ポリアモリーとは?【実践者が、日本の現状を解説】
ポリアモリーとは、合意の上で複数のパートナーと関係を築く恋愛スタイルを指します。
近年、LGBTという呼称はテレビなどでもよく使われ、言葉自体が私たちの社会に浸透してきました。
しかしながら、性自認(自分で認識している性)と身体的性(身体構造上の性)が一致しているのは「当たり前」、性自認と性的指向(好きになる性)が違うのは「当たり前」……こういった「当たり前」は根強く残っています。だからこそ、LGBTについて正しい知識をもつには、基本的な概念を抑えておく必要があるのです。
しかし、恋愛に関する「当たり前」で苦しんでいるポリアモリーはまだ日本であまり知られていません。
先日、テレビでもそのライフスタイルが取り上げられるなど、少しずつ認知度は上がってきたポリアモリーですが、「ポリアモリー」と聞いてすぐに「ああ、ポリアモリーね」とピンとくる方は、まだ少ないでしょう。
今回のコラムでは、日本ではあまり浸透していない「ポリアモリー」という恋愛スタイルについて、ポリアモリーとして生活するポリアモリストの私がまとめていきます。
ポリアモリーってそもそも何?
そもそも、「ポリアモリー」という言葉に耳なじみのない方も多いと思います。
ポリアモリーとは、関係者全員の合意を得たうえで、複数の人と恋愛関係を結ぶ恋愛スタイルを指します。その歴史はそこまで長いわけではなく、1990年代にできたアメリカの非営利団体「ラヴィング・モア」が「ポリアモリー」という言葉を使い始めたのが始まりだと言われています。
ここで重要なのは、関係者全員の合意を得ているという点です。
もし関係者一人でも合意を得られていない場合、それは「浮気」となってしまいます。愛する人に対して嘘をつかず、またパートナーに対してもそうであってほしいと願うことが、ポリアモリーの根底にある考えなのです。
ちなみに、ポリアモリーとして関係を結んでいる以上、英語で「2」を意味する「カップル」という表現はあまり適していません。
そんなポリアモリーについて考えていくうえで、ポリアモリストが意識している重要なポイントが3つあります。
1. 身体的・感情的に深くかかわりあう持続的な関係
自分の愛する特定の複数の人と親密な関係を築くことを求める、ポリアモリー。一度きりの身体的なつながりではなく、持続的に感情的なつながりを持っていくことが重要視されています。
2. 所有しない愛
人間は対等な関係であり、恋愛関係であるからといってお互いを「所有」するわけではありません。こうした「排他性にこだわらない」点も、ポリアモリーのポイントとなっています。
3. 婚姻制度にとらわれない、自分の意志と選択による愛
今「あたりまえ」とされている社会のルールをそのまま受け入れるわけではなく、自分の意志で付き合う人数を決めるポリアモリー。
しかし、だからといってポリアモリーは今の結婚制度に対抗していくものではありません。「自分たちの愛の形が唯一絶対のものだ」と考えているわけではなく、多様な愛の形の一つとして自分たちの愛を認識しており、全ての人に自分たちの愛のあり方を押し付けたい訳ではありません。
これらのポイントをふまえていくことが、ポリアモリーを考えていくうえでは重要となります。
大切な6つの倫理
とはいえ、恋愛に対する価値観が人それぞれあるように、「ポリアモリー」と一口に言ったところで、何を大事にしているかはさまざまです。そんななか、ワシントン大学のデボラ・アナポール氏が、『ポリアモリー―恋愛革命』にて6つのポリアモリー倫理を紹介しています。
- 意思決定は合意のうえで
- 正直であれ
- 相手を思いやる
- 本気でかかわる
- 誠実であれ
- 個性を尊重する
「複数人の相手と付き合っている」と言うと、「不誠実だ」と批判されることがありますが、むしろ自分自身の愛のあり方について大切な相手に対して包み隠さず正直であることが、ポリアモリストの大事にする「誠実さ」なのです。
もちろん、一対一を望む相手に対して自身の考え方を押しつけることもありません。なぜなら、愛の実践は人それぞれだからです。
意思決定もひとりよがりにはなりません。付き合っているパートナーが、自分が複数人と付き合うことに対して否定的になった際は、そのたびに話し合いを重ね、どうして行くべきか考えていく必要があります。
愛で結ばれた複数人の関係に対し、「愛を軽んじている」という意見もよく聞かれます。しかし、例えば2人の娘がいる母親に対して、「1人の娘がいる親に比べて愛が半分である」と批判する人はほとんどいませんよね。
こうした「愛は無限である」という考え方が、一対一にこだわらないポリアモリーの思想に深くかかわってくのです。
嫉妬しないの?
