LGBTとして就活するってどういうこと?カミングアウトのリアルを聞く「セクマイキャリア」イベントの振り返りとまとめ

ライター: JobRainbow編集部
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こんにちは、学生インターンのりえぽんです。3月26日に行われた、Jobrainbow主催のキャリアイベント第1弾は、都会の秘密基地のようなお洒落なスペースを貸し切り、アットホームな雰囲気の中、就活の悩みやキャリアプランについて、Jobrainbowのスタッフと参加者が直接対談しました。3月の終わりとは思われないほど、冷たい雨の降りしきる寒い日にも関わらず、多くの方が参加され、中にはわざわざ地方から来て下さった方もいました。

第1部「カミングアウト就活体験談総集編」ではLGBTとしてカミングアウトしながら就活を経験する中で、気をつけるべき点やそこにあったエピソードなど、7の質問それぞれにこたえる形で、パネルディスカッションをしました。

※あくまでも個人の経験にもとづく一意見であり、参考にすぎないということをご了承下さい。

登壇者紹介

ほしけん… 立教大学、外資系メーカーマーケティング職内定獲得

しみたに…上智大学、18卒就活中、旅行業界志望

アンディー…東京大学、18卒就活中、メーカー志望

おつゆ…MARCH卒、人材会社勤務

ひろ…早稲田大学、19卒見込み、人材・IT・美容業界志望

会場の席の様子

第1部「カミングアウト就活体験談総集編」


Q1. 企業選びの際の軸は何でしたか?

-LGBTフレンドリー企業という軸!?

ほしけん…私の場合は2つの軸があり、1つ目は経営者としての観点から取り組むことのできるベンチャー企業か、若いうちから裁量権のある外資系企業であるということ。2つめは自身がセクシュアルマイノリティであり、そのことを隠す必要のないオープンな職場環境であるということでした。自身のセクシュアリティを隠すことは精神的に負担がかかり、仕事にもマイナスな影響を与えてしまうと考えました。

しみたに…特に軸は定まっていません。実際に働いてみないとわからないとも考えています。ただ、人材会社を志望した際、ふと立ち止まり、自分が本当にやりたいことは何なのかと考えた時、高校一年の時にツアーコンダクターに憧れていたことを思い出しました。そこから、旅行業界を志望するようになりました。LGBTフレンドリーな企業であることよりも、就職後に自分のやりたいことをすることが出来るかどうかを優先しています。ほとんどの企業でカミングアウトしているので、面接に落ちたところはそこを含めて私のことを受け入れなかったということだし、企業側も選ぶ立場ですので、受かったか受かってないか、個人で見ていただければ、それが全てだなと思っています。

アンディー…私も軸は2つあります。文系ですが音楽活動をしており、将来も出来れば続けたいので選択肢が分かれました。1つ目は、平日は会社で決まった業務を行い、休日は音楽活動や社会的な事業に関われる副業をするということです。2つ目は20代のうちから仕事に邁進し、バリバリ働くことです。結論としてLGBTフレンドリーでない企業やメーカーも選択肢に入っています。最終的にフレンドリー企業かそうでないか方を選ぶかは、自分の選択に迷いがあるため、結果論的にご縁のあった方(内定が出た方)に決めようと考えています。

ひろ…では、しみたにさんとアンディーさんはLGBTフレンドリーな企業であることよりも、自身のやりたいことを優先しているのですね。

しみたに&アンディー…そうですね。

-LGBTフレンドリーであるかは一要素

ほしけん…じゃあ例えば、2つの企業に内定が決まって一つ目はLGBTフレンドリーな企業でもう一つはそうでなかった場合、どちらを選択します?

しみたに…企業の条件にポイントを付け、LGBTフレンドリーでない企業でも、給料や勤務地の条件が良くポイントが高ければそちらを選択します。

ひろ…しみたにさんの中でLGBTフレンドリーであることの優先順位はどのくらいですか?

