

LGBTQ+フレンドリーな賃貸探し完全ガイド【物件の探し方と注意点】

お部屋探しは、新しい生活への第一歩であり、誰もが心躍る体験であるはずです。しかし、LGBTQ+当事者にとって、その道のりは決して平坦ではないのが現状です。パートナーとの同居を希望しても、なぜか入居を断られてしまう。不動産会社に本音を話すのが怖い。そうした不安や困難は、時に希望を打ち砕き、お部屋探しそのものを諦めさせてしまうことさえあります。
この記事では、なぜそのような「壁」が存在するのかを深く掘り下げ、その壁を乗り越えるための具体的な方法と、安心して部屋探しを進めるための羅針盤を提供します。
LGBTQ+当事者が賃貸探しで直面する「壁」とは?よくある問題点

LGBTQ+当事者が賃貸物件を借りる際に直面する「壁」は、単なる表面的な問題ではなく、日本の社会構造や不動産業界の慣習に深く根ざしています。その本質を理解することが、適切な対策を講じるための第一歩となります。
なぜ同性カップルは入居を断られるのか?
同性カップルが賃貸契約を断られる主な理由として、大家さんや不動産会社の偏見が挙げられます。報道によれば、賃貸物件資料に「LGBT不可」と記載されていたケースが実際に確認されており、特定の不動産会社や大家さんが露骨な差別的対応をしている現実も存在します。
しかし、入居を断られる理由はそれだけではありません。大家さんや不動産会社は、ビジネス上のリスクを極力回避しようとします。特に、同性カップルの場合、法的な婚姻関係がないゆえに「関係性が不安定」であると見なされ、「入居後に片方が退去し、残った一人では家賃を支払えない」といった金銭トラブルのリスクを懸念されることがあります。これは、同性カップルが友人同士の「ルームシェア」と同列に扱われる慣習に起因するものです。
不動産会社への相談がそもそもハードルが高い
賃貸探しにおける心理的な壁も深刻です。LIFULL HOME’Sの調査では、LGBTQ+当事者の4人に1人が、不快な思いをしながら住まい探しをしているという実態が明らかになっています。これは、「カミングアウトしたら変な目で見られないか」「偏見を持たれたらどうしよう」といった不安が、本音を打ち明け、適切なサポートを受けることを妨げているためです。この心理的なハードルは、物理的な入居拒否と同じくらい、当事者のお部屋探しを困難にしています。
契約の根幹に関わる問題点
さらに、契約書上の問題も存在します。多くの賃貸契約では、契約者の三親等以内の親族を緊急連絡先として求めることが一般的です。親にカミングアウトできていない当事者にとっては、この要件を満たすことができず、審査のスタートラインにすら立てないという深刻な問題に直面します。この点からも、お部屋探しの「壁」は、単なる個人的な問題ではなく、日本の法制度が同性カップルを家族として扱わないことや、不動産業界の慣習が複合的に絡み合って形成されていることがわかります。
安心して部屋探しできる「LGBTフレンドリー賃貸」とは?

こうした多くの課題を抱える中で、安心して部屋探しを進めるための羅針盤となるのが、「LGBTフレンドリー」を公言する物件や不動産会社です。
「LGBTフレンドリー」物件・不動産会社の正しい定義
「LGBTフレンドリー」とは、「LGBTであることを理由として、入居の相談や入居自体をお断りすることはない」と、積極的に意思表示する物件や不動産会社を指します。これは、単に「相談OK」という姿勢にとどまらず、LIFULL HOME’Sの「FRIENDLY DOOR」やSUUMOのように、当事者のための特設ページを設けるサービスも増えており、その明確な姿勢が信頼の証となります。
どうやって見分ける?理解ある不動産会社の特徴
信頼できる不動産会社は、当事者の心理的な負担を理解し、様々な配慮を行っています。
例えば、IRISのようにスタッフ全員が当事者である会社や、当事者スタッフが中心となってサービスを提供している会社は、悩みに深く共感し、的確なアドバイスを提供できます。また、BROWN不動産のように、プライバシーに配慮して個室での相談を可能にしている会社もあります。こうした配慮は、当事者が安心して本音を話せる環境を築く上で非常に重要です。
相談するだけでメリットがある理由
信頼できる不動産会社にカミングアウトして相談することには、大きなメリットがあります。まず、あなたの状況に最適な物件を多く紹介してもらえる可能性が高まります。同性カップル向けの物件だけでなく、生活動線やプライバシーに配慮した間取りなど、当事者ならではのニーズを汲み取った提案も期待できます。また、大家さんや管理会社との間に立ち、交渉をスムーズに進めてくれるケースも多く、入居審査のハードルを下げることができます。
「LGBTフレンドリー」という言葉は、単なる宣伝文句ではなく、当事者が不動産会社との間で「信頼を築くためのシグナル」として機能しています。このシグナルを見つけることが、お部屋探しを成功させるための重要な第一歩です。
【実践】LGBTフレンドリーな賃貸物件の探し方4選

