ダイバーシティとは?【企業・私たちにとっての意味】
ダイバーシティとは、多様性を意味する英単語で、企業においては「多様な人材を積極的に雇用・活用する」という経営上の取組や指針を指すビジネス用語です。
近年、日本国内でもビジネスの場や就職活動などにおいて、ダイバーシティを重要視する傾向が広がってきました。
ダイバーシティという単語自体を耳にする機会が格段に増えた一方、なんとなくの意味を理解していても実際にどういうことなのかわからないと感じる人も多いのではないでしょうか。
今回はダイバーシティについて説明していきます。
ダイバーシティとは
ダイバーシティとは「多様な人材を積極的に雇用・活用する」という経営上の取組や指針を指すビジネス用語です。
Diversity(多様性)という英単語からきており、元々の語源はラテン語の「di(離れて)」と「verse(向く・変える)」が合わさった言葉です。
ダイバーシティの考え方は「人種のるつぼ」と言われていたアメリカの職場環境で、雇用上の差別是正が強く意識されるようになり、その権利を獲得するための運動の中で始まりました。
人種問題をはじめとして、性別や価値観、宗教の違いを理解し合うことが必要となり、それが企業における社会的責任とされるようになります。
一方、日本においては「ダイバーシティ」というと「女性の社会進出・活躍推進」の話として捉えられることが少なくありません。
もちろん間違いではありませんが、女性だけでなくさまざまな多様性を認める活動が必要とされています。
ダイバーシティ&インクルージョン
ダイバーシティ&インクルージョンとは、ダイバーシティ(多様性)がインクルージョン(包摂)される、すなわち受け入れられる考え方を指します。
先ほど説明したダイバーシティとは何が違うの?と思う方もいると思います。
日本においては両者とも同じような意味合いで使われることが多い一方で、アメリカでは近年ダイバーシティ&インクルージョンの方がより強く意識されている傾向にあります。
ダイバーシティの考え方とは、多様な人々が同じ価値観に同化する、また多様性を内包している一つの組織であるというものが一般的です。
一方ダイバーシティ&インクルージョンとは多様な人材を受け入れ、個人の能力を活かして企業の創造力を高めることが必要だとされるようになったものです。
こちらは組織の中に内包された多様性(多様な人材同士)がその素質を活かし、相互に関わり合うことで利益をもたらすという考え方で、同化を求められるものではありません(参考:ダイバーシティ&インクルージョンとは? CSRレビューフォーラム)。
ダイバーシティ・マネジメント
ダイバーシティ・マネジメントとは、これまでの慣習に囚われずに、多様な属性や価値観を活用して、ビジネス環境の変化にすばやく柔軟に対応し、企業の競争力を強化することと、個人の幸せを実現することを目標とする新しいマネジメント・アプローチを指します。
ダイバーシティ・マネジメントは1990年代以降、伝統的・慣習的なアプローチや、それまでにあった多様性を受容するアプローチを超えるものとして脚光を浴びるようになりました。
その画期的であった特徴は以下の4つにあります。
- 多様性が企業の売り上げや利益に貢献し、競争力の源になるという考え方が前提であること
- 対象は個人、人間関係、組織の3つのレベルであって、女性やマイノリティにのみ押し付けるものではないということ
- 多様性の定義が広く捉えられており、個人や集団の間で違いを生み出すあらゆる可能性を考慮していること
- あらかじめ決められた手続きや数値目標ではなく、実際の取り組みのプロセスで問題点や解決策が見つけ出されるという長期的な観点が重視されていること
1994年の時点で、アメリカのとあるコンサルタント会社が500社に対して行った調査では、既に7割以上の会社で何らかの取り組みが行われているという結果が報告されています。
参考:筒井清子・山岡煕子編『グローバル化と平等雇用』、学文社
どんな多様性がある?
