【当事者監修】LGBTとは?【2022年度最新版】
LGBTは、レズビアン(女性同性愛者 Lesbian)・ゲイ(男性同性愛者 Gay)・バイセクシュアル(両性愛者 Bisexual)・トランスジェンダー(こころの性と身体の性が一致していない方 Transgender)の頭文字をとった、性的少数者の総称です。「ストレート(こころの性と身体の性が一致している異性愛者)」ではない性のあり方の人、とも言えます。
最近よく聞くようになったLGBTですが、日本における割合は8.9%(11人に1人)とも言われています。
身近なLGBTを理解するため、性の多様性に関する基礎知識、当事者が抱えやすい教育や仕事面の課題、世界の最新事情についてまで、徹底解説していきます。
社会にLGBTの認知が広がってきた今だからこそ、LGBTについてよく知っている人も、そうでない人も、基礎知識の確認にお役立てください!
LGBTの定義
LGBTの由来
LGBTとはセクシュアルマイノリティの総称であり、Lはレズビアン(Lesbian)、Gはゲイ(Gay)、Bはバイセクシュアル(Bisexual)、Tはトランスジェンダー(Transgender)の頭文字をとったものです。
- レズビアン:自身を女性と自認しており、性的指向が女性に向く
- ゲイ:自身を男性と自認しており、性的指向が男性に向く
- バイセクシュアル:男性・女性のどちらにも性的指向が向く
- トランスジェンダー:法律上の性と自認する性が一致しない
ここで、「自認」や「性的指向」という言葉を見て「?」となった方もいるかもしれません。
これらもまた、性のあり方について考える際に重要な観点になります。
セクシュアリティ(性のあり方)に関わる4つの観点
- 法律上の性:出生時に割り当てられた性別をもとに戸籍等に記載された性別
- 性自認(こころの性):「自分は女性/男性/どちらでもない」といった、自分自身の性別に対する認識
- 性表現(ふるまう性):自身がどの性として振舞うのか。男性・女性・中性・無性などが考えられます。
- 性的指向(好きになる性):好きになる人の対象がどのような人であるか。
セクシュアリティはこれらの観点が複雑に絡み合って形成されています。
例えば、ゲイというセクシュアリティは性自認と性的指向が関わるセクシュアリティであり、
- 性自認:「自分は男性である」
- 性的指向:「恋愛・性愛の対象は男性である」
となります。
一方でトランスジェンダーというセクシュアリティは法律上の性と性自認が関わるセクシュアリティであり、
- 法律上の性:男性/女性
- 性自認:自分の法律上の性と一致していない
となります。
※DSDという、「男性/女性ならばこういう体の構造でなければならない」とされる固定観念と一部異なる発達を遂げた体の状態もあるのですが、当事者の多くには「男性・女性のどちらでもない」という表現に抵抗があります
多様なセクシュアリティ
さて、先ほど「LGBT=セクシュアルマイノリティの総称」と説明しました。
ではレズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー以外にどのようなセクシュアリティがあるのでしょうか。一部のセクシュアリティをこちらで紹介します。
- パンセクシュアル:全性愛者。恋愛感情・性愛の対象となる相手の法律上の性・性自認・性的指向・性表現を条件としないセクシュアリティ。
- クエスチョニング:自身の性的指向・性自認が定まっていない・定めていないセクシュアリティ。
- アセクシュアル/エイセクシュアル:他者に対して性的感情を持たないセクシュアリティ(ただし日本では「性的感情と恋愛感情の両方を持たない人」がアセクシュアルと呼ばれることが多い)
- ノンセクシュアル:他者に対して性的欲求を抱かないセクシュアリティ
- Xジェンダー:自身の性自認を男性/女性に定めないセクシュアリティ
このように、「LGBT」と言っても様々な性のあり方があります。しかしこれを「LGBT」と表現して、L・G・B・Tしかいないのだ、と誤解されるのを防ぐため、「SOGI(ソジ)」という概念が使われているのをご存知ですか?
SOGIとは?
SOGIとは、性的指向・性自認のことを指す言葉です。SOはSexual Orientation(性的指向)、GIは Gender Identity(性自認)の略です。
「LGBT」としてしまうと「ゲイ・レズビアン・バイセクシュアル・トランスジェンダー」のみが話の中心になってしまいがちですが、「SOGI」は「性的指向」「性自認」といった誰もが必ず持つ属性を示します。
私たちには「SOGI」がなんらかの形で等しく存在しています。それが様々なセクシュアリティとして表されるのです。その組み合わせが多数派と異なるからといって差別されてはいけないという観点から、「SOGI」という言葉は使われるようになりました(参考:HUFFPOST「LGBTではなく、なぜ『SOGI』なのか?人権という視点から、人間を人間として見るという『あたりまえ』を取り戻す」)。
LGBTの割合
日本のLGBTの割合
そもそも日本にはどれくらいのLGBTがいるのでしょうか?
