職場でカミングアウトするか迷うあなたへ。伝える、伝えない、それぞれの選択肢

ライター: JobRainbow編集部
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カミングアウト〜誰に、何を、どこまで伝えるか〜

カミングアウトとは、自分の性的指向や性自認について、自ら他者に伝えることです。誰に、いつ、どこまで伝えるかは完全に個人の自由であり、周囲から強制されるものではありません。
電通グループの「LGBTQ+調査2023」によると、20〜59歳の9.7%がLGBTQ+当事者であるとされています。決して珍しいことではなく、あなたの職場にも、まだ誰にも伝えていない当事者がいるかもしれません。家族や友人へのカミングアウトと、職場でのカミングアウトは分けて考える必要があります。プライベートな関係では気心の知れた相手を選んで伝えられますが、職場は毎日顔を合わせる利害関係のある空間であり、一度伝えた情報は、後から取り消すことができません。だからこそ、「伝える」「伝えない」のどちらを選んでもよい、という前提から考えることが大切です。


伝える、伝えない〜どちらの選択にも優劣はない〜

職場でカミングアウトするかどうかは個人の自由な選択であり、伝えることが「望ましい姿勢」で、伝えないことが「隠している」というような優劣のある話ではありません。東京弁護士会のコラムでも、カミングアウトをするかしないかは当事者自身が決めることであり、周囲がその選択に良し悪しの評価を下すべきではないとされています。
実際、株式会社アカルクが2024年に実施した「LGBTQ+有職者1万人調査2024」では、上司・部下・同僚からカミングアウトを受けたことがあると回答した人は全体の6.1%、社内で噂を聞いたことがあると回答した人は6.7%にとどまっています。電通の調査における当事者割合(9.7%)と比較しても、職場で実際にカミングアウトを受けたと回答した人の割合はかなり低く、多くのLGBTQ+当事者が職場では性的指向や性自認を明かさない選択をしていることがわかります。これは、「隠している人が多い」という否定的な事実としてではなく、「職場でのカミングアウトが当事者にとって必ずしも当たり前の選択肢ではない」という現状として受け止める必要があります。


カミングアウトで期待できること

信頼できる同僚や上司に伝えることで、日常会話の中でパートナーの話題や休日の過ごし方を無理に取り繕う必要がなくなり、心理的な負担が軽くなったと感じる人は少なくありません。株式会社アカルクのコラムでは、カミングアウトによって得られるメリットとして、自分を偽らずに働けることによる心理的な安心感や、周囲との関係がより深まる可能性を挙げています。
また、すでにカミングアウトしている人の存在、いわゆるロールモデルを知ることも、カミングアウトを考える上での支えになります。社内外に「同じような選択をして、その後も働き続けている人がいる」とわかるだけで、将来の働き方を具体的に描きやすくなる、という声もあります。


福利厚生の活用も選択の一助に

近年は、法律婚をしていない同性パートナーを「配偶者」に準じて扱い、結婚休暇・慶弔見舞金・忌引休暇・育児/介護休暇などの対象に含める企業が増えています。HISは2024年4月から、事実婚や同性パートナーにも法律婚と同様の福利厚生制度を適用し、結婚休暇、結婚祝金、パートナーの育児・介護休暇などを対象としています。TMJも同年4月に人事制度を改訂し、慶弔金や特別休暇の対象を事実婚、同性パートナー、養子などにまで拡大しました。他にもソフトバンクやウェブリオなど、同性パートナーを配偶者と同等に扱う企業の事例が報告されています。
こうした制度を利用するには、多くの場合、会社にパートナーの存在を伝える必要があります。これも、「伝える」ことを選ぶ理由の一つとなりえます。


カミングアウトに伴うリスクを知る

一方で、カミングアウトには相手や職場環境によってリスクが伴うことも事実です。心ない言動を受けたり、意図せず人間関係や職場での居心地に影響が出てしまったりするケースも報告されています。特に注意したいのが「アウティング」です。アウティングとは、本人の同意なくその人の性的指向や性自認を第三者に暴露する行為であり、カミングアウトとは明確に区別されます。実際、緊急連絡先として同僚に伝えた同性パートナーの存在が、本人の同意なく別の従業員に暴露されたケースや、飲み会の席で性的指向を第三者に晒されたケースも報告されています。誰か一人に伝えたつもりが、意図せず職場全体に広まってしまうリスクがあることは、伝える前に理解しておきましょう。


