シスジェンダーとは?【セクシュアル“マジョリティ”?】
シスジェンダーとは、こころの性(性自認)とからだの性(身体的性)が一致している状態・人のことです。
皆さんは、「シスジェンダー」を耳にしたことがありますか?
「ジェンダーに関する用語って英語で難しい……シスジェンダーって何?」と困惑しているあなた。
ご安心ください。実はとってもシンプルな言葉です。
シスジェンダー(Cisgender)の意味
シスジェンダー(Cisgender)とは、性自認(自分の性をどのように認識しているか)と生まれたときに割り当てられた性別が一致している人のことを指します。
実際にどういう人がシスジェンダーになるのかというと、例えば…
- 生まれたときの体が男性として診断され、自身も男性だと思っている人(シスジェンダー男性)
- 生まれたときの体が女性として診断され、自身も女性だと思っている人(シスジェンダー女性)
となります(シスジェンダーの定義には当てはまるがそう呼ばれるのは違和感がある、という場合は、無理に自分を定義する必要はありません)。
この言葉は、トランスジェンダー(主に性自認と身体的性が一致していない人)の対義語として生まれました。トランスジェンダーにのみ言葉が当てられていては、「こころとからだの性が同じ=当たり前、トランス=普通でない」、と区別されてしまうかも…と考えたからです。
ちなみに、シスジェンダー(Cisgender)の「Cis-」は、英語で「こちら側にものが集まっている状態」を差し、トランス(trans- 乗り越えて移動している状態)の対義語となります。
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ヘテロセクシュアルとの違い
シスジェンダーと一緒によく耳にするのがヘテロセクシュアルです。ではその違いは一体何なのでしょうか?
そもそも、ヘテロセクシュアルとは、「異性を好きになり、性的な欲求も持つ性的指向」という意味です。
そして、シスジェンダーとは「性自認(Gender Identity)」について指す言葉、ヘテロセクシュアルとは、「性的指向(Sexual Orientation)」について指す言葉となります。
この性自認と性的指向の違いをざっくりと説明すると、
- 性自認(Gender Identity):自分自身の性をどう認識しているか
- 性的指向(Sexual Orientation):どんな性を好きになるか
となります。
なので、この2つは別物であって、性自認によって性的指向が決まったり、逆に性的指向によって性自認が決まったりすることもありません。
同じように、性自認と身体的性が一致している人達(シスジェンダー)の中にも、異性を好きになる人、同性を好きになる人、両方とも好きにならない人など、多様な性的指向を持った人がいます。
- こころの性と体の性が一致し、「異性」を好きになるという人:シスジェンダー・ヘテロセクシュアル
- こころの性と体の性が一致している男性で恋愛対象が男性のみである場合:シスジェンダーのゲイ
- こころの性と体の性が一致している女性で恋愛対象が女性のみである場合:シスジェンダーのレズビアン
となります。
シスジェンダー・プリビレッジ
最後に、シスジェンダーとは切っても切れない、シスジェンダー・プリビレッジ(Cisgender Privilege)について少しお話したいと思います。
プリビレッジ(Privilege)とは英語で「社会的特権」。つまり、職場や学校、社会生活などにおける様々な場面での「生きやすさ」のことです。
例えば、不当に差別を受けず就職できる、病院で十分な診察を受ける、公共施設を自由に利用する、などの社会生活での「生きやすさ」から、自分の好きな服を着られる、という日常的な「生きやすさ」まで、様々です。
今の社会は、マジョリティであるシスジェンダーが多くの社会的特権を握っている状態で、逆に言えば、そうでない人々にとってまだまだ生きづらい社会であると言えます。
この「社会的特権」。実はその恩恵を受けている人ほど「当たり前」だととらえていて、気づいていない場合が多いのです。
そしてそのように特権が「気にならない」ということこそが、不安や心配なく「生きやすい」ことを表しています。
シスジェンダーという言葉がトランスジェンダーという言葉に比べて認知されていないのは、この「社会的特権は意識しないので気づきにくい」という特徴の表れとも言えるのですね。
ここで、シスジェンダー、つまり非トランスジェンダーの特権チェックリストの一部を紹介します。みなさんは、これらのチェックリストに当てはまりますか?また、今まで当たり前だと思っていたことが、他の人にとってはそうでなかったと気づかされる項目はありますか?
- 自分の性自認を公表することで、家族や友人から追い出されたり、仕事をクビにされたり、自分の家から立ち退きさせられたり、病院で不十分な手当しかうけられなかったり、暴力や性的虐待に苦しめられたり、メディアに愚弄されたり、宗教団体から説教で批判されたりすることは、ないと思う。
- 自分が自分とは違う名前で呼ばれたり、妥当じゃない呼称を使われたりすることはないと確信できる。
- トイレがちゃんと使えて、使用中でもないのに、「我慢する」という憤りに苦しんだことはない。また、公共施設が性別で区別されていることを、気にしなくてもいい。
- ばれることが怖くてきちんと医者にかからず、自分の健康を危険にさらすことはないだろう。医療保険の適用から除外されることもありえない。また、もし入院したり収容されたりしても、性別で区別された施設で間違った場所に入れられないか、心配しなくてもいい。
- 性別で区別されたサービスを受けようとしたり催しに参加しようとしても、拒絶されることはない。
- 異なる性に生まれたために子ども時代や思春期を失ったことを悲しんだことはない。
- 恋人になるかもしれない人の態度が、私の性器のために、ほれ込んだ態度からいきなり軽蔑、暴力にさえ変わるかもしれないと心配したことはない。
- 体の一部を締めつけたり挟み込んだりして隠そうと考えたことはない。声を変えようと考えることもないと思う。
- 自分の葬儀のとき、生前望んでいたのと異なる性別の格好をした自分が遺影に使われることはないだろう。
- 見た目だけでジェンダーを判断されるかどうか、また受け入れられなかったらどうなるかを全く心配しなくてもよいし、その心配を意識したことすらない。実のところ、私には自分のシスジェンダー的特権に完全に無自覚でいる特権がある。
いかがでしたでしょうか。
普段の生活で「当たり前」にできると思っていたことでも、他の誰かにとっては「当たり前」ではない、ということが沢山あります。
体の性だけで男か女かの2つに分けるジェンダー規範は、思わぬところでそれに当てはまらない人たちへ圧力をかけてしまうこともある、ということですね。
今まで気が付かなかった!という人は、是非これからの日常生活や社会生活で、そのことを少しだけでも意識して過ごして頂ければと思います。
※非トランスジェンダー特権チェックリストは、上記を含めて約30項目あります。全てご覧になりたい方は、是非こちらもチェックしてみてください
おわりに
シスジェンダーについて、詳しく知っていただけましたか?
最近では、「LGBT」「トランスジェンダー」などセクシュアルマイノリティを指す言葉が日本でも浸透してきています。
しかし、シスジェンダーに関しては社会的にマジョリティであることもあり議論されにくく、またシスジェンダーの人たち自身がそもそも自分がシスジェンダーであると自認していない場合が多いかと思います。
ですが、シスジェンダーも他の性自認と同じように、「多様な性」という枠組みの中のひとつのありかたに過ぎないのだと、このコラムを読んで認識して頂けたら幸いです。