しみたに…あまり高くないですね。今までも相手によってオープンにしたり隠したりしてきたので、企業を相手にするにしても同じことだと思っています。

-トランスジェンダーならではの悩みも

ひろ…なるほど、では現在既に社会人として活躍されてもいる、おつゆさんの軸は?

おつゆ…私の新卒での就職活動は2014年、今から3年前のことです。私は手術も治療もしていないトランスジェンダーで、そのことを受け入れる企業であることが大前提でした。そうでないと、就職後に性別、トイレ、健康診断、名前の使用という問題が生じた時に対応できず、仕事も続けられなくなるからです。3年前はLGBTに関する情報が少なく、みんな知らないということが普通だったので、規模が小さく、歴史も浅い会社もしくは服装が自由な会社に絞って、就職活動をしていました。やりたいことは脇に置いておき、まずは自身を受け入れるところを探しました。周りの友人に話を聞くと、その方がうまくいくそうで、私もスーツは嫌いだったので、私服で選考に行けるところを受けていました。

Q2. 就職活動において、悩みや葛藤したことは?

-LGBTフレンドリーであることを優先しすぎることで、やりたい事が出来ない

おつゆ…さっきの話と重なってくるところはありますが、当時は自身のジェンダー、セクシュアリティや性別を優先するがゆえに、自分のやりたいことが出来ない葛藤がありました。やりたいことが出来る企業に行っても、自分が傷付いたり、受け入れてもらえないと思っていました。三年前の記憶なので、曖昧なところはありますが…。

アンディー…就職活動って、自分のやりたいことがわからないだとか方向性について時間を割いていくのでセクマイという軸で悩んでいることにについて考えるのはどうしても後回しになってしまうのですよ。ただ、個人的な話でいうと、生まれてからここ20年くらい、私は割と周囲に適応していた方だと思います。

セクマイの中でも自分を出す人と出さない人がいて、私は幼少期に周囲から浮いていると思ったことがあって、それから先は意識して適応能力を長年かけて身につけていきました。社会に出て、これまでの人間関係も変わるとなると、その適応能力を生かしていくのか、それとも(セクシュアリティを隠すという意味で)限界にきているかもしれないから、自分らしくというか、といっても自分らしさなんて普段は忘れてしまっているのですが、自分に正直に生きていくのかというところで、今も葛藤しています。

また、会社によっては結婚をどうするのかなどライフプランについて聞いてくるので、それにどう対処するか、人生設計はしづらいのでそれも個人的な懸念のうちのひとつです。

ひろ…先ほど企業選びの軸で、やりたいことと両立するか、仕事に邁進すると言われていましたが、就職先で自分を出すか否かも企業によってきめるということですか?

アンディー…運を天にまかせるというか、流れに乗っていくことで拓けていくこともあります。私はカムアしたい、ゲイ全開でいきたいという我が強くないので、柔軟に流れに乗りつつ決めたいと思っています。

-LGBはカミングアウトしなくても本当に困らない?

しみたに…あまり悩みはなくて、トランスジェンダーに比べて、隠して生きていきやすいというか、生きていけてしまう。生活に支障をきたすことはないし。強いてあげるなら社員合宿などで同性と風呂が気まずいというくらいかな。ープンには…現状はしないかな。

ほしけん…今お二人が話してくれたことについて、今まで隠して生きてきたから、働くこともその延長線上にあることだし、確かにトランスジェンダーの方に比べたら、生活する上で悩むことは少ないとは思います。ただ、実際に私が会社で働いて感じたことは、同僚や上司、部下とは友達よりも長い時間を社内で過ごすし、プライベートと仕事を切り離すことは難しい。自分を隠したまま社内ですごすのは隠すことに集中してしまい、仕事に影響が出てしまってました。起業したい、経営者になりたいという目的意識を持った時に、いちいち隠してしまうことで仕事の成果が下がることは本望じゃないなと思いました。実際に自分のセクシュアリティを隠すと、仕事の生産性が30%近く下がるという結果がブルームバーグより出ています。