「多様性」とひとことに言っても、実際にはどんな個性が多様性として認識されているのでしょうか。
さまざまな多様性の各々の側面から、不利益を被る可能性や差別を禁止する法律に着目していきます。
1. 性自認・性的指向
性自認とは自身の性をどのように認識しているか、また性的指向とはどんな性の人を好きになるかということです。
アメリカでは、性的指向・性自認に基づく雇用差別を禁止する連邦法はないものの、週報において多く施行されています。
性自認・性的指向による差別偏見は、当事者の働き方に著しく影響を及ぼすものです。
また、企業の福利厚生制度の中には、従業員だけでなくその配偶者も範囲内のものがあります。同性のパートナーはそれらの制度を利用できないという不利益を被る可能性があります。
日本の現行法上では、性自認・性的指向に基づく差別を禁止する法令は存在しないため、LGBT法連合会では法令の成立に向けたコミットメントを示すべきだとして2020年4月17日付で安倍首相あてに書簡を送っています。
参考:
法務省 性的指向及び性自認を理由とする偏見や差別をなくしましょう
2. 性別
「男は外で働き、女は家庭を守る」というような価値観を聞いたことがあるかと思います。
これは性別役割分業とされる、性別のみにもとづいて役割を決めようとする家族観です。
現代は共働きの家庭なども増えて家族の形が多様化しているので、「男は外で働き、女は家庭を守る」という家族観は古いと感じる方も多いのではないでしょうか。
性別における多様性の話なのに、なぜ家族の話をするのかと思われるかもしれません。
日本において、いまだに男女の賃金格差は著しいものです。2017年の調査 では、G7と呼ばれる主要先進国の中で男女賃金格差は最も高くなっています。
その背景には、日本の法律の仕組みが家族単位のものが多いところにあります。
女性は結婚して夫に扶養されるものだということが暗黙の前提とされていることや、育児や介護などを男女が共に担うための制度やサービスが充実していないことなど、様々な面から労働における男女格差が生じています。
また「性別」=「男女」という前提条件も懐疑的にならざるを得ません。
戸籍上で確認できる性別は男性/女性のみですが、性自認 は人によって様々です。
性別という概念をどう考えるかという問題は、多様なセクシュアリティの人々に寄り添う必要があり、一概に「男女」の問題だとは言えません。
参考:
主要先進国で日本の「男女間賃金格差」は最下位!いまだに“女だから稼げない”っておかしくない?
男女共同参画に関する4カ国調査(日本、アメリカ、スウェーデン、ドイツ) 内閣府男女共同参画局
3. 年齢
年齢によってカテゴライズすることは、個人の能力評価を誤ってしまうことに繋がる可能性があります。
高齢な労働者や、逆に若すぎることへのネガティブな偏見によって不利益に取り扱われることがあります。
アメリカでは1903年の段階で州レベルの年齢差別禁止法が制定されており、日本では2001年に施行された旧・雇用対策法7条により、募集・採用段階で年齢制限を行わないようにする努力義務が課せられるようになりました。
また、2007年には雇用対策法が改正され、努力義務であった上記項目が義務規定化されました。
参考:
4. 人種・国籍(ナショナリティ)
「人種・国籍を問わず」というフレーズはよく好んで使用されますが、それは何を想定した文言なのでしょうか。
人材を活用する地域(日本国内だけ/日本国内を含むアジア圏/世界中等)、そして使用する言語(流暢な日本語/日本語は必要ないが流暢な英語力が必要等)など、その解釈には幅が出てしまいます。
ナショナリティの多様性は、グローバル経営をどのような組織運営に基づいて行うかという課題になります。
例えば、外国籍スタッフの数年後の離職を懸念して重要業務を任せないなどという実態もあります。これでは外国籍スタッフのキャリア形成意欲を阻害してしまって、さらなる離職率へとつながる可能性があり、悪循環に陥ってしまいます。
参考:日系企業が抱えるダイバーシティ推進における課題-外国籍スタッフ育成と女性活躍推進に共通する問題の構造
5. 宗教
1958年の差別待遇(雇用及び職業)条約にて、労働者を宗教もしくは宗教的信仰によって差別することは禁止されています。
宗教・信仰を理由として他の労働者よりも不利に扱う直接的差別や、特定の宗教・信仰を持つ人が不利になるような基準・規定・慣習を実施するといった間接的差別が差別待遇としてみなされています。
参考:1958年の差別待遇(雇用及び職業)条約第111号 ILO
6. 障がいの有無
日本では、障害者基本法3条3項によって、「何人も、障害者に対して、障害を理由として差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない」ことが明言されています。
障害者雇用差別を禁止する法律は日本にはないものの、障害者の職業の安定を図ることを目的として、「割当雇用アプローチ」が採用されています。
割当雇用アプローチとは、企業の従業員数に応じて一定の割合以上の障害者を雇用するように使用者に義務付けたものです。
7. 見た目
見た目や容姿、体型などを理由とした雇用差別というと、いわゆる「顔採用」という言葉が思い浮かぶ方も多いでしょう。
実際に容姿による採用基準を設けることは、現行法上では明文で禁止されているものではありません。
しかし、個人情報保護法の行政解釈により、「容姿、スリーサイズ当差別的評価につながる情報」を収集・管理してはいけないとされており、これは容姿による差別に言及しているものと言えます。
また、労働者の見た目(ヒゲの有無・茶髪等)による解雇に対し無効であるという裁判例もあります。
企業には「採用の自由」が認められていますが、企業と個人(労働者)の立場を考えた場合、企業の方が有意な立場にあることから、「採用の自由」は「職業選択の自由」を妨げない範囲で認められるものとされています。
ダイバーシティはなぜ必要?
