「LGBTには生産性がない」? JobRainbowが改めて解説

ライター: みんな すばる
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2018年8月号の『新潮45』に杉田水脈衆議院議員の「『LGBT』支援の度が過ぎる」という論説が掲載され、LGBTレズビアンゲイバイセクシュアルトランスジェンダーの頭文字をとった、セクシュアルマイノリティの総称)とその「生産性」が話題となりました。

とくに大きく取り上げられたのが、次の部分でした。

 (・・・)「生きづらさ」を行政が解決してあげることが悪いとは言いません。しかし、行政が動くということは税金を使うということです。

 たとえば、子育て支援や子供ができないカップルへの不妊治療に税金を使うというのであれば、少子化対策のためにお金を使うという大義名分があります。しかし、LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子供を作らない、つまり「生産性」がないのです。そこに税金を投入することが果たしていいのかどうか。

『新潮45』8月号「『LGBT』支援の度が過ぎる」 P.58-59

この論説をめぐって、様々な賛否両論が巻き起こりました。

そこで本コラムでは、次の3つの論点について検討します。

  • LGBTには「生産性」があるのか?
  • 「LGBTには『生産性』がある」という反論の問題点
  • 行政がLGBTのために動くべき理由とは?

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LGBTには「生産性」がないのか?

海辺であかちゃんにキスをする大人

杉田水脈議員の論説に見られるような「LGBTには『生産性がない』」=「LGBTのカップルは子どもを作れない」という見解はよく見る意見の1つです。

では、果たして本当にLGBTのカップルは子どもを作れないのでしょうか?

次の3点を検討して、LGBTの「生産性」を考えてみましょう。

  • LGBTが子どもをもつ方法
  • LGBTの子育ての状況
  • 同性婚と出生率の関係

1. LGBTが子どもをもつ方法

多くの場合、同性パートナー間だけで子どもを産むことはできません。

しかしながら、アメリカやカナダなどの国では、様々な制度や方法を使って子どもをもつことができます。日本でも、男性カップルが里親に認定されて、10代の男の子を預かったという前例があります。

2. LGBTの子育て

LGBTのカップルでも子どもをもつことができることがわかりましたが、LGBTの子育ても現実的なものとなっています。

たとえばUCLA法科大学院のシンクタンクThe Williams Instituteによりますと、

  • 成人LGBTのうち、子どもを持っている/持っていたことのある人は37%(300万人)
  • 同性カップル家庭のうち19%(12.5万戸)に、18歳以下の子どもが22万人
  • LGBTの親をもつ子どもや大人は600万人 

というデータがあります(アメリカ)。

「親がLGBT」という人は、すでに東京都の人口の6割ほどいるのです。

また、同性カップルは異性カップルと同じように子育てする能力があり、育てられた子どもも同等に心理的に健康である、という科学的知見をアメリカ心理学会は発表しています

多くの研究で、この結果は一貫しているようです。

このように、LGBTの子育てはすでに現実的なことなのです。

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3. 同性婚は「非生産的」ではない

夕日を見ながら手を繋ぐカップルの後ろ姿

同性婚も、必ずしも「生産性がない」とは言えないかもしれません。

たとえば、2014年にアメリカのユタ州で、州側の同性婚禁止が違憲だとする訴訟がありました

ユタ州側は「結婚は男と女が子どもをもうけるという再生産のための制度として古来から続いてきた」と主張しましたが、「同性婚」と「不十分な出生率」に関する因果関係・相関関係を示すことができず、敗訴しました。

むしろ、同性婚を合法化した州では出生率は上がっており、同性婚を排除し続けていたユタ州の出生率は下がっていたのです。

このように、同性婚も一概に「非生産的」だとは言えないのです。

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LGBTの「生産性」まとめ

手を繋いで野原を歩くゲイカップルの後ろ姿

以上のことをまとめると、

  • LGBTのカップルも子どもをもつ方法がある
  • LGBTのカップルでも子育てができる
  • 同性婚は出生率を必ずしも下げない

といったことから、LGBTは「生産性がない」とは言えないことがわかります。

「LGBTには『生産性』がある」という反論の問題点

他方で「LGBTには生産性がある。だから、行政はLGBTの権利の公正化のために動くべきである」という反論の仕方には、問題点もあります。

その問題点とは、「生産性がない(とされる)人々には、行政が動いてもらう資格がない」という考え方が相変わらず根底にあるところです。このとき、「生産性」という指標は「少子化対策に貢献するのか」「日本社会を維持できるのか」というふうに、「その人は社会の役に立つのか、役に立たないのか」という基準の1つになっています。