2018年の電通ダイバーシティ・ラボの調査によると、日本の8.9%がLGBT層に該当するということがわかりました。
日本で一番多い苗字のトップ4は、佐藤さん・鈴木さん・高橋さん・田中さんと言われていますが、これらの割合をすべて合わせても5.21%となります。つまり、あなたの周りにいる佐藤さんや高橋さんより、LGBTの方が実は多いということになるのです。
しかし、このダイバーシティ・ラボの調査は性的指向を男性・女性のみに限定しており、恋愛対象が存在することを前提で調査を行っています。
そのようなことから、アセクシュアルなど、レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー以外のセクシュアリティの存在は数値化されていないとの指摘も受けています。また、調査の対象は20〜59歳だったので、この結果を「総人口」に当てはめてしまうのは安直であるといった指摘もあります。
とはいえ、調査方法によって差が生まれてしまうのは必然ですが、この8.9%という数値はある程度の指標にはなるのではないでしょうか。
他国との比較
参考までに他の国・地域におけるLGBTの割合を紹介します。
アメリカ
→4.5%(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの割合)
2018年5月、アメリカで世論調査などを行っている Gallup社がこの数値を発表しました。
ここで行われたのは18歳以上の34万人の国民に対し、「あなたは自身をレズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーのいずれかだと思いますか?」と聞くシンプルな調査です(参考:Gallup News “In U.S., Estimate of LGBT Population Rises to 4.5%“)。
イギリス
→2.0%(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアルの割合)
こちらは2017年10月にイギリスの国家統計局(Office for National Statistics)が発表した数値です。調査方法は、回答者に「ゲイ・レズビアン・バイセクシュアル・ヘテロセクシュアル(異性愛)・その他」の選択肢を提示し、その中から最も的確に自分を表すと考えられるものを選択させるというものです。
調査は16歳以上に向けて行われ、93.4%が「ヘテロセクシュアル(異性愛者)」、2.0%が「レズビアン」・「ゲイ」・「バイセクシュアル」、0.5%が「その他」、4.1%が「わからない・答えられない」でした。
公式に発表されたのは、2.0%という数値ですが、自身の性的指向について、「その他」や「わからない」を選んだ人も含めるとイギリス国内のセクシュアル・マイノリティは6.6%と日本と近い割合になります(参考:Office for National Statistics “Statistical bulletin: Sexual identity, UK: 2016” )。
ヨーロッパ
※スペイン・イギリス・フランス・オランダ・ドイツ・ポーランド・オーストリア・ハンガリー・イタリアの9カ国
→5.9%(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの割合)
こちらは2016年10月にベルリンの調査会社、Dalia社が発表した数値です。
調査方法としてDalia社は2つの質問と選択肢をそれぞれ用意し、ヨーロッパに住む11,754人がこのアンケートに参加しました。
1つは「あなたは自身をレズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーだと思いますか?」に対して「はい」、「いいえ」、「答えられない」から回答させるもの。もう1つは「自身の性的指向についてどれが一番あてはまりますか?」に対して「ヘテロセクシュアルのみ」、「ほとんどヘテロセクシュアルだがたまにホモセクシュアル(同性愛)」、「ヘテロセクシュアルと同時にホモセクシュアル」、「ほとんどホモセクシュアルだがたまにヘテロセクシュアル」、「ホモセクシュアルのみ」、「アセクシュアル」)、「答えられない」から回答させるものです。
Dalia社の調査は性的指向についてまで回答者に言及させている点で、電通ダイバーシティ・ラボと方法は類似していますが「アセクシュアル」の選択肢が設定されている点が特徴的です。
この調査から、Dalia社はレズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーにあてはまるヨーロッパの割合は5.9%だったことに対して、性的指向が完全に「ヘテロセクシュアルのみ」と言い切れない割合は10%にも及んだことを発表しました(参考:Dalia “Counting the LGBT population: 6% of Europeans Identify as LGBT” )。
調査方法やその規模も様々ですので、これらの数字をそのまま比べてしまうのは良くありませんが、どの国も大体が5〜10%となっています。
カミングアウトって何?
