まさに草の根。オラクルのLGBTコミュニティ“OPEN”の取り組み【前編】

ライター: JobRainbow編集部
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ダイバーシティ&インクルージョンを草の根から支えるLGBT&アライコミュニティ「OPEN」の積極的な活動や、リクルーティングにおける多様性重視の徹底を行い、LGBT施策の先進的な例として今注目されている日本オラクル株式会社。今回はOPENで活動されている中野さん、川向さん、人事担当者の鈴木さん、当事者社員の古積さんにお話をうかがいました。

前半ではLGBTコミュニティ「OPEN」のお話を中心に、発足のきっかけから活動内容についてまで、その草の根的な取り組みに迫ります。

LGBTコミュニティ「OPEN」について

―まずは社内コミュニティである「OPEN」発足のきっかけについて教えてください。

中野:元々はOWL(Oracle Women’s Leadership:アウル)という女性向けのコミュニティでダイバーシティ推進を行っていました。今後はさらにダイバーシティの輪をLGBTにも広げて行きたいよねという話をしていたところ、偶然の出来事ではあるのですが、元オラクルの同僚でゲイであることをオープンにして働いていた男性が、転職した数年後に突然亡くなったという連絡をうけたんです。

お通夜の後で川向さんと話していた時に、彼は転職先では性的指向をオープンにしていなかったということがわかったんです。私たちは彼に「この社会は誰もがオープンに出来る環境があるわけではないんだ」という宿題をもらったと受け止めました。私たちがなにか出来ることはないかと考え、LGBTの方を支援するコミュニティを立ち上げたのがOPEN発足のきっかけでした。

オラクルのLGBTコミュニティ発足はアジアで日本が初!?

―実際に立ち上げるまでの経緯について。

川向:最初にアメリカでOPENというコミュニティが立ち上がり、現在は世界中にOPENコミュニティを広げていこうとしています。実はアジア太平洋地域でOPENを立ち上げたのは、日本が初めてなんです。

うちの会社でそういうコミュニティを立ち上げるのって、トップダウンではなく完全にボトムアップです。手を挙げる人がいれば「どうぞ」という形。強制力が全くないのですべて自発的な活動です。最近はイタリアでも立ちあがりました。一方でムスリムが強いマレーシアのような国はOPENのようなコミュニティを立ち上げるのが難しかったりするようです。

―逆に言うと日本は立ち上げやすかった?

川向:宗教的なしがらみがないという点ではそうかもしれません。同性婚も法律として決められてはいないけど罰則はないし、若い世代はオープンに話をしているという土台があったのも要因ですかね。

―活動を本格化させたきっかけは?

川向:2015年春頃始まった草の根の当初の活動は、個人が読んだ本や勉強会について報告するもので、月に一回くらい行っていました。それが半年くらい経つ頃には、ただ勉強して自分達だけでわかったで終わりではなくて、人事に働きかけるには何が必要なのだろうと言う風に、勉強から一歩進みたいというタイミングがきたんです。work with Prideという人事担当者向けのプレセッションに参加をしようと決めた時期から活動が本格化しました。

基本的には人事担当者向けで、昨年参加した企業だけが参加するセッションだったのですけど、それでも「去年は参加してなかったし人事担当でもないけれど、どうしても今後人事を動かして会社を変えたいからプレセッションに行きたい」という趣旨の熱いメールを送って、参加させてもらいました。

―OPENの具体的な活動内容について。

中野:まずは社内への啓蒙活動(基礎知識をひろめること)から始めました。例えばLGBTの知識、アライとは何か、アライとして出来ることは何かというのを考えるセミナーを不定期で開催しています。また、社内ではLGBTを扱った映画の上映会の実施や、社員のLGBTへの意識を知るための調査として匿名のアンケートを年に1回行っています。

年々のアンケート結果を見ていると、好意的に受け取られることが増え、アンケート内でも自身が当事者であると公表する人も多くなっています。社内の雰囲気としては当事者だという抵抗感はあまりなく、むしろ言いやすくなってきたのではと感じています。

―OPENの人数は?