実際に働いた上で隠すべきではないかなと思い、最初のインターン先で職場の人にカミングアウトをして、受け入れてもらえたことがあり、その後もいじめや嫌な噂がたつような大事はなかったので、そういう企業がいいと思いました。それからは、自分からではありませんが、途中選考で深掘りされたとき、答えるべきタイミングで答えるということをしています。

ひろ…仕事をする人との信頼関係を築くということですよね。自己開示するというか。僕もインターンをする中で職場の人との信頼関係が深まっていく一方で、自身のことは取り繕わなければいけなくて、そのことで葛藤がありました。

トークショーの様子

Q3. カミングアウトをして、就職活動した理由は?また、選考のどの段階で?

ほしけん…もともと経営者になりたいという軸があり、同時に自分がセクマイサークルの会長だった時、セクマイが就活にネガティブに働く側面もあったし、サークル内のトランスジェンダーの人も苦労しているのを見て問題意識を持っていました。だから、面接官に何がしたいか聞かれたときに、LGBTの人達を支援したいです、なぜなら自分も当事者で身近に困っている人を見てきたから解決したいですって答えていました。

ただ、異性愛者の人がわざわざセクシュアリティについて公言しないのと同様に、自分からわざわざ言わないように気をつけていましたね。実際に就職活動してみるとわかるのだけど、正直に熱意をもって話すことが選考結果にもつながっていくし、嘘を言ったら面接官にも自分が嘘をついていることがわかってしまう。それで落ちたら元も子もないですよね。僕はそういう意識を持って、要所要所ではカミングアウトをしていました。

しみたに…カミングアウトをするようになったのは、去年の春~冬にアメリカに留学してからです。留学前はクローズドにしていました。しかし、現地で知り合ったLGBTの人達が自身のセクシュアリティをオープンにして、活き活きとした生活を送っているのを目の当たりにし、影響され、自身のアイデンティティの一部として肯定できるようになりました。その後は多くの人々に知ってもらいたいという思いでカミングアウトをするようになりました。選考で必ず留学をした理由について聞かれたので、英語を話して外国人と仲良くなり、同性婚したいからと答えていて、ゲイだということを全面にさらけ出していました。(一同笑)。

カミングアウトにある意味はまっていた時期もあったけど、痛い目にも遭いました。日本に帰ってきてからは、自分の夢にLGBTの問題が絡んでいたので、日本の企業の面接では同性婚したいからではなく、今の日本の現状を変えたいということを自分のセクシュアリティのことも交えて話すよう心がけました。私も自分からは言わないようにして、深掘りされた時に根底にそういう事情があったから、ということを話していました。

-隠すと嘘がばれることも・・・

ほしけん…僕はそもそもLGBTフレンドリーとわかる企業しか受けてなかったので、自分のことを話すのに抵抗は少なかったけど、そうでない企業の面接でも同じように話していたの?

しみたに…そうでないところでも、一応そこのHPの、CSRやダイバーシティ推進の部分に書かれていることを調べてはいました。どちらにせよ、隠して嘘をつくのが苦手なので、カミングアウトは抵抗があっても、せざるを得ないというか。友達には嘘がうまい人がいて嘘を重ねて複数の企業から内定をもらっていたけど、僕はそうじゃなかった。例えば。トイレを作るメーカーの面接で、トイレが本当に好きなので関わりたいって言ったら普通に落ちちゃったし。(一同笑) 嘘はばれるからね。

アンディー…僕も入社後が心配とかじゃなくて、もともと話せるネタがなかったのもあり、長い面接の中の切り札として持っておくというか。JobRainbowでの活動について話すのにも必須だから、半ば必要に迫られてしていました。

社員さんと意見交換をした上での面接だったから、うまくいきましたね。これは例外的な事例なので、皆さんの参考にはならないですけど、それ以外でも最初の面接でどう行けばいいのか、感触がこの時わかったのは大きかった。情報量の少ない、どんな反応をされるかわからない企業であっても、割と実験的に言ってみようというのを繰り返すようになりました。

カミングアウトの段階としては、ESがある場合は質問項目に“少数者”とか“マイノリティー”と面接官が気になるであろうワードを書いておいて、相手から説明を求めさせてから答えるスタイルが多かったです。最初に突っ込んじゃうと、話も短くなるし、向こうから片づけられてしまうから。

おつゆ…ESのどのあたりにそのキーワードを書くの?