カミングアウトは大切なライフイベント
LGBTに関することを調べていると、よくニュースなどで「〇〇さんがゲイであることをカミングアウト!」や「レズビアンであることをカミングアウトしている〇〇さん」などといった文を目にすることはありませんか?
カミングアウトとは、それまで秘密にしていたこと(主にセクシュアリティ)を周囲に明かすことです。もともと英語で自身のセクシュアリティを周囲に明かすことは “Come out of the closet”(クローゼットの中から出る)と言われていました。隠していること、他者に言えずに殻にこもった気持ちを「クローゼットの中」に例えた表現としてこのような言い回しが生まれたようです。
それが短縮され、現在のように “Come out” が用いられるようになりました。
自分のセクシュアリティについて考え、自覚し、それを他人に伝え理解を得ようとするカミングアウトは、人によっては人生の分岐点とも言える非常に重要なライフイベントです。
毎年10月11日は『カミングアウトの日』と呼ばれており、ゲイのYouTuberとして有名なかずえちゃんは毎年LGBTのカミングアウトストーリー動画をあげています。
知っておかなくてはならないこと
カミングアウトは必ず ”自分自身の意志で” 行うものです。他人が勝手にだれかのセクシュアリティをばらしてしまうことは絶対にしてはいけません。このような行為は「アウティング」と呼ばれます。
本人がカミングアウトしていないセクシュアリティを、服装や言動で他者が決めつけ他言することはもちろんですが、たとえ本人からカミングアウトを受けたとしても、許可なく他人に話してはいけません。
LGBTの多くの人が「カミングアウトしたい」という気持ちを抱えているのは事実です。しかし、やはり周囲が無意識に表す態度や言葉が大きな壁になってしまうことがあります。カミングアウトの大切さや、自分らしく生きることの素晴らしさを社会全体で理解して、思いやりある社会づくりをすることが大切です。
また、カミングアウトは自分が自分らしく生きるための選択肢。必ずしなくてはならないというわけではありません。
カミングアウトに関して悩みを抱えている方へ
自分が思っているより周囲って寛容かもしれません。ずっと気になっていたあの言葉も、あの笑いも実はそんなに深い意味はないかもしれません。そして何より、あなたにはたくさんの味方がいろんなところにいることを忘れないでください。カミングアウトをしていてもしていなくても、私たちはあなたの今の決断をいつでも支え、応援しています。
『カミングアウト』って何?~LGBT カミングアウトストーリーまとめ~
LGBTが日本で抱える悩み
ここまでLGBTについての基礎知識を紹介してきましたが、そもそも皆さんはLGBTに対してどんなイメージがありますか?
「少数派の人たち」、「支援が必要」、「レインボーパレード」、「 “オカマ” 」….
様々なイメージがあると思います。中でもLGBTは、マイナスイメージと結びつけられて考えられることが多いのではないでしょうか。一方、それに対する反発として「別にLGBTでも幸せに暮らしている」「LGBTだからといって不自由を感じたことはない」との声が上がっているのも事実です。
社会には自分らしく生きているLGBTもきっとたくさんいるのでしょう。もしかしたらそのような人たちにとっては「LGBT」をこんな風に取り沙汰する必要性はないのかもしれません。
しかし、だからといってLGBTであることで様々な悩みを抱えている人がいるという紛れもない事実から目を背けてはいけません。
実際にLGBTが抱える課題を、複数の観点からご紹介します。
1.教育
義務教育とLGBT
まず、日本の義務教育内容にLGBTに関する教育は含まれていません。
一部の出版社が発行する教科書ではLGBTの存在には触れているものの、未だ文科省の学習指導要領に「性の多様性」についての記載はありません。
しかし、JobRainbowは小・中学生の段階でLGBTに関する教育を行うことは自己・他者の理解を深める上で非常に重要だと考えています。
筆者の私自身、自分がパンセクシュアルかつXジェンダーだと気づいたのは高校生〜大学生の時でした。しかし、それは私が自主的にLGBTについて学び、考えてきたからわかったこと。概念を知らないからこそ、明確な自覚なく違和感だけが心に渦巻く人も数多くいます。
たまに周りの人から「LGBTって病気みたいなものだし、いずれ治るんじゃないの?」と平然と言われることがあります。実はこのような思いを持っている人って少なくないのだと思います。面と向かって「病気」と言われてしまうのは多少傷つきますが、相手も悪気があるわけではありません。