川向:OPENの人数は30名を超えてます。最近では新卒や中途採用の社員の入社後に行われるオリエンテーションの中でOPENの活動を紹介しています。それがとても効果があり、最近は1週間に1人くらいのペースでメンバーが増えています。

コミュニティ外部へ向けての活動

―オラクルは今年(2017年)のTokyo Rainbow Pride(TRP)にも参加されていました。そこでの活動について教えてください。

中野:パレードで、日本オラクルとして今年初めてブース出展をしたのですが、そこで弊社の技術を活用したチャット・ボットを設置して、その場で来場者の悩み相談を行う取り組みをしました。そもそも当事者の方が知りたいと思うQ&Aのデータベースがこれまでにあまりありませんでした。なのでブースで直接当事者の方から知りたいことを聞いて、それを来場者に回答してもらうという形式、つまり直接ブースでデータベースを収集することを社外活動の一環として行いました。

―社内のコミュニティ外部の方にもOPENは浸透していますか。

古積:全社メールでOPENの最近の活動報告などを定期的に行っていることもあってか、だんだん浸透してきていると思います。意識調査アンケートを行った際、今年答えてくれた人の数が昨年に比べて3倍近くに増えたことには驚きました。

―社外での認知度はどうでしょうか?

川向:最近は社外からの問い合わせも多く、どうやったらアライが増えるのかとよく聞かれるようになりました。特に日系企業さんだとアライ自体を増やすことが難しいという課題感を持っているところが多いようで、オラクルのようにアライが自然に増えているのは少し珍しいのかなと感じます。

営業担当に依頼されて担当顧客の人事担当者やダイバーシティ担当者にオラクルのOPENの活動内容をご紹介することもあります。社外からのフィードバックを聞いた社員がOPENの価値を感じて、そこからサポーターが増える。そういう良い循環が少しずつできています。

セミナーにおけるこだわり

―人事との活動の違いについて。

川向:そもそもOPENは希望者のみが集まって草の根のコミュニティとして立ち上げたものです。立ち上げ当初から会社の組織である人事や法務とは活動内容を棲み分けようという話をしてきました。会社が主導でやるのは制度変更や全社向けの必修セミナーです。一方我々OPENがやっているのは草の根の活動で、希望者対象のセミナーでアライについて話すだとか、映画の上映後に討論するだとか、そういったカジュアルなネットワークを広げていこうとするものです。OPEN内には当事者もいるので彼らの意見や、なぜ制度改革が必要なのかを経営者層に伝えるのもOPENの仕事かなと思っています。

セミナー内容は会社主催とOPEN主催とで内容や対象が異なっています。たとえば法務でハラスメント対策のセミナーをするときに、セクシュアルハラスメントの対象にはLGBTの人達も含まれているというような形で明言してもらうだとか、人事が管理職向け研修をするときには、逆にOPENの当事者側からニーズを伝えるなど、OPENは会社と協同しつつ、トップダウンとボトムアップの両方からアプローチしようというやり方をとっています。

「ふーん」で終わりにしないLGBTの啓蒙活動

―セミナーにおいて注意している点やこだわりについて。

川向:LGBTの問題を自分事として理解してもらう必要があると思っていますので、ロールプレイを重視しています。表面上だけ「Lはレズビアン、Gはゲイ」とわかって終わりではなく、当事者がいたらどういう風に自分の行動を変えていった方がいいのか考えてもらう時間にしたいと思っているので。具体的なケーススタディを用意することで、実際にこんなことがあったらどうしよう、と想像力を働かせてもらい、自分だったらこうしようと真剣に考えられる。ただ聞くだけのセミナーだと「ふーん」って聞いて終わりになってしまいます。ただ知識では終わらせたくはないという気持ちでやっています。

―社内で管理職向けに義務的に行っている研修もOPENの皆さんが?

