LGBTQ+のQとは?【実はよく知らないクエスチョニング・クィア】
最近、カミングアウトして活躍する芸能人も多く、LGBTという言葉を街中やメディアでよく見聞きするようになりました。
それにつれて、「LGBTQ+」という表記も見られるようになってきています。
一体、この「Q」とは何なのでしょうか?
実は、LGBTがレズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーそれぞれの頭文字をとっているように、「Q」も「クエスチョニング」「クィア」という2つの言葉の頭文字をとっています。そして、これらの掛詞のような形でQが用いられているのです。
「……なるほど、それはわかった。じゃあクエスチョニング/クィアってなんだ?」と思った方。
そんな方のために、今回はクエスチョニング・クィアそれぞれについて、そしてなぜ「LGBT」でなく「LGBTQ+」という表記が使われることがあるのか、説明していきたいと思います。
セクシュアルマイノリティに寄り添った表記を心がけたい企業関係者だけでなく、あなたの身の周りにいるセクシュアルマイノリティのためにも、すべての人に読んで・知っていただければ幸いです。
クエスチョニング(Questioning)とは?
人の性自認(自分の性を何と考えるか)や性的指向(どんな性を好きになるか)には、実に様々なかたちがあります。
「LGBT」にあたる、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーは、その中のほんの4つに過ぎません。
そんな中で、クエスチョニングとは、自身の性自認や性的指向が定まっていない、もしくは意図的に定めていないセクシュアリティを指します。
たとえば、
- あえて自分の性自認や性的指向を決めない方が生きやすい
- まだ決めかねている最中
- どのセクシュアリティもピンと来ない
- 「わからない」が自然
といったような理由で、クエスチョニングを自認している場合があります。
つまり、性自認や性的指向について、「まだ決まっていないと思う」「わからない、違和感がある」「ひとつに決まるものではないと思う」などに当てはまるのが、このクエスチョニングです。
クエスチョニングは、このようなかたちの
- 性自認について指している場合
- 性的指向について指している場合
- ↑の両方について指している場合
の3パターンがあります。
また、性自認においては、クエスチョニングと似たような言葉で「Xジェンダー」というものも存在しています。
しかし、そういった名前の付いた性に自分を当てはめることで生きやすくなる人もいれば、当てはめない方が心地よいと感じる人もいます。そのための「クエスチョニング」なのです。
自分をどう定義するかは、その人の自由ですからね。
また、そもそもセクシュアリティとはそもそも流動的なもので、変化することも当然あります。
そのようなセクシュアリティの転換期もまた、「クエスチョニング」と呼ぶことが出来ます。
例えば、「昔は男性が好きだったけど、今は男性も女性も好き」という方もいますし、「昔は自分のことを男性だと思っていたけど、今は女性だと思っている」という方も当然いらっしゃいます。
セクシュアリティを「生まれつき固定されるもの」だと思っている方が世の中にはまだ多いですが、この記事を読んだ方にはぜひ「セクシュアリティとは流動的なものである」と覚えておいていただきたいです。
かくいう筆者も、元々ヘテロセクシュアル(異性愛者)だと思っており、その後パンセクシュアル(好きになるにあたりそもそも性別を条件としない)を自覚するようになりました。
「性は絶対にひとつに決まるもの」という誤解は、まだまだ社会に残っています。
「男なの?女なの?」「男が好きなの?女が好きなの?」という他人からの質問に悩まされている方は少なくありません。
そんな中で、「自分の性を決めなくてもよい」「“決めない”というアイデンティティー」があるということを一人でも多くの人が知っておくだけで、より包括的でやさしい社会になっていくことでしょう。
クィア(Queer)とは?
クィア(Queer)とは、元々は「風変わりな・奇妙な」といった英語圏の言葉です。
「男・女、異性愛」以外の性に対する理解がなかった時代に、「変態」の意味合いを持って、侮蔑的にゲイを表現する言葉として用いられていました。
これだけ聞くと、「え、だったら使わない方がいいのでは……?」と思われた方も多いと思います。
ですが、20世紀終盤以降、その侮蔑を向けられてきたセクシュアルマイノリティが中心となって、あえて自身を指す言葉として使うようになり、「自分たちはクィアである」という一種の開き直りの態度と共に、運動や研究が展開され始めました。
というのも、この「クィア」は、当時権利を主張していたゲイだけでなく、その運動の陰に隠れてしまっていたレズビアンやトランスジェンダー、クロスドレッサー(自身の性を表現するにあたり、異性装を行う)なども包括する概念であるため、マイノリティ全体を繋ぎとめ、連帯へと導く働きがあるのです。
今では、クィア・スタディーズという学問もあり、少しずつこの概念は認知されてきていると言えるのではないでしょうか。
また、自身を「クィア」と公言している有名人の中にはこんな方もいます。
大人気映画「ファンタスティック・ビースト」でクリーデンス役として活躍している、アメリカ人俳優のエズラ・ミラーさんです。
彼は2012年、雑誌の取材で自身が「クィア」だと表現しました。
“Queer just means no, I don’t do that. I don’t identify as a man. I don’t identify as a woman. I barely identify as a human.”