純粋な気持ちでLGBTは「異常なこと」と思っている人もいるからこそ、LGBTは別に異常ではないと知っている私たちは、このような意見にまっすぐ向き合って、きちんと説明することが大切です。
最近、東京都でもLGBTに対する差別禁止が明記されている条例が成立しましたが、「気持ち悪い」「病気」「理解出来ない」と考えている人に、頭ごなしに「差別するな!」「そんなひどいこと言うな!」と訴えかけても、その人たちの心に残るのは「我慢」や「不満」なのではないでしょうか。
真の理解や差別のない社会を目指すためには、行政が教育を通して(性のあり方だけでない)多様性をきちんと説明することが大切です。
いじめ・不登校・自殺とLGBT
また残念なことに、いじめ・不登校・自殺ともLGBTは大きく関わります。
2018年に実施された三重県の高校生1万人を対象にした調査では、約6割のLGBTの生徒が学校生活でいじめ被害を経験したことがあると回答しました。また、非異性愛者男性が自殺を図るリスクは異性愛者の約6倍という調査結果も出ています。(参考:日高庸晴「我が国における都会の若者の自殺未遂経験割合とその関連要因に関する研究」)
周囲からの直接的な誹謗中傷の他にも、LGBTをからかうような表現や会話を見聞きするなどの間接的な要因で不安を抱え、周りに受け入れられないのではないかと自分のセクシュアリティを抑えつけ、苦しい思いをする人は少なくありません。
「LGBTはからかって良い」といった認識を無くすためにも、特に教育の場でしっかりと性的指向や性自認について学べる機会が増えることを祈っています。
〜自殺した「A君」は僕だったかもしれない〜ゲイの現役大学生と東大ロースクール卒業生が考える【一橋大学生自殺事件】前編/後編
解決のための取り組み
ここではNPO法人ReBitの活動をご紹介します。
NPO法人ReBitではLGBTに関する生徒や講師向けの主張授業などを主に行っています。学校の先生では、まだLGBTに関する知識が足りず、そのような授業を組めない学校でも、ReBitの出張講義でカバーできるようになります。
また、ReBitではすべての人が「成りたい人になる」ために、LGBT成人式なども行っていますので、気になる方はチェックしてみてください!
2.就職
就職をして社会人になる過程でもLGBTの悩みはなくなりません。
2019年に行われたNPO法人ReBitの調査によると、就職・転職活動において性のあり方に関係する困難を感じた人というのはレズビアン・ゲイ・バイセクシュアルなどで42.5%、トランスジェンダーで87.4%いるそうです。
では、具体的にどのような悩みがあるのでしょうか?
就職前の悩み
2016年には、トランスジェンダーの職員がカミングアウトを強制的にさせられたとして愛知ヤクルト工場に訴訟を起こす事件が起きました。(参考:産経WEST「性同一性障害『カミングアウトを強制された』 40代会社員、愛知ヤクルト工場を提訴」)
このようなニュースがあると、就活をする際に、その企業はLGBTの当事者としてカミングアウトしやすい環境にあるのか、カミングアウトをしなくても働きやすい環境なのかなど、社内のLGBTに対する様子・雰囲気について不安に思うことは少なくありません。
2020年に行われた東洋経済のCSR調査では、LGBTへの対応や基本方針が「ある」と答えた企業は364社。
しかし、「ある」と回答しているとはいえ、その実態は企業によって大きく差があります。ダイバーシティ推進の一環でLGBTについて少し言及するだけの企業や、社内でLGBTに関する研修を行っている企業など、取り組み・段階ともにばらつきがあります。
基本方針の一文にLGBTに対応した文章があるだけでは実際の取り組みが見えてこず、LGBTにとっての不安はなくなりません。基本方針を実現するべく、企業が積極的にLGBTフレンドリーな取り組みを進めることが重要です。
就職後の悩み
仕事と直接的な関係がないとはいえ、社内の人間関係も重要です。とくに切っても切り離せないのが飲み会です。
コロナもあり居酒屋で飲む機会こそ減ってきましたが、オンラインで未だ根強く飲み会文化は残っています。会社の飲み会ではお酒の勢いに任せて、職場では話さないプライベートな話題で盛り上がったり、モノマネ・一発芸をして、歌って、など上司から盛り上げ役を強いられることも多々あります。そこで「ネタ」としてLGBTが扱われることはよくあることです。
会社でカミングアウトしていなくても、上司から性的指向について配慮のないことを言われたり、LGBTを揶揄するようなジョークが飛び交うことで苦しい思いをする人は多くいます。また、カミングアウトしていても、飲み会の中でLGBTであるということは一種の「キャラ」となり、それを活かして場を盛り上げるのは当然だろうといったような雰囲気が流れることもあります。
