職場のロールモデルがいると何がいい? 本当に必要?
人は成人してから定年するまで、ほとんどの人生を労働に捧げます。働き方改革が進み、在宅勤務や時短勤務などが可能になりつつありますが、それでも長い日本の労働時間。人生の大部分を費やすものだからこそ、自分の理想により近い働き方をしたいですよね。
ですが、いきなりふわふわした「理想」を、自己流で実現しようとしても、なかなか難しいものです。
そのとき、「ロールモデル」がいるといい、と言われます。ロールモデルがいれば、これからの指針になるだけでなく、仕事に対するやる気も上がるようです。
ですが、そもそも「ロールモデル」とは何なのでしょうか。また、本当に「ロールモデル」がいると良い影響があるのでしょうか。逆に、悪い影響はないのでしょうか。
今回の記事では、そんな「ロールモデル」について迫っていきたいと思います。
ロールモデルとは
人事労務用語辞典によると、ロールモデルとは「自分にとって具体的な行動や考え方の規範となる人物のこと」を指します。いわゆる「憧れの人」です。
ロールモデルは1人とは限らず、例えば「いつも頼りになるAさんの働き方」「おしゃれなBさんの服装」「論理的でわかりやすいCさんの考え方」など、自分がなりたい分野のなりたい方向に合わせて、たくさんのロールモデルを設定している人がほとんどではないでしょうか。
ロールモデルのメリット・デメリット
ほとんどの人が持っていると思われる、ロールモデル。
ですが、ロールモデルがいるとどんなメリットがあるのか、逆にどんなデメリットがあるのか、考えたことがある人はあまりいないのではないでしょうか。
ここからは、ロールモデルがいることに対するメリット・デメリットについて考えていきたいと思います。
1. メリット
1.1 思い込みを緩和する
様々な場面において、悪い思い込み、ステレオタイプは、行動を無意識に左右します。
例えば、「ゲイにリーダーシップを取るのは無理」という思い込みが、ゲイのあなたの中に無意識にあったとします。
そういった考えを持ちつつ、会社でリーダーシップを取る仕事をすることは簡単なことではありません。無意識の思い込みが、「ゲイの自分にうまくリーダーシップが取れるわけない」と、実力を発揮することを邪魔してしまうかもしれないのです。
しかしそんな中、ゲイをカミングアウトしつつ、リーダーシップを上手に取っている人と出会ったらどうでしょう。
「ゲイはリーダーシップが取れない」という思い込みを一気に覆され、「自分もリーダーシップが取れるかもしれない」、「リーダーに挑戦してみたい」と、自信・やる気が湧いてくる気がしませんか?
実際に、女性のリーダーシップについての研究ではありますが、ステレオタイプ(女性は控えめでリーダーシップに向いていない、とするもの)に反するような女性、有能な女性をメディア等で目にした女性は、リーダーシップへの意欲が高まるという結果が出ています。
1.2 自己評価を高める
人は、社会が用意した様々な枠組みで分類されます。男、女、トランスジェンダー、レズビアン、ゲイ……等々。
しかし、その分類の中でも、それぞれの性格、スキルは多様です。
一言に「男性」と言っても、その中には女性が好きな人もいれば男性が好きな方もいます。
同様に、性格の面でも、社交的な人もいれば、内向的な人もいて、勉強が得意な人もいれば、苦手な人もいますよね。
つまり、「男性」だから、「ゲイ」だからと言って何か共通のスキルや性格があるわけではありません。
しかし、人間はどうしても共通点がある人に対して親しみを感じてしまうもの。
筆者も、「女性と言っても、人それぞれだ」とわかっているつもりですが、女性の社長を見たり、優秀な女性学者さんなどをメディアでみると、「同じ女性なのだから、自分にもできるのではないか」と考えてしまいます。
「女性なのだから」という部分は、本当は理由にはなっていないのですが、理由になっていなくとも、ロールモデルをみることによって「自分にもできるかもしれない」という自信、自己評価を高めることができるのです。
2. デメリット
2.1 萎縮してしまう
ロールモデルがいることに対するメリットとして、「自己評価を高めることができる」ということを挙げました。
しかし、自己評価を高める上で重要なのは、「ロールモデルと自分を同一視できるか」という点です。
筆者には、同じ中高、同じ大学、学部、そして性別も同じ先輩がいますが、その方があまりにも優秀で「どうして自分にはできないんだろう」と落ち込むことが良くあります。
つまり、いくら共通点があっても、根本的なところで違う部分がありすぎると、逆に「どうして自分はできないのか?」、「同じ境遇なのに自分はできない。自分が無能なのではないか」と落ち込み、萎縮してしまうのです。
ロールモデルは不要?
ここまで、ロールモデルのメリット・デメリットについてお伝えしました。
うまくロールモデルを設定すれば、萎縮することなくメリットが多いということがお分かりいただけましたでしょうか。
しかし、一方で、「私は私の道を自分で切り開く! ロールモデルなど不要!」という方もいらっしゃるかと思います。
ロールモデルがなくとも、自分で道を切り開こうとする姿勢と勇気は素晴らしいです。そういう方こそが、後に続く方のロールモデルとなるのだと思います。
ですが、世の中、自分で道を切り開いていける方ばかりではありません。憧れの人を見て、真似て、道を作っていくタイプの方がほとんどでしょう。
また、冒頭で述べたように、「私はロールモデルはいらない」と考えている方でも、無意識に誰かをロールモデルとしている可能性があります。
不要と思っていても、他人から学べることはたくさんあります。
改めて、ロールモデルを意識的に探してみるのはいかがでしょうか。
ロールモデルの探し方
ロールモデルがいる方がいい、と言っても、ロールモデルがなかなか見つからず、不安……という方もいらっしゃるでしょう。
特にLGBT当事者は、その母数の少なさに加え、カミングアウトして働く人も少ないため、同じセクシュアリティのロールモデルを自力で探そうとなるとかなり大変です。
そこで、株式会社JobRainbowが運営する求人サイト「JobRainbow」では、当事者が就職先を探す際、就職後にロールモデルを見つけやすいように、「当事者コミュニティの有無」をグラフにして、それぞれの企業でどの程度当事者コミュニティが形成されているかが一目でわかるようになっています。
グラフの判断基準としては、「カミングアウトしている社員がいるか」「当事者コミュニティがあるか」などです。
ぜひ一度気になる企業のページを見て、その企業では自分のロールモデルとなる人がいそうかチェックしてみて下さい。
もし就職した後にロールモデルを探すときは、「すごすぎる人」をロールモデルとして設定しないことがコツです。
また、場所を限定したり、一人の人だけをロールモデルと設定するのではなく、いろいろな場面で、多くの人のそれぞれのいいところをロールモデルとするのがオススメです。
おわりに
どんな人をロールモデルとするのか、何人ロールモデルを作るのかは、それぞれの人によります。
自分に足りない部分を自覚して、他人から学んでいくのは、本を読んだり、一人で考えたりするよりも、刺激があります。刺激がある分、前向きな意欲が継続しやすく、効果的にスキルアップが望めるのではないかと思います。
自分にあったロールモデルをうまく見つけて、自分らしい生き方ができるよう、私たちも「働く」という面からお手伝いできたら嬉しいです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
参考文献
人事労務用語辞典
Stefanie Simon and Crystal L. Hoyt, “Exploring the effect of media images on women’s leadership self-perceptions and aspirations”, 16(2), Group Processes & Intergroup Relations, pp.232-245.