ここからは、当事者が自身の状況に合わせて最適な方法を選べるよう、4つの具体的な探し方を提案します。
探し方 | 特徴 | メリット | デメリット |
LGBTQ+専門の不動産会社 | IRISやKATATIなど、当事者スタッフが運営する専門会社。 | 安心して相談でき、当事者ならではの視点で提案をもらえる。独自の物件ネットワークがある場合も。 | 会社数が限られ、特定のエリアに集中していることが多い。 |
パートナーシップ証明書の活用 | 自治体が発行する証明書を提示する方法。 | 民間の大家さんに対し、関係性の真摯さを証明できる。公営住宅の入居要件を満たせる場合もある。 | 法的効力は限定的で、最終的には大家さんの判断に委ねられる。 |
大手サイトの特集 | LIFULL HOME’SやSUUMOなどが提供する「LGBTフレンドリー特集」を活用する方法。 | 圧倒的な物件数から探すことができ、相談の心理的ハードルが下がる。 | あくまで物件の登録情報であり、大家さんの理解度は個別に確認が必要。 |
UR賃貸住宅 | 独立行政法人が運営する賃貸住宅を利用する方法。 | 公的なサービスのため、民間のような偏見がない。「ハウスシェアリング制度」で同居が認められている。 | 物件数が限られる場合がある。 |
これらの探し方は、当事者が抱える「カミングアウト」と「部屋探し」という二つのストレスを軽減するための戦略です。「専門会社への相談」はカミングアウトのストレスをゼロにすることを目指し、「パートナーシップ証明書」や「大手サイトの特集」はカミングアウトのハードルを下げ、「UR賃貸住宅」はそもそも大家さんの偏見という要素を排除します。読者は、何を最優先するかによって、これらの探し方を使い分けることができます。
LGBTQ+の強い味方「UR賃貸住宅」のメリットとは?
UR賃貸住宅は、LGBTQ+当事者が直面する賃貸探しの構造的な課題を、公的な制度の力で根本から解決してくれる、まさに「強い味方」と言えます。
UR賃貸住宅が「強い味方」と言われる理由
まず、UR賃貸住宅の最大の魅力は、その初期費用にあります。礼金、仲介手数料、更新料、保証人、すべてが不要です。一般の賃貸では初期費用として家賃の5~6ヶ月分が必要になることも珍しくありませんが、URでは敷金(家賃2ヶ月分)と日割り家賃・共益費のみで入居できるため、新しい生活のための資金を大きく節約できます。
また、URの入居審査は、収入基準や入居可能日などが客観的に定められており、誰でも公平に審査を受けられます。民間のような「なんとなく嫌だ」といった個人的な感情による入居拒否の可能性が極めて低いのです。
URの「ハウスシェアリング制度」を徹底解説
UR賃貸住宅には、非親族同士の同居を認める「ハウスシェアリング制度」があります。同棲カップルはもちろん、友人同士でも、この制度を利用できる物件に入居が可能です。この制度の画期的な点は、同居する二人ともが名義人となる「連名契約」が可能であることです。これにより、どちらか一方が退去しても、もう一方が家賃の全額を負担する必要があるという、民間賃貸における一般的なリスクを回避できます。
UR賃貸の契約に必要な書類:親族以外の同居も安心
UR賃貸の契約には、賃貸住宅入居申込書、住民票の写し、所得を証明する書類などが必要です [24]
。親族以外の同居の場合も、明確な書類提出プロセスが定められているため、親へのカミングアウトが難しい当事者にとって、精神的な負担が少ない選択肢となります。
項目 | UR賃貸住宅 | 一般的な民間賃貸 |
仲介手数料 | 不要 | 家賃1ヶ月分程度 |
礼金 | 不要 | 家賃1〜2ヶ月分程度 |
更新料 | 不要 | 家賃1ヶ月分程度(2年ごと) |
保証人 | 不要 | 必須(保証会社利用の場合も) |
入居審査基準 | 明確な収入基準 | 収入に加え、人柄や関係性も影響 |
同性パートナーの入居 | 「ハウスシェアリング制度」で公的に認められている [20, 21] | 大家さんや管理会社の理解による |
同棲も安心!入居審査と契約をスムーズに進めるためのポイント

