「自分らしく働ける場所に出会うまで——トランスジェンダー当事者・稲垣さんが歩んできた道」

連載第一回:「自分が幸せになるための仕事」——物語コーポレーションが考える、誰もが“自分らしさ”を表現できる働き方
「自分らしく働く」とは何か? 飲食業界のD&I推進の前線を走る株式会社物語コーポレーションで、その答えのヒントを探るインタビュー企画。
第二回となる今回は、実際に現場で働く社員の声をお届けします。
お話を伺ったのは、丸源ラーメン 幸手店で店長を務める稲垣さん。
トランスジェンダーであることを理由に、就職活動で何度も拒絶を経験し、「社会に必要とされていない」と感じていた時期もありました。
そんな稲垣さんが物語コーポレーションと出会い、「ここなら自分らしく働ける」と心から思えた背景とは。現在までの活躍と未来への挑戦について、たっぷりお話しいただきました。
就職活動で直面した「存在の否定」、そして物語コーポレーションとの出会い
―今日はよろしくお願いいたします。まずは自己紹介をお願いします。
稲垣さん(以下、敬称略):はい。稲垣と申します。現在は「丸源ラーメン幸手店」で店長を務めています。物語コーポレーションに入社して、6年目になります。
―6年!もうすっかりベテランですね。
稲垣:そうですね(笑)。僕は中途採用で2019年11月に入社しました。当時は転職活動で行き詰まっていて……。そんな時、ジョブレインボーさんを通じて物語コーポレーションを紹介していただきました。実はそれまでの僕にとって「就職活動」というのは、挫折や拒絶の連続だったんです。
― そこに至るまでには、ご苦労があったと伺っています。
稲垣:本当に大変でした。僕は隠すつもりがなかったので、正直に「僕はトランスジェンダーで…」と話していましたが、面接に行くたびに「制服はどうするの?」「トイレは女性の方使ってください」「宿泊研修では女性と一緒にお風呂に入ってもらうことになるけど大丈夫?」と聞かれて…。「いやいや自分はいいけど、他の方が困るでしょう?男性として入社をさせてください」と言うと、「それならうちは難しいですね」みたいな。
能力以前に「存在そのもの」を否定されている感覚でした。履歴書を書く手が止まり、面接に行くのも怖くなってしまった。社会から必要とされていないと突きつけられるようで、苦しかったです。
― そんな中で物語コーポレーションと出会ったのですね。
稲垣:実は当初、飲食業界での就職は考えていなかったんです。だからジョブレインボーさんに紹介されたあとも、ピンと来ていないまま面接に向かいました。
でも、面接を受けてすぐに「ここは今までの会社と違う」と感じたんです。面接では、当事者としてカミングアウトしている社員を紹介してくれました。「うちにもトランスジェンダーの社員がいるよ。安心して大丈夫」と。
さらに偶然ですが、次の面接では面接会場に行くエレベーターで当時の社長と一緒になって。「今日は面接?肩の力抜いて頑張ってね」と声をかけてもらったんです。

稲垣:本当に驚いたのですが、その一言がすごく自然で温かくて、「壁のない会社だ」と感じました。
わざわざ当事者の先輩社員を呼んでくださって、まだ採用もされてない自分に親身に教えてくださる姿勢だったり、社長も含めて会社の人が誰一人壁を作るような感じがなく、明るくて気さくだったりっていうのが、自分の中ではすごく新鮮で…。「ここなら自分らしく働ける」と心から思いました。
入社してからも、「そういう方も世の中にはいるんだよ」と他人事ではなくて、「そういう方が本当に身近にいるんですよ」と研修などで事あるごとに伝えてくださって。会社としてダイバーシティに真剣に取り組んでくださっているんだなと感じます。
社内コミュニティのリーダーに抜擢!
―入社後はどのような仕事をされてきたのですか?
稲垣:最初は接客や調理、仕込みなど基本業務を一通り学びました。今は店長として店舗運営全体を任されています。でも僕にとって大きな役割はもう一つあります。社内のLGBTQ+コミュニティのリーダーです。
―どのような活動を?
稲垣:もともとLGBTQ当事者の一人の社員が「このままでは働きづらい」と声をあげたことから始まった当事者コミュニティです。全国の任意の当事者社員が年3回集まり、現場の声を発信・共有したり、改善点を本社に伝えるような会で、4年前からリーダーを務めています。
たとえば、先ほどお話していた研修の中で、当事者しか引っかからないような気になる言い回しがあって…。「ここ、こういう言い回しをされていたんですけど、自分は引っかかっちゃいました。この言葉だと、差別にも聞こえます」って勇気を出して言ってみたんです。
そしたら研修担当の方がすぐに修正してくれたんですよね。「ここをこう直したんですけどどうですか?」と報告もしてくれる。当事者とかアライとか、そういうことは関係なく社員全員が意識をして、全員が受け止めようとしてくれている会社なんだな、と感じましたね。
ほかにもジョブレインボーの“しごとEXPO”に参加をしたり、社内外でLGBTQ+当事者の支援に繋がる活動をさせてもらっています。
―まさに企業理念「Smile & Sexy」の体現ですね。
稲垣:そう思います。一人ひとりの人間性がすごく高くて、本当に感動というか…とにかく社員の声が制度や文化に直結する会社なんです。だから僕も、後輩やこれから入社する人に「安心して働いていい」と伝えたい。そのために活動しています。

