日本で同性婚の実現は可能?【なぜ必要?パートナーシップ制度との違い・社会への影響も解説】
先日、13組の同性カップルが国を相手に裁判をおこしたことで議論が深まっている同性婚ですが、(参考:朝日新聞デジタル『同性婚認めないのは「違憲」カップル13組が一斉提訴』2019年2月15日)世界では2001年に初めて同性婚を認めたオランダにつづいて、異性カップルと変わらない結婚制度や、国全体で取り組んでいるパートナーシップ制度の導入が進んでいます。現在は台湾など、アジアの国でも同性婚を認める風潮が広がっていますね。
一方で、同性愛を禁止する宗教を信仰する人が多く住んでいるといった理由から、同性婚を認めていない国も多くあります。
しかし、なぜ同性婚を「法律で」認めなければならないのでしょうか。
そもそも、同性婚の代わりに利用されているパートナーシップ制度や養子縁組制度とは何が異なるのでしょうか。
実は同性婚を法律で認めることは、結婚している二人が得られるはずの権利を「当たり前に」取得するために必要なことであり、同性のカップルが国と社会の両方から認められるために重要な一歩なのです。
今回はパートナーシップ制度との比較や同性婚にまつわる議論を通じて、なぜ日本にも同性婚が必要なのかを考えます。
そもそも、なぜ問題なの?
同性婚を認めることについて、憲法の解釈や人権問題といった観点を中心に意見が交わされていることを知っている方も多いのではないでしょうか。
一方で、これは同性カップルや同性を愛することがある人が身近にいないとなかなかイメージしづらい問題でもあります。
しかし、同性婚という制度がないことは憲法や人権にとどまらず、同性を愛することがあると気付いた人の将来を左右する問題でもあるのです。「法律で決まっているから」「自分には関係ないから」と結論づけるのではなく、誰もが一緒になって深く考えることが重要なのです。
では、実際にどういった問題があるのかを見ていきましょう。
1. 憲法の解釈
同性カップルを中心に同性婚に賛成する人が増えていますが、いざ同性の結婚を認めようとした際にある壁にぶつかりました。
それは日本国憲法にある、「婚姻は両性の合意に基づいてされるものだ」という文の解釈です。
この文章を「結婚は両性、つまり男性と女性のカップルでないとできないものだ」と解釈した場合、同性婚は憲法に違反するということになり、法整備ができません。実際に日本では、2015年に安倍首相が「現行憲法では同性カップルに婚姻の成立を認めることは想定されていない」というような発言をしました。(参考:産経ニュース『同性婚認める憲法改正「極めて慎重な検討要する」安倍首相』2015年2月18日)
一方で、憲法は本来、すべての国民が平等に尊重されるという「基本的人権」に基づくものであるため、同性カップルであっても結婚できるようにするべきだという意見もあります。言いかえると、憲法ができあがった当初は同性愛という概念が社会に存在していなかったため「両性の合意」と書いてあるだけであって、基本的人権を守るのならば性別にかかわらず結婚ができるべきだ、ということです。
これは解釈の問題であるため、どちらが正しいかはハッキリしていないというのが現状です。この議論がどうなるかによって、同性婚のゆくえが左右されます。
2. 「異性愛主義」の日本での生きづらさ
しかしながら同性婚のない日本では、「自分は同性が好きかもしれない」と気付いた時から「自分は普通ではない、おかしい人間だ」と考えてしまう同性愛者が多くいます。
人間は、早くて小学校の低学年から「好き」という感情を抱き始めますが、わずか7〜8歳の子供でさえ「自分は同性が好きだ」と気づけば自分を責めはじめます。
同性愛者である自分を最初に差別するのは、ほかでもない自分自身のなかにある「常識」や「普通」なのです。
実際、同性愛者の自殺率は異性愛者に比べて6倍も高いことや、自殺を考えたことがある人がとても多いということもわかっています。地方では同性愛者に対するネガティブなイメージがより強く、青森県出身のゲイである後藤さんは「10名以上のゲイの友人が自殺した」と述べています。(参考:COURRIER JAPON『人の死を笑うな──杉田議員へお願いしたいこと』2018年8月12日)
また、結婚制度が国によって決められていることで、夫婦関係にある二人は
- 土地や遺産、保険金の受け取り
- 病院での面会や手術の同意
- 葬儀での火葬への参加
- 転勤や結婚における企業からのサポート
など、もしもの時やお互いの最期に一緒にいることができるような権利が与えられています。
しかし、同性のカップルは「結婚」をすることができないため、これら全てができないのです。
想像してみてください。
恋人が入院した時に「あなたは家族ではないから」という理由でお見舞いに行けず、詳しい病状を知らされません。火葬に同席することもできず、相手の家族との関係性によっては葬儀にすら呼ばれないかもしれません。
これらはすべて、同性パートナーがいる人が実際に経験したことです。
「愛する人がつらい時に支えてあげたい」「サポートをうける『権利』が欲しい」と思う気持ちは、皆同じです。それなのに「パートナーが同性である」というだけで、生涯にわたって支え合う権利がないという現状は、変えていく必要があります。
日本における同性婚の代わり