アンディー…大手だとESの質問項目が少ないけど、小さいところだと逆に質問が多いし細かいところまで聞かれて。例えば仕事以外でもいいから、将来実現したいことは何かとか、包括的な話になるから少数者の環境改善と書いて内容について聞かれるのを待つ、聞かれなかったらそのままスルーするということで。

イベントの様子

-時代が変わってきている

おつゆ…最初の質問につながってくるのですけど、入社後に自分が困るのは嫌なので、履歴書や、ES(書類選考)の段階から公表していました。今は会社によっては性別を記入しなくても良い履歴書を取り入れているところもあるのですけど、当時は性別選択の欄に男女しか選択肢がなかったので、男女の間にある“・”に丸をし、説明も細かく記入しました。面接をする時点で相手は自分のジェンダーをわかっているから、そのまま面接でも話していました。

さっき3人の話の中で、面接で深掘りがうまい企業に自分のやりたいことや、将来像を話す場合それにセクマイが結びついていると嘘がばれてしまうというのがあったよね。ただ、自分のやりたいことがセクマイにリンクしていなければ、そんなに受け答えに詰まることはないでしょう、なのでわざわざカミングアウトすることもないかもしれない。知り合いのゲイの子達は面接で深掘りされた時に、ゲイであることを隠したらうまくいかなくて、正直に答えたほうが面接も通ったという話も聞いてます。あとは、面接官のスキルによっても変わってきますね。深掘りが出来ない人もいるから、聞かれなければスルーすればいいし、深掘りされて、LGBTであることを隠して嘘をつくと、少なくとも嘘をついていると見抜かれることもあると個人的には思っています。

-カミングアウトするかしないか、最後はその人の選択

ほしけん…ここに集まっているメンバーは、LGBTの現状に問題意識を持っている人達なので、カミングアウトせざるを得ない状況になったということですけど、おつゆさんの言う通り、必要に迫られなければ、しなくてもいい。面接官でも仕事に関係ないのなら、なぜこのタイミングでカミングアウト?と考える人もいるだろうし。

おつゆ…会社に入った後、自分がどうありたいか、どういう人間関係を構築したいのかにもよってくる。実際会社に入った後でも、カミングアウトしていないだろうなと見受けられる人もいるし、相手から聞いてほしい人もいれば、自分からオープンにする人もいます。面接で言うのか、職場に入って雰囲気を見てからいうのか、最初から言わないのかは人それぞれだから、どの選択肢をとってもいいと思います。

Q4. カミングアウトをして就活をする中で、面接官の反応は?

-本当の意味であたり前に接してくれる面接官も

ほしけん…私はLGBTフレンドリーと言われている企業を受けていたので、相手の反応は「そうなんだ。うちはそういうのは全然気にしていないけどね。」っていうのが多かったです。たまに面接官の方が驚いていることもありましたね。やっぱり、そこで驚かずに話を進められるような面接官との方が話は進みます。実際に内定を頂いた外資系の会社で面接をした時は、私以外にも世界中から、自分らしく生きるためにLGBT当事者がその会社に集まってくるということを、なんの嫌味もなく話してくださったことが、とても印象に残っています。

また、内定が決まったあと、食事に呼ばれて話をしているうちに恋愛トークになったことがあるのですが、自分のパートナーについて気軽に話すことができて。「そうなんだ。(沈黙)…なんか、ごめんね!」という反応ではなく。(一同笑)ストレートの人に聞くのと同じように話題が繋がっていたので、その時は良い会社に就職ができてよかったと感じました。

ひろ…日系企業と外資系企業で、反応に違いはありますか?

