【後編】『息子のままで、女子になる』公開記念!主演 サリー楓 × 星賢人 特別対談【都市もカルチャーも「ユニバーサルデザイン」に】
映画『息子のままで、女子になる』の公開を記念して、主演のサリー楓さんと株式会社JobRainbow代表 星賢人の対談オンラインイベント「JobRainbow presents 建築家でありモデル、サリー楓に聞く!トランスジェンダー女性のライフヒストリー」が開催されました。
ボリュームたっぷりとなったイベントのレポートを、前後編に分けてお届け。
後編の本記事では、
- 「ダイバーシティが職場にもたらすものは?」
- 「映画に込めた想い・サリー楓の原動力」
の2つを中心にご紹介します!
サリー楓さんがどんな方か詳しく知りたい方は、ぜひ前編もご覧下さい!
【前編】『息子のままで、女子になる』公開記念!主演 サリー楓 × 星賢人 特別対談【サリー楓のライフヒストリー〜誰もがスイミーの目〜】
トランスジェンダーと就活における困難とは?LGBとTの違い
星:サリー楓さんが身を置く建築業界って、正直「おカタい」イメージもあるのですが、世界トップレベルの日建設計でそれを感じることはありますか?
サリー楓さん(以下敬称略):たしかに建築業界で言うと、現場レベルでは男女平等が進んでいないところも多く、女性トイレがないなんてこともあります。一方「設計」となるとデザイン・コンサルティングの側面が多く、男女比も等しいことが多いです。
でも、ある企業の担当者に「カミングアウトした方が、自分としてはスッキリして仕事しやすいんですけど、問題ないでしょうか?」と尋ねたところ、困った様子で「自分じゃ決められないです」からの「前例がないのでわかりません」との答えでした。そこで、その企業にはエントリーしないことにしたんです。
サリー楓:というのも、設計ではネジ1本からペンキの色まで、たくさんの意思決定が必要です。その時「ペンキの色に前例がないからわかりません」と答えられるでしょうか。人を採用する職務の担当者が、「前例がないのでわかりません」と答えてしまう企業には行きたくないな、と感じてしまいました。そこから就職活動を続け、今の会社に出会いました。6次面接のとき、並ぶ役員・人事から「質問はありますか?」と言われ、トランスジェンダーをカミングアウトしました。すると、「日建設計には今までおらず、前例はありません。でも、一緒に学びあって環境を作っていきましょう。そして、これからの当事者が働きやすい環境を先回りして作りましょう」と言ってくださったんです。この「一緒に考える姿勢」は信頼できました。
星:その返しはとても素敵ですね。「100%大丈夫」ってむしろ根拠がない回答なんですよね。あらゆるマイノリティにとって「100%」なんてありませんから、改善し続けることが重要です。「うちの会社はまだまだで、ここが対応できてないんです」と減点方式で考える会社も多いですが、100点満点がないのに減点方式で考えるのも変な話です。「ともに作る」という姿勢で企業文化・施設を作るのはすごく大事ですよね。
ダイバーシティが企業にもたらすものは?
星:いろんな企業のコンサルティングやオフィスデザインを手がける楓さんは、多様性に取り組むことが企業にどんな影響を及ぼすとお考えですか?
サリー楓:パッと浮かんだのは2つですね。
まず、LGBTを後押しするキャンペーン・商品開発は売上につながります。学校などでWSに参加することが多いのですが、今の十代って学校教育の中でLGBTやダイバーシティについて学んでいるんですよね。その人たちが15年後くらいに一番お金を持っている層になったとき、どういう商品選択をするでしょう。おそらくですが、現在#pridehairを打ち出すパンテーンのように、「社会的な発信と配慮を昔からしっかりしていた」と認識される商品・企業が選ばれるのではないでしょうか。
Z世代と言われる今の若者は、商品を選ぶ時にこれがフェアトレードか、どういう経緯で生まれたかなど、商品の機能価値も情緒価値も大事にしています。「マーケットを捉える」という意味でも、ダイバーシティ推進は重要な戦略の一つだと思います。
2つ目は、企業経営です。コロナを機にテレワークを導入した企業が多かったですが、すぐに導入できて生産効率を落とさずに済んだ企業と、人事管理やデバイスのトラブルで大きな損失のあった企業に二分されました。
では、前者がどういう企業だったかというと、以前から子育てや介護をしながらの勤務などに対応し、在宅勤務・テレワークのシステムを取り入れていた企業でした。つまり、多様な人が働ける職場を作っておくと、例えば「そういえば子育てしている社員のための、テレワークシステムあったよね」など、社会がどう転がっても蓄積したノウハウで対応できる、弾力性のある企業になります。
星:私たちもさまざまな企業様のコンサルティングを行っていますが、小売・飲食業界は軒並みコロナのダメージが大きかったのですが、不思議なことにダイバーシティに取り組んでいる企業様は対応が早かったです。無人レジ、QRコードで見れるメニュー表、地方に分散していた店舗などにより売り上げが伸び続けている店舗もあります。競争優位性の観点から言うと、多様な意見は他社がやっていないことにも取り組む多角的経営につながり、危機的状況へのアジリティや柔軟性を高めています。
『息子のままで、女子になる』に込めた想い
求められる”You decide.”
