JTのダイバーシティ&LGBTへの取り組み ~多様化推進室のお二人に聞いてみた!~

ライター: JobRainbow編集部
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はじめに

今回は、日系メーカーの先進企業、日本たばこ産業(JT)様に伺いました。JTといえば、スタイリッシュでハッとさせられるCM広告が有名ですが、グローバルたばこメーカーとしての顔だけでなく、食品・医薬分野にも進出しており、多角的な事業を行っているグローバルカンパニーです。

JTでは、性別、性自認、性的指向や年齢、国籍だけによるダイバーシティではなく、経験、専門性など、異なる背景や価値観を尊重し、違いに価値を見出すことが、JTグループの持続的な成長に繋がると考えており、多様化(ダイバーシティ)の推進を経営計画の課題のひとつとして位置づけています。2016年には、「新・ダイバーシティ経営企業100選」や「なでしこ銘柄」に選定され、また「PRIDE指標」にてゴールドを獲得するなど、多様化(ダイバーシティ)推進の積極的な取り組みが評価されています。

また、専任組織である「多様化推進室」が多様化推進に向けて、各種取り組みを実施しており、社員のLGBTに関する理解促進に向けた取り組みも昨年より実施しています。理解促進に向けたセミナー・研修を開催する他、従来より、同性パートナーであっても、婚姻関係と同等の福利厚生を受けることができるよう制度が運用されています。このほかにもソフト面・ハード面ともに充実した配慮がなされています。

取り組みについての詳しい情報はこちら、JobRainbowの企業口コミページへ。

こうした働きやすく、働きがいのある職場をつくる取り組みが評価され、今や日本のダイバーシティ先進企業の顔として知られています。日系の老舗メーカーの中では本当にレアな存在です。セクシュアルマイノリティが注目したい、今最もアツい企業と言っていいでしょう。日系企業として、先例にとらわれずダイバーシティ施策を抜本的に進めることができている秘訣は、いったいどこにあるのでしょうか?JobRainbowライターのアンディが聞いてきましたよ。
今回お話をお伺いするのは、多様化推進室主任の近衛さんと佐々木さんのお二方です。

一般的に、ダイバーシティ推進は人事部が行っている企業が多い中、お二人は、人事業務は未経験で、PR部、工場の生産管理部から現部署へ配属されたとのことです。JTの多様化推進室は、その他にも営業や監査、IR広報等、多様なバックグラウンドのメンバーで構成されているそうです。

ダイバーシティ施策は、JTグループの持続的な成長を支えるため

ー さっそくですが、多様化推進のこれまでの取り組みについてお伺いします。

多様化推進室は、2013年にダイバーシティに関する専任組織として設置されました。現在、多様化推進室では、JTグループの成長を支える人財が更に活躍できるよう、「キャリア支援」「風土醸成」「環境整備」という3領域を中心とした取り組みを行っています。 2013年の発足当初は、主に女性社員に対する成長を支援する取り組みを実施し、2014年以降、女性社員本人だけではなく、上司をはじめとする周囲者向けの研修やセミナーを実施してきました。

そして2015年には、仕事と家庭の両立支援制度の拡充やテレワークの試行開始、イクボス施策※を展開するなど、女性社員だけではなく、多様な人財の活躍に向けた施策を進めてきました。そして、2016年より『LGBT』の理解促進に向けた取り組みを開始するなど、JTグループの成長を支える人財の更なる活躍に向けた取り組みを行っています。

※ JTの「イクボス」とは、職場で共に働くメンバーのワークライフバランスを考え、その人のキャリア/成長と人生を応援しながら、組織の業績を出しつつ、自らも仕事と私生活を楽しむことが出来る上司のこと。この考え方に沿った施策として、イントラネット上に専用サイトを開設し、管理職向けセミナーを開催するなどしている。

多様化推進室主任の近衛さんと佐々木さんが話している様子

キラリ!と光る多様化推進室

ー ほかの企業では、人事部があって、人事システムや福利厚生制度設計の一環として、ダイバーシティ取り上げられることが多いと思いますが、「多様化推進室」という独立したかたちで取り組むこととしたのには、理由があるのでしょうか?