ほしけん…私は日系企業もいくつかうけましたが、どちらにせよLGBTフレンドリーと言われているところばっかりだったので嫌な対応をされたことはほとんどないです。むしろ、カミングアウトすることで、相手に興味を持ってもらえたとか、信頼を得られた部分が大きかったです。これはあくまで一例ですけれど。

-時にはネガティブな反応も・・・

しみたに…僕の場合、反応は4パターンありました。1つ目は良い反応。日系の人材会社では完全にスルーされ、問題ありませんでした。民泊をやっているタイの会社では「言ってくれてありがとう。誇りに思うよ」って完全肯定されたりもしました。

2つ目は、嫌なことは言わないけど、面接官が緊張してしまって挙動不審(あさっての方向を向いて話す等)になるとか。それは、企業が面接官にちゃんと対応をするように教え込んでいるのじゃないかな。LGBTについて知ってはいるけど、実際の対応は初めてで、おぼつかないっていう反応。

3つ目は酷い反応。「ゲイって、本当にこの世に存在するの」って言われたこともあります。あと、別の会社ではJobRainbowのことをESに書いたら、面接に呼ばれて、「この会社で何をされていたのですか?レインボーって…アレですよね?」なんて言われて。(一同笑)「ここでインターンをすることになった経緯は何ですか?」などと誘導尋問され、カミングアウトすると、今度は「ゲイの方は、会社に何があったらうれしいですか?」さらには「トランスジェンダーの方には何が必要だと思いますか?」と、自分と関係ない、挙句の果てには無料コンサルティングみたいなことを言わされて。(一同笑)インターンのことをESに書いちゃったから、多分データとして利用したいから面接に呼んで、落としたのかな。

4つ目は上から目線。「あーはいはい、いま流行りのやつね。」っていう…。(一同笑)人材会社なんですけど、「もちろん、取り組もうとしているにきまっているじゃないですか。」と。LGBTの抱える問題点をいくつか挙げて、説明されたりしましたね。後から分かったことですが、その面接官の方はひろ君の夏のインターン先の人事部の担当だったんです。

ひろ…僕がカミングアウトしたときも、「これからどんどんカミングアウトしていけばいいよ」とカミングアウトを強制されたりして、人材会社なのに、LGBTについての知識もないし、これで人材サービスが成り立つのかと感じました。

しみたに…でも、夏のインターンでひろ君がその方にカミングアウトしてくれたおかげで、その方はLGBTについて勉強し、理解する努力をするようになったわけですね。

ひろ…LGBTについての無料コンサルをさせられたというところは、LGBTへの理解以前に、企業の面接のスタイルという点で問題がありますね。

しみたに…結果的には僕はカミングアウトしてよかったと思っているけれど、ひどい目に遭う可能性もあるということは、知っておいて欲しいですね。

トークショーの様子

-面接官だけでなく、会社としての方針もチェック

ほしけん…そうですね。今回のイベントはカミングアウトを勧めるものではないし。一個人の経験者が語っているのだな、という風に思って頂きたいです。たまたま大企業の面接に行って本当は90%の理解者がいるのに、10%の非理解者にあたってしまって夢を閉ざすということもある。なので、私は個人が(面接官が)なにを考えるのかよりも、企業としてLGBTへの対応の方針が決まっているかどうかを重視します。その方針が社内当事者のセーフティーネットになることがあり得るからです。 

アンディー…私も今までひどい目に遭ったことは無いけれど、これからあるのかなと考えています。今までひどい対応をされた話をさんざん聞いてきたので、事例集が自分の中でありますね。(一同笑)カミングアウトした際に、自身のセクシュアリティの話にどれほどの時間を割き、干渉してくるのかという点では、3パターンにわかれます。

