LGBTに関する問題発言をした議員・カミングアウトしている議員
LGBTに関するニュースは、毎日のようにインターネットやテレビで目にする。
また、国が成り立つために、政治の話は避けられない。ニュースで政治の話が全く出てこない日がかつてあっただろうか。
こうして人々がLGBT・政治に注目している中で、議員がLGBTに対する問題発言をすると、世間ではたちまち話題となる。
「LGBTは生産性がない」「LGBTばかりになったら国は潰れる」……最近耳にした記憶があるだろう。SNSでこれらの発言が引用・拡散・炎上するケースも相次いだ。
今回の記事では、こうした議員の発言と、「何が問題で炎上したのか」を解説する。
また、自身のセクシュアリティをカミングアウトしている議員も紹介するので、政治の世界を志すあなたにはぜひロールモデルとしてほしい。
LGBTに関する問題発言をした議員
1. 平沢勝栄 議員
「LGBTで同性婚で男と男、女と女の結婚。これは批判したら変なことになるから、いいんですよ。もちろんいいんですよ。でも、この人たちばっかりになったら国はつぶれちゃうんですよ」
平沢勝栄氏「LGBT、国はつぶれる」発言が物議。本人は「タブー視していては議論進まない」と説明
平沢氏は、「男と男」「女と女」の結婚をする人ばかりになったら国がつぶれると述べている。「国がつぶれる」が何を指しているかは不明だが、少子化が進んでしまうと言いたいのだろうか。
このロジックは同性婚の法制化を論じる際によく用いられるが、実は穴がある。
現在同性婚を望む人は、多くの場合性的指向が戸籍上同性に向いている。この場合、今の日本においては子供を授かることが難しい。
そして、現行の結婚制度で結婚ができ、かつ子供を授かることができるカップルに関しては、同性婚制度の導入によって変わることはないだろう。性的指向が異性に向く人が、「同性婚制度が導入されたから性的指向を自分の意思で変える」わけでもない。
つまり、同性婚をしたいけどできない人たちが同性婚を選択できる環境が整い、同性婚をする人が増えたからといって、子供を授かる人が減り少子化が進むわけではない。
2. 杉田水脈 議員
LGBTカップルのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子供を作らない、つまり「生産性」がないのです。そこに税金を投入することが果たしていいのかどうか。
『新潮45』2018年8月号
新潮45の寄稿文「「LGBT」支援の度が過ぎる」で炎上したことは、記憶に新しい。
大前提として、LGBTで有る無し、生産性が云々に関わらず、税金を納めている以上は還元されるべきだろう。
また、日本ではまだ認められていないが、代理出産やコーペアレンティングといった手段も海外には存在しており、杉田議員の文脈でいうところの「生産性」もないと断言できない。
そもそも日本には、同性愛の人たちに対して、「非国民だ!」という風潮はありません。(中略)日本の社会では歴史を紐解いても、そのような迫害の歴史はありませんでした。むしろ、寛容な社会だったことが窺えます。
『新潮45』2018年8月号
こちらに関しても、事実誤認がある。
日本において同性愛者であることが原因となって起きた事件は存在する。府中青年の家事件や新木場殺人事件などが代表例だ。
そして、寛容・不寛容を感情的な部分で論じているようだが、そもそも「差別」とは構造の問題だ。同性愛者を理由に「結婚をする」選択自体が不可能である、といった社会構造における不均衡が是正される必要がある。
3. 谷川とむ 議員
「同性婚や夫婦別姓といった多様性を認めないわけではないんですけど、それを別に法律化する必要はないと思っているんですね。趣味みたいなもので」
同性愛「趣味みたいなもの」 ネット番組で自民・谷川氏
自分の性的指向を、自分で切り替えることができるだろうか。「私は男性が好きだ。よし、明日からは女性を愛そう!」と実行に移せる人は非常に少ないだろう。趣味とは、自分の意思でやる・やらないを決めるものであり、性的指向と同じものとして語ることは難しい。
そして同性婚を法律で可能にすると、現在「結婚」の選択肢がないカップルが制度上結婚できるようになる。「法律化する必要がない」と断言されてしまうと、「趣味みたいなもの」ではない同性愛者の権利が守られないようにも思われる。
4. 竹下亘 議員
「(国賓の)パートナーが同性だった場合、私は(晩餐会への出席には)反対だ。日本国の伝統には合わないと思う」
「宮中晩餐会の同性パートナー出席、反対」自民・竹下氏
竹下議員は複数回にわたり、LGBTに対する差別的な発言を繰り返している。
世界で20%ほどの国や地域では同性パートナーシップ制度や同性婚制度が設けられており(参考:NPO法人 EMA日本)、そうした国の国賓が来る可能性は今後十分にある。「日本の伝統と違うから」と他国の文化を否定してばかりでは、日本は孤立の一途をたどるだろう。
5. 鶴指眞澄 議員
異常人間をほめるような記事を掲載したりすることが多いが、マスコミの責任感のない記事掲載が問題だ、異常人間が多くなれば人類の破滅、まじめな人間をほめる方法を考えろ、同性愛は異常なのだ、異常なことをすることを取上げる必要はない、責任を持った報道をすべきだ