このように、例え会社自体がLGBTを差別せず、自身の能力を存分に活かせる環境であったとしても、職場の人間関係における不安を抱えるLGBTは多いです。(参考:HUFFPOST「制度があれば解決? LGBTが就活・職場でぶつかる壁とは?」)
解決のための取り組み
JobRainbowは、LGBTの就活での不安を減らすために、ダイバーシティ推進にフォーカスした企業情報を掲載しています。多様性を尊重する企業風土など、他のサイトではわからないような企業の一面を知ることにお役立てください。
2016年に任意団体work with Prideが策定した、企業のLGBTに対する取り組みを評価するPRIDE指標で高評価を得ている企業などに注目してみるのもいいかもしれません。
3.結婚
婚姻(同性婚)
日本では同性婚は認められていません。法律上の配偶者になることは不可能です。
世界には同性婚が可能な国々もある中、日本ではなぜ同性婚が認められていないのでしょう? 壁となっているのは、主に憲法やその他法律です。
憲法では24条で、「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。」と定めています。ここで重要な点は、「両性」が何を意味するのか、また「婚姻」とは異性婚のみを指すのかの二点になります。同性婚を考える上で、これらに対する様々な解釈が存在しており、日本が今後この憲法をどのように解釈していくのかがポイントとなります。
また、その他にも民法や戸籍法上で婚姻に関して「男」「女」「夫婦」といった表現が多くされており、現状の法律では同性婚に対して公的に認める配慮がされていない状態にあります。
※2021年3月17日、同性同士の結婚が認められないことは憲法違反だと同性カップル3組が訴えた裁判で、札幌地裁は「憲法14条に違反する」という判決を下しています(参考:日経新聞「同性婚認めないのは違憲、賠償請求は棄却 札幌地裁」)。これを期に、今後同性婚に関する議論はより活発になると思われます。
同性婚と住まい
日本で法的な配偶者となれなかったとしても、同性パートナーとして共に生活することはもちろん認められています。しかし中には「夫婦」というステータスがなければ入居ができない物件や、ローンが組めない物件、さらには「LGBTの方はお断り」なんて物件もあるのが現実です(参考:buzzfeed「LGBTの方は入居お断り」同意書にあった一文。その部屋の契約をやめた当事者が動画で伝えたこと」)。くわえて、万が一のことがあってもパートナーに相続できない、というのも大きな悩みの一つです。
そのため、単身契約をして秘密で2人で住む、シェアハウス用の物件を探して共に暮らす、といったケースが多くなっています。
最近では、賃貸物件サイトSUUMOがLGBTパートナーが物件をより探しやすくするために、「SUUMO for LGBT」というサービスを開始しました。このサービスによって、SUUMOでは賃貸物件情報に「LGBTフレンドリー」という項目が新たに追加されることになりました。
LGBTパートナーが安心して住まい探しができるように、近年ではLGBTフレンドリーな不動産会社やサービスが少しずつ増えています。こちら、JobRainbowにまとめ記事がありますので是非参考にしてください。
同性婚と保険・ローン
ローンや保険についても、住まい探しと同じように制度上の悩みが生じてきます。LGBTパートナーであるがために、本来の配偶者向けサービスを受けることができなかったり、LGBTパートナーは保険金の受取人になれなかったりと、やはり法律上の配偶者として認められないことで異性婚の夫婦と同じ待遇を受けられないことが多々あります。
そんな状況を受けて、ライフネット生命やR&C株式会社などでは同性パートナーのための保険制度が少しずつ始まっています!
解決のための取り組み
現在、日本では様々な地方自治体の積極的な取り組みにより、同性パートナーシップ制度の導入が進んでいます。
パートナーシップ制度とは、LGBTカップルを法律的な配偶者と認める効力はないものの、パートナーとして自治体が公認する制度のことです。自治体はこの動きと同時に各機関・企業にも、パートナーシップを認められている者には異性婚夫婦同等の待遇にするよう働きかけています。
東京都では世田谷区・渋谷区、三重県の伊賀市、兵庫県の宝塚市、沖縄県の那覇市などでこの制度が導入されています。
また、同性カップルのためのブライダルサービスも近年では増加しています。JobRainbowでは同性カップルが望む形のウェディングを提案する会社をご紹介しております。今後の挙式を検討中の方は是非参考にしてみてください!
