同性パートナーを緊急連絡先に記載する際の疑問と対処法

履歴書や入社後の緊急連絡先届の続柄欄には、「父」「母」「配偶者」といった選択肢しかないことが多く、同性パートナーと暮らしていても、どこに書けばいいのか迷う方は少なくありません。SNSや知恵袋にも「緊急連絡先を誰にすればいいか迷っている」という相談が繰り返し投稿されています。
この記事では、同性パートナーを緊急連絡先として書くことが実務上どこまでできるのか、企業や自治体の対応がどう変わってきたのか、書類に専用の欄がないときにどうするのかを、制度や報道をもとに整理します。
連絡先に書くかどうかは、関係をどこまで開示するかという個人の選択でもあります。書くべきだという話をしたいわけではありません。書きたいときにどうすればいいか、という視点でお読みください。
履歴書と入社後の緊急連絡先届では、役割が違う

履歴書の緊急連絡先は、選考中に応募者と連絡が取れなくなった場合の予備の連絡手段です。記載を必須としない会社も多く、実家暮らしでなければ「同上」として自分の携帯番号を書く対応でも通ることがあります。
入社後に総務や人事へ出す緊急連絡先届は、就業中の事故や急病を想定した書類です。多くの会社が就業規則上の手続きとして求めていて、ここに書く相手には実際に緊急時の対応をお願いすることになります。
履歴書の段階では関係を開示したくなかった人が、入社後の届ではパートナーを書きたいと考え直す。段階によって判断が変わっても、不自然ではありません。
緊急連絡先の記入に厳密な決まりはない
法律上「この続柄の人物を書かなければならない」という決まりはありません。緊急時に確実に連絡がつく相手を書く、というのが実務の基本です。会社向けに緊急連絡網の作り方を解説する記事でも、同居しているパートナーや親などを第一連絡先にし、連絡が取れない場合に備えて第二連絡先に親族を置く組み方が一般的とされています。
続柄の欄に「配偶者」「父」「母」しかない書類なら、電話番号の横に関係性を書き添えて、誰の番号か分かるようにする方法がよく紹介されています。「パートナー」とそのまま書いて問題ないかは、記入前に担当窓口へ確認するのが確実です。
他の人の電話番号を書く以上、相手の同意は欠かせません。緊急連絡網の作成では、連絡先となる本人から個人情報の利用について同意を得る必要があるとされ、これは家族でも同性パートナーでも同じです。
親族がいない場合や頼める相手が見つからない場合には、専門業者が有料で緊急連絡先を代行するサービスもあります(引用:身元保証のアリコトラスト「緊急連絡先代行サービス」)。誰を書くかという悩みは、単身世帯や親族と距離がある方にも共通しています。
名前を書くこと自体に特別な手続きはいらない

会社が集めた緊急連絡先を関連会社や外部の委託先に渡す場合は、個人情報保護法の第三者提供のルールが関わってきます。原則として本人の同意なく第三者に情報を渡すことはできず、例外は生命や身体、財産の保護のために必要で、本人の同意を得ることが難しいときに限られます(個人情報保護法第27条第1項第2号、引用:個人情報保護委員会「あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供することができる場合とは」)。人事担当者向けの解説でも、緊急連絡網を作る目的を明らかにした上で本人の同意を取り、情報を提供しない選択肢も用意しておくことが望ましいとされています。
この枠組みの中で、パートナーの名前を書くのに特別な手続きは必要ありません。会社が求めているのは緊急時に連絡が取れる相手の情報で、続柄が血縁か婚姻かパートナー関係かによって、集め方や管理の仕方は変わらないからです。
気になるのは、誰がその情報を見るかでしょう。人事労務の解説は、社内の誰がどこまで見られるかを事前に決め、必要な範囲の担当者だけがアクセスできるように管理するよう勧めています。心配なら、記入前に確認しておけます。
救急・入院では、カードと会社への登録それぞれが役に立つ

