LGBTコミュニティ内の隔たりをなくす「フルーツ・イン・スーツ・ジャパン」代表ローレンさんインタビュー
東京レインボープライドも最大規模に終わり、LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーの頭文字をとったセクシュアルマイノリティの総称)というワードが取りざたされる中、実際のLGBTコミュニティにスポットライトが当たっていないように感じる。同性パートナーシップや企業の取り組みが進む中、一部の活動家の声ばかりが切り取られてしまってはいないだろうか。
傍観するLGBT当事者と声をあげる活動家の間には未だ大きな隔たりがあるが、それをつなぐイベントを定期的に開催している団体がある。それが「フルーツ・イン・スーツ・ジャパン」(以下フルーツ)だ。1500人を超えるメンバーを抱える同団体は、活動家とそうでない人達だけでなく、日本に住む外国人と日本人とのつながりや、ビジネスのつながり、そして友人や恋人といったつながりも生み出している。
今回はそんな同団体を日本で立ち上げ、代表を務めるローレンさんにお話しを聞いた。
MTVやFOXといった世界的メディアで働き、日本で起業
−ローレンさんは日本在住の外国人ですが、どういった経緯で日本に住まれるようになったのか、そしてどのようにフルーツ・イン・スーツがはじまったのでしょうか。
ミシガン出身のローレンといいます。日本に住むのは現在で3回目で、大正大学で週二回授業を持ちながら、今は自分の会社で4社ほどの企業のコンサルティングをしています。最初に日本にきたのは20年以上も前です。アメリカの大学で比較文学を学び、修士を取得した後、日本で今はJPモルガンのグループになった証券会社に入りました。そこで5~6年、ゲーム会社や通信会社を担当していたのですが、90年代半ばから、今後インターネットが普及するにつれ通信会社のパイプを通してコンテンツを配信するようになるのではないか、メディアが重要になってくるのではないかと考えるようになりました。
そこで「MTV」に入社、シンガポールで2年間、ニューヨークで1年間働いた後、オーストラリアで3年半「FOX kids」という子供向け番組の経営に従事しました。そこからアジア統括部長というポジションのオファーがあり香港の「Time Warner」にて新規事業や経営企画をしていたのですが、香港での生活があまり合わず、だけどもアジアに残りたいなと考えた時に、また日本に戻ってこようと思い立ちました。そこで、日本のテレビショッピングを放映する「オークローンマーケティング」という会社で働き始めたのですが、丁度ドコモに600億で買収されたんですね。最初二人の創業者によってはじまった会社が、こうして大企業の仲間入りをするのを目の当たりにし、段々と起業家に憧れるようになりました。
1. 起業、失敗、その先にフルーツ・イン・スーツがあった!?
その後起業家コミュニティに参加する中、優秀な仲間と、クーポンを制限時間制で発行するwebサービスの会社を立ち上げ、8億円を調達することに成功しました。ただ、グルーポンの日本進出によって、競争に勝つことができず会社は失敗してしまいました。同時に東日本大震災が起き、景気が冷え込んでいたこともあったので、一度アメリカに帰国。その時、日本に戻って残るか非常に悩みましたが、残るなら自分でまた会社をやろうと、今の会社を立ち上げました。お店をレコメンデーションするアプリを開発、3000万円を調達し、3年間頑張りましたが、成長させることができずここでもクロージングを余儀なくされてしまった。お金・エモーション・ラブ、全部が0になってしまったんですね(笑)。
じゃあこれからどうしようかと、もし次何かに挑戦するならば「好きなことをやろう」と思い立ち、それがフルーツの始まりでした。実はフルーツ・イン・スーツは元々オーストラリア発祥のグローバルなLGBTコミュニティのことで、自分もシドニーに住んでいる頃参加していました。それまでなかなか2丁目以外に集まれる場所がLGBTコミュニティになく、もう少しフォーマルな集まりが必要なのではないかと考え、この団体を日本で立ち上げました。
2. ブルガリで初のパーティを主催、大きな反響が
最初のパーティーは銀座のブルガリでした。衆議院議員の牧島かれんさんといった著名人の方80名ほどが参加され、いのちリスペクト・ホワイトリボンキャンペーンの明智カイトさんにLGBTのいじめと自殺防止について発表してもらったりもしました。非常に大きな反響があり、「またやってほしい」との声が続いたので、こうしたイベントを2ヶ月ごとに開催していこうとなったんです。どんなに大変でも定期的に必ず開催することが大事だと、これまでずっとやってきたのですが、去年の2016年に一般社団法人として法人化しました。活動を継続させていく上で、寄付を募ることもあるので、社会的信頼のある団体にならなくてはならないと考えました。
LGBT雑誌Oriiginのイベントも共催!
ダイヤモンド社がLGBTをテーマに扱った雑誌、「Oriigin」を出版したことで話題を呼びましたが、その火付け役としてローンチパーティを3月27日にフルーツインスーツが企画し共催しています。
どういったきっかけでローンチパーティの共催に?
もともと雑誌を立ち上げる段階から、お話しを聞いていたのですが、雑誌が発行される時に特にローンチパーティ等を企画はしていないのを知り、それはもったいないと、LGBTコミュニティに広めるという意味でも、イベントの開催を決めました。Oriiginにインタビューとして出ている人の殆どと私が知り合いだったのもあり、編集長にお願いしその人たちにパネラーとしてパネルディスカッションをしてもらいました。
LGBTツーリズムの専門家であり、IGLTA(国際ゲイ・レズビアン旅行協会)のアジアアンバサダーの小泉さん、LGBT総合研究所の森永さん、ゲイ向け総合情報サイト「g-lad xx」編集長の後藤さん、Michaelさんらが登壇し、LGBTツーリズムや今後のLGBTムーブメントについて熱いディスカッションが繰り広げられました。
団体の目的〜LGBTコミュニティのつながりを生む〜
−元はグローバルなLGBTコミュニティであるフルーツ・イン・スーツですが、日本での立ち上げにあたって団体の目的等はあるのでしょうか?