(クィアとはつまり、「NO」という意味だ。僕はそんなこと(人を男女に分けるようなこと)はしない。自分を男とも思っていないし、女とも思っていない。かろうじて言えば、単純に自分が「人間だ」と思っているだけなんだ。)
“「自分を言い表すとしたら、ゲイではない。“彼女たち”に魅かれることが多かったけど、いろいろな人たちと付き合ったし、愛に関してはオープンなんだ」
「ゲイ」じゃなくて「クィア」。ジェンダーから解放された美少年エズラ・ミラー。
性別を聞かれ「僕は単に人間だ」という力強い彼の言葉は、まさに「クィア」という言葉が歩んできた道のりというものを表現しているように感じます。
エズラさんは、かつてから「同性愛者なのではないか?」という勝手な噂が絶えず、「クィア」であると発表した時も、「同性愛者である」という誤った報道の仕方をされてしまいました。
そのような状況に対して2015年の取材では、
「(自分がクィアであるという発表は)自分が誰を、どう愛するかという話になった時、ジェンダーが男性か女性かの二択というシステムに従いたくないという意味なんだ」
と心の内を露にしています。
今の社会の文化や制度には、未だ人の性が男女や異性愛しかないことを前提に存在している部分が多く見られます。
そんな中で、マイノリティが「マイノリティとして」ではなく、「人間として」肯定的に生きることを主張したエズラさんは、他のクィア当事者を含め多くのLGBTQ+コミュニティから支持を受けました。
「LGBT」でなく「LGBTQ+」という表現を使う理由
では、どうして「LGBT」でなく「LGBTQ+」という表現を使うのでしょうか。
「LGBT」とは、冒頭の用語説明でもあったように、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字をとった表現です。
しかし、セクシュアルマイノリティは……いえ、あえてこの名称を使いましょう、クィアは、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーだけでしょうか。
アセクシュアル(他者に対して恋愛感情も性的欲求も抱かない)、Xジェンダーなど、人間それぞれに多様なセクシュアリティの世界が広がっており、レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーではないセクシュアルマイノリティもまた差別や偏見に苦しんでいます。
だからこそ、セクシュアルマイノリティの略称として、「LGBT」ではなく「LGBTQ+」と表現することが、クエスチョニングやその他のセクシュアルマイノリティに対しての配慮を示すことに繋がるのです。
そう表現すること自体が、レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー以外にも偏見や差別に苦しむセクシュアルマイノリティがいることをわかっています、というメッセージになるのです。
ちなみに、「+」は何かの頭文字、というわけではなく、他にも様々なセクシュアリティがあるよ、と示すためにつけられています。
なぜその他のセクシュアリティを「LGBT」のように頭文字で表記しないのかというと、簡潔に言えば、全ての性を表記することはほぼ不可能だからです。
「人の性はグラデーション」という言葉があるように、性には実に多くの種類が存在しています。もしすべて表記しようとしたら、LGBTQQIP2SAA……と続き円周率みたいなことになってしまいます。
もし仮にすべて表記できたとしても、更に新しくそれに当てはまらない性が定義される可能性だってあります。
それくらい人の性は多様で、「枠を限定するようなものではないし、常に新しい多様性にオープンでいよう」という前向きな意味も込めて、「+」という表記が使われているのです。
「LGBTs」という表記の仕方もありますが、この「s」も「+」と同じ意味が込められています。
また、似たような表現として「LGBTQIA」という表現を聞いたことがある方もいらっしゃると思います。この場合の「I」はインターセックス、「A」はアセクシュアルを指してます。
ただ、このインターセックスは「性分化疾患」を表し、「体の性に関する様々な発達が、典型的な男女のかたちと異なる状態の総称」を指す言葉です。
これは性自認や性的指向に関する問題ではなく、あくまで「体の状態が一般的なかたちと違う」というものなので、当事者からは「自分は性的マイノリティではない」という声もあります。
なのでやはり、全ての性をやさしく包括している「LGBTQ+」「LGBTs」という表現を使いたいですね。
おわりに
「LGBTQ+」の表記一つに、このような背景があったことを、ご存じだったでしょうか。ご存じだった方にも、そうでなかった方にも、知っておいていただきたいことがあります。
2018年に電通が行った調査では、日本におけるLGBTQ+の割合は8.6%、実に「左利きの割合と同じ」という結果が明らかになりました。
全ての人が自分らしくいるには、まず一人ひとりが「そんな人はいるはずがない」という(無意識での)排除をしないよう努めなければなりません。
「知らない」ということが、無意識のうちに、何かを隠してしまったり、排除してしまったりすることに繋がります。
しかし、知ることで、見えてくるものがあります。見えてくる世界があります。
この記事が、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クエスチョニングだけでなく、色んなセクシュアルマイノリティがいると知るきっかけになれたなら、幸いです。