問題がとりわけ深刻になるのは、救急搬送や入院のときです。病院で病状説明や面会、手術の同意を受けられるのは基本的に「家族等」とされており、同性パートナーは法律上の家族に当たらないため、現場の判断で面会や説明から外されるケースがあると報じられています(引用:西日本新聞「性的少数者向け『緊急連絡先カード』 法的拘束力なく対応は現場任せ」)。
備えとして、支援団体が緊急連絡先カードを作り、当事者に無料で配っています。大阪のNPO法人QWRCは2006年から作り続け、これまでに8千枚以上を配布してきました。緊急時の連絡や立ち会いを求める相手を2人まで書き込める仕組みで、東京のパープル・ハンズも同様のカードを発行しています(引用:西日本新聞「性的少数者向け『緊急連絡先カード』 法的拘束力なく対応は現場任せ」)。
カードに法的な拘束力はなく、提示しても病院側が必ず対応するとは限りません。どこまで効くかは現場の理解度次第です。それでも、パートナーの存在を示せる手段を持っていることは心理的な支えになります。
会社に預ける緊急連絡先は、これとは別の経路で働きます。本人が救急搬送されると、病院から会社へ、会社から緊急連絡先へと連絡が伝わることがあり、本人がカードを出せない状況でもパートナーに連絡がつながりやすくなります。
パートナーシップ証明書は、関係を示す資料として使える場合がある
渋谷区と認定NPO法人虹色ダイバーシティの共同調査によると、パートナーシップ宣誓制度の導入自治体は2025年5月時点で530、人口カバー率は9割を超えています(引用:nippon.com「パートナーシップ制度:25年5月時点で人口カバー率9割超す 発足10年で530自治体が導入」)。
発行される証明書は、医療機関での病状説明や面会、緊急連絡先の登録といった場面で、関係性を示す資料として使えることがあります。東京都も、入院時の面会や付き添い、診療方針の説明をパートナーと一緒に聞きたいときに証明書を活用できることをリーフレットで案内しています(引用:東京都総務局「パートナーシップ宣誓制度リーフレット」)。
もっとも、医療機関や会社がどこまで受け入れるかは施設ごとに差があります。制度を利用していなくても、緊急連絡先は書けます。
渋谷区が2022年に実施した証明書利用者への実態調査では、制度を利用した理由で最も多かったのは「有事の際にパートナーとの関係を証明できるものが欲しかったから」(88.6%)でした。「二人が特別な関係である証が欲しかったから」(71.4%)、「パートナーとの関係を自治体や社会に認知されたかったから」(65.7%)が続きます(引用:渋谷区「渋谷区パートナーシップ証明 実態調査2022報告書」)。
パートナーが遠方に住んでいる場合や、同時に連絡が取れなくなるおそれがある場合は、第二連絡先として別の友人や支援者も登録できるかを提出先に確認しておくと安心です。駆けつけ対応が必要な場面に備えて、近くにいる人と分けて登録できるところもあります。
同性パートナーを配偶者として扱う企業なら、続柄欄も書きやすい