ひとつはビジネスコミュニティとして、より強固なLGBTコミュニティを作ることです。LGBTのビジネスパーソン同士で、強いつながりを作ってもらいたいと思っています。フルーツは日本だけのコミュニティではないので、世界でもそうしたつながりを作っていきたいです。まずは日本国内のつながりから、日本や台湾、中国、韓国といったアジア全域でのつながりに、そしてそれを世界全体に広げていきたいと思っています。例えば私も香港に出張で行った時に、現地のフルーツの集まりに参加しますが、そこでは香港でのビジネスやキャリア関連の出会いも見つけることができます。
コミュニティを構築し、成長させるためにはこうした「つながり」がとても重要です。今日本のLGBTコミュニティはバラバラで人とのつながりが薄れてしまっていますが、そこをもっと強固なものにできたらと思っています。その上で、友人や恋人との出会いやキャリアの出会いを促進していきたいです。実際にもう4組のカップルがイベントを通してできているんですよ(笑)。
1. 社会的な取り組みに対し周知や金銭的支援も
二つ目に社会的な取り組みを支援することです。イベントではそれぞれいじめや自殺といったテーマについての勉強会をしたり、ファンドレイジングパーティーを開いて、これまで5つの団体に寄付もしました。
ただ、今現在フルーツの理事会の中で話し合われているのは、私たちが直接何か社会課題にアプローチできるのではないのかということです。他のNPOに寄付をするのではなく、実際に我々が動く必要があるということですね。特にフルーツは沢山のビジネスパーソンをメンバーとして抱えているので、LGBTの学生に対してフルーツの社会人がメンタリングをするような活動ができないかと考えています。
2. 外国人や活動家との隔たりをなくすことができた
−フルーツ・イン・スーツをやっていてよかったことやコミュニティで起きた変化は?
活動を続けていく中で、だんだんとLGBTコミュニティの中で名前が知られるようになってきたのは嬉しいですね。昔は参加費用も8000円近く、「敷居が高い」「お高くとまっている」というイメージもありましたが、最近ではOriijinのイベントのように2000円でドリンクと雑誌が読めるという風に、様々な人が参加できるようになってきました。
そしてなによりも良い出会いを生み出せていることです。友人や恋人、ビジネスや新しい仕事がみつかったという人もいます。そうした出会いによってコミュニティが成長し、より強いつながりをつくることができていることに繋がっています。それはフルーツ・イン・スーツという団体としての目的を果たしつつあるということですね。
特にフルーツには外国人も多く、LGBTコミュニティにおける日本人と外国人の隔たりをなくすことにもつながっていると感じます。日本のNPOが行なっている活動を、外国人のメンバーが知り応援する機会も生み出せていますし、逆に日本に住む外国人の人の文化を日本人が理解する架け橋にもなれています。
−元々LGBTコミュニティのギャップに問題意識を感じていたのでしょうか?
そうですね、例えば同性婚関連の団体についてですが、国内の団体は海外に対する発信を全くしていないところが殆どで、サイトも日本語だけなので、なかなか日本在住の外国人にもその活動が伝わっていません。日本で行われるイベントも日本語のみで外国人は来たがりませんよね。
加えて、日本のNPOのイベントは勉強がメインで、どうしても終わった後に疲れてしまうというか。例えばですが、市民会館みたいなところで古いパイプ椅子に座って、舞台で弁護士の人がずっと2時間話しているのを聞くだけ、という形のイベントに専門家でもないライトな層は参加しませんよね。かといって2丁目でそういった深い話はでてきません。
このように、なかなか色んな人が楽しみながらNPOの活動についても知れたり参加できたりする場は日本にはあまりありませんでした。なのでフルーツのイベントでは活動家とそうでない人たちをつなぐ役割も大事にしています。そこで初めて活動に興味をなかった層も興味を持ったり、知ることができる、最終的に大きなパワーになると思うんです。
JobRainbowの読者に一言
私はアフリカ系で、見た目でもそれはわかってしまいます。母国のアメリカではマイノリティでしたが、それは隠せるものではありませんでした。一方で、自分がゲイであることは隠そうと思えば隠せることかもしれません。ただ、それを隠していくことも、辛くてできなかった。実際に23歳の時初めて親にカミングアウトをし、親からの反応は期待していた通りのものではなかったですが、心がとても軽くなるのを感じました。自分を良く理解し、「自分らしくいる」ことは人生においてとても重要です。なので皆さんが、もしカミングアウトできないことで悩んでいるのならば、それは当然のことです。少しでも貴方が「自分らしく」いるためには、まず自分を理解すること、そうして勇気をだしてもらいたいです。
同時に、幸せは他の誰かや何かが運んでくれるものではありません。例えば良い仕事につけば幸せになれる、良い彼氏が見つかれば幸せになれる、お金があれば幸せになれる。「~があったたら、~できれば」で幸せになれるというのは間違いで、今幸せだから何か新しいことができたり、チャンスを掴むことができるんです。現状に不満を感じているなら、まず自分が本当に何がしたいのかを見極め、怖がらずに、今が幸せなんだと信じて、リスクをとってみなさんに一歩踏み出してほしいです。