鶴指眞澄・海老名市議がTwitterで差別発言「同性愛者は異常動物」
最近のマスコミの報道は倫理観に欠けている、何でも珍しいいことがあれば良いネタのようにして報道する、報道したことでその人物はなおさら優越感が出るのだ、一例が同性愛とやらだ!生物の根底を変える異常動物だということをしっかり考えろ!マスコミで取上げる影響を考えろ!まじめ人間が馬鹿を見る
鶴指眞澄・海老名市議がTwitterで差別発言「同性愛者は異常動物」
同性愛を「異常」としたうえで、同性愛を報道においてとりあげるマスコミを批判している鶴指議員。
同性愛を「生物の根底を変える異常動物」と表現しているが、早稲田大学講師の森山至貴の反駁を引用したい。
「差別を正当化したい」主張は、異性愛以外の性愛の形は生物学的に正しくない」という点を論拠としてよく挙げます。しかし、これは大変奇妙な主張です。なぜなら、「生物学的に正しくない」という主張は、すでにわかっている生物学の知見と矛盾することと解釈できます。なぜなら、現在の生物学でわからないことそれ自体は「正しくない」ことではないからです。しかし、異性愛以外の性愛の形は特に生物学の知見と矛盾しているわけではありません。「脳から繋がる神経が全くないにも関かかわらず全身を意図的に動かせる」とか「身体が重力の影響を全く受けず、無重力空間にいるように生活できる」といったような、自然法則から外れる現象は起こっていないからです。
森山至貴『LGBTを読みとく』
また、「生殖・種の保存という営みの基礎的な条件を満たせない」ことをもって「生物学的に正しくない」と表現しているという主張も、一貫したものとみなすことはできません。あらゆる生物種において生殖活動をする個体もしない個体も存在しますから、生殖活動をしないがゆえに「生物学的に正しくない」とすると、私たちの世界には「生物学的に正しくない」牛や馬や豚や鶏やアリやアザラシやパンダなどが多数存在することになります。しかし、私たちはこれらに対して「生物学的に正しくない」という表現を使うことはほぼありません。そもそも生物学は個別の生物の生き方を「正しい」「正しくない」とか論評する学問ではありませんから、生殖したりしなかったりする生物を調べ、珍しかったりよくわからなかったりする現象の仕組みについて調査し分析し考察するだけです。
森山至貴『LGBTを読みとく』
くわえて、マスコミの報道に関して言えば、むしろ「イケメンなのにゲイ」など、同性愛者を「異性愛に劣る」と位置付けた表現もみられ、鶴指議員の言う「優越感」に何がどう繋がるのかも不明だ。
6. 西川重則 議員
「オカマと聞いている。社会常識からして、正常な形でない人を支援する必要はないのでないか。人の趣味、趣向など何をやってもいいのだろうが、行政が支援することはないのでないか」
三條新聞
「正常な形 」の議論は先ほどのものを参照していただきたい。
竹下議員は複数回にわたり、LGBTに対する差別的な発言を繰り返している。
「オカマ」自体、身体的性が男性かつ性自認や性表現が女性の人やゲイを揶揄するニュアンスがあり、自分を指したり、その呼称を使って良いと言っている相手に使うぶんにはいいのだが、基本的には使わないでおきたい。
カミングアウトしている議員
1. 上川あや 議員
上川あや議員はトランスジェンダー(MtF)の世田谷区議会議員だ。2003年4月に日本で初めて性同一性障害をカミングアウトしながら世田谷区議会議員選挙に立候補し、当選した。自身の経験をふまえ、多様な「個」にやさしいまちづくりを目指している。
また、LGBTに関する意見の発信も積極的に行っており、2007年には岩波新書から『変えていく勇気−「性同一性障害」の私から』を出版している。
ちなみに、世田谷区では同性パートナーシップ宣誓を導入している。
2. 前田くにひろ 議員
前田元議員は、ゲイであることをカミングアウトした文京区議会議員。ゲイのパートナーと死別した時、パートナーの喪主になることもできなければ家族として看取ることもできない理不尽さに対して違和感を覚えたとのこと。
アウティング(勝手に自分の隠していたことを言いふらされた)されて以来、カミングアウトすることができていなかった前田議員だったが、自分の世代、そして未来の世代のためにカミングアウトした。(参考:「私はゲイです」文京区議がカミングアウト 死別したパートナーへの思い)
3. 石坂わたる 議員
中野区議会議員の石坂議員は、ゲイであることをカミングアウトしながら選挙活動を行い、2011年に当選。
「住宅に困難を抱えている人 」に向けた住み替え支援事業の対象に、大家に入居を拒否されるケースもある同性カップルを組み込むなど、積極的な取り組みをしている。(参考:中野区議・石坂わたる氏にインタビュー)
4. 細田智也 議員
2017年、入間市議会議員一般選挙にて、25歳最年少で当選した細田議員。女性から男性への性別適合手術を経て地方議員となったのは世界初。元臨床検査技師という異色の経歴を持ち、自身がFtMのトランスジェンダーとして生きてきた中で辛い思いをしてきたからこそ、苦しんでいる人のロールモデルになりたいとして議員になったそうで、現在はLGBTの知識に関する講師も務める。(参考:細田智也 公式ブログ)
