Xジェンダーとは? 【男女の枠に属さないってどういうこと?】

ライター: JobRainbow編集部
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Xジェンダーとは、「(身体的性に関係なく)性自認が男性にも女性にもあてはまらない」セクシュアリティを指す、日本でうまれた言葉です。

皆さんの中で、「自分の性別がよくわからない」といった方はいませんか?

一般的には「男性・女性」という性別がありますが、この文章を読まれている方の中には、自分の性に合うものがないと感じる方や、「男女の枠に自分を当てはめることに違和感がある」という方もいるかもしれません。

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今回は、このように性自認に対する違和感を抱える方の、ひとつの道標となる「X(エックス)ジェンダー」についてご紹介します。また、Xジェンダーの人が抱える悩みやその具体的な例、クエスチョニングとの違いについてもお伝えします!


Xジェンダーとは?

Xジェンダーとは、「身体的性に関わらず、性自認が男性にも女性にもあてはまらない」セクシュアリティです。

実はこちら、日本でうまれた言葉です。海外の書類の性別欄には「X」という性別がある、というニュースをご覧になった方もいると思いますが、これはXジェンダーではなく、単に「男性・女性に当てはまらないあらゆる性の総称(=Gender Queer)」を指しています。(参考:Park blog「米国で性別Xの免許証登場! LGBTの権利保護はもはや社会の常識か。」

現時点では「Xジェンダー」を直訳できる単語はありませんが、海外では「第3の性」や「Gender queer」と呼ばれることがあります。

なお、性自認とは「自分の性別を自分がどう感じているかという認識」のことであり、レズビアンゲイバイセクシュアルなどに関わる性的指向(どの性別を好きになるか)とは異なる分野にあてはまります。

一般的にXジェンダーの性別としては、中性・両性・無性・不定性の4つがあるとされています。

1. 中性

中性とは、男性と女性との中間地点に自身が存在すると認識している性自認です。

2. 両性

両性とは自分の性が男性でもあり、女性でもあると認識している性自認です。「自分の中には男性が◯割、女性が◯割」存在している」というように男女両方に属しているという感覚で、この割合は本人の中でほぼ変わりません。

3. 無性

無性とは、男性・女性どちらの要素も持たない性自認のことです。すなわち「男女どちらとしての感覚(認識)にもあてはまらない」という自認をしている人がこれにあたります。

中性や両性、そして次に紹介する不定性は「男と女、2つの性別が存在している」という認識があることが前提ですが、無性と自覚している人にはその認識がありません。

4. 不定性

自分自身の性自認が流動的な性自認を不定性といいます。言い換えると、様々な性の間で自分の性が揺れ動いているという人をさします。

不定性における性の揺れ動きは、2つの性の間に限定したものではありません。たとえば、男性・女性の中間地点から女性との間にかけて流動する人もいれば、男性・女性・Xジェンダー無性のような複数の性の間で流動する人もいて、どちらも不定性に当てはまります。

先ほど紹介した両性のうち「日によって自分の中の男性・女性の割合が変わる」という人も、不定性です。

このような分類がされていますが、Xジェンダーは上記4つの性自認にとどまりません。

「自分の性自認が揺れている」「自分の性が定まらない」という自覚そのものが、ひとりひとりの固有の性自認であり、このような性自認をXジェンダーと呼んでいるのです。

また、「身体的には男性だけど性自認がXジェンダーである」という人をMtX (Male to X-gender)、「身体的には女性だけど性自認がXジェンダーである」という人をFtX(Female to X-gender)といいます。

Xジェンダーって、どれくらいの割合なの?

「Xジェンダー」という言葉の浸透が進む現在、Xジェンダーと自認している人はどれほどいるのでしょうか。

2016年に宝塚大学がおこなった調査(『LGBT当事者の意識調査~いじめ問題と職場環境等の課題~』)に回答した、国内に住む15064人のセクシュアルマイノリティ(10歳以上)のうち「Xジェンダー男性(おそらくMtXを指しています)」「Xジェンダー女性(おそらくFtXを指しています)」として回答した人数は、合計1493人(回答者の約1%)でした。

日本の人口は約1億3000万人で、また、2018年に電通がおこなった調査によると日本におけるセクシュアルマイノリティの割合は8.9%であるため、ざっと計算すると日本全体のおよそ0.7%(116万人)がXジェンダーであるといえます。

これは日本にいる「渡辺さん」や「伊藤さん」と同じくらいの割合である、と例えれば、Xジェンダーは珍しい存在ではないことがわかるのではないでしょうか。

Xジェンダーは、どんなことに悩んでいるの?