すぐに終わるか(興味なしやスルー)、質問攻めが続いて肝心な話が出来ずに面接が終わってしまって、向こうが興味を持ちすぎたせいでこちらの意図とずれてしまうパターン。一番良いのは適度な干渉で、セクシュアリティに関する経験についても話し、仕事と関連づけた質問もするところですね。例えば小さな組織コンサルの会社だったのですけど、「後回しにされがちなLGBT研修やコンサルを契約していくためには、どんな解決策があると考える?」という風な聞き方をしてくれて、自分の話(セクマイ関連)も、仕事に使えるアピールもすることが出来ました。面接官の方の力量がよかったのでしょうね。

カミングアウトのタイミングは早いほうが良くて、面接ごとに人が変わるのに就活生の情報は面接官の間では書面でしか伝わらない。なので、話す気があるなら最初から話すこと。そうすることで一貫性のある、正直な人だと思われます。カミングアウトをするタイミングは、一次面接か、内定後に人事を含めた関係者に伝えるのがいいですね。そこはしっかりスタンスとして持つべきかな。

ひろ…当事者と非当事者とでは、LGBTの知識にも差があるから、非当事者の面接官に一から説明しなければいけないこともありますよね。

ほしけん…30分しかない面接で、LGBTの説明だけで終わってしまうのは悲しいですよね。

-嫌な対応をする所は、逆に面接で気付けて良かった!?

おつゆ…僕も、天国のような対応と、地獄のような対応をされたことがあります。ESに書いているので、面接では「入社後はどんな対応をしてほしいの?」という内容の質問をガンガン聞いてくれるところもあれば、履歴書に書いたのにも関わらず、「今日は化粧をしていないの?なんでしてこなかったの?」と聞いてきて、事情を説明すると、入室してから5分か10分しか経っていないのに、「うちには君みたいな人はいない。帰ってくれ」と言って部屋を追い出された時もありました。

みんなが話してくれたように面接官の対応はそれぞれだし、人事や社長の人達がフレンドリーでも、社員はそうじゃなかったこともあるから、そこは難しいところですね。

また、中小企業の面接で、僕と同じトランスジェンダーの面接官の方との出会いもありました。お互いのセクシュアリティについて話すことが出来てよかったですね。

ほしけん…ポジティブな見方をすれば、地獄のような対応をされたところは落ちてよかったということですね。

おつゆ…そうです。会社にとっても僕にとっても幸せな別れ方だったと今では思います。

また、業界によっても対応は違っていて、例えば人材会社はお客さんにどう見られるかを意識しているので、スーツを着るのが当たり前です。マーケティングやITといった、社内で過ごすことの多い職場では、きっちりした服装でいる必要がないので、対応しやすいというところもあります。

Q5. 自身の経験から、企業選びを考慮して良かったと思っている点は?

ほしけん…企業の人とセクシュアリティに関連することについても気軽に話せることです。相手から聞かれますし、人によっては性について公で話すべきではないと考える人もいます。だけど、結婚について詮索してくる人にはっきり事実を伝えたほうがお互いに嫌な気持ちをせずに済むし、はっきり伝えることができる会社でよかったなと思っています。あと、カミングアウトするか否かは臨機応変に対応してもらうとして、人間なので、もしかしたらその企業に何十年も務めることになるかもしれないじゃないですか。LGBTフレンドリーな企業を選んで制度は利用しつつ、カミングアウトはしないというのもひとつの選択肢だと思います。

-就活中はまだ働くことのイメージができていない場合も

しみたに…ほしけんさんと、おつゆさんは働いた経験があるから、就職後の人間関係について具体的に考えていますよね。僕はインターンでしかなくて…。僕は虫が苦手なんですけど、一回アメリカの日系企業で働いていた時に虫が部屋の中に入ってきたときに捕まえてよと言われ、虫が苦手なので出来ませんと言ったら、君に可愛い彼女がいて、同じことを頼まれても出来ないのかといわれ、その人たちにカミングアウトどころか、話をする気がすっかり失せてしまいました。3か月のインターンで済んだからよかったものの、20年も30年も同じことを言われ続けたら、きついですね。