入居審査は、物件探しにおける最終関門です。この段階で、いかに大家さんや管理会社に安心感を与えるかが鍵となります。
審査を通るための自己アピール術
審査において最も重視されるのは、家賃の支払い能力です。家賃が収入の3分の1以下であると、審査に通りやすいとされています。同性カップルの場合、金銭的な安定性を証明するため、二人分の収入証明を提示したり、収入が高い方を契約者にするなどの工夫が有効です。
また、不動産会社や大家さんは、金銭面だけでなく「人柄」も重視します。清潔感のある服装や丁寧な言葉遣いを心がけることで、近隣住民とのトラブルを引き起こす可能性が低いと判断され、好印象を与えることができます。
公正証書の活用:パートナーシップ宣誓制度との違い
パートナーシップ宣誓制度は、あくまで自治体が独自に設けた証明制度であり、法的な効力は限定的です。これに対し、公証役場で作成される「公正証書」は、より強力な法的効力を持ちます。
同性カップルの場合、「合意契約公正証書」や「任意後見契約公正証書」を作成することで、二人の共同生活の意思や、万が一の際の財産管理に関する取り決めを法的に証明できます。これは、大家さんや管理会社にとって、二人の関係性が真摯で安定したものであることを示す強力な武器となり、入居審査の際に有利に働きます。
契約前に確認すべきこと:トラブルを未然に防ぐために
契約時には、重要事項説明書の内容をしっかりと確認しましょう。ペットや楽器の可否だけでなく、同性パートナーとの同居が認められていることを書面で確認することは非常に重要です。また、退去時の敷金・礼金の扱い、更新時の費用など、将来的なトラブルを避けるために細部まで確認しておくことが大切です。
LGBTフレンドリー賃貸の注意点やデメリットはある?
「LGBTフレンドリー」という言葉は安心感を与えますが、その言葉の裏に隠された注意点やデメリットも理解しておくことが重要です。
「フレンドリー」の注意点〜大家さん個人の理解も重要〜
不動産会社が「フレンドリー」を謳っていても、最終的に契約の許可を出すのは大家さんです。大家さんの中には、依然として古い偏見や思い込みを持つ人がいるのが現実です。そのため、不動産会社が「フレンドリー」であることに加え、大家さん自身の理解がどの程度かも確認することが重要です。
パートナーシップ制度の法的限界を理解しておく
パートナーシップ宣誓制度は、あくまで自治体独自の制度であり、国の法律である民法上の婚姻関係とは異なります。その結果、万が一パートナーが亡くなった場合、法的な相続権はないため、共に築いた住まいを失うリスクがあります。このような将来的なリスクに備えるためには、前述した公正証書や遺言書を準備することが不可欠となります。
トラブルになった場合の対処法
賃貸契約後に、大家さんから契約解除を求められた場合でも、LGBTQ+であることを理由とする解除は、法的に有効ではないとされています。もし不当な要求を受けた場合は、まずは冷静に対応し、必要であれば弁護士などの専門家に相談することを検討しましょう。
【エリア別】東京・大阪・福岡で相談できる不動産会社