同性婚のない日本で「家族」としての権利を受けとれるように、同性カップルは代わりに様々な方法をとってきました。その中でも代表的なものと、これらが十分でない理由について考えます。
1. 養子縁組制度
同性のカップルが結婚の代わりに利用する代表的なものとして、養子縁組があります。これはカップルのうち歳上の人が「親」になり、もう一方が「子」になることで親子になり、家族としての権利を受けとるようにするというものです。
多くの同性カップルにとっては、この制度が家族としての権利を受けとる「唯一の方法」であるため、これを利用しているという現状があります。
しかしこれは、付き合っている相手と「親子」になるということであり、「対等な関係」ではないため、抵抗を感じる人が多くいます。
2. パートナーシップ制度
養子縁組制度にかわっていくつかの地域が取り入れているのが、パートナーシップ制度です。現在、渋谷区や世田谷区などの少ない地域でのみ認められており、結婚をした人とほぼ同じ権利を受けとることができます。
しかし、これはパートナーシップ制度がある地域に住んでいる(もしくは移住する予定がある)カップルにのみ認められており、引っ越しなどでその地域を離れるときはパートナーシップを解消することになるため、不便である一面があります。また、異性間の結婚よりも認められるまでに時間がかかり、書類も多いです。(参考:渋谷区役所『パートナーシップ証明に対するよくある質問』)
3. 海外結婚
同性婚が認められている国で結婚をするという方法もとられてきましたが、海外で結婚をしてもその関係は日本では認められません。すなわち、海外で結婚をしてそこに移住をしなければならないのです。
もともと海外に移住したいと考えていたカップルであれば抵抗はないと思いますが、時間をかけてビザを取得し、慣れしたしんだ日本を離れて、わからないことだらけの土地で家や仕事を探すということはとても難しいと考えられます。
また、ふたりがこれから住む場所がはじめから限定されているということについても、異性のカップルと比べて平等ではないと感じる人も多いです。
4. 代わりでは不十分な理由
今まではこれらの制度がとられてきましたが、どれも異性の夫婦が得られる権利の一部しかもらえないのが現状です。また、養子縁組制度を利用して「親子」になりたいわけではありません。二人で住む場所も異性カップルと同じように、好きなところに住みたいという願望もあります。
このように、日本には「結婚」という制度でなければ受けとれない権利が多くあるのです。
同性婚を日本で認めることへの意見
では、同性婚を日本で認めることに対して、どのような意見があるのでしょうか。今回は2015年にマイナビが行なったアンケート(参考:マイナビニュース『「同性婚」、どう思いますか?』2015年7月24日)を参考に、実際の意見をみていきましょう。
1. 賛成
同性婚に賛成する人の意見には、
- 基本的人権はすべての人に認められるから
- 結婚は個人の幸せであり、自由だから
- 世界でも同性婚を認める流れがあるから
といったものがあります。
現在日本にある法律や制度には、時代の流れに応じて大きく変化してきたものがたくさんあります。
例えば、スマートフォンやSNSに関する法律は、これらが作られる前はありませんでしたよね。
同じように、結婚に関する法律や考え方も昔と今とでは異なります。
1900年代は「お見合いを通して、二つの家が結びつく」という考えが強かったですが、今では好きな人と結婚をする人がほとんどです。
もちろん、「伝統がこわされる」「考えられない」といった理由で、こうした変化に反対する人も多くいましたが、最終的には日本の結婚制度は大きく変わっていき、今では好きな人との結婚ができる人が大半になりました。
このように、法律や制度は新しいものや考え方によって変わっていくものなのです。したがって「同性婚」という新しい考えが現れた今、古い考えにとらわれずに法律を変えていくべきではないか、と考える人が増えています。
2. 反対・その他
同性婚に反対する人の意見としては、明らかな理由があって反対というよりは「なんとなく反対」という意見が多くみられました。年齢を問わず「抵抗がある」「やはり異性が一緒になることの方が正しい気がする」といったことを答えている人や、「わざわざ国が認めなくてもいいのでは」「自分には関係ないからわからない」という声もありました。
しかし、日本では「結婚」という制度で得られる権利や、守られるものが数多くあります。実際に結婚し、その権利をつかう時まで気づかないような権利もありますが、愛する人と共に生活し、二人の財産をまもるためには「結婚」という制度が必要なのです。
また、「自分の周りには同性を好きになる人はいない」と考えている人もいますが、実はカミングアウトをしていないだけでとても身近に存在しているかもしれません。日本では親しい人にさえカミングアウトをしないという人も多いため、自分のまわりに同性を好きになって悩んでいる人がいるかどうかがわからず、「同性婚は自分には関係ない」と考える人が増えています。
また、以下に紹介している記事にはこれら以外にも、
- 伝統的な「結婚」に反しているから
- 少子化すると思うから
- 結婚は国が法律で決めるべきではないから(異性・同性かかわらず)
といった反対意見が解説されています。
【差別ではない?】同性婚反対派の議論【解説してみた】
LGBTと生産性の話 同性婚は出生率低下に繋がるってほんと?