KDDIは2017年に社内規程の配偶者の定義を見直し、同性パートナーも配偶者として扱うと決めました。改定は住宅手当や結婚祝金、特別休暇など幅広い社内制度に及び、緊急連絡先のような実務上の扱いも配偶者に準じて整理しやすくなっています(引用:KDDI「同性パートナーに係る社内規定改定について」)。こうした会社なら、続柄欄に「配偶者(同性パートナー)」のように書ける余地があります。制度がない会社では、人事担当者に直接確認するしかありません。
ほかにも、
- サントリーグループ(2017年、引用:OUT JAPAN「キリンとサントリーがともに同性パートナーも配偶者として扱うよう人事制度を改定」)
- ミクシィ(2016年、引用:J-CAST会社ウォッチ「同性パートナーも『配偶者』に ミクシィが社内規定を改め拡大」)
- 楽天(2016年、引用:楽天グループ「楽天、社内規定における配偶者の定義を改定」)
- リブセンス(2019年、引用:リブセンス「多様なかぞく・性のあり方をサポート」)
など、慶弔休暇などの福利厚生を法律婚の配偶者と同等に適用する企業が増えています。ただ、関係を会社にどこまで開示するかは人それぞれです。緊急連絡先に書くことを選ぶ人もいれば、あえて別の相手を書く人もいます。どちらを選んでも問題はありません。
行政や福祉の窓口でも、関係を説明しにくい人は多い
NPO法人ReBitが2023年に実施した調査では、障害や生活困窮に関する行政・福祉サービスを利用した当事者のうち、約8割がセクシュアリティに関連した困難を経験したと回答しました。窓口の担当者に自分のセクシュアリティについて気軽に話せなかったと答えた人は、9割を超えています(引用:ReBit「LGBTQ医療福祉調査2023」結果公開)。
続柄欄で迷うのも、個人の気の持ち方の問題ではありません。書類の設計が多様な関係を前提にしていないので、記入する側の工夫だけでは解決しきれない部分が残ります。
転職活動の段階で調べておけること

応募先がパートナーシップ制度や同性パートナーに関する社内規定を公開しているかは、企業のホームページやダイバーシティ推進のページで確認可能です。また、JobRainbowはLGBTQ+フレンドリー企業やダイバーシティ推進企業など、500社以上と出会えます。制度の有無が分かっていれば、入社後に緊急連絡先届を書くときに迷いません。
パートナーシップ宣誓制度のある自治体に住んでいるなら、証明書を取っておくのも一つの選択です。どこまで通用するかは企業や医療機関によって差がありますが、関係を説明するときに見せられるものがあると、説明の負担は減ります。
迷ったら人事や総務に「本人が指定する方を登録したい」と伝える
続柄の選択肢に当てはまるものがないときは、人事や総務の担当者に「本人が指定する方を緊急連絡先として登録したい」と伝えるのがもっとも確実だとする案内も見られます。「同居しているパートナーです」と伝えるだけで記入を進めてくれる担当者もいるので、どこまで詳しく話すかはご自身のペースで決めて構いません。
緊急連絡先は、同性パートナーとの手続きの中でも比較的早い段階で直面する悩みです。この先には、入院時の医療同意や、将来の生活をどう支え合うかといった課題も続きます。
開示することで気持ちが軽くなる人もいれば、今はまだ職場に伝えたくない人もいます。書きたいと思ったときに迷わず書けるよう、会社の制度と証明書の使える範囲を知っておくと安心です。
参考
- 性的少数者向け「緊急連絡先カード」法的拘束力なく対応は現場任せ|西日本新聞me
- 福岡県パートナーシップ宣誓制度について|福岡県庁ホームページ
- パートナーシップ宣誓制度リーフレット|東京都総務局
- KDDI、同性パートナーに係る社内規定改定について|KDDI株式会社
- 緊急連絡先代行サービス|身元保証のアリコトラスト
- あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供することができる場合とは|個人情報保護委員会
- 【調査報告】「LGBTQ医療福祉調査2023」結果公開|認定NPO法人ReBit
- 渋谷区パートナーシップ証明 実態調査2022報告書|渋谷区
- パートナーシップ制度:25年5月時点で人口カバー率9割超す 発足10年で530自治体が導入|nippon.com
- キリンとサントリーがともに同性パートナーも配偶者として扱うよう人事制度を改定|OUT JAPAN
- 同性パートナーも「配偶者」に ミクシィが社内規定を改め拡大|J-CAST会社ウォッチ
- 楽天、社内規定における配偶者の定義を改定|楽天グループ株式会社
- リブセンス「多様なかぞく・性のあり方」をサポート|株式会社リブセンス
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