最後に、読者がすぐにアクションを起こせるよう、主要都市でLGBTQ+フレンドリーな取り組みを行っている不動産会社をまとめます。
東京都
- 株式会社家や不動産: 「性の多様性を尊重するまちづくり宣言」を行い、LGBTQ+当事者向けの相談窓口を設けています。
- 株式会社東宝ハウス杉並:LIFULL HOME’Sの「LGBTQフレンドリーな不動産会社一覧」に掲載されています。
- 株式会社ソレイユ:LIFULL HOME’Sのフレンドリー企業に掲載されており、一部の物件情報には「LGBTQフレンドリーに対応しております」との記載が見られます。
大阪府
- BROWN不動産 大阪南森町店:プライバシーに配慮し、個室での案内を重視しているため、安心して相談できる環境が整っています。
- BRUNO不動産:「LGBTsフレンドリー宣言」を掲げ、LINEでの問い合わせも可能です。トランスジェンダー当事者への配慮も明記しています。
福岡県
- 三好不動産:2016年からLGBTQ+の部屋探し支援に取り組むパイオニア的な存在です。福岡県パートナーシップ宣誓制度にも対応しており、多様なニーズに応える姿勢が評価されています。
おわりに〜正しい知識と探し方で、理想の部屋を見つけよう〜
お部屋探しは、時に孤独で、心が折れそうになるかもしれません。しかし、日本の法制度や不動産業界の慣習が抱える課題を正しく理解し、その上で適切な探し方を実践すれば、必ず理想の部屋は見つかります。
賃貸探しの「壁」は、大家さんの偏見や日本の法制度が原因で生じていることを理解し、「LGBTフレンドリー」を掲げる頼れる味方を見つけましょう。UR賃貸住宅や公正証書といった強力な「武器」を賢く活用し、契約前にはトラブルを未然に防ぐための確認を怠らないことが重要です。
あなたの「住みたい」という気持ちは、誰にも否定されるべきではありません。正しい知識と頼れる味方がいれば、必ず理想の部屋は見つかります。さあ、一歩踏み出してみませんか。新しい生活を心から応援しています。
参考
- 賃貸物件の同意書に「LGBTの方は入居お断り」…LGBT平等法の早期制定が求められます
- 【ジェンダー理解の不足が招くトラブル】LGBT入居不可問題の背景 – 不動産会社のミカタ
- 同性カップルが賃貸を断られる理由は?LGBTが同棲するコツも解説【大阪賃貸】
- 同性カップルの同棲は賃貸を借りづらい?部屋を借りるコツを解説 – アットホーム
- ルームシェアの賃貸契約は難しい?審査に通るためのポイントを解説
- LGBTQが抱える住まい・不動産の課題とは。見えにくい当事者の声がWeb調査で明らかに
- LGBTの賃貸 入居審査は何がネック?審査のハードルと審査通過方法とは – エース不動産
- ゲイカップルが希望する賃貸物件を借りるためのコツと注意点
- SUUMO for LGBT|SUUMO(スーモ)
- 【ホームズ】同性カップルが希望の部屋に入居するコツは? 実際の苦労話や不動産会社とのやりとりのポイントなども紹介 | 住まいのお役立ち情報
- 同性カップルの同棲物件探し、部屋探しならLGBTsフレンドリー不動産IRISへ
- LGBTフレンドリー – BROWN不動産大阪南森町店
- レズビアンカップルが家探しで気をつけるべきポイント | 【IRIS】LGBTsの賃貸部屋探し、不動産売買
- 知っておきたい賃貸のコツと地域別パートナーシップ制度【LGBTQ当事者の住まい探し】
- 東京都のLGBTQフレンドリーな不動産会社一覧 – ACTION FOR ALL – ホームズ
- パートナーシップ制度でできること
- 「東京都パートナーシップ宣誓制度」の創設により、パートナーシップ関係にある方々が令和4年11月からJKK住宅へ入居申込できます
- 同性カップル・LGBTs支援 | 業務内容 – Emu行政書士事務所
- 同棲の入居審査で落ちたらどうする?彼女を契約人にする際の注意点とは – UR都市機構
- LGBTの住まい/賃貸か購入か
- 同性カップルが二人で住む際の留意点 賃貸や購入の選び方からローン設計、遺言まで | 相続会議
- 同性カップルで公営住宅での同居を考える際に。入居要件のハードルはどうか
- 【ホームズ】〈LGBTQの方向け〉同性パートナーと家・マンションを買うには? 知っておきたい住宅ローンの種類と相続 | 住まいのお役立ち情報
- 婚姻契約公正証書 | イコールウエディング JASMAC WEDDING for LGBT
- note.com持ち家VS賃貸、LGBTsにとってのメリット・デメリット比較
- LGBTフレンドリーサイト|三好不動産
- LGBTを理由とする賃貸契約解除の有効性
- 当事者・パートナーの住まいの困りごとに向き合う。 | 事例紹介
- 東京都杉並区周辺の一戸建て・マンション・土地は東宝ハウス杉並
- LGBTsフレンドリー宣言!大阪の賃貸・売買 – BRUNO不動産
- LGBTQに向けた取組みを続けて6年。福岡の三好不動産に聞いた、取組みの背景と6年間の変化
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