SOGIハラの実態と相談環境の重要性

性的指向や性自認に関連したハラスメントは「SOGIハラ」と呼ばれます。ある調査では、SOGIハラを受けた経験があると回答した人が一定数存在し、なかでもトランスジェンダー当事者は、他の属性と比べて被害を経験した割合が高い傾向にあると報告されています。ハラスメントを受けた人のうち、仕事を辞めたり変えたりした人も一定数にのぼり、SOGIハラが離職につながりうる深刻な問題であることがわかります。株式会社アカルクの調査でも、当事者が企業に今後取り組んでほしい施策として、ガイドラインの作成、差別禁止の明文化、研修の実施、社内相談窓口の設置がほぼ同率で上位に挙がっており、制度そのものよりも、「安心して相談できる環境が整っているか」が重視されていることがうかがえます。
こうした実態を知っておくことは、カミングアウトを避けるためではなく、伝える相手や環境をより慎重に見極めるための材料となります。


アウティングと法律〜会社が講じるべき措置〜

伝えた情報が意図せず広まってしまうアウティングは、要件を満たせばパワーハラスメントに該当しうることが、厚生労働省の指針(令和2年厚生労働省告示第5号)に明記されています。この指針では、労働者の性的指向や性自認について、本人の意に反して職場で暴露する行為は、優越的な関係を背景とした言動によるハラスメントの一類型として扱われます。つまり、万が一アウティングの被害に遭った場合、会社には雇用管理上の措置を講じる義務があるのです。伝える前に、社内にハラスメント相談窓口があるかどうか、その窓口が信頼できる運用をしているかどうかを確認しておくと、いざというときの安心材料となるでしょう。


企業選びで見るべきポイント

就職・転職活動の段階で、企業がLGBTQ+に関してどのような取り組みをしているかを確認しておくことも、入社後にカミングアウトを考える上で参考になります。
一般社団法人work with Prideは、企業のLGBTQ+への取り組みを評価する「PRIDE指標」を2016年から実施しており、2025年には全国931社が応募し、750社がゴールド認定を受けています。ゴールド認定を受けている企業だからといって、必ずしも全ての社員が安心してカミングアウトできるとは限りません。しかし、社内相談窓口の設置状況やアライ(Ally:LGBTQ+当事者を理解し支援する立場の人)研修の有無、就業規則上の家族の定義(同性パートナーを配偶者に準じて扱うかどうか)など、企業選びの一つの目安として活用できます。他の分野のダイバーシティ推進施策に力を入れている企業は、LGBTQ+への理解や受容度も高い傾向にある、という見方もあります。求人票や採用サイトでダイバーシティ全般への取り組みを確認することも、参考になるでしょう。


LGBTQ+理解増進法が示す企業の努力義務

2023年には「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」(LGBT理解増進法)が施行されました。これにより、事業主は、性的指向やジェンダーアイデンティティの多様性に関する理解を深めるための情報提供、研修の実施、普及啓発、相談体制の整備などに努めることが求められています。義務ではなく努力義務にとどまるため、対応の水準は企業によって差があるものの、法律として企業側の取り組みが後押しされる流れができていることは、当事者にとって一つの追い風となります。


カミングアウトのタイミング〜選考中、内定後、入社後〜

カミングアウトを考えるタイミングは、選考中・内定後・入社後のいずれもありえます。面接で唐突にカミングアウトだけを伝えると、意図が伝わりにくく、かえってマイナスな印象につながってしまうこともあります。そのため、自己PRや志望動機などのエピソードの中に自然に織り交ぜながら伝える工夫が勧められています。その際、「相手に何を理解しておいてほしいのか」「福利厚生など制度面で確認したいことがあるのか」といった自分の意図をはっきりさせておくと、相手にも伝わりやすくなるでしょう。
選考中には伝えず、入社後の人事面談のタイミングで初めてカミングアウトし、必要な配慮や希望を伝えるという進め方を選ぶ人もいます。どのタイミングが正解、ということはありません。自分にとって一番負担の少ないタイミングを選んでよい、ということが大切な前提です。


誰に、どの順番で伝えるか〜段階的なアプローチ〜

最初から会社全体や部署全体に伝えるのではなく、信頼できる一人(人事担当者や直属の上司など)から段階的に伝えていく方法もあります。「他の人にはまだ話さないでほしい」と一言添えたうえで打ち明けることで、情報が広がる範囲をコントロールしやすくなります。人事評価や異動に直接関わらない立場の同僚から先に伝えてみる、といった工夫も考えられます。どの順番が正解、というものはありません。自分が最も安心できる相手から、少しずつ範囲を広げていくという考え方が基本です。


