【当事者インタビュー】スタートラインの新しい障害者支援プログラム「JISSENワクサポ」とは?

2026年の7月、障害者の法定雇用率が2.5%から2.7%に引き上げられました。これから37.5人以上の従業員を雇用する会社は、障害者を1人以上雇用する必要があります。
制度の上では障害者雇用の拡大は年々進められていますが、その一方で、当事者である障害者たちをとりまく現状はそう単純ではありません。
働きたい気持ちはあるのに、自分にできることが見つからない。自分の気持ちのコントロールが難しい。失敗したら、迷惑をかけたらどうしようという想いから、一歩を踏み出せない。
そんな悩みを抱える障害者にとっては、企業の雇用枠が増えても、働けない現状は変わらないままです。
そこで障害者雇用の総合コンサルティング企業「スタートライン」は今年の4月、新しい就労支援プログラム「JISSENワクサポ」をリリースしました。
一般的な就労訓練と違い、実際にスタートライン社が障害者を3ヶ月雇用し、働く経験を積むことで長期就労ができる状態を目指します。
本日は、実際にこの「JISSENワクサポ」に参加された森田さん(仮名)、そしてプログラムをサポートしている西田さん(仮名)にご協力いただき、プログラムの想いと当事者に生まれた変化について話を伺いました。
<プロフィール>
森田さん:清掃業および製造業に従事した後、2024年4月にパニック障害を発症して退職。主治医の勧めにより、翌5月に就労移行支援事業所へ入所し、1年半後、就職活動を開始。
約半年間の活動を経るも就労が決まらず、株式会社スタートラインの就労支援プログラム「JISSENワクサポ」の2期生として入社に至る。現在はプログラムに参加して2ヵ月目。
西田さん:JISSENワクサポ サポーター。アパレル店長時代、発達障害特性のある部下との出会いから「伝わる伝え方」の重要性を実感。就労移行支援サポーターに転身し、さらに障害福祉を本格的に学ぶため大学へ進学する。
支援の中で「働きたい」という思いに触れ、「より企業に近い場所でサポートしたい」とスタートラインへ転職。現在はこれまでの経験と知識を活かし、誰もが自分らしく活躍できる環境づくりに取り組んでいる。
「JISSENワクサポ」とは?
―はじめに、「JISSENワクサポ」というプログラムについて教えてください。
西田さん(以下、敬称略):「JISSENワクサポ」は3カ月間、株式会社スタートラインのアルバイトとして、働きながら就労に必要な経験を積んでいただくプログラムです。ただ作業を行ってもらうだけでなく、セルフマネジメントやキャリアデザインなど、長期就労に欠かせないスキルや視点を研修で学んでいきます。
―プログラムはどんな流れで進んでいくのでしょうか。
西田:まず最初の1ヵ月で心身の体調管理、スキルの整理を行います。並行して適性を活かした業務スキルや、コミュニケーションスキルの向上も図っていきます。
2ヵ月目には、「キャリアデザイン研修」を通じて、自己理解を深めてもらいます。長期就労に欠かせないのは、ご自身の特性や疾患の状況をしっかり知っていただくことなんです。自分を見つめ直して、できること・できないこと、自分にとって一番大切なのは何か、どうして働きたいのか……など、徹底的に自分を知ることで、適切なセルフケアや自分にあった職場も見えてきます。
セルフケアができるようになると、勤怠の安定や気持ちのコントロールにもつながるので、結果的に長く働くための土台作りにも繋がります。
3ヵ月目は転職に向けて動き出す方が多いですね。弊社は3か月後のお仕事を斡旋することはありませんが、履歴書の書き方や仕事との相性などへのアドバイスは可能です。JISSENワクサポメンバーに向けての合同説明会・面接会のような、イベントの開催も予定しています。
―自分を見つめ直すって、言葉で言うのは簡単でも実際にやるのは大変な作業ですよね。
西田:そうですね。やはりご自身と向き合えない状態の方々も、多くいます。できないことに蓋をしていたり、少し大きく見せてしまったり……。それに対してどう気づいていただくか、というのはサポーターの腕の見せ所なのかなと思いますね。
プログラムでは「自己理解シート」というものを作成するんですが、こちらから質問を沢山投げかけて、フィードバックをすることで、とことん自分に向き合ってもらいます。
人によっては長くて2時間近くかかることもありますが、ここがターニングポイントというか、これをきっかけに大きく変化される方が多いです。