固定観念や過去の成功体験にとらわれずにスピーディー且つ、イノベーティブな施策を展開するため、人事部とは別に、専任組織を設置しています。また、多様なバックグラウンドの社員で構成しています。前例にとらわれることなく、「可能性はいろいろあるのだから、まずはやってみよう!」という動きやすさがあると実感しています。

それから、今の多様化推進室のメンバーは全員、人事業務の初心者です。メンバーの経歴をご紹介すると、営業や工場、PR部、IR広報部、監査部など、人事業務経験者は一人もいないですね。他社の方とお話をしたらビックリされることも多いです。これはJTならではの特徴だと思っていますし、それぞれのメンバーが今までの部署で培ってきたスキルや経験を多様化推進室での業務に活かしていると感じています。

例えば、社外とのコミュニケーションにおけるノウハウといったスキルはもちろんのこと、セミナーや研修を企画する際にも、営業や工場での経験をもとに、「この研修を受けて、営業の人はどう感じるだろう?」とか、受け手の視点に立っていろいろと想像を巡らせることができるんですよ。

大いにあった!現場レベルでの変化

ー 実際に多様化推進室の立ち上げから4年近く経過する中で、社内で変わっていったことはあったのでしょうか。

エレベーターや食堂等、社内で男性社員が育児の話をしているのを見聞きする機会が増えましたね。それから、制度に関して自ら相談してくる上司も多くなったと感じますね。

また、全社的に働き方改革を進めていく中で、フレックスやテレワークといった制度を整備することはもちろん、「結果を出しながらワークライフバランスを充実させると、こんな良いことがある!」と腹落ちしていただくことが大切であると考えていましたが、その理解の醸成に『イクボス』施策が効いてきたということもあり、以前の「残業=頑張っている」という考え方から変わってきたと考えています。

ー LGBTの理解促進を取り組み始めたことで、社内の認知や理解は進みましたか?

まだまだ完全ではありませんが、徐々に進んできていると思います。2016年2月を皮切りに昨年は2回セミナーを開催し、今年は既に2回開催しており、残りの期間で更に6回開催する予定です。セミナーは毎回大好評で、社員向けに直近開催した回では、受講後アンケート回答者の99%より、「是非アライになりたい」という感想をいただいていて、私たちとしてもやりがいを感じているところです。

役員を対象にセミナーを開催した際には、終了後、役員の方々から「アライになりたいから、レインボーグッズくれないか」というご要望をいただいて、今では役員の方全員がレインボーフラッグをデスクに立てているんですよ!社員の間でも話題になっていました。

また、今年から採用エントリーシートの性別欄に「男性」「女性」に加えて、「その他」を設けたのですが、それをきっかけに学生の方々から弊社のダイバーシティの取り組みに関して興味を持っていただきました。

現在、セミナー以外にも新入社員や新任管理職を対象とした研修や社内報、イントラサイト等を通じた理解促進も進めているところです。直近では、社内のLGBTサイト内にEラーニングコンテンツを開設したり、オリジナルアライグッズの制作を進めたりしています

メーカーとしてダイバーシティに取り組むということ

ー メーカーは業界特性として男性社会であり、LGBT対応が進んでいない現状がある一方で、JTは全社的に理解を得ながらダイバーシティ推進に成功しているように思えますが、どんなことが要因になっているとお考えでしょうか。

まだまだ我々も取り組みに力を入れていかなくてはならないと感じていますが、トップのコミットメントはもちろん、社員一人ひとりの個性が豊かで、またその個性を発揮しやすい環境が整っているということも要因として挙げられるのではないかと思います。あとは、年齢や職位に関係なく発言しやすい環境にありますね。同僚や上司を役職で呼ぶことに馴染みが無く、役員相手であっても「○○さん」と呼ぶ社風があります。個性豊かな社員が多いという点、風通しの良い組織であるという点から、多様性を無意識のうちに感じられていたことが効いているのかもしれません。

ー 営業職は特にお客さんとの関係性という点でトランスジェンダーが働きにくいという傾向があります。お客さんの中には、「君は(男女)どっちなの?」と聞いてくるような方もいるそうです。トランスジェンダーの方が働くことになり、自分の性自認に合わせた服装や外見で顧客訪問をする、というような事例はありますか?