-LGBTであったから、他の事にも感度が高まっていった

アンディー…企業を選ぶ際にやってよかったと思うことは、まず社風や雰囲気が大事だと皆さんおっしゃいますけど、それを実際に肌で感じるために、インターンやインターン後の飲み会に参加してみたのはよかったです。受けている人たちの層や傾向がわかります。実際に足を運んで、五感で良いところも悪いところも感じとれれば、説明会だけでは見えないところが見えてきます。

縁が切れてよかった事例が二つあって、一つは、奇をてらわない王道の説明会を行っていた老舗の会社です。好感をもっていたのですが、説明会後に突然社員の休日を紹介しますという動画が流れ始めて、女子大生が目の前で見ているのにも関わらず、女性差別的な社員の声や、女性蔑視的な部活のマネージャー紹介が始まり、会場はシーンとなりました。

それを目の当たりにしてしまったら、評価する価値もないと言いますか、感覚として受け付けないですよね。

もう一つは、プライド指標を受賞した企業の説明会に行った時に、プライド指標の説明からしてあやふやで、「LGBTフレンドリーな取り組みが進んでいる企業に与えられるライセンス」と言っていましたが、意味が全く違います。それだけならまだ良かったのですが、「もうそのライセンスを取っているので、ご心配なく。」とまるで予防線を張るような言い方をされてしまったことが、残念でした。言葉の節々から伝わってくることがあるので、それを大事にして頂きたいです。

-他愛もない話も同僚と気軽にできる

おつゆ…ほしけんさんと似ているのですが、会社に入るときにカミングアウトをしているので、他愛もないプライベートの話が気軽にできるのは良いことですね。飲み会でもそのような話は多いですし、一日のうちの約二分の一を会社の人と一緒に過ごすので、嘘をつかずに過ごせるのはいいことだと思っています。人事の人たちが健康診断などの課題について聞いてきたり、人の温かさを感じることが多いですね。たまに言わないといけないことに煩わしさを感じますが、それでも自分が素の状態でいられることに助かっています。

Q6. 入社後のキャリアとセクシュアリティに関して懸念点は?

-個人の能力を見る会社では障害にならない

おつゆ…特にないですね。今の会社に関してはない、ということかもしれません。年功序列ではなく、成果主義ですし。最初に勤めていた会社の社長も、「男とか女とか年齢なんて関係ない。出来るやつが出来るんだ。」というスタイルでした。会社によっては結婚や付き合いが昇進に関わってくるところもあるのでしょうが、僕はそのような会社で働いたことが無いので、懸念点もない、ということになるのでしょうね。

-体育会系、伝統的企業には懸念が残る

アンディー…僕は、セクシュアリティについては先進的な考えを持っているけれど、それ以外ではクラシカルな物、きっちりとしたものが好きで、そこに重点を置くとどうしてもその好みに見合った企業になってしまいます。例えば伝統や歴史、仲間意識、上下関係を大事にするところでは上司相手ならビジネスライクにやっていけるけれど、同期の人たちと馴染めるのか、オープンにしたいけれど、出来るのかどうか、という部分が心配です。制度の面では、地方転勤になるメーカーもあるので、都心にいる知り合いと離れて、かつゲイとしての生活ができなくなってしまうことが、心配です。

しみたに…同性婚とか認めてもらえたらいいな、と思うので、制度は整ってほしいですね。あと、今の自分は会社なんて入ってみなければわからないと考えてしまっていて、もし入った会社で最悪の事態が起きてしまった場合は転職すればいいと思っていました。でも、今の日本市場で転職を1回すると、生涯年収が3000万円下がるらしくて、そんな大きな額を転職の度に失うなんて嫌じゃないですか。就職について真面目に考えないといけないし、アンディーも指摘していたように、社員との直の出会いを大切にすべきですね。OBOG訪問は一企業につき最低3人はするとか…なるべくミスマッチを避ける努力はしようと思います。

セクシュアリティは数あるうちの懸念点の一つでしかない

ほしけん…転職を考える理由にセクシュアリティは関係ないこともあるし、セクシュアリティ以外の部分(待遇、給与、昇進、社風etc…)でも企業とのミスマッチを防ぐことも考えなければいけないよね。それから、キャリアアップにセクシュアリティが関わるような企業は個人的にはいけてないと思います。今の時代に逆行するような、古めかしい制度を続けているところで働く自分を思い描くことが出来ないし、当事者でなかったとしても避けたいですね。

Q7. LGBTとして就活して良かったことは?