学生時代の葛藤、支えてくれた友と母
―稲垣さんからはすごく明るくポジティブな印象を受けますが、学生時代はどのように過ごされてきたんですか?
稲垣:実は、幼い頃から「なんでスカートじゃなきゃいけないの?」「なんで僕って言っちゃいけないの?」と疑問を持っていました。それもあり、小学校ではひどいイジメを受け、「生きていてはいけないのかもしれない」と思うこともありました。
でも、いじめを叱ってくれた先生がいて、「あなたは生きていていいんだ」と言ってくれたことが自分が変わるきっかけになったんですよね。「怒ってくれる人がいるんだ。じゃあ、いじめてる人がおかしい人なんだ」って。
そこからは“ふっきれた”ところがあって。中学校の自己紹介では「自分はこういう人間です。気持ち悪いと思うなら関わらなくていいです。友達も、別にいらないです。でも、それでも僕と話したくて、僕っていう人間が面白かったら、関わってほしいです」っていう話を、クラス全員に話しました。
もちろん最初は全然相手にされなかった。先生にも「ああいうことは言わない方がいい」って言われたりもして…。でも、その頃は「まぁ、認めてもらえないよね。人間なんてそんなもんだよね。」っていい意味で思えるようになりました。ただ、自分を貫いていたら、自分を面白いと思ってくれる友人が少しずつ増えてきて。彼らとは、今でも関わりがあります。
―稲垣さんについてきてくれた、素敵な友人たちと一緒に乗り越えた学生生活だったのですね。
稲垣:はい。ちなみに、母にカミングアウトしたのは中学2年生の時、きっかけは『金八先生』でした。上戸彩さんが当時の言葉でいう「性同一性障害」の役を演じていて、「あ、自分と同じ人がいる」と思ったんです。心の中で抱えていた違和感に名前がついたようで、そのドラマをきっかけに母にカミングアウトできました。「俺これなんだよね。いじめも受けているんだよね」って…。
母は戸惑いながら「ちょっと1日時間をちょうだい」って言いました。その日の夜は、絶縁されるのかな、捨てられるのかなと思ったりして、とても眠れなかったですね。でも次の日に「話してくれてありがとう。あなたの人生だから、あなたの好きなように生きていいと思う。ただ未成年の間は、私が責任を負う。」と言ってくれました。その言葉はとても大きな救いになりましたね。一番認めてもらいたい人に認めてもらえた。その出来事が、今も僕を支えています。

これからのキャリア、挑戦
―稲垣さんの、今後の目標を教えてください。
稲垣:まずは「MVPを獲得すること」です。個人の成果ではなく、チームみんなで掴みたい。店のスタッフ全員が「自分たちの努力が認められた」と誇れる瞬間をつくりたいです。
それから、社内ラジオのような企画をやってみたい。社員一人ひとりの声を届けて「物語にはこんな人がいる」ともっと発信したいんです。顔は難しくても、声だけなら出てもいいよという人もいると思うから、今よりもっと多様な人が安心して発信できるんじゃないかな。
社員が普段は話せないような思いを語ったり、働く中で見つけた小さな喜びを紹介したり。ラーメン屋の店長がこんな夢を語ってるんだ!と知ってもらうだけでも、「自分も挑戦してみよう」と思える人がいるはずです。
―最後に、読者へのメッセージをお願いします。
稲垣:僕もかつては「働ける場所なんてない」と絶望していました。何度も面接で断られ、「社会から必要とされない」と思っていました。でも今は、自分を偽らずにいられる職場に出会えました。物語コーポレーションは、ただ「多様性を大切にします」と掲げるだけでなく、社員の声を本気で受け止め、制度や文化を変えていく会社です。
だからもし「働くのが怖い」「理解されないんじゃないか」と悩んでいる方がいたら、伝えたい。必ず受け止めてくれる場所はあります。僕にとってそれが物語コーポレーションでした。あなたにとっても、ここがその場所になれると信じています。

連載第三回「仲間と一緒に挑戦できる場所 丸源ラーメン幸手店から見える物語コーポレーションの文化」は明日公開!
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