同性パートナーと将来に備える、任意後見契約の仕組みと手続き

ライター: JobRainbow編集部
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現在の日本の法律では、同性パートナーは戸籍上の家族とは認められていません。日々の生活でそのことを意識する機会は少ないかもしれません。しかし、もしパートナーが認知症や病気、事故などで判断能力を失った場合、法的な家族でなければ、預貯金の管理や介護サービスの契約、入院の手続きなどを代行する権限は原則としてありません。もし何も備えていなければ、長年そばで支え合ってきたパートナーが、本当に困ったときに何もできない立場になってしまう可能性があります。

このような不安を解消するために活用できる制度の一つが「任意後見契約」です。これは、本人がまだ判断能力があるうちに、将来誰に後見を依頼するかを自分で決めておく契約で、後見人となる人に戸籍上の家族である必要はありません。この記事では、任意後見契約の基本的な仕組み、同性パートナーが利用する際の手続きの流れと費用、そして契約だけでは対応しきれない期間への備え方について詳しく解説します。


任意後見制度で後見人を自分で選ぶ

後見制度には、大きく分けて「法定後見」と「任意後見」の二種類があります。法定後見は、本人の判断能力がすでに低下した後に、家庭裁判所が後見人を選任する仕組みです。この場合、選ばれるのは弁護士や司法書士などの専門職が中心となり、必ずしも本人の意向が反映されるとは限りません。

これに対し任意後見は、本人の判断能力がまだしっかりしているうちに、将来の後見人を自分自身で指定しておく契約です。厚生労働省が運営する成年後見制度のポータルサイトでは、任意後見制度について「本人が、契約の締結に必要な判断能力を有している間に、任意後見人となる人や将来その人に委任する事務の内容を、自らの意思で決めておく」制度だと説明されています(引用:厚生労働省「任意後見制度とは(手続の流れ、費用)」)。

任意後見人になれる人に、戸籍上の関係は問われません。家族や親族だけでなく、友人や専門職も選べます。不正な行為や著しい不行跡など、任意後見人の任務にふさわしくない事情がある人を除けば、原則として誰でも対象です。同性パートナーが「本人が自由に選べる後見人」として指定されることに、法律上の障壁はありません。


公正証書で契約を結ぶ流れと費用の目安

任意後見契約は、口約束や通常の書面では成立しません。法律によって、法務省令で定める様式の公正証書によって結ばなければ効力が生じない、と明確に定められています(引用:日本公証人連合会「任意後見契約」)。公証役場という公的な窓口を通じて、本人の意思をあらかじめ明確な形で記録しておく仕組みと理解すると分かりやすいでしょう。

手続きの大まかな流れは、まずパートナー同士で「何をどこまで」任せるのかを具体的に話し合うことから始まります。財産の管理なのか、医療や介護サービスの契約手続きなのか、委任する範囲を事前に決めておく必要があります。話し合いがまとまったら、公証役場で公正証書を作成します。その内容は法務局にも登記されますが、この時点ではまだ契約は「動き出して」いません。実際に本人の判断能力が低下したと感じられる段階になったら、家庭裁判所に申し立てを行い、任意後見監督人が選任されることで、ようやく契約の効力が発効します。

費用については、公証役場での公正証書作成手数料が1契約につき1万3000円です。また、公正証書を印刷する枚数が一定数を超えると1枚ごとに追加の手数料がかかります(引用:日本公証人連合会「任意後見契約」)。これに加えて法務局への登記費用なども発生するため、全体の費用負担は契約の内容や専門家への依頼の有無によって異なります。費用や手続きの煩雑さを前に、最初の一歩を踏み出すことを重く感じる方もいるかもしれません。しかし、公証役場や後ほどご紹介する支援団体には、事前相談の窓口も用意されています。


契約がカバーしない空白期間への備え

任意後見契約には、知っておきたい留意点があります。この契約は「判断能力が低下した後」に家庭裁判所が監督人を選任して初めて効力を発揮する仕組みです。そのため、判断能力はまだあるものの、足腰が弱って外出が困難になったり、入退院を繰り返したりするなど、契約が発効する前の時期はカバーできません。

この空白期間を埋めるために、実務では見守り契約や財産管理委任契約と組み合わせて締結するケースが一般的です。見守り契約は、支援者が本人と定期的に連絡を取り、生活状況や健康状態を確認しながら、任意後見を開始すべき時期を見極める手助けとなる契約です。財産管理委任契約は、判断能力があるうちから日常の財産管理や役所への手続きなどを委任しておく契約で、これら二つを任意後見契約と合わせて締結する形は「移行型」と呼ばれています。

同性パートナーの終活を支援する専門家の中には、パートナーを任意後見の受任者として指定し、見守り契約や財産管理委任契約も同時に公正証書で締結しておく、という組み合わせを勧める人もいます(引用:office tree「事実婚・同性パートナーシップ契約書、任意後見・遺言との併用」)。契約を一つだけ結んで安心するのではなく、どの時期にどの契約が効力を持つのかを意識して組み合わせることが、実際の備えとしては非常に重要です。