湖のほとりで瞑想する人の後ろ姿

Xジェンダーは「性が揺らいでいる」という性自認であるため、例えば

  • 身体的な性に従ってスーツを着ることに抵抗がある
  • 書類での性別欄が「男女のみ」のとき、どこに書けばいいのか?
  • 性別が揺れることそのものが、自分自身の揺らぎになって不安定

などの悩みを抱えています。「性が揺らいでいること」を自分が受け入れることも、世間に受け入れてもらうことも難しく、一人でふさぎこんでしまうことも少なくありません。

特に、日本を含め多くの国では、人の性を男性・女性の2つのみに限定することが当たり前の社会が形成されています。「男または女であること」が、人格形成や他者の判断に大きく影響しており、普段の会話で「自分は何者か」と名乗る際にも、その性別が先入観や仲間意識につながり、「まわりから見た私」という人間が誕生していきます。

しかしXジェンダーを自認する人は「男女どちらでもない」ので、周囲との関わりが希薄になることもあります。

また、もともと「自分の性がわからない」「自分の性が定まらない」状態の人にとっては、常に男女のどちらかでいなければならないという社会の「常識」は、苦痛に感じることがあります。

さらに、皆さんも「男/女の子っぽいね!」「男性/女性はこういった傾向があるよね」と、何気なく言われたり、男女で区別された制服やスーツ、男性向け・女性向けの職業分類、衣服のデザインなど、Xジェンダーの視点に立ってみると日常的なモヤモヤがたくさんあることに気づくと思います。

Xジェンダーの恋愛

夕日の沈む海をバックに手を握り合うカップル

Xジェンダーの人が抱えるもう一種類の悩みは「性的指向」、すなわちどの性を好きになるかに関する悩みです。Xジェンダーの人は自分の性別が男女どちらともいえないため、「同性愛者」「異性愛者」どちらのコミュニティにも加わることができません。そのため、Xジェンダーの人がその悩みを共有できる相手を見つけることは難しいのです。

例えば、以前放送されたNHKのテレビ番組では、Xジェンダーという言葉が今より浸透していなかった時代に「自分は何者なのか」と悩んでいた城間勝さんへのインタビューが放送されました。(参考:「『LGBT』に当てはまらない苦しみ乗り越え『Xジェンダー』の私が生きる道」

城間さんは身体的には男性ですが、考え方は女性的な面が強いとおっしゃっていました。

自分の性別に違和感を覚え、自分は何者なのかを模索するために大学でゲイサークルに入るも、自分の中には「女性」という性自認が存在するため、男性として男性を愛しているわけではないと感じたそうです。またある時は、女装をした人が働くバーで働き、自分の性別についてうちあけました。同じバーで働くスタッフには「女になろうという覚悟が足りない」と言われましたが、自分が完全に女性になりたいわけではなかったため、ここでも居心地の悪さを感じていました。

実は、性自認に関わらず、性愛の対象が男性の人のことを「マセクシュアル(アンドロセクシュアル)」、性愛の対象が女性の人を「ウーマセクシュアル(ジニセクシュアル)」と呼ぶことがあります。しかしこれはあまり知られておらず、そのために「自分はレズビアン/ゲイにはあてはまらない」「自分の居場所や属性がわからない」と考え悩む人が増えています。

ウーマセクシュアル・マセクシュアルとは?【アンドロセクシュアル・ジニセクシュアルとも】

このように、レズビアンやゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーという言葉に比べて「Xジェンダー」が浸透していないため、自分のセクシュアリティがわからずに居心地の悪さやストレスを感じる人が今もいるのです。

Xジェンダーとクエスチョニングの違い

芝生の上にある水晶に背景の空と地面が逆になって映っている様子

Xジェンダーとの違いがわかりにくい性自認として、クエスチョニングがあります。実は筆者自身も、調べるまではこの2つの違いがよくわかりませんでした。

クエスチョニングとは「性自認や性的指向のどちらか、もしくはその両方がわからない」もしくは「(意図的に)決めていない状態」の人をさします。自分の属性を模索中である状態の人もこれにあたります。

しかし、性自認が「男女どちらでもない」「男女の間で揺れている」というXジェンダーとは何が違うのでしょうか。

わかりやすくいうと、クエスチョニングは自分の性別についてわからない/何も決めていないのに対し、Xジェンダーを自認している人は「自分の中に男性と女性が共存しているか、それぞれの間を行き来している」「自分の性別は男女どちらでもない」「自分の性別はない」という答えの出た状態にいます。つまり、自分は男女のどちらでもない、と「決めている・わかっている」人が「Xジェンダー」であり、「決めていない・わかっていない」という人が「クエスチョニング」です。この2つの感覚は、似ているようで決定的に違うものなのです。