―「JISSENワクサポ」で任される業務はどんな内容なんでしょうか。
森田さん(以下、敬称略):「JISSENワクサポ」では、10種類以上ある業務の中から自分に適した作業に挑戦します。たとえば自分の場合は、フロアの清掃業務、AIを用いて行うデータの修正業務、オンデマンド複合機の関連業務を行っています。
西田:ほかにも、拠点水道光熱費のデータ入力だったり、弊社の別のサービスで使用するお仕事体験キットの発送業務や作り込み、弊社のアカウントチームや総務の企画展示会等で配布するコーヒーのドリップバッグを作成したりもします。あとはその都度のスポットで、POPを作成していただいたり、入館管理表のリストを作っていただいたり……本当に幅広い内容をやってもらいますね。
実は、JISSENワクサポはもともと「IPSモデル」を基に作られた仕組みなんです。IPSモデルというのは、簡単にいえば、本人の「働きたい」「やりたい」という意志を尊重して行う就労支援のあり方です。例えば「事務の仕事をやってみたいけど、やったことないからできない」って思っていらっしゃる方でも、「まずは事務でやってもらいましょう」というのがIPSモデルの考え方です。
ただ、人によってはやってみた結果「あれ?事務って向いてると思っていたけど、ちょっと想像と違ったかも……」となるケースもあります。
一般企業だとそこで退職や転職になると思うんですが、そこで例えば、皆で一緒に手を動かすような、ぜんぜん違う仕事をお任せすると「意外とこっちのほうが向いているかも」と、自分の得意が分かったりするんです。そのためにも、できるだけ幅広い、さまざまな仕事をご用意していますね。
―森田さんはどうでしたか?
森田:私はもともと製造業に従事していたので、機械いじりの側面があるオンデマンド複合機の関連業務は、興味もあったし楽しい業務です。一方で、経験のない事務作業に対しては、正直「自分に務まるのかな」と入社前から不安を抱いていました。
でも今は、AIを使ったデータ修正業務も、複合機の関連業務と同じくらい楽しくて、もっと理解を深めたいと思っています。

印刷以外にも様々な機能を兼ね備えている

プログラムではこうした仕事にも携われる
自己成長を促すサポーターの存在。JISSENワクサポと一般企業の環境の違いとは?
―森田さんは実際に参加されてみて、これまでの職場との違いを感じることはありましたか?
森田:職場環境はまったく違います。JISSENワクサポは、「人を育てる」ということに重きを置いた環境だと感じています。
JISSENワクサポでは、西田さんのようなサポーターが業務に伴走してくださるんですが、サポーターは私たちを評価したり、ジャッジしたりということをしないんです。ただそのメンバー本人が自己理解を深めて自走できるように、寄り添ってサポートしてくださるんです。
私が過去にお世話になった職場では、上司はミスを指摘した後に正しいやり方を指示してくれました。でもじゃあなぜミスをしてしまったのか、あとどうしたら同じミスを防げるのか、ということを一緒に考えてくれるような職場は、少なかったと思います。
JISSENワクサポでは、サポーターは正しいやり方を指示する代わりに、メンバーが自分でミスの原因と、自身の作業傾向に気づく機会を用意してくれていると感じています。
―森田さんはJISSENワクサポでどんな気づきを得られましたか?
森田:JISSENワクサポは実務に入る前に訓練期間があって、そこでパソコン業務や電卓を叩いての計算といった訓練をします。自分はそこで、スピードを意識しないといけない、それでいて正確性も出さなきゃいけない、と思い込んでいました。実際には、サポーターの方からスピードを意識してくださいと言われたことは1度もありませんでしたし、そう言われている方も1人もいなかったんですけどね。お給料をいただいているし、この時間も時給が発生しているんだから、できるだけ早く訓練期間を終えて、職場に貢献しなきゃいけないと考えていました。
でも、サポーターの方から「私たちはスピードを意識して欲しい、と言ったでしょうか?」っていうようなやり取りがあって。
そこで、やり直しや差し戻しが生じたら、どんなに早く仕上げても結果的に時間がかかってしまうんだっていうところに気付けました。気づかせてもらった、というか。
でも、サポーターの方からのその言葉も、すぐに出てきたわけではないんです。スピードを意識したことでミスをして、結果的に業務に時間がかかっているところを、何回か見ていたから出てきた言葉なんだと思います。非常に効果的な助言というか、言葉だったなと思いました。