会社の制度として、一律の対応を決めているわけではなく、状況に合わせた対応を取ることにしています。ただ、社外の方と関わる場面においては、社内の取り組みだけでは対応しきれないこともあるので、そこは国や行政レベルでの意識改革が必要だと思います。そのためにひとつひとつの企業がやれることをやって、国や行政を巻き込んで、社会全体で変わっていくということが大事だと思います。

JTの社員として、望むこれからの姿は

ー 近衛さんご自身は、女性として、キャリアと家庭をうまく両立させる働き方をなさってきておりますが、一人の女性社員として今後なっていきたい姿はありますか?

(近衛さん)
JTでの仕事とライフイベントを通して、会社では後輩社員のロールモデルに、家庭では主人と息子から尊敬されるワーキングママになりたいと思っています。私自身、妊娠中にキャリアについて悩んだ経験を活かし、これからライフイベントを迎える後輩社員には希望と勇気を与えていける存在になれれば嬉しいです。そして、私らしい働き方でJTグループ全体の多様化推進を牽引し、企業の成長に貢献していきたいと思います。

ー 佐々木さんは、ご自身の理想像として今後なっていきたい姿はありますか?

(佐々木さん)
私は、先輩後輩問わず、いい感じにツッコミ、ツッコまれる存在でありたいですね。一人ひとりが楽しくイキイキと働くことが何よりも大切だと考えていますが、そのためには「ツッコミ」・「ツッコまれ」ぐらいの気軽なコミュニケーションを重ねて、お互いに何でも言えるような信頼関係を築いていくことが欠かせないと思っています。それに、そもそもコミュニケーションを取らないと相手の考え方も価値観もわからない。「佐々木の周りはやかましいな」と思われるぐらいになれればいいなと思っています。

ー 社内の非当事者の男性としてダイバーシティ担当になってみて、LGBTにかかわらず、非当事者だから気づけなかったことに気づけた、というような変化はありましたか?

外部のセミナーに行ったときに、LGBTの当事者の恋愛のエピソードを聞いたことがあって。そのとき、当事者に限らず、人を好きになるという感情って同じものだよなということがすっと腹に落ちてきたんです。書籍やインターネットで得た知識よりも強く実感することができて、より一層業務に気持ちが入るようになりました。

多様化推進室主任の近衛さんと佐々木さんが話を聞いている様子

ー さいごに、JobRainbow読者の皆さんにメッセージをお願いします。

(近衛さん)
LGBTは1人の人を構成する数ある個性の1つで、その個性を大切にしてほしいと思います。自身にしかない個性が活かせる場面は、会社においても必ずたくさんあるので。JTには、本当に個性豊かな社員が多く、同じタイプの人を見つけるのが難しいくらいです。社員1人ひとりがJTの多様性そのものを体現しているのです。私たちはその多様性を結集することが持続的な企業成長には必要な要素だと考えております。JTの社員に会えば、実感していただけるかと思うので、是非エントリーしてください!

(佐々木さん)
よく聞かれるのは、「たばこ吸ってなくても大丈夫ですか?」ってことなんですが、これはまったく気にしなくて大丈夫です(笑)。入社してからのキャリアについても、たばこ事業に限らず、医薬や食品事業もありますし、特定の業務だけではなく、色々なことにトライできる環境が整っています。社員一人ひとりが様々な経験をしているので、是非就活イベント等で話を聞きにきていただければと思います!

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ライターからひとこと

日本の大企業がダイバーシティ施策を進めるうえで最も難航するのは、やはり現場レベルでの意識浸透ですが、JTさんもこの点に苦労されたようでした。制度整備やセミナー、「PRIDE指標」のゴールド獲得などを足がかりとして状況を前進させた事例は、他企業にとってもロールモデルになりそうですね!

ハードとソフトの両面から複数の施策を打ち、それらがうまくつながりあうことで指数関数的に効果が出るので、「研修やって終わり」「制度作って終わり」ではなく、窓口設置などで声を収集する仕組みを作り、グッズやイントラネットで継続的に接点を作る工夫をすることが成功の鍵なのではないかと思いました。

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