【学生ライター発掘プロジェクト④】世界のLGBT事情-スペイン編【永田 滉】
本コラムは、LGBTQ+のライフとキャリアを支えるJobRainbow MAGAZINE主催「JobRainbow学生ライター発掘プロジェクト!」でご応募いただいたコラムとなっております。
永田 滉さん、ありがとうございました。
スペインとLGBT……あまりつながりがないようにも思えるが、実は深い関わりがある。今回は、そんなスペインのLGBTにまつわる歴史と、LGBTの集う町「チェエカ地区」を紹介する。世界のLGBTカルチャーに興味のある方や「スペインに行ってみたい」という方は要チェックだ。
スペインについて
スペイン王国は、ヨーロッパの西部に位置しており、首都はマドリードにある。北はガリシア、アストゥリアス、バスクなどの食文化が豊かな地域から、南はフラメンコなどで有名なアンダルシアまで、多様な文化で構成された国である。また、世界遺産であるサグラダ・ファミリア(Sagrada Familia)が大都市であるバルセロナにあるなど、観光地としても人気のある国の1つである。
首都であるマドリードを中心に、スペインでは大規模なプライドパレードが行われている。2019年7月6日にマドリードで行われたパレードでは、約160万人が参加した(全国紙『エル・パイス』2019年7月7日)。年々国内外の参加者が増加し、観光の1つにもなっている。2005年に同性婚が認められたが、それ以前からセクシュアルマイノリティの権利を求める運動が行われている。次の章では、スペインにおける現在のLGBT事情を理解するために、概略的ではあるが歴史について少し触れる。
スペインにおけるセクシュアルマイノリティの歴史
スペインにおけるセクシュアルマイノリティをめぐる最初の運動は、1970年に行われた「同性愛者解放運動」(Movimiento Español de Liberación Homosexual, MELH)である。当時スペインはフランコが政権を握り(1939-1975)、同性愛者(特に男性同性愛者)に対する弾圧や迫害などがあった。そのため、1970年にArnand de FluviáとFrancesc Francinoによって結成されたMELHも、政府の抑圧によって1974年に存在を消されてしまった。しかし、1975年にフランコ政権が崩壊すると、Fluviáは同年にFront d’Alliberament Gai de Catalunya(FAGC)を創立した。
また、同組織はインスティトゥート・ラムダ(現カサル・ラムダ)という名で、同性愛者向けの文化センター兼サービス施設を初めて設立した。2年後の1977年に、FAGCを筆頭にスペインで初めてゲイ・パレードがバルセロナで行われた。「ゲイ・パレード」と記したが、もちろん参加者が男性同性愛者のみであったわけではない。むしろ、このパレードを契機に、とりわけ異性装者が可視化された。
1980年代、セクシュアルマイノリティの当事者たちが権利を求める一方で、トランスジェンダー女性のセックスワーカーたちが警察による嫌がらせから身を守ろうとしていた。また、男性同性愛者のコミュニティは、トランスジェンダーのコミュニティを受け入れようとしなかった。一方で、トランスジェンダーの運動はいくつかのフェミニスト団体から支援を受けていた。最終的には、フェミニストとLGBTの運動が関係するようになる。また1980年代に当事者たちによる権利の主張が顕著になった主な要因は、保健機関が同性愛者を「危険グループ」に加えたことである。このことによって、同性愛者、異性装者、トランスジェンダー、セックスワーカーへのスティグマが助長されてしまった。また、これを機に、セクシュアルマイノリティの当事者の間でHIV/AIDSの問題意識が高まった。
1990年代に入り、HIV/AIDSの問題意識がより高まり、セクシュアルマイノリティを支援する組織の数も増え、当事者が抱える問題に着手するようになった。特に、スペイン社会労働者党(PSOE)も、セクシュアルマイノリティの当事者が関係するHIV/AIDSの問題を呼びかけた。
2000年代になると、スペインは1987年の養子縁組み法を改正し、2005年に同性婚を法的に認めた。世界では3番目、カトリック教国では最初の国である。続いて2007年には、性別・名前の変更が許可されるようになった。
2019年7月6日にマドリードで行われたプライド・パレードでは、160万人の参加者が集った。2019年のテーマは「われわれ高齢者にも権利を」というもので、LGBTに関わる運動は若者のものだけにとどまらず、高齢者もかかわっているということを主張するものだった。したがって、高齢者の参加者も多く見られた。
LGBTと深く関わりのある街
セクシュアルマイノリティの集う場所の1つとして、日本では東京都の新宿二丁目が有名である。スペインにも、セクシュアルマイノリティの当事者に対して「オープンな」地区がいくつか存在する。その中で、首都マドリードにある「チュエカ地区」(Chueca)には、国内に住む人たちのみならず、海外からもたくさんの観光客が訪れる。
プライド祭り(Orgullo Madrid)が開催される際には、街中が虹色で溢れる。また、セクシュアルマイノリティの当事者が集うバーや、LGBT関連の書籍が多数売っているBerkanaという本屋も人気が高い。
まとめ
スペインは、セクシュアルマイノリティをめぐる社会の動きが比較的早く、活発である。
大都市ではパレードが行われたり、様々な団体が存在し、活動を続けたりしている。一方で、郊外ではセクシュアルマイノリティのコミュニティに対して、「オープンな」環境ではないと言う人もいる。
しかしながら、政治や社会との結びつきが強いイベントであるプライド祭りや、セクシュアルマイノリティとの関連が深い場所に行き、日本のセクシュアルマイノリティ事情と比較する旅は興味深い。新たな海外旅行のプランの1つとして加えるのもいいかもしれない。
参考
- “Orgullo Gay 2017, El día que Barcelona salió del armario”, El País, 2017/06/28
- Arjonilla, Esther Ortega, Platero, Lucas (2015) ‘Movimientos feministas y trans* en la encrucijada: aprendizajes mutuos y conflictos productivos’ , “Quaderns de Psicologia”, pp.18-30
- Martinez, Omar, Dodge, Brian (2010) ‘el barrio de La Chueca of Madrid, Spain: An Emerging Epicenter of the Global LGBT Civil Rights Movement’, “Journal of Homosexuality”, pp.226-248
JobRainbow編集部より
今回数多くの応募がありましたが、ここまで深く海外の文化を掘り下げてくださったコラムは他にありませんでした。永田さんの経験と豊富な知識が活かされ、スペインでのLGBTの歩みもよく整理されています。素晴らしいコラム、ありがとうございました!
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