ダイバーシティ&インクルージョンに対し、人権意識や社会的責任としてだけでなく、重要な経営課題として捉える企業が増えています。それは一体なぜでしょうか?
1. 企業活動のグローバル化
インターネットの普及を契機にグローバル化が急速に進んだことによって、企業の抱える人材が多様化してきました。
同時に、顧客の生活とニーズも多様化し、企業が提供する商品やサービスもグローバル化して行くことになります。
2. 超スマート社会の到来
通信技術の高速化やネットワークの高度化、ビックデータ解析やAIの発展など、生活環境は大きく変化しています。
「科学技術基本計画」という、サービスの利便性を目指した計画をもとに、2016〜2020年にかけて約26兆円もの研究開発が進められています。
成熟市場と言われている国内市場において、多様化こそがさらなる革新を創造すると考えられています。
3. 少子高齢化
「人生100年時代」が到来し、日本の総人口は減少していくことが予想されています。そのため、年齢を問わない人材活用が求められるようになりました。
上記3つを含めた大きな社会の変化を背景にして、経済の持続的な成長を実現することが企業には求められています。
これは多様な人材の確保と活用こそが社会全体の生産性を向上させていくものであるという考え方、すなわちダイバーシティ&インクルージョンの推進が必要不可欠とされる世の中になってきたということです。
職場とLGBT
セクシュアリティは目には見えないアイデンティティであることが多く、そのため企業側が把握していないと「うちの会社にはLGBTはいない」「弊社はLGBTとはあまり関わりがない」と言われてしまうことがよくあります。
実際には、日本の民間団体による調査でLGBTは人口の8%〜10%前後、つまり10から13人に1人の割合と言われており、決して少ない数ではありません。
企業にとっても、従業員・顧客・取引先・株主などあらゆる形での関わりが存在していることが事実です。そのため社内/社外の両面から向き合っていく必要があります。
職場内でLGBTを認識するためには、本人からのカミングアウトが必要になりますが、カミングアウトすることはあくまで本人の選択であり、強制することはできません。
またLGBTに理解のない環境では、本人の意思決定のない場面で人のセクシュアリティを第三者に言いふらしてしまう、アウティングが起きてしまう可能性もあります。
企業側はLGBT当事者がカミングアウトしている/いないに関わらず、その存在を当たり前のものとして働きやすい環境を作っていくことが必要なのです。
また、LGBTに対して取り組みや活動を行っている企業や団体を示すときに、「LGBTフレンドリー」という言葉がよく使用されます。
具体的には、差別禁止規定や福利厚生などの制度の面や、LGBT研修などの取り組み、また当事者サークルの設立など、多様な面からLGBTに対してサポートを行なっている企業のことを「LGBTフレンドリーな企業」と呼んでいます。
『LGBTフレンドリー』な企業って、どんな会社なんだろう?
LGBT就活・転職ガイド
LGBTを取り巻く課題って?【学校・しごと編】
LGBTQ+向けの転職・就活の求人サイト JobRainbow
LGBTQ+向けの転職・就活の求人サイトであるJobRainbowでは、LGBTフレンドリーな企業を数多く紹介しています。
LGBTフレンドリー度という独自の基準は、「行動宣言」、「研修」、「人事制度」、「当事者コミュニティ」、「働き方」、「Diversity!」の6つの大項目がそれぞれ4段階の評価に基づいて作成されており、ひと目でわかるように表記されています。
基本情報や福利厚生はもちろん、実際に働いている人の声など気になる情報も満載です。
おわりに
「ダイバーシティ」という言葉自体は近年広く認知されるようになりましたが、実際のその取り組みや内容については、誤解があったり深く知られていなかったりすることもまだまだあります。
ダイバーシティ&インクルージョンの考え方がより世の中に広がっていけば、それはきっとマイノリティだけではなく全ての人にとって働きやすい環境の実現、また自己実現が可能になる環境へとつながるはずです。