日本IBMのダイバーシティーへの取り組み(後編)〜人事の梅田さんに聞いてみた!〜

ライター: JobRainbow編集部
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『与えられた仕事を全うするために必要な能力、才能やバックグラウンドを有する人々を、人種、肌の色や信条に関わらず雇用することがこの組織のポリシーです』


この言葉はIBMコーポレーション(以下、IBM) 2代目社長、トーマス・ワトソン・ジュニアさんのものです。この言葉が発せられたのは1953年。本国アメリカで公民権法が制定された1964年に先駆けて多様性の大切さに言及していました。その言葉が示す通り、IBMは多様性をイノベーションの原動力とする企業。


今回は、人事部の梅田恵さんにお話をうかがいました。

前編はこちら
日本IBMのLGBTへの取り組み(前編)〜社内でカミングアウトした川田さんに聞いてみた!〜

特別扱いではなく、平等に競争できる場を

-まず最初に、国際的にダイバーシティーを推進していった経緯についてお聞かせ願えますか?

IBMがダイバーシティーという言葉そのものを言い始めたのは90年代後半からです。それまではイコールオポチュニティー(機会均等)という、人種や性別、障害の有無によって差別をしないという考えを表明していました。1953年にはその考えをコーポレートポリシー・レターとしてまとめ、発表しています。このコーポレートポリシー・レターはIBMが守るべき事柄、商取引の公平性や安全衛生基準などについて書かれたもので何種類かあり、時代や市場の変化にあわせて内容を見直し、代表権のある会長が署名する、IBMの企業姿勢を明示した重要な書類です。80年代にはこのポリジーレターに性的マイノリティーについても言及するようになりました。

IBMのイコール・オポチュニティーとは、特別扱い、保護をするのではなく、同じ競争の場に平等に参加できるようにしていくことが基本的な考え方です。慣習などによって女性であるということや人種の違いによって高等教育を受けられない国や地域が未だにありますが、米国も100年前はそういう状態でした。そうした本人の能力以外の理由で不利な状況を解消するため、社内の教育システムを充実させていき、能力とやる気のある社員には会社から大学に通えるようにしていきました。つまり本人の努力、能力以外の理由でマイナスの状況があれば、0(イコール)の状況まで人事制度や福利厚生で引き上げる支援をする、それがIBMのイコール・オポチュニティーです。

1990年代後半からは多様な人材が多様な視点から、イノべーションを生み出していけるよう、戦略的にダイバーシティーを推進していきました。LGBTに関しては、1995年に米国とカナダで同性パートナーに対しても福利厚生制度が適用されるようになりました。

1995年にダイバーシティーを強力に進めるために米国本社でLGBTや女性を含む8つの委員会が設置され、それぞれイニシアチブを象徴する役員がリーダーにアサインされました。現在のIBMのCEOのジニー・ロメッティは、女性の委員会の初代リーダーです。LGBTの委員会ではゲイであることをカミングアウトした役員がリーダーを務めました。私たちは当事者が自分たちのキャリア課題について議論し、解決策を検討して会社に提言するというこの方法を今でも大切にしています。

話している梅田恵さんの画像
真剣な様子で社内のダイバーシティーへの取り組みについて話してくれた梅田恵さん

日本においてダイバーシティーを推進し始めたきっかけは何でしょうか?


最初は女性活用の必要性から始まりました。日本IBMは今年で80周年を迎える企業ですが、戦後すぐはまだ知名度はほとんどありませんでした。そんな状況下でコンピューターの需要が急速に増えていたので、当時1000人ほどだった社員数を10年で1万人にする必要がありました。

多様な人材を確保する必要に迫られる中で、男子学生だけではなく女子学生の採用へと目を向け始めたのが1960年代のことです。男女同一賃金を実現し、採用した女性が結婚や出産などの理由で退職することがないように、育児との両立策を導入しました。同時に障がい者雇用もこの頃から積極的に行うようになりました。

実際に日本IBMには、浅川智恵子という全盲の研究者がおりますが、彼女は自分の見えないという障害の解決を研究のテーマにしており、インターネットを読み上げるソフトを90年代に開発、それにより障害のある方だけでなく、文字の読めない人や高齢者、デジタルが苦手な人でもインターネットにアクセスできるようになりました。現在、浅川は世界で99人しかいないIBMフェローの一人として活躍しています。このフェローはノーベル賞受賞者を何人も輩出してきたことでも有名です。

世界中の多くのお客さまにサービスを提供していくうえで、多様な視点というのはなくてはなりません。私たちが重視しているのは、彼らに能力を発揮してもらうための配慮はしても平等に競争に参加してもらうということ。その考え方に則りLGBTの方や外国籍の方にも門戸を開くようになるのは自然の流れでした。

IBMのダイバーシティーに対する考え方や価値観を教えてください。

差別や偏見といったマイナスをゼロにすることが目標です。同じ土俵に立ってもらったら、あとは各々の純粋な実力で勝負できる、競争に参加できる環境にするのが会社の役割ですから。

IBMはチームパフォーマンス、つまりチームでの課題解決力を発揮できる環境を重視します。イノベーションのためには多様な価値観が必要です。最近ではジェネレーション(世代)のダイバーシティーに私たちは注目しています。情報に対するアクセスや価値観が大きく変化したミレニアル世代が主流になっていく中、多様性を生かして競争力をつけていくのです。