西田:言葉をかけるタイミングというのは、サポーター側でも意識していますね。
私たちは普段、「できた」を見逃さないよう心がけています。メンバーには「できない」「不安」って思っていらっしゃる方が多いので、できた瞬間を見逃さずに即座にフィードバックをします。
一方で今回のケースのように、気づいてほしいことに対しては、ご自身が気づく状況まで待ってフィードバックをすることもあります。
基本はポジティブなことでもネガティブなことでも、起きた事象に対してしっかりフィードバックをするように心がけています。
短い期間でも実感できる、プログラム参加前後の変化
―3ヵ月という期間は少し短いようにも感じますが……。
西田:私も、プロジェクトが始まった当初は同じように感じていました。ただ、4月に入社した1期生が3ヶ月間でポジティブに変化をしていく様子を間近で見て、その心配もなくなりましたね。
例えば「働くことが怖い、不安」と言っていた方がいたんですが、その方は毎日出勤してきました。「怖いと言っていたのに、どうして?」って聞いたら、「そこに仕事があります」って。サポーターの「あなたに任せた仕事です」という言葉がやりがいになって、それで毎日出勤ができたそうなんです。
他にも「プライベートを優先したい」とおっしゃっていた方が、働く意味という話をした時に「働く=自己実現」と捉えてくださったことで、ワークライフバランスの見直しが上手くいったり。お洋服や身だしなみが変わる方も多いです。
でも、一番大きく変わるのは姿勢ですね。
コロナ禍から人が怖くなってしまい、ずっとマスクをつけていた方が、ワクサポの2ヶ月目でマスクを外して出社されたことがありました。「どうしてですか?」って聞いたら「解放しようと思いました」とおっしゃっていて……。
「自分で自分を押し込めていたから、取ったら何か変わるかもしれない、変わりたい、という気持ちの表れです」と話してくださいました。
―3ヵ月でも大きな変化が生まれているんですね。森田さんにも何か変化はありましたか?
森田:私はプログラムに参加してから、自分の人生の現在地がプラスマイナスゼロに近づいた、という感覚があります。
私は体調を崩す前、緩やかではありますが、自分の人生は右肩上がりに少しずつ良くなっていると感じていました。
それが、体調を崩して職場を辞めた時に、それまでプラスにあった自分の人生が、一気にマイナスに転じてしまったという感覚があったんです。療養を経た後も、いつかまたプラスに戻すのだと心に決めて、まずはプラスマイナスゼロの地点を当面の目標に据えていました。
JISSENワクサポに参加した7月当初、私は下限を-100とするならば、-30ぐらいのところまで来ていると感じていました。
それを最初の面談の席で、西田さんから「単位を1つ落としましょう」と提案してもらって、下限100だったものを下限10に変更しました。
そうしたら、-30だった自分の立ち位置が、-3になったんです。目標のプラスマイナス0まで、あと3ステップです。
その時、気持ちがとても楽になりました。
8月には-3から-2になった感覚があります。いまだにマイナスにあるとは感じてはいますが、おそらくこのJISSENワクサポの3ヶ月を全うできた時には、また1つ、プラスマイナス0に近づけるんじゃないかと感じています。
JISSENワクサポの今後の発展
―始まったばかりのJISSENワクサポですが、今後どんな成長をしていく予定でしょうか。
森田:個人的に、 JISSENワクサポは未開拓の島だと感じます。「JISSENワクサポ」という1つの島で、メンバーやサポーターのことは同じ島で生活を共にする島民であると感じているんです。
これまでサポーターとワクサポ1期生の皆さんが、島の道を舗装したり、作物が実る畑を開拓してきました。しかしこの島にはまだまだ未開拓の領域が、良くも悪くも残されていると考えています。
例えばJISSENワクサポには、メンバーの就職活動用に「業務評価表」を作成できる仕組みがあるのですが、現在は整備が追いついていないところがあるんです。
もし日々の業務内容というものを、詳細に、しかも簡単に記録する業務日報があれば、より精度が高く充実した内容の業務評価表を、応募先企業に提出できるようになります。
私は業務日報の素体を作成して、現在は来期(3期生)の皆さんに活用していただけるように、詳細を作りこんでいるところです。
こうしてどんどん内容が拡充していくと、もっと栄えた大きな島になるんじゃないかなと。
西田:プログラムとしての目標は、JISSENワクサポに参加された方が、日本全国に広がって活躍していただくことかなと思っています。4月からみなとみらいの拠点が始まり、8月からは相模原でも受け入れが始まりました。これからも順次拡大していきたいですね。

―最後に、いまJISSENワクサポを検討している方へメッセージをいただけますか?
森田:私は事務職というものが未経験で、応募前にも自分に務まるのかという不安がありました。それでもこうしてJISSENワクサポに応募したのは、そうした不安よりも、JISSENワクサポで自分にできることを増やしたい、強化したいという想いが上回ったからです。
スタートラインという会社は障害者の就業支援に特化している企業で、毎日のメンタル面や体調管理を細かく行い、小さな異変にもすぐに気づいてもらえる仕組みがあります。
事務職が未経験であるとか、あるいはブランクがあり長期就労に対して不安を抱えている方にとっては、安心して就業できる環境が整っていると、当事者の一人として思っています。
西田:もし今「自分にできるかな」と不安な方にアドバイスをするとしたら、「週5日×6時間、動ける体力があれば始められます」と伝えたいです。
たった3ヵ月、と思う人もいるかも知れません。でも、踏み出す一歩は小さい方が、万が一転んだ時も痛くありません。
もし興味を持っていただけたら、見学なども随時受け付けていますし、気になることは質問してもらえればと思います。
まずはちっちゃいステップとして、「たった3ヶ月」の、小さな一歩を踏み出していただきたいなと思います。
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