川向:研修自体は第三者のトレーニング機関にお願いしているのですが、その研修内容にOPENとして最初から関与して一緒にゼロから作っています。日本オラクルオリジナルですね。最初は自分の中にある無意識の差別や偏見に気づいてもらった後で、一つの事例としてLGBTの話につなげるという導入にしています。

ロールプレイは毎回必ず行い、カミングアウトする側とされる側両方をやってもらいます。そうするといろいろな気づきがあり、自分がカミングアウトしてみると「こんなに緊張するんだ」ということが分かるようです。役に入り込む人だと5分間のロールプレイの中でいつ言おうか最後までしどろもどろになってしまう人もいて、「こんな思いでカミングアウトってするものなんだ。もし自分がされたら、これは大切に本気で聞かないといけないことなんだ」というフィードバックもありました。ロールプレイはとても有効だと思います。

携帯に貼られたオラクルのアライステッカーの画像
携帯に貼られたオラクルのアライステッカー

OPENの価値観とこれからの課題

―「OPEN」が大切にしている価値観はなんですか?

中野:私たちが伝えたいことは、世間では「LGBT」という言葉でひとくくりにしているけれど、実際はそうではなくて、一人ひとりは違っていてニーズも異なるということ。だから、そのニーズを理解したいし寄り添いたいと思っています。カミングアウトを強制するつもりもないし、していなくても当事者が働きやすい環境にしたいなと。当事者が周りにいないと言う人って、本人に悪気がなくても飲み会などで差別的にもとれる言動をしてしまう。だから、目に見えなくても当事者はいるという意識を持って欲しいというのが、私たちの願いです。

―「OPEN」として会社を変えることが出来たと思うこと、今後進めて行きたいことや率直な課題感などはありますか?

川向:外資系の会社なので海外生活が長かったり、LGBT含めた性的マイノリティの同僚が身近にいたために「僕は差別しない」という人も多いのですが、実際にセミナーで学びロールプレイを体験すると、そもそもの想定の中に性的マイノリティを考慮していない人も多い、それ自体が無意識のバイアスだという気づきもありました。

LGBTや性的マイノリティというのは多様性の中の一部でしかなくて「管理職で上司である立場の自分が受けるカミングアウトは性的マイノリティだけではなく、いろんな可能性がある。様々な多様性をもった人達を受け入れながらマネージメントをしていかなければいけないんだ」と感想を言ってくれた方もいました。性的マイノリティの人達だけを特別視するのではなくて、自分の価値観とは違ういろんなマイノリティがあるんだという可能性を想像するということが、ダイバーシティ&インクルージョン、つまりみんなを巻き込んで働く職場環境につながっているのではないかと考えています。

活動を通して学んだこと

―個人として、お二人が活動を通して学んだことは?

中野:まさかこんなに早く人事の制度を変えられるとは思っていませんでした。活動する中で広まっていくのが実感でき、みんなで力を合わせればできるんだなと思いました。本当に感動したことは人事や管理職の人達が協力的だったこと。ボトムアップでも進めやすかったです。頭ごなしにダメと言わず、どうやったらできるか、どうサポートすればいいかというスタンスで話を進めてくれる。

川向:この活動を始めると当事者の方とすごく出会うんですね。周りの人達が全員当事者で、自分が逆マイノリティになることも珍しくない。当事者も普通の人だと思う一方、違う価値観や違う恐れを抱えていると気づくこともあります。そういった経験を通じて、今まで私自身、無意識に自分にとって居心地の良いコミュニティの内にのみにいたのだということがわかりました。きれいごとのD&Iじゃなく、本当に違う価値観を認めることの難しさを感じます。でも難しいからこその価値を体感できたのがよかったです。

私自身は、OPENの活動と並行してさらに違う価値観や違うダイバーシティに興味が出てきました。たとえば病気療養中の方たちや様々な障害を抱えている人はオラクルでインクルーシブに働けているのだろうかと。多様性に触れることでより広い多様性に気づきました。

『LGBTの社員と人事に聞く、オラクルが目指すダイバーシティ』【後編】

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