

就活・職場でカミングアウトってするべき?すべきでない?

LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーの頭文字をとったセクシュアルマイノリティの総称)にとって、カミングアウトする/しない、するとして誰にするかは悩ましいところ。
カミングアウトすることは、就活、そして就職後はたらくうえでどんな影響があるのだろうか。
今回の記事では、自分らしくはたらくためにカミングアウトするべきかすべきでないか悩んでいる方の判断材料になるよう、メリットだけでなくデメリットも紹介していく。ぜひ参考にしていただければ幸いだ。
そもそもカミングアウトのメリット・デメリットって?

「LGBTってカミングアウトできればいいんでしょ?」
「なんとなく」のイメージでそう思っている方は多い。しかし、したい人もしたくない人も当然いることは前提としておいてほしい。
カミングアウトには、どのようなメリット・デメリットがあるのだろう。成蹊大学非常勤講師 石田仁氏は自著『はじめて学ぶLGBT』においてアメリカの非政府組織Human Rights Campaignの調査を引用し、次のようなメリットとデメリットを挙げている。
メリット
- ・オープンに生き、人生をまっとうできる
- ・より緊密で正真正銘の関係を築くことができる
- ・他者からよく知られ愛されることによって、自尊心が築かれる
- ・アイデンティティを隠すことによるストレスが軽減する
- ・LGBTとほかの人々とつながり、強く活気のあるコミュニティに参加できる
- ・LGBTとはどういった人々のことを指し、どのような生活を送っているのかにまつわる俗説やステレオタイプをぬぐい去る働きを持つ
- ・他者にとってのロールモデル(行動や考え方の模範となる人物)となる
- ・自分たちの足跡をたどろうとする、より若い世代のLGBTを楽にさせられる
デメリット
- ・すべての人が理解し受容するわけではない
- ・家族や友人、職場の同僚は衝撃を受け、混乱し、敵意さえ持つかもしれない
- ・関係性が永続的に変わってしまう恐れがある
- ・嫌がらせや差別を受ける可能性がある
- ・身体の安全性にリスクが生じるかもしれない。特に18歳未満の若者は家を追い出されたり、両親からの経済的な支援を失う恐れがある
(参考:石田仁『はじめて学ぶLGBT』)
最後のものは「職場」とは少し話がずれるかもしれないが、他のものは全てはたらくうえでも重要なポイントだ。しかし、あくまでこれはアメリカの調査だ。
では、一つ一つについて「はたらく」観点から検討していく。
「カミングアウト」って何?~LGBT カミングアウトストーリーまとめ~
「はたらく」うえでのカミングアウト〜メリット編〜