ポリアモリーという恋愛スタイルをとるなかで、「嫉妬しないの?」と言われることがよくありますが、これにはさまざまな回答がありえます。
まず大前提として、すべての人に対して誠実であるために、「すべての意志決定には関係者全員の同意が必要」です。そのため、関係を持つ相手が簡単にどんどん増えていく、ということはありえません。もし誰かが関係を継続できないほどの嫉妬心を抱いた場合、話しあったうえで新たに交際していくか、関係を持続させるか、といったことを決めていく必要があります。
その前提に立ったうえでの話になりますが、やはりポリアモリーとして生活する人にとっても、嫉妬というのは切っても切り離せないものです。
先ほどご紹介したワシントン大学のアナポール氏が、1000人以上のポリアモリストに「嫉妬を経験したことがあるか?」という旨の調査を実施したところ、8割がYESと回答しています。
しかし、その中で一番多かった回答が「独占欲」によるものではなく「不安」による嫉妬だということは、非常に興味深いといえます。
パートナーに、自分以外の好きな人ができる。これは、一対一の関係においては「自分とパートナーの別れ」を意味します。
では、ポリアモリーではどうでしょう。一見複数での恋愛関係においてこれは何も問題がないように思えますが、ポリアモリーにおいても、パートナーが自分以外の人を好きになった場合「自分のもとをパートナーが去ってしまう」という不安を抱くといいます。
日本/海外にどれくらいいるの?
日本の「当たり前」は「モノガミー」
ポリアモリーが「異常」とされるのは、日本の「当たり前」がポリアモリーの考え方と異なるからです。
それでは、日本の「当たり前」とは何でしょう。
現在の日本では、異性同士の一夫一婦制、いわゆるモノガミーが当然のものとされています。しかし、世界を見渡してみると、必ずしもそうではありません。
オランダやベルギー、最近では台湾など、27カ国では同性婚が認められていますし、モロッコやエチオピアなどアフリカ大陸の国々を中心に、一夫多妻婚が合法の国も数多く存在しています。
こうして考えてみると、日本の「当たり前」はあくまで日本のものに過ぎず、必ずしも世界の「当たり前」とは言えないことがわかります。
ポリーラウンジ
では、そんなポリアモリーという恋愛スタイルで生活するポリアモリストは、果たして国内外にどれほどいるのでしょうか。一橋大学の深海菊絵さんによると、アメリカには約400~1500人のポリアモリストグループが少なくとも6つ存在しているそうです。
一方日本では、ポリアモリストやポリアモリーに興味のある方が誰でも参加できる、ポリーラウンジという交流会があります。しかしこれは数か月に一度ほどの頻度であり、さらに、これ以外の大きな集まりもないのが現状です。
また、単発での交流会が開催されることもありますが、これもまた大規模なものではありません。
このように、ポリアモリストのロールモデルが非常に不足しており、ポリアモリスト同士の交流もあまり活発でないというのも日本におけるポリアモリーの現状なのです。
ポリアモリーをカミングアウトしている方
先ほど、ポリアモリーにはロールモデルが不足していると話しましたが、とはいえ、ブログなどを通じてポリアモリーについて情報を発信しているポリアモリストもいます。自分は一対一の恋愛ではなくポリアモリーの方が性に合っているかも……?という方は、ぜひこの方々のブログなども参考にしてほしいと思います。
1. きのコ
2011年から自身がポリアモリーであることをカミングアウトしており、インターネット上でポリアモリーに関する意見をよく発信しています。また、ポリーラウンジの主催者の1人でもあります。
きのコさんは、あるインタビューで以下のように述べていました。
4年前の28歳まではすごく悩んでいて、「もう死ぬしかない」と思うほどに精神的に追い詰められていました。「私は精神病なのではないか」「複数の人を愛してしまうことを人に知られたら、頭がおかしいと思われるのではないか」「同性にも恋愛感情を持ってしまうことは恥ずかしいことなのではないか」と、ずっと思い悩み、隠してきたんです。
