アセクシュアル(Aセクシュアル・エイセクシュアル)とは?【恋愛はしない?】
アセクシュアル(Aセクシュアル・エイセクシュアル)とは、他者に対して性的欲求(や恋愛感情)を抱かないセクシュアリティのことです。
最近はテレビやインターネットでも「LGBT」が浸透してきましたが、それに加え「LGBTQIA」や「LGBTQ+」など、頭文字が増えた略語も使われるようになっています。
この「QIA」や「Q+」というのはレズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー以外のセクシュアリティを表しています。セクシュアリティはよく知られている上記の4種類に限らず、多数あるのです。
そんな中でも今回は、上述の「A」にあたるアセクシュアル(エイセクシュアル)について解説していきたいと思います。
現在「普通」とされている性行為を前提とした恋愛関係を理解できないと感じたり、他人の「恋バナ」に興味が持てなかったりして疎外感を覚えている方は、もしかしたら「アセクシュアル」の概念を知ると、心が少し楽になるかもしれません。
また、もし自分の性のあり方が気になる方は、セクシュアリティ診断もご活用ください!
アセクシュアルって何?
アセクシュアルとは、簡潔にいうと「他者に対して性的欲求・恋愛感情を抱かないセクシュアリティ」のことです。
厳密には「他者に対して性的魅力を感じない」がアセクシュアル、「他者に対して恋愛感情を抱かない」がアロマンティック、性的欲求・恋愛感情の両方を抱かない方は「アロマンティック・アセクシュアル」と言います。
しかし日本では「他者に恋愛感情を抱かない」という意味も込めてアセクシュアルと表すことがあり、「他人に恋愛感情を抱くものの性的魅力を感じない」人はノンセクシュアルと呼ぶことがあります。
アセクシュアルの割合
人口に占めるアセクシュアルの割合は1%ほどとされています。これは、「働き方と暮らしの多様性と共生」研究チーム(協力・大阪市)による調査で判明しています。
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アセクシュアルの方の特徴を挙げる前に、まずはありがちな誤解を解いていきたいと思います。
アセクシュアルは意識的に恋愛をしない人を指すわけではありません。「恋愛をしないようにしている・避けている」「宗教の関係で恋愛ができない」といった人はアセクシュアルには含まれません。
そんなアセクシュアルは、「他者に性的欲求を抱かない」セクシュアリティという意味で用いられます。
主に英語圏では、「他者に性的欲求は抱かないが恋愛感情は抱くセクシュアリティ」はロマンティック・アセクシュアル、「他者に恋愛感情を抱かないセクシュアリティ」はアロマンティックと呼ばれてきました。
一方日本においては「恋愛感情の有無」を中心に捉えられる傾向があると言われており、
- 恋愛感情も性的な欲求もない=アセクシュアル
- 恋愛感情があり、性的な欲求がない=ノンセクシュアル
という独自の用法がありました。
ただ、近年では日本においても英語圏に近い用法も見られており、当事者間でも少々異なったニュアンスで使用されることがあります。
愛情がないの?結婚はしたくないの?