「伝えない」選択をした場合の安心材料

カミングアウトしないことを選んだ場合も、社内のプライバシーに関するルールや、必要に応じて匿名で相談できる外部の窓口の有無を把握しておくと安心につながります。伝えないことは後ろめたいことではなく、自分の心身の安全を優先した合理的な選択の一つです。誰にどこまで伝えるかを決める権利は、常に本人にあります。
一人で抱え込んで苦しいと感じたときは、職場の外にある相談窓口を頼ることも検討しましょう。厚生労働省が補助する「よりそいホットライン」(0120-279-338)では、24時間365日、性別や同性愛などに関わる相談を無料で受け付けています。また、セクシュアル・マイノリティ当事者や支援者による「レインボー・ホットライン」(0120-51-9181)でも電話相談が行われています。

カミングアウトを受けた側の心構えと対応

カミングアウトを受けた側は、本人の同意なく他の人に伝えない、詮索しすぎないという基本姿勢を持つことが大切です。例えば株式会社アカルクは、打ち明けられた際に特別な言葉を探そうと気負う必要はなく、まず相手の言葉をそのまま受け止めることが重要だと伝えています。また、必要な配慮は人によって異なるため、本人の希望を確認しましょうと勧めています。
特別扱いをするよりも、これまで通り自然に接する姿勢が安心につながる、という声もあります。上司・管理職の立場で部下からカミングアウトを受けた場合は、「誰にも言わないよ」と明言した上で秘密を守ること、「打ち明けてくれてありがとう」という感謝、そして「あなたへの気持ちは何も変わらない」という受け入れの姿勢を言葉にして伝えることが助けになるとされています。「他の人もどうせ気づいているだろう」と自己判断で共有範囲を広げないことも、基本的なことです。会社側には、ガイドラインの作成や差別禁止の明文化、研修の実施、相談窓口の設置といった仕組みづくりが求められており、個人の気配りだけでなく、組織としての備えも、カミングアウトを受け止める土台となります。


よくある疑問への考え方

「一人に話したら、他の人にもバレるのでは」という不安をよく耳にします。完全にコントロールすることは難しいものの、伝える際に「他の人にはまだ話さないでほしい」と明確に伝えておくこと、そして相手がその約束を守れる人かどうかを見極めておくことが、リスクを減らす現実的な備えとなるでしょう。
「誰にも言えず孤独を感じる」という場合は、社内に頼れる相手がいなくても、JobRainbowのようなDEIを推進する企業に特化した就職・転職支援サービスや、社外の相談窓口、当事者コミュニティを頼ることもできます。同じような状況を経験した人とつながることで、「自分だけではない」と感じられることが、次の一歩を考える支えになることもあります。「今の職場ではもう無理だと感じたら」という場合は、我慢を続けるのではなく、LGBTQ+フレンドリーな企業への転職を選択肢に入れることも、一つの方法です。


あなたにとって無理のない選択のために

職場でのカミングアウトは、する・しないのどちらも尊重されるべき個人の選択です。メリットとリスクの両方を正しく理解したうえで、自分にとって無理のない選択肢を考えてみてください。そして、誰かからカミングアウトを受けた側の一人ひとりが本人の意思を尊重する姿勢を持つことが、より多くの人が安心して働ける職場へとつながります。


参考

  1. 東京弁護士会「職場でのカミングアウト」(2018年10月号)
  2. 「LGBTQ+のカミングアウトとは?職場でカミングアウトをされた際の対応も紹介」株式会社アカルク
  3. 「LGBTQ+有職者1万人調査2024」株式会社アカルク
  4. 「アウティングの意味は?具体例や違法性、企業の対応・防止策を解説」マネーフォワード クラウド給与
  5. 「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)厚生労働省
  6. 「PRIDE指標とは」work with Pride
  7. 「LGBTQ+調査2023」電通グループ プレスリリース
  8. 「LGBTQ相談先リスト」認定NPO法人虹色ダイバーシティ
  9. 「SOGIハラとは?SOGIハラとなる27の事例と企業がとるべき対策を解説」ストレスチェッカー
  10. 「事実婚・同性パートナーに福利厚生制度を適用」HISグループ
  11. 性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律(日本語)日本法令外国語訳データベースシステム
  12. 「部下のLGBTQカミングアウト、どんな言葉をかけるべき? 元上司・部下の『実話』で解説」

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