FORZA STYLE『複数の同性、異性を同時に愛する「ポリアモリー」に今気になること、ぜんぶきいてみた』
私自身、ポリアモリーかつパンセクシュアルとして生きており、まったく同じ意見でした。「自分だけじゃないのか」と思えたあの時の安心感は、今でも忘れられません。
きのコさんのブログはこちら
2. 文月煉
文月煉さんは、奥さんのほか2人の女性とお付き合いされているポリアモリスト。
文月さんは、インタビューにて興味深いことを語っています。
奥さんとは何でも話す関係だったので、自分のそんな恋愛観についても「僕はこう思うんだよね〜君はどう思う?」って話していて、たくさん話すうちにわかりあえるようになっていった、という感じですね。
相手の価値観や行動を「許す」「許さない」みたいな言い方を世の中はしますけど、僕は奥さんの行動に対してなにかを「許す」権限を持っているとはあまり思っていないし、奥さんもそんなに思っていなかったんです。
LIG『妻あり恋人ありのポリアモリー男性に聞く「なぜパートナーを大切にできるの?」』
一対一で付き合うことが「あたりまえ」とされている中でポリアモリーとして生きていくには、かなりの勇気が必要です。私自身、ポリアモリーとして生きたい自分を自覚するにあたって、「怖い」「自分はおかしいのかもしれない」「世間が許してくれるだろうか」といったことが頭の中を回っていました。
でも、人の価値観は人の価値観として存在しています。文月さんの言葉に、何か気づかされたような気がしたことを覚えています。
ただ、ポリアモリーの実践者としてメディアで紹介されることも多い文月さんは現在、自身の恋愛をポリアモリーではなく「非独占愛」と表現されています。
その恋愛観については、著書『「独占しない恋愛」をする文月煉さんとその配偶者に、インタビューしてみた。』で詳しく話されているので、ぜひご覧ください。
3. 叶恭子
タレントとして活躍する叶姉妹の叶恭子さんも、ポリアモリーを実践する1人。「ポリアモリー」という言葉を出したのは妹の叶美香さんですが、恭子さん自身もブログで自身の恋愛観を次のように紹介しています。
わたくしは
叶姉妹オフィシャルブログ「ポリアモリー🦋」という愛❤️のかたち💋✨✨
いわゆる恋人という
カテゴリーを持ちません。
「僕って何?」
と聞かれたら、
あなたが
自分で考えて
決めて下さいといいます。
ですから、
「浮気」などという言葉も
無縁です。
どの瞬間も
新しくフレッシュなラブが
そこに
あるのですから。」
4. 西山嘉克
メディアに取り上げられたこともある西山家の3人(嘉克さん、ゆかりさん、裕子さん)は、日本にいながら一夫多妻の形をとりながら暮らしています。「本音で生きる」ことを胸に、ときにぶつかり合いながらも絆を形成していった彼らの生き方は、ポリアモリーのロールモデルとして非常に参考になると思います。
「一夫多妻だから○○」って意外とないんです。普通の夫婦でもシングルマザーでも一夫多妻でも、嬉しいことや嫌なことは同じように起きるじゃないですか。
新R25「本音で生きると決めたら、この形になった」“一夫多妻”で暮らす西山家のリアル
夫婦の形が違うだけで、まわりが思っているよりもそれほど実態は変わらないんじゃないかなって思います。
5. ウィロー・スミス
俳優ウィル・スミスさんを親に持ち、アーティストとして活動するウィロー・スミスさん。母のジェイダ・ピンケット・スミスさんが司会を務める番組「Red Table Talk」にて、自身がバイセクシュアルかつポリアモリーであることを明かしました。
私は男性も女性も同じように愛している。だから男性1人と女性1人と同時に交際したいと思う。だから私はこの2人とポリアモリーな関係を持てると感じている
ELLEgirl『ウィルスミスの愛娘ウィロウ、「複数の男性&女性を同時に愛したい」』
ポリアモリストの抱える問題・つらさ
ここまでコラムを読んできた方の中には、「ポリアモリーは合意さえ得られればいろんな人と付き合えるんだよな……うらやましいなぁ」と思った方もいるのではないでしょうか。