アセクシュアルを自認する人はカミングアウトをした際に、周囲から「アセクシュアルだから他人への愛情がない、冷たい人なんだ」と思われることがあります。
確かに、アセクシュアルの方には交際経験がないケースもありますし、「告白をされてなんとなく付き合ってみたもののしっくりこずに別れた」というケースもあります。
また、恋愛コンテンツに自分を重ね合わせて共感するといった経験も少なく、「世の中には他人に対してこんな感情を持つ人がいるんだ」という角度で興味を持ったり、あるいは恋愛感情というものの存在自体に実感が湧かず、非現実的に感じたりします。
ですが、注意すべきことは、恋愛感情がないからといって「感情がない」「愛がない」ということにはならないという点です。
皆さんも恋愛感情や性的欲求といった感情と、友人や家族に対する友情・愛情は別々に抱きますよね。
同様に、恋愛感情や性的欲求が弱い・ないからといって、友人や家族を愛する気持ちがないわけではないのです。
アセクシュアルの方に対して「人を好きにならないなんてロボットみたいだね」と無理解な言葉をかける人が時々いるようですが、そのような発言は相手を深く傷つける可能性があるので控えるべきです。
「自分はアセクシュアルで、かつ家族愛も友人への愛も希薄」という方もいますが、それは人それぞれであり、アセクシュアルであることとは一切関係がありません。
また、アセクシュアルを自認している人の中でも結婚願望のある人は多いようです。
こちらの記事では、アセクシュアルを自認しているYouTuberのなかけんさんが、アセクシュアル仲間の結婚観について、
アセクシュアルっていうと結婚しないんでしょ、する気ないんでしょ、と言われることが多いんですけど、オフ会で聞いていると結婚に関心がある人は3,4割程度いるのかなぁという印象でした。
HUFFPOST『結婚、考えてますか? 恋愛しないアセクシュアルが語る、これからの生きかた』
要するに、パートナーと呼べる人は欲しいという感じの人が多い。恋愛はいらないけど、それと家族と呼べる存在はイコールではないじゃないですか。信頼はすごく置けるし、言い合える仲でもあるけど、恋人とはちょっと違う、みたいな…そんなポジションの人が欲しい人は多いです。
HUFFPOST『結婚、考えてますか? 恋愛しないアセクシュアルが語る、これからの生きかた』
と語っています。
もちろん、結婚はしなくてもいいかなと考えている人もいますが、「家族のように、いつも自分を支えていてくれる存在が欲しい」という想いがある人もいるのです。
しかしながら多くの人にとって、恋愛感情や性的欲求は愛情に伴っているものであるため、アセクシュアルであることを受け入れたうえで交際を続けられる人が少ないという現状があります。
アセクシュアルを公言している有名人
1. なかけん(YouTuber)
LGBT YouTuberとして活躍する、性性堂堂のメンバーであるなかけんさん。(参考:LGBT YouTuberまとめ10選【日本にもこんなにたくさん!】)アセクシュアルとして自身の恋愛観や考え方について多くの動画を投稿しています。
なかけんさんは自身が「恋愛を経験することに対して必要性は感じていないが、恋愛を嫌悪しているわけではない」と恋愛観についての動画で話しています。恋愛の話を友達とすることも好きだというなかけんさんは、アセクシュアルの中でも恋愛観は異なってくると考えており、定義に縛られないアセクシュアルのあり方を動画内では多く紹介しています。
(なかけんさんの出演する性性堂堂の動画をご覧になりたい方はコチラ)
2. 東友美(町田市議会議員)
2018年9月3日、町田市議会議員の東友美さんはアセクシュアルであることをカミングアウトしました。「人間として重要な、大きな欠落があるから恋愛対象として人を好きになれないんだ」と考え、そのような自分を受け入れていたという東さん。しかしあるLGBT専門家の方に言われた一言でその気持ちは変わったそうです。
「女性は恋をしないと『恋愛しないなんて!』と結構言われたりしますが、恋愛しなければその分エネルギーを別のところに使えるし、距離をもって人を見られる利点もあるし、人としての魅力は十分で、大事な部分が欠落しているわけでは全くありませんから、自分のそういうところを、是非大事にしてあげてくださいね」
立憲民主党 東友美【公式サイト】「性的マイノリティ当事者であることを公表致しました」
この言葉で初めて自分の悩みが否定されたと言う東さんは、その後LGBTのために町田市で多くの活躍をしています(東友美さんのカミングアウト全文をご覧になりたい方はコチラ)。
3. 中山咲月(モデル・俳優)
モデル・俳優として活躍する中山咲月さんは、2021年9月に初のフォトエッセイ『無性愛』を発売しました。
その発売に際して、自身がトランスジェンダーかつアセクシュアルであることをカミングアウトしています。
