長野県で活動するLGBTの音楽家 〜同性パートナー条例施行に向けて〜

ライター: JobRainbow編集部
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セクシュアル・マイノリティ当事者として、長野県において同性パートナーシップ条例の施行にむけて啓発活動を行っている、西澤芽衣さんと榊原舞花さんにインタビューさせて頂きました。

当事者として、今後どのような社会で、どのように生きていきたいか。お二人のご自身のお考えについてお尋ねしています。

満面の笑みを浮かべる二人
西澤 芽衣さん(画像:左)と榊原 舞花さん(画像:右)

−まずはお二人の自己紹介をお願いします。

西澤芽衣さん(以下、“芽衣”):

西澤芽衣です。FtM(身体の性は女性で、心の性が男性のトランスジェンダー)ですが、まだ未治療です。一人称は“僕”を使用しています。

榊原舞花さん(以下、“舞花”):

榊原舞花です。セクシュアリティはFtXで、バイセクシュアル(恋愛対象が男性と女性どちらともである:両性愛)です。

−お二人は音楽活動を通してLGBTの啓発活動をされているそうですが、そのきっかけは何ですか?

芽衣:

もともと舞花がKSC(元子ども地球サミット)で、バイセクシュアルであることや、FtXであること等を公言しながらアーティスト活動をしていたのですが、そのライブに行ったのがきっかけになります。その舞花の姿に惚れて「僕もやる!」といった形で始まりました(笑)。

舞花:

高校の頃から音楽活動はしていたのですが、メンバーがひとり、ふたり、と就職だったり進学だったりと音楽とは違う道を進んでしまって。そんな中、自分一人でも音楽活動を続けていきたいと思い、そこからずっとバイトしながらライブしてって生活をしていたんです。そこで、どうせなら「自分はこんな人だよ」って同時にちゃんとアピールしたくて。だからセクシュアリティだって別に(公にしたって)いいかなって活動を始めたんですね。2人で活動し始めたのはさっきの芽衣の通りです。

音楽活動中の二人
音楽活動を通して、LGBT啓発に努めるお二人

−ご自身のセクシュアリティに気づいたストーリーを教えてくださいますか?

舞花:

高校時代に、女の子を好きになったことがきっかけですね。あと、自分がX(男でも女でもない第三の性)かなと思い始めたのは高校卒業頃でした。

芽衣:

僕が自分のセクシュアリティに気づいたのは中学時代でした。その頃は女の子達と仲良くしていたのですが、女の子同士でのボディタッチにドキドキするようになって、「あれ?女の子にドキドキするのはおかしいんじゃないか?」って思い始めたんです。そして、あるとき彼氏ができてお付き合いしている中、手を触れられたり、キスされたりしたときに、ぞわぞわした不快感を強烈に感じたんです。そこで、自分が男の人と付き合うことはできないんだなって初めて気付きました。

−彼氏さんとのお付き合いが決定打だったということですね。

芽衣:

そうですね。それで、「自分は女の子が好きだからレズビアンなんじゃないか?」って疑問を持ち始めたんですけど、もともと身体に違和感を持っていたので、またそこで悩みました。レズビアンとも言い切れず、身体に違和感を感じているその頃はトランスジェンダーという概念がなかったので、そこでもやもやしていましたね。

−それはかなり苦しかったでしょうね。

芽衣:

あの頃は辛かったですね。学校では、性別で分けられる事が多いじゃないですか。着替えにしろ、トイレにしろ、制服だってそう。とにかく「女子」として括りに入れられることが嫌でした。

舞花:

うちもそんな感じでしたね。(女子として扱われることの)違和感というか、嫌悪感というか。

たまらなく苦しかったです。

−それは苦しいですね。

芽衣:

そうなんですよ!それで、高校に入って彼女ができて身体の違和感について当時の彼女に話して初めてトランスジェンダーっていう概念に触れて、「ああ自分はこれなのかもしれない!」って思ったんです。それから、男物の服を着て、男子トイレを使ったとき、解放されたというか、すっきりした感覚があったんです。

−それは違和感がなくなったからなんでしょうか?

芽衣:

そうですね〜。そう思います。

空地でのインタビュー1

赤裸々にご自身の体験を語っていただきました。

−ついでにお尋ねしたいのですが、お二人は当事者であると公言して活動してらっしゃいますよね。当事者間においても考えのずれだったり辛いことやおかしいなと思うことはありますか?

芽衣・舞花:

ありますね〜!(苦笑)

−おお!例えば?

芽衣:

実は僕、ハグすることが大好きで(笑)でもそれは、僕にとっては大事なコミュニケーションの1つで。でも、それ(ハグをすること)は「男らしくないじゃん」と言われて。多分、ハグすることが女性的といった考えが(一般的に)あるんでしょうね。でも、ハグすることは僕にとっては当たり前のことで。だけど、それは他の人にとっては当たり前ではなくて。その一般的な“当たり前”をやっぱりどこかで(当事者であっても)押し付けてる感じがあるところが(他の当事者と)一緒にいてちょっと苦しく感じることがあります。

舞花:

「いろんな人いるよね」って自分たちで言ってるのに、どこかで「かくあるべき」におさめようとしている。ちょっと苦しいというか違和感を感じる部分です。

−マイノリティ当事者として、多様性を認めてほしいと願う立場にあるのに、一般的であることにこだわる、というのが当事者間にも存在しているんですね。なるほど。“一般的”というものに苦しんでいるのに、その“一般的”を求めているといった矛盾がある。それは生きていく上で息苦しさを生み出してしまいますね。ちなみに“生きる”というキーワードが出ましたので、ここで質問させてください。 

−生きていくには“働く”ということから逃れられません。この“働く”、“生きていく”ということについて、お二人はどのようなお考えをお持ちなんですか?