たしかに、一対一という規範に縛られず、お互いの合意の上で自分の思う愛を実現していければ、それはとても素敵なことですし、そう思っているからこそ、私はポリアモリストとして生活しています。
しかし、いまだに社会からの批判や誤解には心を痛めることがあります。
1. 「真実の愛を知らない」
例えば、ポリアモリーという恋愛スタイルをとっていると、数多くの知り合いから「まだ真実の愛を知らないだけ」と言われることが多々あります。
というのも、自分自身はこの気持ちを「愛」だと信じているからこそ、この選択をしています。しかしそれを真っ向から「偽物」だと断言されてしまうのです。「自分の愛のあり方はおかしいのだろうか」「この愛は”間違っている”のか?」と一度疑念が浮かんできてしまうと、その不安はいつまでもついてまわります。
2. 「好き放題やれていいね」
また、「好き放題やれていいね」と言われることもあります。「複数人と付き合っている=浮気者=性に関して奔放」というイメージが浸透してしているんだなぁ……と感じてしまいますが、上でもふれたように、あくまでパートナーに対しては誠実であることがポリアモリーの信念です。「独り身を偽って」「合意なく」関係を持ってしまえば、それは相手を裏切る行為になってしまうので、ポリアモリストは絶対にその点を破らないように最新の注意を払っています。
3. 「批判されて当然」「病気だ」
また、さらに話を複雑にさせるのは、ポリアモリーが「自己決定により築かれる関係性」である点です。
「結婚している夫婦が浮気したら法律違反だよ? あなたは”おかしい”よ、”病気”だよ」
「しかも自分で決めてるなら、批判されるのは当然のことだろう」
こういった意見は非常に多く、私も数えきれないほど言われてきました。
実際、私がポリアモリストとして生きていく勇気が起きなかったことは、ここに由来します。「批判されることが怖い」「他の人のことも好きな気がするけど、これは気のせいだ、”病気”に違いない……だって”間違っている”から……」
しかし、「自分らしく生きるために、自身の愛のあり方も自分らしくしたい」という考えのもと「一対一での交際」をする人は、果たして批判されるでしょうか? おそらくされないですよね。
では、法律に反しているからいけないのでしょうか。形式上法律に反さないよう、意図的に結婚という形をとらないポリアモリストの方は多く、また、関係者全員の合意を得たうえで、結婚はAさんとしつつ、Bさんと同棲、のようなスタイル(いわゆるオープン・マリッジ)をとる人もいます。
一人ひとりに個性があるように、愛の形もさまざまです。
愛の形を根拠に偏見を持たれる……そんなことがない社会を実現したいと私は思います。
おわりに
多様な愛の形が知られつつある一方、今なお残っている「あたりまえ」に苦しむ人々がいます。あまりメディアで語られないポリアモリーのあれこれについて、知っていただけたでしょうか。
先ほど、ポリアモリーは「”病気”だ」「おかしい」と言われることが多い、と述べましたが、これからの多様性を考えるうえで、一つだけ踏まえておいてほしいことがあります。
ポリアモリストは、「他人にポリアモリーを実践してほしい」わけではありません。「ポリアモリーを強制したい」わけでもありません。ただ自分の恋愛スタイルを自分で決めているだけで、それを「応援してほしい、全肯定してほしい」というわけではないのです。
ポリアモリーという恋愛スタイルがあって、それを実践している人がいるんだな、とだけ、知っておいてほしいのです。存在がおかしい、ですとか、ポリアモリストの存在意義までもを否定しないでほしい、と考えている実践者が大半を占めています。
また、ポリアモリストにはLGBTの方がいるということも、忘れてはならないと思います。
2000年にラヴィングモアが1000人以上を対象に実施した調査によると、なんとポリアモリストの半数がバイセクシュアルであると答えたそうです。「あたりまえ」に縛られないがゆえに、セクシュアリティについても異性愛中心の考えから少し距離をおいて、自身の恋愛と向き合うことが多いのかもしれません。
ポリアモリーという関係を知ることが、恋愛だけに関してではない、世の中の「あたりまえ」について考えるきっかけになったら幸いです。