トランスジェンダーというと、『じゃあ女性が好きなの?』と聞かれることがありますが、自分はこれにプラスして無性愛者(asexual)の特性も持っています。自分ですら扱いにくい性別ですが、無性愛者のセカイを、人に伝え、知ってもらいたい。そんなふうに思い、このフォトエッセイを出版させていただく運びになりました。性別の枠を越え、人間・中山咲月としてご覧いただけたら、こんな幸せなことはありません
クランクイン『仮面ライダー ゼロワン』亡役・中山咲月、トランスジェンダー&無性愛者を告白 フォトエッセイ発売
この本の出版が決まったとき、こんなに自由に表現させてもらえるなら、自分のことをすべて包み隠さず話してしまおう、と決めました。
ワニブックス『無性愛』公式サイト
この本を通して、中山咲月のこと、自分が男性として認識して欲しいと思っていること、そして無性愛のことを少しでも知ってもらえたら嬉しいです。
もし、身近な人がアセクシュアルだったら
もし家族、友人、同僚などの身近な人がアセクシュアルであると打ち明けてきたとき、下記のようなことは言うべきではありません。
- 「恋愛しない人生なんてつまらないよ、かわいそう」
- 「本当のパートナーに出会ってないだけだよ」
- 「恋愛感情/性的感情がないだなんて人間じゃないみたい」
アセクシュアルは「かわいそう」なことではありません。また、「本当のパートナーに出会っていない」というのは、ヘテロセクシュアルの人に対して「まだ本当の同性のパートナーに出会っていないだけだよ」と言うのと同じくらい奇妙なことです。
確かにセクシュアリティは流動的なものですが、自分のことは自分が一番よくわかっているのであり、恋愛観や結婚観、その人の人生観は他人が口出しをしていいことではありません。
また、恋愛感情・性的感情の有無と「人間らしさ」に何の関係もないことはこれまでに述べた通りです。
恋愛至上主義的な価値観が強い今の日本では、他人に性的感情や恋愛感情を持たないというだけで異端視され、かつての東議員のように「自分には欠陥がある」と思いこまざるを得ない状況に追いやられている人が多くいます。
無理解な言葉で傷つく人を減らすためにも、まずはアセクシュアルというセクシュアリティの存在を広め、多くの人が正しく理解することが大切です。
おわりに
ここまで読んで、自分はアセクシュアルかもしれないと感じた方がいるかもしれません。「でも、これから恋愛をするかもしれないからアセクシュアルと名乗っていいのだろうか……」と思っている方もいるでしょう。
実際「アセクシュアル」という性自認にはしっくりくるが、「今後絶対に恋愛をしないとは言い切れないから」とアセクシュアルを名乗れないという方は多いですが、身構える必要はありません。アセクシュアルの当事者であるYouTuberのなかけんさんのインタビューから引用します。
そもそも恋愛感情そのものが証明しづらいものだ。証明する必要性もない。セクシュアリティを定義するワードは、宿り木のようなイメージでいいと思っている。自分自身でしっくりくるなら、そのワードを使えばいい。そんな不確定な部分も含めて、曖昧なままでいいと思っている。
(引用元:アセクシュアルで悩んだ時期は人に言えなかったけど、今は曖昧なままでいいって思える。【後編】 https://lgbter.jp/ken_nakamura2/)
また、LGBTの認知は広まっているものの、アセクシュアルは「マイノリティの中のマイノリティ」であるために人から認められにくいという難しさがあります。LGBTの中でも恋愛をするセクシュアリティの人から「アセクシュアルは恋愛をしないなんてかわいそう」と言われてしまった、という悲しい出来事もあります。
LGBT(特にレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル)に言及する際「愛の形は人それぞれだけど、人を好きになる気持ちは尊いので尊重するべき」といった言い回しが使用されることがあります。間違ってはいませんが、より正確には「人に恋愛感情を抱くことも、恋愛感情を抱かないことも同様に尊重されるべき」なのです。
他のマイノリティを支援する一方でアセクシュアルというマイノリティを踏むことがないよう、すべてのマイノリティに開かれた社会を作っていきたいですね。
JobRainbowはそんな社会を目指し、今後もLGBTQ+フレンドリーな求人情報やコラムを発信していきます。
参考
- The Asexual Visbility and Education Network Overview
- SEVENTEEN, “What is Asexuality? Firstly, it’s completely normal.”
- ハフポスト「アセクシュアルって何? 世の中には性的な関心がない人もいます。」
- ハフポスト「恋愛しなくちゃいけないの? アセクシュアルの私が感じる生きづらさ」
- ジュリー・ソンドラ・デッカー『見えない性的指向 アセクシュアルのすべて』(2019)
- 三宅大二郎・平森大規『日本におけるアロマンティック/アセクシュアル・スペクトラムの人口学的多様性-「Aro/Ace調査委2020」の分析結果から-』(2021)