4.老後
介護や年金に対する不安
LGBTの認知も広まり社会は変化してきていますが、パートナーと出会えなかったり、欲しいのに子どもを産めない・引き取れない方がいることも事実です。
また、家族や親戚からの理解もないLGBTの場合、自分の老後に不安を抱えている方も多いです。
「老後の面倒は誰に見てもらえばいいんだろう?」
「パートナーがいたとしても、万一のことがあった場合に遺族年金を受け取れなかったらどうすれば良いのだろう?」
このように、将来に対する不安は老後に関しても尽きることがありません。
解決のための取り組み
実は、現状LGBTの老後のために具体的な取り組みをみせている団体や企業はあまりありません。なぜなら、日本において現在の50〜60代の方々は偽造異性婚されている方が多く、30〜40代から下の世代が次第にLGBTとして人生を歩んでいる方が多くなっているからです。
そのため、今すぐLGBTの老後を支えるサービスを作ったとしてもその利用者が増加するのは数十年先となってしまいます。LGBTの老後に対するサービスや政策の成長は数十年後に訪れるとよく言われていますが、そのビジョンが現時点では明確ではないため、不安は拭えません。
5.文化
メディア上での差別的な表現
昨年、フジテレビのバラエティ番組「とんねるずのみなさんのおかげでした」という番組内に、「保毛尾田保毛男(ほもおだほもお)」というキャラクターが登場し笑いをとったことで、ゲイを揶揄していると批判をあびる騒動がありました(参考:ビジネス+IT「保毛尾田保毛男(ほもおだほもお)は何が問題なのか、専門家が時系列にまとめて解説」)。
しかし、これに対しビートたけしさんやミッツマングローブさん、また直接的ではないですが松本人志さんらが疑問の声をあげています。3人の意見はそれぞれですが、どれも「メディア業界も窮屈になった」という趣旨の意見でした。
多様性とユーモアというのは非常に難しい問題だと思います。ハリウッド映画でもあえて登場人物が人種差別的な発言をすることで “平然とタブーを犯している” 笑いを狙うようなシーンは見受けられますし、またマイノリティーの当事者本人がそれを誇張してウケをとりに行くなんてこともよくあります。日本では特に「オネエタレント」がその例です。
このように、あの人がやっているなら良いけどこの人がやるのは差別だとか、そういうニュアンスで笑いを取るならいいけどこの場合はだめだとか、マイノリティーをコメディーへと変換する際の線引きは曖昧です。
しかし、だからこそ、特に子ども達はその線引きがわからずに、テレビで笑われているものを真似して友達をからかい、いつしかそれがいじめになっていくのではないでしょうか。少なくとも多くの人から人気を集めているようなメディアはいくらコメディーであってもある程度の責任やその影響力の自覚を持つべきだと思います。
メディア上でのポジティブなLGBTの動き
一方、近年ではLGBTが揶揄の対象としてではなく、重要なテーマ・ポジティブな意味合いとして取り上げられる作品も増えてきました。
以下ではJobRainbow内にある映画・音楽・YouTubeなど様々なジャンルでのLGBTに関する記事をまとめてありますので、興味があるトピックを是非ご覧ください!
- LGBTが登場するドラマ15選【日本から海外の名作まで】
- LGBTたちが活躍する映画10選【日本の作品だけじゃない】
- 「愛」は自由。LGBTの背中を押してくれる楽曲13選【日本&海外】
- LGBT YouTuberまとめ10選【日本だけでもこんなにいる】
6.生活
学校、職場、家庭以外にもLGBTは様々な場面で悩みを抱えています。
例えば、トランスジェンダーの方が望む性別で対応することをスポーツクラブが拒否した事件で有名なコナミスポーツクラブ更衣室事件をご存知でしょうか?