舞花:

うちは働くにしろ、生きていくにしろ、人との関わり、繋がっていくことが大事だと思うんですよ。一人で生きていくのは本当に難しくて、辛いことで。自分自身、誰かと一緒にいることが好きだからかもしれませんが、“つながり”って本当に大事なことで。周囲の人ありきの自分だと思うので。とにもかくにも、“人とのつながり”を持つことが生きていく上で大事なんじゃないかなと考えています。

芽衣:

僕も舞花と大体同じ考えなんですけど(笑)。でも、大人になっていくにつれて、「何もない人生だけは嫌だ」って。そこから自分だけじゃなくて、他の人も笑顔に、その人の心を揺さぶるような事をしたいと考えるようになりました。実際、今講演家として活動して、いろんな人と関わっているなかで、「ああ、生きてる」って、自分が生きている感覚を持っていて。それがとてつもなく心地いいんですよ。それが僕にとっての“働く”であり、“生きていく”ってことかな。

−お二人とも、何よりも“人”というところに重きを置いていらっしゃるんですね。ちなみに、実際に働いた経験を通して感じた「嫌なこと」みたいなものはありますか?

舞花:

うちは今のところ、特に不便は感じてないですね〜。

芽衣:

僕は結構ありましたね。当時の就職活動で、自分のセクシュアリティが厄介だなと感じました。履歴書における性別の二択欄だったり、スーツであったり。とにかく、“女性”として扱われることが苦痛で苦痛で。でも、ホルモン注射だったり、適合手術だったりといった、性別変更に関する手続きをまったくしていないので、身体は女性のまま面接とか就職活動を行っていたのですが、その(自分は男であるという)説明をいちいちしなければならないことがしんどくて。就職活動や働くことにおいて“男か女か”といった性別の何がそこまで重要なのかなあと、当時も、今も疑問に思っています。

−同感ですね。当然のように履歴書やエントリーシートに女か男科の二択のみの性別記入欄がありますが、その欄が必要であるという根拠もはっきりしていませんからね。こうお話ししていると、現代の日本社会は足りない所が多いように思います。お二人が社会に求めることは何でしょう?

芽衣・舞花:

けっこうあるんですけど!(笑)

−おお!どうぞどうぞ(笑)

芽衣:

なんて言えばいいんですかね。とにかく、これしちゃいけない!みたいな勝手な縛りがあるように感じるんです。男だからこう、女だからこうみたいな。でも男女云々の前に私たちは一人間じゃないですか。だから何をしたって、どうあったって自由だと思うんです。それで本人が苦しくないならそれで良いと思うんですよ。

舞花:

社会というか、人が「こうであるのが普通だよね」といった、理想像みたいなものにあてはまらなきゃみたいな感じがありますよね。やっぱりそれは窮屈に感じます。

芽衣:

何回も同じことを言っていますが、トイレだって、制服だって、履歴書の性別欄にしたって、本人が苦しくない形をとって良いといった、寛容的というかおおらかさみたいなものが何よりも必要だと思います。

−誰でもない自分の人生ですからね。

芽衣:

本当にそう。何にだってチャレンジしていいのに、それをしない。安定性ばっかりが充実してて、新しいことに対するチャレンジ精神が低い!そこが今の社会のつまらなさなのかなと思っています。

−では最後に、これからを担っていく十代、二十代の方々に向けて一言お願いしてもよろしいでしょうか?

芽衣:

これからどんどんやりたいことや試したいことがでてくると思います。それで周囲から止められたり、反対されたりしてショックを受けることもあると思います。それでもやってみてください。挫折したり、諦めたりして良いんです。それに気付けただけで十分なんです。頑張りたいことを一生懸命、全力を尽くしてやってほしいと思います。

舞花:

苦しいことや辛いこと、寂しかったり悲しかったり、「孤独だ」って思うときがあると思うけど、それでも絶対独りなんかじゃない。必ず誰かが傍らにいます。少なくともうちらは傍らに居たいと思っています。絶対に、独りなんかじゃないから。これからもうちはそう伝えられるアーティストになっていきます。

−本日は本当にありがとうございました!

芽衣・舞花:

ありがとうございました!

空地でのインタビュー

青空インタビューにご協力いただき、ありがとうございました!

ご自身のセクシュアリティに関する体験談から、長野での音楽を通したLGBT啓発活動についてまで、赤裸々に語ってくれた、西澤芽衣さんと榊原舞花さん。セクシュアルマイノリティだからこそ見えてくる、現代日本社会の問題点、特に「働くこと」については、JobRainbow編集部としても共感し、これから変えていかなくてはならないと感じる部分でした。

お二人の今後のご活躍を応援しております!

JobRainbow編集部 古本 愛

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