このように、「社会に役立つ」「社会に役立たない」という基準で人の価値を判断するのは、いずれ「役立たない人は生きている価値がない/他の人よりも価値が低い」という考え方(優生思想)に結びついてしまいます。

では、優生思想はどうして望ましくないのでしょうか?

「生産性がないLGBTに税金を投入することは果たしていいのかどうか」という考えは、[2016年]の相模原障害者殺傷事件の植松被告の「日本には金がないのだから、社会の役に立たない心失者(障害者)を活かしておく余裕はない」という発言と同質であり、その根底には優生思想が流れています。

「LGBTは生産性がない」発言に潜む、他者と比べてしまう人間の性。そこから見えてきたものとは

上の引用で指摘されているように、優生思想は相模原障害者殺傷事件の植松被告の発言を肯定しうるものになってしまうのです。

したがって、「LGBTには生産性がないから、行政が動く理由はない」という意見に対しては、次のように反論するべきでしょう。

× LGBTには生産性がある。だから、行政はLGBTの権利の公正化のために動くべきである

○ LGBTに生産性があってもなくても、行政はLGBTの権利の公正化のために動くべきである

行政がLGBTのために動くべき理由とは?

「LGBTには生産性がないから、行政が動く理由はない」という意見に対して、「LGBTに生産性があってもなくても、行政はLGBTの権利の公正化のために動くべきである」と反論すれば良いことはわかりました。

それでは、なぜ生産性の有無にかかわらず行政はLGBTのために動くべきなのでしょうか?

それは、現状ではLGBTの人権が侵害されているからです。たとえば異性カップルの場合には婚姻の権利がありますが、2019年現在、同性カップルにはその権利が与えられていません。あるいは、シスジェンダー(出生のときに診断された性と、こころの性が一致する人)の人は「シスジェンダーである」という理由で就職を断られることはありませんが、トランスジェンダーの人の場合、「トランスジェンダーである」という理由で就業を断られたりします。

LGBTであるか否かにかかわらず、人は平等に扱われる権利をもっています。これは日本国憲法14条で定められていることでもあり、私たちが直感的に願っていることでもあるでしょう。

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杉田水脈議員発言のその後

杉田議員は、2018年10月24日に自身の発言について会見を行っています。

会見によると、杉田議員は「『生産性』という言葉は、本当に不適切だった」と述べ、寄稿文の不適切な表現を認めました。「今後しっかり研さんを積み、勉強して行きたい」と釈明したようです。

その一方、当事者の人権を否定、当事者を差別する意図は一切ないとして、寄稿文の撤回はしていません。また、杉田議員自身の辞職等の話もないようです。

杉田議員の寄稿文が掲載され、その後「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」という特集を組みさらに激しい批判に晒された、雑誌「新潮45」は、その後「限りなく廃刊に近い休刊」となっています。

(参考:朝日新聞出版(2018)「週間アエラ」2018年10月8日号, p.61)

おわりに

本コラムは、次の3点を検討しました。

  • LGBTには「生産性」があるのか?
  • 「LGBTには『生産性』がある」という反論の問題点
  • 行政がLGBTのために動くべき理由とは?

その結果、次のような結論を得られました。

  • LGBTにも「生産性」はある
  • 「LGBTには『生産性』がある」という反論よりも、「LGBTに生産性があってもなくても、行政はLGBTの権利の公正化のために動くべきである」と反論したほうが良い
  • LGBTの権利が侵害されているからこそ、行政はLGBTのために動くべき

全ての人が自分らしくいられる。そんな世界を実現するためには、つねに社会を省みていくほかありません。

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