LGBTは生物学的にまちがっている?【東大生が反論してみた】
もし、日本で同性婚が認められたら?
では、同性婚が日本で認められた場合、どのような変化があるのでしょうか。
ここでは代表的なものを3つ紹介します。
1. 自殺率の低下
まず、自殺率が低下することが考えられます。
これは2015年にアメリカで行われた調査に基づくもので、2015年1月以前に同性婚を認めた32州と、認めていなかった州を比べた結果、同性婚を認めた州では
「ゲイ(性自認が男性で性的指向も男性である人)、レズビアン(性自認が女性で性的指向も女性である人)、バイセクシュアル(男性・女性の両方に性的指向が向いている人)の若者の自殺および未遂の件数が14%減少した」
という結果が発表されました。(参考:AFPBB News『同性婚先行導入州で高校生の自殺率低下、米調査』2017年2月22日)
ここから見られるように、「同性でも結婚できる」という制度があるということは、「(同性愛者である)自分もだれかと共に生きることができる」「パートナーと結婚できる」ということであり、同性を好きになることがある人にとって大きな心の支えになるのです。
また、「同性婚」という国の法律があることで、同性を好きになるということが国家からも社会からも認めされているという実感につながり、同性婚のない現在よりも暮らしやすい社会がつくられることが予想されます。
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2. 福利厚生の変革
企業の福利厚生(社員へのサポート)のあり方も大きく変わると考えられます。
同性パートナーがいる社員に向けた福利厚生がすでに充実している企業も多くありますが(参考:LGBT採用に前向きな企業まとめ【 40社 】)、同性婚が正式に認められれば、就職した企業によらず十分なサポートを受けることができるようになります。
そうすれば就職・転職活動の際に、セクシュアリティを理由に選択肢が狭まることがほとんどなくなるため、好きな企業を自由に志望することができます。
また、転勤をすることになった時にも、パートナーと二人で移住することが可能になるため、自分のスキルを最大限まで生かして働くことができます。
これは企業としても、利益が増加するためメリットになると考えられます。
3. 【心配】同性婚ができないカップルも?
しかし、今まで養子縁組を使って親子になったカップルはどうなるのでしょうか。
日本では民法734条で、親子間での婚姻を禁止しています。そのため、一度親子関係を結んだカップルが同性婚を利用できるかという点で疑問が残ります。
養子縁組制度を利用したカップルの中には、同性婚という形でなくてもいいという人もいると思いますが、ほかに制度がないために「仕方なく」養子縁組制度を利用したというカップルの場合、「同性婚をした」と正式に認めてもらいたいというのが本心です。
もし同性婚を日本で認めるのなら、養子縁組を利用したカップルも「結婚」ができるような制度も必要になるのです。
おわりに
いかがでしょうか。
すべての人に結婚を認めることが日本に住む全員に関わる「権利と命の問題」であることや、同性であるというだけで受けとれない権利が多いことがわかったと思います。
同性婚は、同性を好きになることがあるすべての人が国と社会の両方から認められ、二人の幸せを祝ってもらえるような世界をつくるための大切なステップです。もちろん同性婚に反対する人もいますが、個人や団体として「反対すること」と国として「制度がないこと」は別の問題です。
人々が同性婚についてただ議論をするだけではなく、「すべての国民が尊重され、平等に扱われる」という基本的人権に沿って、結婚という制度を変えていくべきではないのでしょうか。
参考文献