現代は世の中が複雑になっていて、一人ではなく様々な人が未来を予測していく必要性があります。日本でも世界でも多様性によって、この先起こりうるリスクを回避していく。IBMがダイバーシティーに取り組むのはビジネスにおいて必要だと考えるからです。マイノリティーの方たち含め、多様な人材の登用が会社にとってのブレイクスルーになると考えています。

取り組みに際して苦労したことは何でしょうか? 特に社内外など周囲の反応は。

日本と日本以外の国のダイバーシティーの進捗に大きな差があることです。日本IBMは日本の中では取り組みが進んでいる方ですが、海外のIBMに比較するとかなり遅れています。たとえば、1995年にはIBMの世界共通課題として女性の登用というものがありました。実は当時、日本と韓国は欧米に比較してかなり遅れており、最下位争いをしていました。

ただ当時の日本IBMは女子学生の人気企業ランキングでは常に上位で、制度もととのっていたので、「なんで今さら私たちが女性活用をしなければいけないの?」と女性社員自身にも疑問を持たれてしまうのです。

2016年に行われた、「PRIDE指標」授賞式の様子の画像
2016年に行われた、「PRIDE指標」授賞式の様子

LGBTに関して人事として行った具体的な活動内容をお聞かせください。

LGBTに対する社会の理解促進のために、2012年には「職場とLGBT」を活動のテーマとしたwork with Pride(wwP)という任意団体をNPOとともに立ち上げ、活動を開始しました。毎年異なる企業にイベント会場を提供していただいて、企業の人事担当者と当事者に向けた啓蒙活動をしています。そうした活動はIBMが外資系だからやるのではないということを理解してもらうために、あえて伝統ある日本企業にご協力をお願いし、ご協力いただいた企業がイベントが終了した後も継続してwwPに協力してくださっています。

実はこうして、他社を巻き込みながら理解促進を図るというのは、IBMが世界にコンピューターを普及させていったことにルーツがあります。当時、とても新しいものであったコンピューターを広めるため、コンソーシアムを作り、メリットやデメリット、必要なことの研究をお客様企業と一緒に実施することで理解を広めていきました。

自社だけではダイバーシティーの課題は解決できません、私たちは他社を巻き込みながら、メリットもデメリットも話し合い議論していくことで、本当の意味での理解促進につながると考えています。

また、work with Prideでは2016年より、LGBTに対する取り組みの評価指標「PRIDE指標」を策定しました。このPRIDE指標に則り、LGBTフレンドリーな企業の表彰を行うことで、社内施策推進のガイドラインとして利用していただいたり、LGBTが働きやすい職場環境の応援をしていくことを目的としています。

梅田さん個人としてダイバーシティーに取り組むことにどんな意義を感じていますか。その上でこれから成し遂げたいことはなんですか?

ダイバーシティーは既存の価値観を変えようとしたり、全く新しい価値観を導入するという仕事なので、なかなか理解を得られず、辛くなることも時にはあります。ただ私自身、広報や人事、そして女性というIBMという会社の中ではマイノリティーの立場にいますが、それを存分に活かせていると思っています。IBMは面白い会社です。こういうことがやりたい、その方が会社のためになるということを周囲の人に理解してもらえると、実現に向けて会社が応援してくれるんです。例えば、この5年間の間だけでも、企業内保育園を2つ作ったり、LGBTの活動でもwork with Prideを立ち上げ、社外にもインパクトを与えることに関わらせてもらっています。

そして、私自身がさまざまな年代や異なるバックグランドの社員と共に仕事をすることによって刺激を受け、クリエイティブでいることができると感じています。この仕事をしていなかったら関わることがなかった人たちと出会え、世の中の沢山の課題に向き合えました。障害をもつ学生さんたちに具体的な職業観を持ってもらうため、2014年からインターンシップ・プログラムも実施しています。

また社外でも世の中の障がい者雇用に対する考え方を変えていくための企業コンソーシアムに参加しています。普通は社内の取り組みで完結しがちなダイバーシティーを、社会にインパクトを与えることを考えながら取り組めるのはIBMの良さです。結果、先ほど紹介した浅川智恵子のような研究者が多くの人に影響を与えるイノベーティブな新しい研究に次々と挑戦しています。

このダイバーシティー&インクルージョンを今後も推進し、将来に希望を持ち、新しいことに挑戦する人をこれからも育てていきたいです。私も新入社員として入社してから30年間、当時はこんなに長く働くと思ってもいませんでした。IBMという環境だったからこそ、仕事は厳しいけれど、働いていることが楽しかったし、これから自分の後に続いてくる人たちが楽しいと思って働き甲斐のある環境を作っていきたいです。

特に、LGBTの若者の自殺率が高いことを聞くととても悲しいですね。将来に希望をもってもらえる社会にするために、私たちがやれることはまだまだ沢山あると思っています。

最後に、IBMに興味を持つ就活生に一言お願いします!

たくさんチャレンジすれば、失敗をしてもそれは必ず成長に繋がっていくので、失敗を恐れずにその機会を大切にしてください。LGBTの方たちは悩むことが多かった分、より強さが必要だったはず。だからこそLGBTであることを言い訳にしないで、自分の個性をきちんと受け入れて、自分が何をやりたいのかしっかり考えて、夢を叶えてくださいね。

前編はこちら
日本IBMのLGBTへの取り組み(前編)〜社内でカミングアウトした川田さんに聞いてみた!〜

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