが求める人物像
ーー他にLGBTに関する社内制度はありますか?
坂巻:まだ誰も社内では公にカミングアウトはしていないのですが、LGBT報に相談窓口のメールアドレスを掲載しています。何かあった時にきちんと声が届けばいいなと思っています。この相談窓口も私たちが発案しました。
その他は、現在リクルーティングチームとマーケティングチームで、社内でどう進めていくか話し合っています。新人研修やマネージャー層にむけた研修を検討・調整しています。
ーー採用プロセスで東京レインボープライドの映像を流す等、多様性を尊重していることをメッセージとして発信していますが、それはなぜですか?
加納:私たちとしても、多様なバックグラウンドをもっている人に興味を持って働いてもらいたいと思っています。そのために、実際に活動をしていることを伝えて、学生さんや職を探している方に対しても、何か不安等があれば解消したいと思っていますし、できることはお伝えしています。
高田:LGBTの方に対して特別に採用のスタンスがあるわけではありません。元々採用基準として、新卒に限定したり、外国人の方に対して気後れしたりすることがないです。既卒の方でも、ギャップイヤーを取った方でも公平に選考しています。留学経験者も外国人もいくらでも来てほしいと考えています。一緒に仕事をできるような人であれば、どんなバックグラウンドを持っていてもいいんです。LGBTの方に関してもその点は同じように考えています。
加納:当たり前にみんな違うのだから、一人一人の個性を活かして、例えばお客さまの立場に寄り添えるということができればいいのではないかと思っています。ダイバーシティというのはそのための前提ですよね。
求める人物像としては、リーダーシップを取れる人や、失敗を恐れない人、挑戦する人に来てほしいですね。
ーー若い世代のLGBTやダイバーシティに対する関心の高まりは実際に感じますか?
加納:新入社員の研修でLGBTについて話すのですが、既にいる社員と比べてLGBTについて知っている人が多くて驚きます。上の年齢層の方よりも若い方の方が、LGBTやダイバーシティという言葉の理解だったり、どういう活動をすべきかよく知っているように思います。そういう若い社員が年々増えていくことで、上の方の世代にももっと知識が広がっているのではないでしょうか。
リクルーティングチームが全国を回る説明会でも、学生からもなぜTRPにチェリオが協賛しているのか、質問を受けることも多いです。学生さんたちの関心の高まりを感じています。
求職者の方へのメッセージ
ーーLGBTを含めてダイバーシティに取り組む中で、個人的に感じるところがあれば教えてください。
イザベル:活動をしていく中でお客様から反応がたくさんあるし、社員からもいい反応があるので、やることに意味があると思えます。日本の社会をもっとオープンなものにできるよう、世の中に伝えていきたいです。
坂巻:私たちから社員に呼びかけていくことでLGBTについて知ってもらえることを実感できたので、もっと私たちががんばって多くの人に知ってもらえる機会を増やしたいです。
また、制度についてもこれから少しずつ取り組んでいきたいです。
高田:私はTRPに今年はじめて参加して、パワーと熱気がすごいと感じました。最初に話で聞いていたのと実際に参加するのは全然違うなと。社会のLGBTに対する関心も高まってきていることを、会社がこういう活動することで肌でも感じることができたのは貴重な体験でした。今後も世の中の動きには気をつけて見ておかなければと思います。
また母親として、将来子供の世代になったら、もっと理解は進むと思いますし、子供が当事者になるかはまだわかりませんが、友達や周りにいるのが当たり前になると思います。そういう時に受け入れられるように今から準備していきたいなと思います。
加納:自分は会社に入るまで周りにもカミングアウトをしている人もいなくて、気にすることがなかったのですが、こういった取り組みをしてTRPにも参加をすることで、実際にあんなにたくさんの方が熱を持って参加しているのだと知りましたし、SNSを見てもいろんな方がLGBTについて興味関心を持っていると知りました。
私たちの活動としても、社内だけでなくいろんな人にこういった気づきが生まれることが大切だと思います。チェリオやライフガードというブランドやメディアを通して、お客様の中にも気づいてもらえる人が増えれば嬉しいですね。
ーー最後にLGBTの求職者の方へメッセージをお願いします。
坂巻:私たちの会社は大企業のような制度はまだなく、できることから少しずつ始めています。ですから一緒に取り組みたい、これから変えていきたい、という方と一緒に働ければと思います。
加納:カミングアウトをしてくれる当事者の方がいれば制度ももっと加速度的に変わっていくと思いますので、いつでも歓迎します。当事者の目線を知ることができればもっといいですよね。