5. 石川大我 議員
豊島区議会議員の石川議員。日本において初めて公職に選出されたオープンリー・ゲイとしても知られている。かつてフジテレビの番組で「保毛尾田 保毛男」が登場し物議を醸したが、その際にも意見を発信していた。
保毛尾田問題について、ミッツ氏の寄稿に「カッコイイ」との声多数。「違うよ」と言いたい。ミッツ氏の理論は強者の理論であって、差別に押しつぶされ立ちすくむ若者にはなんの救いにもならない。差別表現は多様性の一部にはなり得ない。
https://t.co/F1nJUZAxaB— 石川大我 豊島区議 立憲民主党? (@ishikawataiga) 2017年10月16日
セクシュアルマイノリティと政治・ビジネスを繋ぐ観点から、東京大学や立教大学、明治学院大学などで講演を行なっている。(参考:石川大我 公式HP)
6. 渕上綾子 議員
農林水産省を退職後、ススキノでダンサーとして活躍。しかし、同僚の死をきっかけに、LGBTの生きやすい社会を実現するべく政治家を志す。
札幌のLGBTQ+アライコミュニティからも応援され、2019年4月に北海道議員に。 トランスジェンダーが都道府県議に当選するのは日本初のことで、渕上氏は同性パートナーシップの拡充などマイノリティの声に耳を傾けながら道政を動かしていくことを誓っている。(参考:北海道議選でトランスジェンダーの渕上綾子さんが初当選)
7. 尾辻かな子 議員
大阪府議在任中にカミングアウトした尾辻議員。カミングアウトしたい人が自由にできる社会を作るため、現在は文筆業にも携わっている。
杉田議員の「生産性」発言のどこがどう問題だったのか、HPで丁寧に解説している。 (参考:痛みや怒りを共有するひとたちがいること、わたしにとってはそれが希望です)
8. 松浦大悟 議員
元参議院議員の松浦大悟氏もまた、杉田議員の「生産性」発言に対して疑義を呈した一人だ。ゲイである松浦議員はただメディア上で問題提起をするだけでなく、『新潮45』に寄稿して持論を展開したことでも知られている。(参考:休刊するのは逃げ」『新潮45』に寄稿した松浦大悟氏がLGBT当事者として感じるディスコミュニケーション)
9. 依田花蓮 議員
行政書士として働きながら、ダンサーとして舞台に立っていた経験を生かしてエンターテイナーとしても活躍している依田議員。4/20の新宿区議選で当選し、これからの活躍が望まれる。
10. 高月まな 議員
障害者の介助ヘルパーを17年間やってきた高月議員もまた、4/20の新宿区議選で当選した議員の一人。同性パートナーシップ制度などLGBTに対してのはたらきかけだけでなく、ヘルパーとしての「現場の声」を重視し、介護費用の負担軽減なども訴えています。
11. なめかわ友理 議員
なめかわ議員は、4/20の選挙で当選した水戸市議会議員。レズビアンであることをカミングアウトしており、NPO法人 RAINBOW茨城の初代会長でもある。(参考:LGBT 水戸で初当選 「私として戦った結果」)
水戸市のある茨城県は、同性パートナーシップ制度の成立を前向きに検討していることを、都道府県単位で初めて明言した。水戸市の議員として、こうした県の施策にも関わっていくことがあるのだろうか。なめかわ議員の今後から目が離せない。
LGBTに関わりの深い議員連盟
1. LGBTに関する課題を考える議員連盟
与野党の壁を越えて2015年に結成した、この連盟。自身がLGBTである・ないにかかわらず、馳浩議員や細野豪志議員など、LGBTが直面している課題を明らかにする思いの議員が集っている。理解を深める姿勢はある一方、法制度に対する検討が未だに滞っている、といった指摘もあるが、2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックに向けて国としての取り組みはますます盛んになっていくだろう。
2. LGBT自治体議員連盟
2.カミングアウトしている議員でも紹介した上川あや・石川大我・石坂わたる・細田智也・前田邦博(敬称略)らが所属するLGBT自治体議員連盟。性的指向と性自認に関する人権擁護のための条例制定や施策の推進など、法整備に取り組むだけでなく、会員相互の親睦と情報交換も目的としている。アライの議員含め70人以上が所属。(参考:LGBT自治体議連が発足、文京区議の前田さんがカミングアウトしました)
おわりに
LGBTについてきちんと知識をもっている議員もいれば、LGBTについて全く理解していない議員もいる。また、セクシュアルマイノリティであるとカミングアウトしている議員もいるし、カミングアウトはしていないが自認している議員だっているだろう。
社会において必ず一定数存在するLGBT。だからこそ、議員(候補者)のLGBTへの考え方は、民をどう捉えているか知るうえでの重要な基準となる。私たちもまた、いわれなき差別・偏見に気づけるよう、正確な知識を持ったうえでニュースをチェックしたい。