任意後見監督人の選任が契約の効力発生を左右する

任意後見契約を締結しただけでは、まだ制度は動き出しません。実際に本人の判断能力が低下した段階で家庭裁判所に申し立てを行い、任意後見監督人が選任されることが、契約が実際に効力を持つための重要な条件となります。任意後見監督人は、後見人が契約内容に沿って適切な業務を行っているかをチェックする役割を担い、本人や後見人と利害関係がある人は選任されません。

このプロセスでは、本人の親族の意向が確認される場合があります。同性パートナーの場合、本人の出自の家族と疎遠であったり、関係が複雑であったりするケースも少なくありません。この段階で不安を感じる方もいるかもしれません。契約を締結する際に、なぜこの人を後見人として選んだのかという本人の意思を、公正証書の内容や遺言書などの形でできるだけ明確に残しておくことが、このような状況で役立つと考えられます。パートナーシップ制度の利用証明や、これまでの生活の実態を示す記録を合わせて準備しておくことも、本人の意思を裏付ける有効な材料の一つとなり得ます。


任意後見人に任せられることとできないこと

任意後見人に任せられる範囲は、主に財産管理や契約などの法律行為に関する事柄です。しかし、手術などの医的侵襲を伴う医療行為への同意は、任意後見人であっても本人に代わって行うことはできません。民法には、後見人に本人に代わって医的侵襲に同意する権限を与える条文がなく、医療行為への同意は本人の一身専属的な権利であり、第三者が代わって行うことはできないという考え方が通説だからです。最高裁判所と厚生労働省、専門職団体による意思決定支援ワーキング・グループが策定したガイドラインも、医療同意は後見人の業務には含まれないという立場を示しています(引用:最高裁判所・厚生労働省等「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」)。これは保佐人、補助人、未成年後見人も同様であり、任意後見人に限った制約ではありません。

実務では、本人の同意が得られない場面で親族の同意に基づいて医療行為が進められることが多いとされています。しかし、同性パートナーは法律上の親族には当たらないため、このような場面でも頼れる立場になりにくいという課題が残ります。任意後見契約を締結していても、この医療同意の問題はそれだけでは解決しません。この問題については、JobRainbow Magazineの別記事で同性パートナーの医療同意について詳しく解説しているので、あわせて読んでおくことで備えの幅が広がるでしょう。


自治体のパートナーシップ制度との組み合わせ事例

任意後見契約は、自治体のパートナーシップ制度の利用条件に組み込まれているケースもあります。例えば、渋谷区のパートナーシップ証明制度では、任意後見契約公正証書と、生活を共にし相互に協力することなどを定めた合意契約公正証書という、二つの公正証書を証明の要件としています(引用:渋谷区「パートナーシップ証明、任意後見契約・合意契約公正証書作成の手引き」)。

これはあくまで渋谷区の制度における要件であり、すべての自治体で同じ条件が求められるわけではありません。お住まいの自治体にパートナーシップ制度があるか、またその要件に任意後見契約が含まれているかどうかは、自治体ごとに確認が必要です。しかし、この渋谷区の例からも、任意後見契約が同性パートナー同士の関係を公的に示す手段の一つとして、実際に機能している場面があることが分かります。


相談できる窓口の活用

ここまで読んで、手続きの多さや費用負担を前に、気が重くなった方もいるかもしれません。しかし、これらの契約をすべて自分たちだけで進める必要はありません。公証役場では契約内容についての事前相談を受け付けていますし、日本司法書士会連合会や各地の弁護士会でも、任意後見に関する相談窓口が設けられています。

同性カップルや事実婚カップルの生活設計を専門に扱う行政書士や司法書士、弁護士への相談も有効な選択肢の一つです。同性パートナーという関係性を前提にした相談がしやすい事務所も増えており、任意後見契約やパートナーシップ契約書の併用について具体的なアドバイスを受けられる場合があります。将来のことを「まだ先の話」と感じている方もいるかもしれませんが、公正証書を締結すること自体は、判断能力に問題がない今だからこそできる備えです。少しずつ情報を集めておくことが、やがて大きな安心へとつながるでしょう。

また、同性パートナーとの将来設計や働き方を考える上では、ご自身やパートナーが長く安心して働ける職場を見つけることも、同様に大切な基盤となります。LGBTQ+の就職・転職活動に特化したJobRainbowでは、同性パートナーの有無にかかわらず自分らしく働ける企業の求人を探すことができます。将来に備えた契約と、現在の働き方の両面から、安心できる暮らしを少しずつ整えていくことが、長期的な視点での安心につながります。


参考

  1. 厚生労働省「任意後見制度とは(手続の流れ、費用)」
  2. 日本公証人連合会「任意後見契約」
  3. office tree「事実婚・同性パートナーシップ契約書、任意後見・遺言との併用」
  4. 渋谷区「パートナーシップ証明、任意後見契約・合意契約公正証書作成の手引き」
  5. 最高裁判所・厚生労働省等「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」

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