まず、先ほどあげたメリットを、「職場」に落とし込んで考える。
オープンに生き、人生をまっとうできる
アイデンティティを隠すことによるストレスが軽減する
→職場においても、日常会話などのコミュニケーションはとる。そのなかで、例えばゲイである自分に対して「彼女いるの?」「結婚しないの?」としつこく聞いてくる同期がいるとしたらどうだろう。もちろんここまでくるとセクハラ・SOGIハラにもなってくるが、自分のアイデンティティを隠すために細心の注意を払い続けることは精神的な疲労に繋がる。つまり、カミングアウトしてオープンに生き、こうした部分に意識を割く必要がなくなることは、ストレスがなくなることに繋がる。
より緊密で正真正銘の関係を築くことができる
他者からよく知られ愛されることによって、自尊心が築かれる
→「正真正銘の関係」という点に関しては少々疑問が残る。自分のアイデンティティを隠して築く関係は、「正真正銘の関係」ではないのだろうか。職場においてはなおさら、「プライベートのことは全く話さないが信頼できるビジネスパートナー」は考えうる。また、カミングアウトすることで自分のアイデンティティが開示されることはよく知られることにもなるが、「愛される」に直結するかに関しては個人によるだろう。
一方、LGBTと自尊心の関係はかなり密接な関係があることも事実だ。
例えば、自分のセクシュアリティが教科書などに記載されていないがために深く傷つくケースや(参考:「自尊心傷つけられるLGBTの子なくしたい」学習指導要領の案に多様な性の記載ゼロで呼びかけ)、自分のセクシュアリティを隠すことによる心理的負担から自尊心が下がっているのではないかとする研究もある(参考:心理学における性的マイノリティ研究─教育への視座─)。
LGBTのほかの人々とつながり、強く活気のあるコミュニティに参加できる
LGBTとはどういった人々のことを指し、どのような生活を送っているのかにまつわる俗説やステレオタイプをぬぐい去る働きを持つ
→カミングアウトすることで、オープンにしている他の人と繋がる機会は増える可能性は上がる。LGBTサークルのようなアクティブなコミュニティに入ると同時に、悩みなどを共有することもできる。もちろん、マッキンゼーのLGBTQサークルGLAMをはじめ、カミングアウトすることなく所属できるLGBTコミュニティも存在する。
2つ目のメリットに関しては、個人レベルの話ではなく「社会への影響」といった少しマクロな話になってしまうが、その人にとっても「勝手な誤解」を解消できることはメリットだ。
他者にとってのロールモデル(行動や考え方の模範となる人物)となる
自分たちの足跡をたどろうとする、より若い世代のLGBTを楽にさせられる
→こちらも、少々規模の大きな話となってくる。自分より後の世代を考えた時、その会社に入りたいLGBTの就活生が、「カミングアウトしながらこの会社ではたらくとは、どういうことだろう」と考える参考にできるだけでなく、実際に話を聞きにくることもできる。
「ロールモデルなど本当に必要なのだろうか?」との意見も散見されるが、自分と似た状況の人に意見を仰ぎたいことはあるだろうし、ロールモデルがいないことによる不安を抱える人は存在している。
職場を見渡すと、上司や同僚のほとんどは、結婚して家庭をもっている(ストレートであろう)人たちばかり。仕事はきちんとやっているものの、自分がこの会社で出世していくとは思えない……。せめて堂々とゲイとして活躍している人が社内にいれば、未来予想図も描けるのですが……。(参考:後藤純一『職場のLGBT読本』)
企業のLGBTサークルって何をしているの?【企業別取り組みまとめ】
LGBTフレンドリーな企業を知ろう【先輩社員のメッセージまとめ】
「はたらく」うえでのカミングアウト〜デメリット編〜

次に、デメリットについても検討する。
すべての人が理解し受容するわけではない
(家族や友人、)職場の同僚は衝撃を受け、混乱し、敵意さえ持つかもしれない
嫌がらせや差別を受ける可能性がある
→LGBTについて間違った知識・偏見を持っている人は悲しいことに一定数存在する。一方、会社規模でLGBT研修などを実施し、社員の理解を促進しているところや、LGBTフレンドリーであるときちんと姿勢を明らかにしているアライの企業では、これらの事態は基本的に起こらないだろう。
性的指向や性自認を理由としたハラスメント(いわゆるSOGIハラ)に関しては、LGBT研修で真っ先に学ぶ内容であるため、こうしたものも、LGBTフレンドリーであり研修をきちんと実施していれば安心だ。
関係性が永続的に変わってしまう恐れがある
→これは難問である。自分自身が変わったわけではないが、その人が自分に抱いていた感情を自分が操作することはできない。
ただ、これはそもそも相手に対して隠していたものをオープンにすることで生じる危惧ではある反面、入社段階でカミングアウトしていれば、「その後のカミングアウトによって今までの関係が変わる」ことはないだろう。
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カミングアウトと勤続の関係

「カミングアウトすることは絶対にその人のためになる!」
とは限らない。上に挙げたように、はたらくうえで、メリットもデメリットもある。
一方、カミングアウトすることと勤続意欲には関連があることを指摘している。ある調査によると、職場でカミングアウトしていない人で「勤続意欲が高い」と答えた人は47.4%であったのに対し、カミングアウトしている人で「勤続意欲が高い」と答えた人は61.2%であったとのこと(参考:石田仁『はじめて学ぶLGBT』)。
調査により明確な因果関係が示されているわけではないが、隠す必要がなくなったことによるストレスの軽減など、先ほど挙げたメリットがこの調査結果によりつながった可能性は十分にあるだろう。
おわりに

就活・職場でのカミングアウトについて、メリット・デメリットを挙げて考えてきた。
メリットに関しては、生じるか怪しいものもあった一方、概して生じるもののようには思えた。
一方デメリットに関しては、LGBTフレンドリーな企業で入社後早い段階からカミングアウトできていれば生じないものにも思える。
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