例1)コナミスポーツクラブ更衣室事件
原告の方はトランスジェンダー女性で、性別適合手術などはすべて終えていたものの、既婚であり、20歳未満のお子さんがいたなどの関係で戸籍上の性別は変更できないままでいました。
性自認も女性であったにもかかわらず、コナミスポーツクラブはその方に男性の更衣室を使用するように強制し、それによって起訴された事件がコナミスポーツクラブ更衣室事件です。
このように、本人の戸籍上の性別のみに固執し、対応してしまうと個人的な事情や現実を一切考慮しない対応になりかねません。
1つのやり方にこだわって一部の人が不合理な対応をされることを避けるべく、戸籍・身体・性的指向・性自認・性表現など様々なセクシュアリティの見方があるのを把握した上で、「何のために」「なぜ」「誰のために」「どうする」のかを明確にして考えていく必要があるように思えます。
例2)ラブホテルでのゲイ差別
特にゲイカップルの利用は、ラブホテル側の「部屋やベッドを汚される」、「異性カップルが利用を避けるようになる」などの偏見から利用を断られることが多いそうです。ラブホテルであっても、部屋を綺麗に使うというのは当たり前のことです。そのようなことができない人がいたからこそ、このような偏見が生まれている可能性があることも事実ですが、一方でホテル側も一度部屋を汚された経験があるからといって、ゲイカップル全員に偏見を持ち、対応するのは不公平ですよね。
ラブホテル、プール、スポーツジム、温泉など、LGBTが利用するにあたって問題となる施設やサービスは数多く存在しますが、対応される側もする側も、相手の気持ちを考えた行動をできるように意識できる施設になれば、より過ごしやすい社会作りに一歩近づくのではないでしょうか。
このようにLGBTは生活上様々なことで悩みを多く抱えている一方で、それらを改善していく動きも少しずつ進んでいます。もちろん、LGBTが直面する問題はこれだけではありませんが、このまとめがLGBTに対する認識や興味を持つ機会につながっていれば嬉しいです。
世界のLGBTに関する動き・課題
では、世界におけるLGBTの状況はどのようになっているのでしょうか?
「日本のLGBT支援は世界的に見ても遅れている」といったようなイメージを持っている方は多いと思いますが、果たしてそれは本当なのでしょうか?
この章では、世界各国で行われているLGBT支援の政策や運動をみていきます。
イスラム教圏
マレーシアやインドネシアなど、イスラム教圏の国は宗教上・文化上の理由によりLGBTへの対応はまだまだ進んでいないところがほとんどです。
例えば、インドネシアのアチェ州では、イスラム教に基づいたシャリア刑法という刑法が適用されています。シャリア刑法ではラマダーンに従うことや飲酒に関する規定と並んで同性間の性行為が禁止されているため、アチェ州では『LGBT=処罰対象』という概念ができています。そのため、MtFの方が男性の服装に着替え、「男性らしい」歩き方や発声練習などを強制される「男性復帰の再教育」を受けさせる、といった人権を侵害することが許されてしまいます(参考:Yahoo!Japanニュース「同性キスで拘束、女装には消防車で放水リンチ LGBT人権侵害続くインドネシア」)。
対照的に、同じイスラム教国家であってもLGBT支援に積極的な国もあります。2018年5月にパキスタンで新しく採用された「トランスジェンダー法」では、男性・女性だけではない「第三の性」の保有を公式に認め、教育や医療、雇用においてLGBTを差別することを禁じています。また、LGBTの保護施設や公務員への研修、当事者への経済支援なども義務付けられています。国民の意識や長く根付いたイスラム教の文化・思考を変えるにはかなりの時間を必要としますが、この「トランスジェンダー法」はLGBTの権利を保護する重大な一歩となりました。(参考:ニューズウィーク日本版「『トランスジェンダーであるだけで殺される国』パキスタンに『LGBT法』成立」)
ヨーロッパ
世界で最も早く同性婚を認めたオランダや、首相がカミングアウトをしたベルギーに見られるように、ヨーロッパはカミングアウトをする人を自然に受け入れ、同性のカップルの幸せを心から祝う素敵な文化が根づいており、LGBTに寛容な地域として知られています。
しかしそんなヨーロッパでも現在、次の世代でもこのような環境が続くよう、先を見据えたさらなる改善がされています。
例えば、イギリスでは2018年11月に、LGBTの子どもたちへのいじめを早期に確認し適切な対応を取るための教員向け研修や、LGBTの子どもを仲間はずれにしないことを目指した教材を提供する行動計画が策定されました。国からは総額で260万ポンド(約3億8000万円)の補助金が付与されるそうです(参考:東京新聞「英、LGBT支援に3.8億円 学校での差別解消へ拡充」)