サリー楓:この映画は、私が大学院でカミングアウトして就職活動を行い、グラフィックの会社を経営しながら社会に出るまでの変化の過程に1年ほど密着したものです。星さんを始め一緒に仕事している方や家族、友達が出てきます。私が自己主張するというより、私を取り巻く人たちの語りが、日本の多様性を取り巻く「現在」が伝わるドキュメンタリー映画です。
星:映画冒頭のスピーチにも登場した、副題の”You decide.”にはどんな想いを込めたんですか?
サリー楓:「ダイバーシティ」「多様性」「ありのまま」「自分らしく」って、ポジティブに使われることが多いと思います。実際、これらの言葉に大反対する人って見たことがないんですよね。では、なぜその言葉通りに生きるのが難しいのだろう……と考えたとき、個人の「自分らしく生きる」という決断を社会が阻んでいるのでは、と思い至りました。
例えば、「私は女性です」と言っても、周りが「違います」と言えば女性として生きることは困難です。「自分がどう生きるのか」を決めるのも大事ですが、周りが相手の生き方を受け止め、考え、決めることが必要ではないか、と思い使った言葉が”You decide.”です。
星:「自分らしく」はよく自己責任論とすり替えられますよね。周りは「自分の好きにすればいい」と言うのですが、自分らしさは内面と外面の境界線です。つまり、周りの人からどう扱われているか・認識されているかが、どういったアイデンティティを持って社会・組織で生きられるかに直結します。だからこそ、職場環境を整えることが個人の生産性向上や自己実現に寄与するんですよね。
サリー楓の原動力
星:建築家をしながら社会を変える発信をするのって、とても難しいと思うんですよ。発信に対する社会やSNSからの誹謗中傷って耐え難いと思うのですが、建築家になる夢を叶えつつそれらを続ける原動力ってどこにあるんですか?
サリー楓:まだ社会を変えられていない、というところですかね。
私の就職が決まったとき、ネットに「オカマ建築家誕生」と書き込まれたんですよ。社会を変えるとは矢面に立つことでもありますし、ある程度は仕方ないと覚悟していますが、誹謗中傷は多いです。それでも、「建築家として働きながら発信する」ということが大事だと思っています。
卒業文集にも「誰でも使えるユニバーサルデザイン」と書いてありますが、私は昔から「デザイナーズ!」って感じの建築ではなく、誰も取り残さず「みんなのためになる」建築が好きです。いわば、建築をより生きやすい社会を作るためのいち手段として捉えています。建築物や都市などのハード面と同様に、皆で一緒に考え方をアップデートすれば(思想・カルチャーなど)ソフト面からも素晴らしい未来になると信じて、建築・発信ともに力を入れています。
おわりに
新時代のトランスジェンダー女性アイコンとも呼ばれるサリー楓さんの考えがよくわかる、1時間の濃密な対談でした。
イベントに参加してくださった方だけでなく、この記事を読んでくださっているあなたもまた、ダイバーシティを進めたいという熱意があるのではないでしょうか。
そんな皆様と、私たちJobRainbowは手を取り合って、ソフト/ハード面で個になめらかな社会を一緒に実現したいと考えています。
サリー楓さんが主演を務める映画『息子のままで、女子になる』は、2021年6月19日から公開中です。
【前編】『息子のままで、女子になる』公開記念!主演 サリー楓 × 星賢人 特別対談【サリー楓のライフヒストリー〜誰もがスイミーの目〜】