ほしけん…カミングアウトも就活がきっかけで、それまではオープンにはしませんでした。でも一度しか会わない面接官に自分の将来の話をしたり、就活って驚くほど自分と向き合う作業です。なんで、面接でカミングアウトしたときに受け入れて貰えたのがきっかけで、プライベートでも職場でも自分について話すことが出来、とても充実しています。

-LGBTフレンドリー企業は社員のことを考えている会社

しみたに…あらかじめ自分について言うことで、相性の悪い人を避けられるし、非当事者に影響を与えられることです。あと、LGBTフレンドリーな企業ってLGBTに限らず、社員に優しい企業だと個人的に思います。一人一人の能力や人柄をよく見ている企業だと感じます。

アンディー…周りの人たちよりも視点が一つ多いので、その分企業との相性の良し悪しを批判的に見ることが出来ています。縁を切るべき企業を早く判断できるのはいいことです。あとは、家族のしがらみに縛られることなく、自分のやりたいことに集中できることです。

おつゆ…3人の話と似てきますが、「幸せな別れ」が出来ていると感じます。あと、かなりポジティブに捉えているのは、両方の性別の人の気持ちがある程度わかることです。もちろん100%ではありませんが、女性よりは男性の気持ちがわかるし、男性よりは女性の気持ちがわかりますね。それから、社内にセクマイのコミュニティがあるので、人脈が広がります。普段話せないような偉い人とそこで話す機会があったり、アライの人と知り合えることが出来て、社内での枠が広がります。ここ数年、いろんな会社内で人事部の指導によって当事者のコミュニティが増えているので、他の会社のコミュニティに属している人と話したり、交流が好きな人には魅力的ですね。さらに新卒でも社内の制度構築について意見を求められるので入り込みやすく、会社の改革に携わる機会があることですね。

ほしけん…就活生からカミングアウトされたことのある面接官は、結構な数の人がいるという調査もあって、今回のイベントのテーマであるカミングアウトが当たり前になりつつある変化の途中が今なのだと思います。

-締めの言葉

ほしけん…LGBTであることは、その人の一要素でしかないし、働くことはLGBTに関わらず沢山大変なことがあると思います。ただ今回のイベントを通して、LGBTという観点からは不安な点を解決できる方法がいくつかあるということを、一例ではありますが、今後みなさんにとって少しでも役に立っていけば良いなと思います。

会場の様子

第二部の様子とまとめ

第二部では、フリートークと称して参加者とスタッフが3つのグループに分かれ、時間ごとに交代しつつ話しました。就活に着ていく服装など、就活に関する相談のほか、地方から来ていた方は、コミュニティが地元になく、都会に集中していて、共通のセクシュアリティの友人が作りづらい。居場所となるような施設やコミュニティが欲しいといった切実な悩みもありました。

ボランティア、パレード、映画祭、NPO法人主催の成人式、サークル、コミュニティ施設…。非当事者の私も、中学高校は集団行動が苦手な性格のせいで同級生から孤立してしまい、上京してから社会にそのようなセーフティーネットがあることを初めて知りました。生きる空間はあるのに、心の拠り所がない辛さを、参加者の方は日々感じているのだと再確認しました。

今回のイベントは参加者の皆さんや、読者のLGBT求職者の方にとって、少しでも不安を解決するものになったのではないのでしょうか。イベント終了後も登壇者と参加者の間で話が絶えず、非常に盛り上がっていました。カミングアウトと働くこと、には色んな形、その人にあった形があります。自分にしかできない就職活動を通して、最高のキャリアを歩めるよう、一人に一つの選択をしていけたら良いなと思いました。

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