また、2017年にスペインのマドリードで、異性や同性のカップルが手を繋いでいるシルエットを採用した信号機が導入され話題になりました。これは同年に開催されたワールド・プライドというイベントに先立って設立されたもので、その数は300機におよんだそうです(参考:REUTERS「同性カップルが手をつなぐ歩行者用信号登場、マドリードに」)。
街や国をあげてLGBTの問題に取り組むヨーロッパは、まさに「LGBT先進地域」といえそうですね。
アジア
同性婚の合法化に湧く台湾を筆頭に、アジアは現在LGBTが過ごしやすい環境づくりに向けて進んでいます。
台湾では2017年に司法院大法官会議(憲法裁判所)が、同性婚を認めないことを違憲とする判断を示し、2年以内の法整備が促されました。テレビCMなどを通じて「同性間での性行為はHIVを助長する」といった間違った情報が広められるなど、法整備は難航しておりましたが、2019年5月24日ついに台湾で同性婚が認められました(参考:公益社団法人アムネスティ・インターナショナル日本「アジア初の同性婚 20年の道のり」)。
一方、昔から「ヒジュラー(男女のどちらでもない、第三の性)」という区分があったインドでは、2018年9月、同性間の性行為を違法とする法律を「違憲である」として無効化しました(参考:AFPBB News「同性間の性行為禁じる法律は違憲無効、インド最高裁が画期的判断」)。
かつてイギリスをはじめとするキリスト教圏では、生殖につながらない性的な行為(ソドミー)は犯罪とされており、その影響がイギリス植民地だったインドにも及んでいたため、このような法律が存在し続けていました。法改正をきっかけに、インドも多様な人々がより一層自分らしく生活しやすい社会になりそうですね。
アメリカ
アメリカといえば、2018年の中間選挙で予備選に出馬したLGBTの候補者が618人を超え過去最多となったことが話題となりました(参考:OUT JAPAN「米中間選挙に立候補したLGBTは618人、過去最多を記録」)。キャピトルヒルなどLGBTに寛容な地域があり、誰もが自由に過ごせているイメージを持つ方も多いのではないでしょうか?
しかし実は、アメリカもまだまだLGBT擁護派と反対派の壁が厚いうえに、最近ではLGBTに人種間の軋轢が重なって新たな問題となっています。
例えば、アメリカのアトランタにあるゲイバーでは、有色人種の入場を禁止するかのようなポスターが未だに掲示されています。現地に住むトランスジェンダーの女性は「多くのイベントで(自分が有色人種なので)自分が歓迎されていない」と感じると言います。そのため、このような地域では、有色人種のLGBTの権利擁護運動である「ブラックプライド」が開催され、ダブルマイノリティ(アイデンティティにマイノリティ性が複数ある人)の権利拡大のために活動しているそうです。(参考:Yahoo!Japanニュース「米国随一のLGBT天国にも人種差別が…ジョージア州アトランタ」)
LGBTを応援していくために 〜アライの存在〜
先ほども少し紹介しましたが、現在、LGBTの抱える悩みを解決し応援していくために、「アライ」と呼ばれる方々がいるのを知っていますか?
アライとは、自身のセクシュアリティに関わらず、LGBT全体を理解し支援する人を指します。近年では、LGBTの認知が広がるにつれて、LGBTを支援したいと願う人々が増えてきたことから、アライを自認する人の数も増えています。
「LGBTに関わる社会の仕組み」に対する非当事者の意識調査によると、非当事者内の同性婚賛成派は78.9%、いじめや差別を禁止する法律を必要だと考える人が85.1%、学校の授業でセクシュアリティ教育が必要と考えている人が97.5%とやはり当事者でなくても、LGBTに対する支援に肯定的な意見が多いようです。
アライの中には何か具体的な問題意識を持って積極的に活動している方もいれば、ただ漠然とLGBTの味方でありたいという強い思いを持った方々など様々ですが、積極的に理解して味方でいてくれる人がいるのはそれだけでもとても心強いですよね!
おわりに
今回はLGBTについて知っておかなくてはならない基礎知識や、LGBTが実際に抱える悩みなどをおおまかにまとめてみました。
すべての人が自分らしく暮らせる社会になるためには、様々なことを理解し、受け入れることが大切です。「理解し、受け入れる」ためには「知識を得て、考える」というプロセスが不可欠です。「LGBT」の意味を言える、「マイノリティだから困るらしい」という漠然とした認識がある……だけではもったいないです。
「LGBTの人が困ることってなんだろう?」
「うちの学校・会社ってLGBTの人にとって居心地いいのかな?」
「同性婚の話題ってなんでこんなにニュースで大々的に扱われるんだ?」
みなさんの中に溢れる疑問は、社会を変える一歩になります。
「?」を追求する気持ちを大切に、これからも考え続けてください。
JobRainbowはそんなみなさんの疑問や興味に応えながら、すべての人が自分らしく暮らせる社会に貢献していきたいと考えています。