「さらにややこしい!」と思われましたか?
それでは、具体例をあげていきましょう。

クエスチョニングはほとんどのセクシュアルマイノリティが通る道で、例えば先ほど紹介した城間さんで言えば、自分の性自認がわからずにゲイサークルに入っていた期間は「クエスチョニング」という性自認だったといえます。どのセクシュアルマイノリティも、自分の性別は一体何なのか模索していた期間はクエスチョニングだった、と考えることもできますね。そしてその途中で、自分がレズビアンなのかゲイなのか、トランスジェンダーなのかといった答えを見つけ、その答えの中に「Xジェンダー」という性自認が存在しているのです。

また、クエスチョニングを「Xジェンダーと名乗るよりも自分に合っている気がするから」という理由で自称している人もいます。たとえば、「自分は性別にとらわれたくない」「どのジェンダーでもなく、ひとりの人間として生きたい」という考えをもつ人が、自分の性別を「Xジェンダーの無性」ではなく、あえて「クエスチョニング」とすることがあるんです。どちらも「男女両方にあてはまらない」という性自認であることには変わりませんが、「決めている・わかっている性自認」もしくは「決めていない・わかっていない性自認」という違いがあります。

もともとXジェンダーは日本で生まれた定義ですから、海外発祥のクエスチョニングとの違いはわかりにくいと思われるかもしれませんが、自分の性別は自分で決めるものです。Xジェンダーもクエスチョニングも、これら以外の性別も、皆さんが最も「安心できる」「あてはまる」と感じたものが「性自認」なのです

Xジェンダーをカミングアウトしている有名人

1. なかけん

なかけんさんの顔写真
引用:なかけん公式Twitter

なかけんさんは、Xジェンダーかつアセクシュアルであることを公表しており、YouTube上の個人チャンネルに『多様な関係性』、『アセクシュアル/Xジェンダー』をテーマとした動画を投稿しています。「性性堂堂」というグループでも活動していて、Xジェンダーかつマセクシュアルのまるるさん、ゲイのヒロキさん、トランスジェンダー (MtF)のゆういさん、レズビアンのなとせさんとともに、YouTubeでの活動を中心にセクシュアリティの啓蒙活動を行なっています。
ライブ配信やイベントなどを通し、複雑になってしまいがちな「多様な性の在り方」をカジュアルかつわかりやすく伝えており、若者を中心に人気を博しています。

またなかけんさんは、アセクシュアルやXジェンダーの方々が、同じような悩みをもった仲間と交流し、つながりをもつことができるよう、「なかぷろ」と呼ばれるセクシュアリティ別の交流会も開催しています。なかけんさんが行なっているような取り組みが広がれば、当事者の方々が悩みを共有する機会が増えますね。

2. ぺさ

ぺさ顔写真
引用:ぺさ公式Twitter

ぺささんは、YouTuberとして活動しており、投稿した動画の中で自身がXジェンダーであることをカミングアウトしています。ジェンダーレスなメイクの仕方や、ぺささんが周囲にカミングアウトした際の体験談、自分がXジェンダーかどうか悩んでいる人に向けた動画なども投稿しており、同じような悩みを抱えている方々の支持を集めています。

ぺささんの動画をご覧になりたい方は、ぜひぺささんのYouTubeチャンネルを訪れてみてください。

おわりに

5つの風船を片手にお花畑で遊ぶ子供の後ろ姿

いかがでしたか?まだまだ知名度が低いXジェンダーですが、実際に自認している人の数は意外と少なくないということが伝わったと思います。また、「常に男女のどちらかでいなければならず、性別で判断されることが多い」という日本ならではの生きづらさを知るきっかけになったのではないでしょうか。

Xジェンダーの人は、現在皆さんの周りにもいるかもしれませんし、いずれ出会うことがあるかもしれません。これを読んでいる方の中には企業の人事部としてセクシュアルマイノリティ採用を進めているという人もいるかと思います。

ジェンダーの世界はとても奥が深いですが、これを機にXジェンダーの人に出会った際にどのような配慮をしたらいいのかを想像し、「性は男女2つに留まらずさらに幅広いものだ」ということを頭の片隅に置いておきましょう。

また、これを読んで「自分はXジェンダーだったんだ!」と気づいた人がいるなら、私もとても嬉しく思います。

この先も悩むことは多々あると思いますが、悩みを共有できる人が見つかることや性別を男女のみに限定して考える「男女二元論」が良い方向に変わっていくことを、心より願っています。

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